第二十一話 探索
ロズワルドの妻、エレナは皇帝一族の女性である。
ロズワルドとの出会いは、強制的な見合いだったとはいえ、彼の人柄に惚れて見合いとは関係なく自ら婚姻を決めた。
彼女は幼い頃、娘のエリスのようにお転婆で好奇心が強く、自分の判断で物事を決めないと気が済まない性質だった。
そんなエレナはロズワルドの性格をすぐに見抜いた。
少し頑固で、嘘が付けず、お人好しで、それでいて悪というものを許さない冷徹さを持ち合わせている、と。
ロズワルドと結婚した当時の年齢は二十歳。
若い娘が既に三十歳だった独身の英雄を、無条件に愛し、そして支え続けるなど、彼女の両親は想像すらしていなかった。
彼女の両親にとって、エレナは娘という立場ではなく、ロズワルドという英雄を国に縛り付ける枷でしかなかったのだから。
しかし、才媛という言葉がエレナにふさわしく、彼女は持ち前の自己判断力と聡明な知性でロズワルドを支え続けたのである。
結婚から二年後にカイルが生まれ、その七年後には二人目となるエリスが生まれた。
彼女にとって二人の子供は文字通り、目に入れても痛くないほどに可愛く、何物にも代えがたい存在だった。
愛するロズワルドから、このケフェウスを巡る事でカイルが怪我を負い、エリスが攫われたと聞いたときは、彼女は寝台の上で背筋を伸ばし、気丈にも微笑みながら私達の子供たちがその程度で死ぬことはないと言い切った。
四十歳の彼女は、少しばかり肺を患っている。
時折ひどく咳き込み、熱を出してしまうため、季節の変わり目はなるべく一定の暖かさを保つ室内でゆっくりと静養していた。
ロズワルドが複雑な感情を吐露した時も、エレナは自分の体調不良を抑えながら彼をなだめ、時には叱咤した。
彼が部屋を出て行ったあと、彼女は静かに寝台から降りると窓を開けた。
春の夜は風が冷たく、彼女の肺を刺激して咳き込ませる。
それでも、彼女は“氷の山脈”の頂にかかり始めた月に祈った。
自分の命をその月の光に変えても構わない。
夫と子供たちが無事に助かるように…と。
***
カイルが重たい体を起こすと、既に部屋の中は暗く、窓から差し込む月光が床を照らしていた。
腹と背中の痛みは既に引いたものの、腕はまだ痛みが残っていた。
片手で椅子の背もたれにかかっていた上着を羽織って、窓際に立って月を眺めた。
「月の満ち欠けで人の心は大きく変わる」
剣術学校の教導士は、月と潮の満ち引きが関係していることを説明したあと、動物にも当てはまるのだ、と説明を始めた。
「満月になれば、心は落ち着きを無くす。新月になれば、心はふさぎ込む。しかし、人間には感情がある。未熟な者は月に心を奪われるが、心を鍛えたものは月を力にできる。剣士に重要なのは、冷静さだ。静かさは相手の力の波を察知して、対処することができるのだ」
「もし、相手が自分と同じような技量を持つ者ならどうなるのでしょうか?」
カイルが質問すると、教導士は少し微笑んで言った。
「完璧に一致する技量などは存在しない」
答えをはぐらかされたようだった。
カイルはウィートリー親子との戦い…それは戦いというにはあまりにも無様で、むしろ乱闘と言える。
父親と旧知の間柄で、数々の戦士の物語を教えてくれたウィートリー…彼が“梟の眼”と呼ばれる密偵の一人ならば、カイルに語った言葉や物語は、ウィートリー自身の経験からくるものが多くあっただろう。
カイルはそのことが悔しかった。
戦士としての技量は、年を取ったウィートリーよりもカイルは上である。剣術学校では戦時を体験した教導士による厳しい訓練を受け、なおかつ彼はオルフェスからも教えを受けていた。
彼ほど恵まれた環境で剣術を学べた者はそれほど多くはない。それでも彼は心の弱さを露呈して負けたのだと実感していた。
(私はいつになったら、この弱さから逃れられるのだろうか?)
