放課後

 とある日の放課後。1人しかいない文芸部の部室で僕は熱中して新しい小説を書いていた。ふと時計を見ると針は午後6時半。外はもう暗い。

 そろそろ帰ろう。鞄にさっき書いた原稿用紙をファイルを入れ、部室から出る。廊下の電気は消えているため、より暗く見える。

「あら、こんな時間まで残っているのは誰?」

「文芸部1年の田沼七彩(たぬまななせ)です。今から帰ります。」

 鍵を閉めて回っていた女性の先生とすれ違う。柔軟剤か香水の少しきついにおいが鼻をつく。

「そう、気を付けて帰ってね。」

「はい。」

 横を通り下駄箱に行く。途中の明かりがついた教室。家庭科室か...。誰が居るんだ。

「明....。なにやってんの?」

 中では明が道具の片づけをしていた。

「あ、なー君。いや~先輩達急用らしくて先に帰っちゃって...全班の片付け頼まれちゃって...。」

「なにそれ、完全に急用って嘘じゃん。」

「え?なー君、何言ってんの!そんなわけないよ、先輩達いつでも私にやさしいし...。」

 明は床をみつめる。本人もわかっている、それでいて言い訳を探している。何年も一緒にいるのにだませるとでも思っているんだろうか。

「へぇ、2,3年生全員で帰らないといけない用事があるんだ。一人しかいない1年生に全部任せて帰るような先輩が優しいと。」

 言葉に詰まったのか明はぐっと拳を握る。こらえきれなかった涙が1粒床に落ちる。

「いいや、そんな事。手伝うよ。」

 泣いた女子を慰められるスキルは僕にない。ただ、もう外も暗い。立ちすくんで時間を無駄にするのもよくないから、情けなくも話題を変える。

「明。これ、どこにしまえばいい?」

「え?あぁ、それはあそこの引き出しにしまって。」

「うん。」

 言われた通りの場所に、物をしまう。

 数十分後には、片付けは終わった。

「そうだね。....なー君ありがとね。」

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