無題

 今朝の気温は14℃。……寒い。




 イヤホンを外して車を降りたのは、いつもと変わらない7時23分。

 いつも最後に聴くのは、少し落ち込むけれど、背中を押してくれる曲。

 家を出たときに降っていた、しとしと雨はもう止んだけど、まだ薄い灰色の雲が空を覆ってる。

 ネックウォーマーをつけると、心地良くてあったかい。布団をかぶっているときと同じ感覚がする。ケド、指先は冷たい。ポケットに手を突っ込んでしのぐ。

 校長先生に軽く会釈して正門をくぐる。

 人の流れは真っ直ぐ校舎に向かうけど、いつもの通り自分だけ左の駐車場の方へ反れて行く。

 教室へはこっちの方が近い(気がする)から。

 ……本当は違うのかもしれない。

 本当は見たくないだけなのかもしれない。

 校舎へ真っ直ぐ向かうと掲げられている、「センターまであと○○日!」の文字。

 正門からでも見えるから、この道を通るのは無駄な抵抗かも知れない。

 それに、今日の数字は見なくても分かる。1。

 ここ数日、ずっと、自信と不安が交互にやって来る。

 一人のクラスメイトが、教室を通り越して目の前に現れた。カバンも背負ったまんまで。

「見てみ。めっちゃきれいだぜ」

「うん……」

 縁起がいい。

 通ってるあいだずっと見ていた朝焼け。

 真っ赤で、遮るものは何も無い。絵に描いた初日の出みたいな太陽。グラウンドの先の水平線の上で燃えている。

 こんなに良いものが見れたんだ。きっと明日は大丈夫。

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