痛む腕を無意識にさすりながら、カイルは月を眺めて深く深く息を吸った。
(心の強さが勝敗を分ける。アレスに勝ちきれなかったのも、レインとうまくいかなかったのも、それに妹を助けようとして空回りしたのも全てこの弱さがあるからだ。どうすればいいんだ?アレスのような我武者羅な強さが欲しい…いや違う。他人の強さを求めてもそれは自分のものにはならない。私は私自身の強さを身につけるべきなんだ)
深くためた息を一気に吐き出すと、カイルは決意を固めた。
ただ、とにかく動くしかない。
エリスが無事という保証はなかったが、現時点で彼にできることは他になかった。
***
「あなたが元密偵だっていうことはわかっているんだ」アレスは努めて冷静に、言葉を吐き出した。
彼は今、ある店の二階で一人の男と向き合っていた。日に焼けた顔で愛想笑いをしながら、目元だけをひくつかせたその男が“梟の眼”だった、という確たる証拠をどうにか用意し、アレスは騎士という立場をちらつかせて半ば強引に話をすることになったのだ。
ロイドというその男は、香辛料を小売りしている店の
ケフェウス内の様々な定食屋や飲み屋に香辛料を卸しており、さらに執政官邸にも商品を納めていた。
前執政官のヨリフィス伯爵が亡くなってから、ロイドは“梟の眼”を抜けて店を始めたというが、アレス達はそのことが妙に引っかかっていた。
「昔の話だ。もう密偵じゃない。真面目に働いているんだ」ロイドは少しばかり憤慨したように答える。
「私達が知りたいのは今のあなたの状況ではなく、昔のことです」ギルダは鋭い目つきでロイドを見た。強い意志を持った彼女の目に、ロイドは少したじろいだかのように身を引いて腕組みをした。
「ロイドさん、俺はまだ騎士になったばかりだし、正直に言うと二十年も前に終わった戦争のことなんてわからない。でも、同じような戦いを繰り返すのが悪いことだってのはわかる。だから、あなたに協力してもらいたいんだ」
「……簡単に言うが、元密偵とは言え、伯爵様に誓いを立てた身だ。俺を説得できるだけの理由があるならば、応じてやらないこともない」
「あなたは密偵をやめて、この店を開いた。私が信じられないのは、あなたの仲間達がそれを許したことです」
「ギルダとか言ったな…あんたは昔の俺と同じ立場のようだが、俺が店を始められたのはこのケフェウスだからだ」
「つまり?」
「俺は未だに仲間の監視下にあるってことだ。二十年前のこととはいえ、下手なことを言えば俺は殺される。つい先日、ある男が姿を消した。あんたに心当たりがあると思うが、違うか?」
ギルダは唇を噛みしめた。ケフェウスの地下に潜伏先がある…と話したその男は、いとも簡単に彼女の“誘い”に応じた。結果として、行方知れずとなり、彼女が一晩で聞き出した情報はわずかなものとなった。
「こうしている間にも恐らく俺の処遇は決まるだろうな」ロイドは溜息をついて、机に肘をついた。
「騎士アレス、俺は二十年前、あんたと同じようにまだ青臭いガキだった」
ロイドの言葉にアレスは少しばかりムッとした。
「怒るなよ。誰にだって同じような時期がある。俺はあんたよりも年上で、人生経験も豊富だ。すこしばかり昔話をしてやろう」
「私達は要点だけが聞きたいのです」
「急くなよ。あんた達に何があったのかは知らん。十中八九、このケフェウスと公爵様の関係だとは思うがな……ひとつ、大事なことを忘れているぞ」
「大事なこと?」
「そうだ。俺は伯爵様を
ロイドは窓の外を眺め、何かを思い出すかのように、目を細めた。
「ロズワルド公爵様は立派な方です。孤児の私達を救ってくれました」ギルダは反論するかのように言う。
「孤児を救うことで、自分の罪を償っていたとは思わないのか?」
「そんなことは……」
「無垢だった赤ん坊も、大人になるにつれ、何かしらの罪を犯す。それは避けようのない事実だ。救いを求めるために、ライエのような宗教に頼る者もいる。あんた達は言葉を避けていたが、“梟の眼”はもう必要ない。その手が誰かを殺すという罪にまみれても、全てを叩き潰すと誓うなら、知りたい情報を教えよう」
アレスとギルダは顔を見合わせた。
二人の目的は、エリスを助けるためにケフェウスにある“梟の眼”の隠れ家を探すことにある。その上で、誰かと戦うことになれば、恐らくは命の奪い合いになる。
アレスはロズワルドの言葉を思い出した。
誰かを殺すことは未来を賭けることだ、と……それは、目の前にいるロイドという男の命も賭けることになる。
「もし、情報を聞かなければ、あなたの命は助かるのか?」
「わからないね。しかし、彼らも馬鹿じゃない。必ず嘘を見抜く。そういう意味では、助かる確率は高い」
