帰り道

 制靴を取り出しながら明はぼそっとつぶやく。

「べつに。」

 気恥ずかしくて、素気ない返しをする。お礼や謝罪をされることが少ないからか、毎回不思議な気分になる。

「あ、なぁ。小説読んでくれない?」

 ふと、今日書いた原稿用紙を取り出す。

「え?なー君が私に読んで感想がほしいっていうの?へぇ....中学時代とか何が何でも見せてくれなかったのに。」

「うるさい。で、読んでくれるの、くれないの?」

 言葉に少々のいらつきが入る。

「読む!」

「そう。歩きながら読むのも危ないし近くに公園あるじゃん?あそこで読んでよ。」

 僕と明は、昔よく遊んだ公園に足を運ぶ。何も変わっていない。砂場と休憩所とシーソーしかない公園。

「よし、じゃあ読むね!」

 小学校時代によく僕の作品を読んでいたからか、明は意外と読むのが早い。ペラペラと原稿用紙がめくれる。夜風がゆるく明の髪と頬を撫でる。

 数分すると、10数ページにわたる短編の小説が読み終わったようだ。原稿用紙を僕の方へ渡す。

「なー君の小説はさ、透き通ってるよね。1つ1つのシーンの風景とか場所が映画の1部みたいにきれいに思い浮かぶ。うん、すごくいいと思うよ。」

「そう。まぁ、長年僕の小説を読んできた明が言うんだからそうなんだろうな。」

「なにそれ、意味わかんない。ふふっ。」

 笑いながら明は答える。そんな幼馴染の姿を素直にかわいいなと思っていた。

ぐぅ~....。

 低い音で胃が悲鳴を上げた。おなかがすいて腹が鳴ったようだ。

「なー君、おなかすいたの?珍しい。」

「これでも一応、男子高校生だぞ?ある程度はエネルギーの消費だってあるよ。」

「はい、どうぞ。片付けの手伝いと素晴らしい小説のお礼ってことで。」

 そういって差し出してくれたのは、カップケーキ。僕のチョコレート嫌いを察してくれたのかプレーンの物をくれたようだ。

「ありがとう....。うん、おいしい。」

「そっか、よかった。」

  ふと、上を見上げる。日が沈んで夜になりかけた空。ちらほらと周りの家の電気が付き始める。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

約束 七彩聖夜 @7senoelu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