序章

 甲冑を身につけ、馬にまたがった男が一人、高台から眼下に広がる平原を見下ろしていた。

 平原は美しい緑に覆われており、土が豊かであることを表していた。

深く突き抜けた青空に、空高く飛ぶ猛禽類の鳥の声がこだましている。


 男は後ろを振り返った。剣を持った者、槍を抱えた者、弓を背に負う者…大勢の兵が一様に疲れ切った顔で男の声を待っていた。

 男の父親、さらにその父親から続いた長い戦いはようやく決した。

 平原の美しさは、戦いとは無縁だ。それ故に、男は場所を決めたのだ。


「誇り高き剣を作る者よ、私はこの地に国を作る」

 馬の側にいた数人の者が片膝をついて、頭を垂れた。

「意のままに。我らは剣を作る術しか持たぬ者。貴方様がどのような道を選ばれるかは、お心次第でございます」

 その言葉に男は熟考するかのように深く頷いた。

 男は叫んだ。


「私はアーサー・アウストラリス!この地に国を築き、永劫の繁栄を約束する!」


 おおっ!という気勢が上がり、兵達は剣を、槍を、弓を掲げアーサーに最敬礼をする。

「これからは陛下とお呼びしましょう。我らの役目はここまで、どうかよりよき国を…」剣を作る者達は静かに退いていく。

「待て!お前達は新たな国に必要なのだ!」

「いいえ、陛下。剣は人を傷つける道具。攻めでも守りでも、必ず人を傷つけます。剣の力を過信されてはなりません」

 彼らは初めからそこにいなかったかのように、消えていった。


 “龍の大陸”

 いつしかこの地はそう呼ばれるようになっていた。

 北の神聖ライエ国、南のリーン王国、そして中央のアウストラリス帝国。

 かつて三人の豪傑が自らの部族を率いて戦いを始めたのきっかけに起きた戦乱は、まるで神話に登場する“龍”が暴れたかのような悲劇を生み、そして国を作り上げた。

 

 物語は、アーサー・アウストラリスが豊穣の土地を帝国にしてから、百二十年の時を経たところから始まる。

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