「ロイドさん、俺は他人の命を賭けられるような人間じゃない。だから、自力で探すよ」
アレスの言葉にロイドは笑みを浮かべた。
「良くも悪くも真っ直ぐな騎士だ。俺はそういう人間は嫌いじゃない。だから、ひとつだけ教えよう。ウィートリーの店で起きた乱闘騒ぎのことをよく調べてみるといい」
「あの時の……?」
「アレス様、私にはなんとなく合点が行きました。ロイドさん、ご協力感謝いたします」
「構わないさ。香辛料が欲しくなったら、いつでも来るといい。買い物客はいつでも歓迎するよ」
***
「ギルダさん、一体どういう?」
ロイドの店を出ると、開口一番、アレスは尋ねた。
「ウィートリーの店を調べろ、ということです。ウィートリー親子が“梟の眼”として活動し続けられたのは、彼らに不審な動きがなかったということでしょう。アレス様には言っていませんが、このケフェウスには帝都からの密偵も多数潜伏しています」
歩き始めたギルダを、アレスは慌てて追った。
「帝都からの?」
「ええ。閣下……ロズワルド様は英雄であると同時に、帝国内でも大きな権力を持っています。アレス様もお分かりかと思いますが、閣下は権力志向が強い方ではありません。それでもなお、このケフェウスにずっと縛りつけられているとは思いませんか?」
「いや、ここは帝国の最重要拠点じゃないか」
「例え重要でも、辺境の地であることに変わりはないのです。現皇帝の大叔父であるオルフェス様がアルフィルク領を治めているのも同じ理由です。特に閣下とオルフェス様は剣術学校時代からの親友とも呼べる間柄。その二人を帝都においては何かと都合が悪いのです」
「面倒くさい話だな」
「そうですね。政治の世界とは面倒なものです。話を戻しましょう。帝都の密偵は閣下の動向を探ると同時に、反乱者となったヨリフィス伯爵を信奉する残党にも眼を光らせていました。しかし、現時点まで彼らの動きは一切見えてこなかった」
「それはロズワルド閣下の失脚させるため、ということとか」
「一理ありますが、リーンに対して大きな抑止力となっている閣下を失脚させることは帝国にとって得策ではありません。もっとも、帝国内が一枚岩であれば…の話ですが」
「望む者もいる?」
「準執政官のブライス・ハビエルなどは特に。もっとも今の彼にそれほどの力があるとは思いませんが…着きましたよ」
ウィートリー刀剣鍛冶屋は出入り口に板がはまり、賑やかな通りの中にあってすこしばかり異彩を放っていた。
アレスは板に耳をあてて中の様子を窺うが、物音はしない。
通りを行く人の何人かが怪訝な顔をして通り過ぎていくが、アレスは気にもとめずに、板の隙間に手をかけてゆっくりと外した。
通りから吹き込んだ風で、店の中に溜まった埃が舞う。二人は手で誇りを払うようにして中に入った。
「ひどい有様だな」
武器となる剣や槍、弓などは警備士によって撤去され、床には倒れた棚と散らばった鎧や兜が転がっていた。
「それでどうすればいい?」
「カイル様を助けた時、ウィートリー親子はどこに?」
「この裏に入っていったかな」アレスは店の奥に通じる扉を開けた。
剣を鍛えるための作業場となっており、鉄の石、かまど、ふいご、金槌などの工具がある。部屋の奥には扉があり、アレスが開けると台所と裏口に通じる扉、二階に上がる階段となっていた。
ギルダが裏口を開けると、塀に囲まれた小さな庭となっており、井戸があった。彼女は井戸の蓋を開けるが、そこには水が煌めいているだけだった。
「駄目ですね。あとは裏通りへの出入り口だけのようです」塀にある扉を開けながら、彼女は残念そうに言った。
アレスは台所を見回してから、作業場に戻り、再び台所を見回した。
「なにか?」
「作業場と大きさが違う。二階に行こう」
二階にあがると廊下があり、いくつかの部屋があった。アレスは台所の真上にあるだろう部屋の扉を開けた。
両腕を広げた程度の幅の部屋で、壁際に作業用なのか様々な工具が置かれた棚があり、辛うじて人ひとりが歩ける。アレスは部屋の奥にある右側の棚が他の棚とは少し高さが違うことに気がついた。
「ギルダさん、この棚……」アレスは棚をゆっくり遠くに押し込むと、重たい感触と共に壁ごと奥に入り込んだ。
床には大きめの穴が空いており、垂直に梯子がかけられ下から風がゆるやかに吹き上がっていた。
「これは……よくわかりましたね」ギルダは感心したように、アレスを見た。
「なんとなく。しかし、あの男、気を失った人間を担いでよくこんなところを通れたな」
「体を縄かなにかでくくりつけたのでしょう。降りますか?」
アレスは穴をのぞき込んだ。暗渠からは時折、風鳴きが聞こえ、冷たい空気がせりあがってくる。
(この店の乱闘から一週間、この建物に誰かが入った形跡がないのはなぜだ?)
