無題
降りそそぐ陽の光と海からの照り返しが、頬に突き刺さる午前11時。
「チッ! ……また逃げられた……。」
父さんはまだ一匹も釣りあげてない。
私は釣りをするわけではない。けど、父さんは月に二、三回くらい釣りに連れて行く。もうそろそろ私も高学年なのに……。
私は釣りをしないから、何もするわけでもなく、ただ、水平線を眺めている。
父さんのウキは沈むようすがない。
「……俺さぁ、髪の毛、大丈夫かな」
髪をかきあげながらきいた。
「? ハゲてるのか気にしてるの?」
「いやさぁ、昨日、久しぶりにあった友達がさ、見事にバーコードみたいな頭になっててさ、俺もそろそろなのかなって……」
父さんから、釣り糸と針を貰ってエサをつける。
「大丈夫なんじゃない」
糸を垂らして、岩陰に隠れた魚にエサを見せる。
「もう、ハゲたら坊主にしようかなって」
魚がエサをツッツくのが糸から直接指に伝わる。この感覚がおもしろい。
「うん……。それが良いよ。それの方がイサギいい。
……ん!」
やった。一匹目。
一時間半経って、もうお昼の時間なので撤収。
ポイントを離れて、軽トラックの後ろに荷物を詰め込む。
私の釣果は魚が三匹、おっきなヤドカリが一匹。魚は身が薄いし、ヤドカリは捌き方が分からないから逃がした。
父さんは釣果なし。
「お父さん、坊主だね」
「えっ! もうそんなにヤバかったの? 俺の頭!」
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