人を喰らう妖刀
友人のDが死んだ。
死体は見つかっていない。けれど、アイツのベッドには夥しい量の(一部の人が言うには、人体の許容量を超えるほどの)血溜まりがあったらしい。そしてその血は全て、アイツのものであることが確認された。
その血の量のことを聞けば、素人にだって死体が無くてもアイツが死んだことは確実だと分かる。
Dとは仲が良かっただけに、その死は悔やまれる。
凶器はアイツの持っていた刀だそうだ。
Dは骨董品などに興味がある様子は無かったが、珍しい刀を一つ持っていると何度か話していたのを覚えている。なにやら、怪しい話だった気がするが……。
そして、Dの死から数十日経ったある日、Dから刀が送られてきた。
遺族の話によると、数年前に書かれていたDの遺書にDの死後、あの刀を俺に渡すようにとあったらしい。
……なんともイヤらしい趣味だ。人の血を、ましてや友人の血を吸った刀を人に渡すなんて。それも数年前から計画されていたとは……。それに、調べるとこの刀はいわゆる妖刀と呼ばれる類のものらしい。なにやら化けて出て、持ち主を襲う話しがあるらしい(まあ、この手の話は信じないタイプなのだが)。
友人だと思っていたのは一方的で、本当のところアイツは俺に対してもっと別の感情を抱いていたのかもしれない。
それにしても、この刀はどこに仕舞ったらいいのやら。
骨董商にでも売り飛ばそうかと一瞬考えたが、Dのことを踏みにじるように思えてはばかられる。……厳重に包装して、物置の奥にでも置こうか。
2、3年が経って、俺はDと出遭った。
その夜はいつもと変わらない夜だった。家に帰ると物置から何かおかしな音がするので覗いてみたが、特に何も無かった。そして自室に戻ると、目の前にあの刀を携えたDが居た。
何故? という疑問より先に命の危険を感じた。明らかに目の焦点が定まっていない。
脚が竦んだ一瞬、投げられた。マウントを取られ、動けない。刀を突き付けられる。
「何故だ!? 俺はお前のことを友人だと思っていた」
「俺は、あまりそういう風に考えたことは無いな」
「なッ!……」
次の言葉を繋ごうとしたら、問答無用で胸の少し左側を刺された。
痛みを少しも感じる間もなく、俺は息絶えた。
どれ程の時間が経ったのか分からない。自分がどこに居るのかも分からない。目が開いているのか分からない。黒いモザイクをかけられている気分だ。
ただ、ものすごくハラが減った。飢えている。とてつもなく渇いている。
段々と視界が明るくなる。暗闇に目が慣れていくような感覚だ。それでも辺りは薄暗い、夜なのか……。周囲の音も少しずつ聞こえるようになってくる。耳も塞がれていたらしい。
目の前に映ったのは、布団にうつ伏せになっている少女。十代半ばだろうか、幼い顔をしている。スースーとかわいらしい寝息が聞こえる。強い衝動が、カラダの奥底から突き上げて来る。何故だか、俺はあの刀を手にしている。少女の瞼がゆっくりと、少しだけ上がった。
ここはどこだ? 俺は何故生きている? 何故刀が手元にある? そんな疑問は、もう、どうでもいい。
目の前の少女の寝惚け眼は、愛おしくなる程かわいらしい。
「……!」
眼が遭った。一瞬間が在って、恐怖の表情を浮かべる。それもまた、そそるものが有る。
俺は躊躇せずに、刀をおもいっきり突き刺した。
「ゥッ!」
小さな呻き声が上がって、驚愕とも恐怖ともつかない眼でこっちを睨んだ。止めどなく、大量の血が溢れ出る。
満たされる……! 腹が! 渇きがッ! 全身でこの少女の全てを犯し尽くしている!!
悦びだけが俺を支配する。
…………アイツは俺でこの感覚を味わったのか?
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