「どうしました?」
「やめよう。これはあえて残しているんじゃないかな。罠だと思うし、乗り込むなら二人ほど仲間が欲しい」
「しかし、私達に仲間など……」
「私じゃ駄目か?」
その声に、アレスとギルダは身構えて振り返った。
左腕を吊ったカイルは、静かに歩み寄り、二人を見つめた。
「父上は何も話してはくれない。しかし、妹を、エリスを助けるのは私の役目だと思っている。アレス、それにギルダさんでしたね。どうか私を仲間に、部下でも構わない。頼む!」カイルは深く頭を下げた。
アレスとギルダは顔を見合わせた。
ギルダはゆっくりと顔を横に振ったが、アレスは考え込むようにしてカイルを見てから言った。
「怪我はいいのか?それにお前はここ最近、体を動かしていないだろ?」
「傷口はふさがっている。正直に言えば、昼間に寝すぎて夜に片手で剣を振っていた。どっちにしろ、日中はレインが眼を光らせていたから、夜しか時間がなかったんだ」
「カイル様、失礼します」ギルダはそう言って、カイルの両肩、腕、胸、腹、背中、足を手早く触った。カイルは突然の事に固まり、されるがままになっていた。
「多少、筋力が落ちているようですが問題はないでしょう」
「い、いきなりは…やめて頂きたい」カイルは軽く咳払いをして言葉を続けた。
「ありがとう、アレス、ギルダさん」
「かまわないさ。お前なら戦力として十分だからな。しかし、これで美女との探索は終わりか」そう言って、アレスはギルダを見た。
「美女だなどと…く、口が悪すぎます」ギルダは顔を強ばらせた。
「正直なことなんだが…」アレスが悪びれずに答えると、彼女は顔を背けながら「さ、次を」と足早に部屋を出て行った。
「お前のその物言いはどうにかならないのか?」とカイルは呆れ顔。
「こういう時でもないと、こんなことは言えないさ。ところでお前、あれだけレインさんが側にいたんだ。少しは進んだんだろ。教えろよ」
「ば、馬鹿言うな。何もない」カイルは顔を赤くして首を振った。
「嘘つけ。まあ、それは今度じっくり聞き出してやるから、覚悟しておけよ」アレスはにやっと笑った。
***
千人壁にある部屋で、アレス、ギルダ、カイルの三人は机に置かれたケフェウス全体の地図を見ながら話し合っていた。
「あの地下を見なければ確定的なことは言えませんが、前執政官のヨリフィス伯爵は非常に用意周到な人物だったそうです。このケフェウスには、まだ色々と知るべきことがあるようですね」
「閣下の覚書にもそう書いてあるな」アレスは、ロズワルドから借りた革紙の冊子を机に置いた。
「それは父上のものか?」
「ああ、貸してくれたんだ」
「私も見たことがない。父上はお前に余程の信頼を置いているようだ」カイルは少し寂しそうな顔をするが、アレスはそれに気がつかないふりをした。
「閣下からの話と覚書によると、“梟の眼”は短剣を使う凄腕の密偵集団だそうだ。あの鍛冶屋のおっさんと息子が凄腕かどうかはわからないが、ギルダさんの仲間を殺した男はかなりずる賢いみたいだな」
「あの男が危険なのは、狡猾な性格ではありません。躊躇わずに人を殺せることです」
「人なら私もアレスも…」言いかけたカイルを、ギルダは制した。
「そうではありません。戦いの中で人を斬るというのは、自分の命を守るという、防衛本能が働くからです。しかし、体を動かせなくなった人間の喉を掻き切るというのは、常軌を逸しています。相対すれば、あの男は確実に殺しに来るでしょう」
「俺たちも躊躇うなってことだな」
「はい。アレス様もカイル様も、強い心で立ち向かってください」
その言葉に、アレスとカイルは頷いた。
「続けましょう。ウィートリーの店は街の東側にあります。あくまでも想像ですが、これは地下の川に繋がっているように思えるのです」
「地下の川?」アレスが尋ねた。
「はい。帝国側からリーン王国側にかけて、川が流れています。この川は一端、山脈の下に潜り、その後リーン側へと繋がっています。戦乱時の資料ですが、リーン側の門、大門、通用門も含めて開いた数はそれほど多くはありません。また、リーン側の千人壁を調べたところ、隠し通路も見当たりませんでした。それにも関わらず、“梟の眼”は出入りしていたのです。地下の川を通ってリーン側に出ていたなら、説明はつきます」
「しかし、川を遡って戻ってくるのは至難ではないのか?」とカイル。
「成果を上げるまで戻れない、または一般兵が出入りする際に、連絡係がいたとすればどうでしょう?」
「ヨリフィス伯爵ってのは、戦神って呼ばれてたんだろ。閣下の覚書だと、戦いで成果を上げないものは、色々と面倒だったみたいだ。川から物資だけ送って、“梟の眼”達は駐屯地かなにかを作って、活動してたとか」
「いや、それだとかえって目立つが……そうか、魔族だ」カイルは地図にある氷の山脈を指した。
「魔族は帝国とリーンに、それぞれ魔剣を作っていた。しかし、魔族内でもそれぞれの国に対しての担当みたいなのがいたんじゃないか?」
「もしそうなら、魔族と“梟の眼”は深く繋がっていたことになるな」
「魔族殲滅戦……剣術学校時代に習っただろ。それが本当に魔族だけを対象にしたとは考えにくい」
「エリス様を誘拐したのが私怨によるものだった……それならば、カバルという男、ウィートリー親子の行動も合点がいきます」
「それに付け加えて、リーンとライエと手を組んだということか?」
「いや、その結論はまだ早いんじゃないかな」アレスは納得しかねるといった顔をした。
「どういうことだ?」
「お前の妹の誘拐は計画的な感じがしないだろ?偶々といった感じだし、そもそも魔剣がケフェウスに運び込まれるかどうかって話だったはずだ。“梟の眼”は初めから、リーンとライエという後ろ盾を付けた上で、行動を起こそうと考えたんじゃないかな」
「計画を盤石にするために、エリス様を誘拐した」とギルダ。
「そこに私怨があったかどうかというより、立場として有利に進めたいんだと思う。だから、未だに連絡がない」
アレスの推測に、カイルは疲れたように肩を落とした。
「カイル、必ず助けだそう。俺は会ったことないが、女の子がひどい目に遭っているのは見過ごせないしな」
「ああ、すまない、アレス。妹は、エリスは良い子なんだ。少々お転婆で、私の真似をして棒きれを振り回したり、お菓子をこっそり食べたり、出掛ければ寄り道をしてカートン達を困らせることもある。でも、エリスに罪はない。父上も恐らく手を尽くしているだろうが、私が下手を打たなければもう少し…事態はましだったかもしれない」
「カイル、先の事なんて誰にもわかりゃしないんだ」
「カイル様、まずは無事であることを祈りましょう」
「ああ、そうだな。手筈はどうする?」
「あと一人は欲しい。カバルって奴が相当な手練れなのと、なんだっけ?リーンの大臣…」
「陸軍大臣ローヴェンとライエの神官ルカウスです。ローヴェンというのはリーンではかなり名の通った剣豪です。噂ですが、二十年前の戦乱時には帝国側の兵士五十人を相手に一人で戦ったとか」
「そりゃ恐ろしい」アレスは肩をすくめた。
「ルカウスというのは?」
「神官ですので、戦いに秀でたという話は聞いておりません。もっともこの男に関しての情報ありませんから。二人ともに護衛がいると思われます」
「となると、カバル、ウィートリー親子、ローヴェンと護衛、ルカウスと護衛で最低でも七人が相手か」
「いえ、この街に潜伏している“梟の眼”達も恐らくは……」
「それは大丈夫だろうな」
「根拠はなんだ?アレス」
「騒ぎが大きくなれば困るのは相手だってことさ。街が混乱すれば、ローヴェンとルカウスって奴らも街から出にくくなるし、他国の高官が重要拠点であるケフェウスにいるとなれば、さすがに帝都も動かざるを得ないだろ?」
「なるほど。ではとりえあず相手としては七人」
「正面切って戦うのは避けたいから、まずは相手の連絡を待とう。その間に仲間を増やさないとな。ギルダさん、申し訳ないんだけど、解散した仲間の中でまだ協力してくれそうな人はいないかな?」
「わかりました。当たってみます」
三人はお互いに顔を見合わせて頷いた。
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