無題

 夜の7時半、学校からのバスを降りる。

 急な坂道を重い荷物を持って登る。辛い。



 毎晩、帰るときにこの坂を昇る。そのたびに私は思うんだ。私って何がしたいんだろう、って。

 自分にしては、十分ガンバって勉強した方だと思う。そして第一志望にしていた学校に受かった。だから、少しは認めてくれないかな。少しだけ休ませてくれないかな。そう思うのは甘えだろうか。

 入学してもう少しで二ヶ月。クラスでの友人もできた。部活にも入った。

 だけど、担任と反りが合わない。顧問が何をしたいのか分からない。

 わざわざ朝早くに学校に行って、こんな時間までなにをしてるんだろう。

 ゆっくりと進む足先を、ただ見ているだけの目の奥でいろんなことがよぎる。

 ……疲れた。訳わかんない。辛い。分かってよ。嫌だ! もう、なにもかも。

 街灯の無いこの道を、坂のテッペンの自販機だけが照らしてる。

 登りきる頃には、もう頭の中はグチャグチャで、叫びたくなる。全てを吐き出したい。

 けど叫ばない。いくら田舎でも、民家はあるから。

 私は振り返って、登ってきた道を見下ろす。海抜の高いこの場所は、隣のさらに隣の町まで見える。

 右手にはタクシー会社、左手は多分キャベツ(?)の畑。

 北の方は、大きな街の光と車のライトで輝いている。南の方は、もう寝てしまったかのように静かで暗い。

 顔を上げて、真正面の真東を見る。月と対峙する。

 大きくて幻想的な満月が、眼の前で私を見つめてる。……もし、ここがマンガやアニメの世界だったらそうだった。

 でも、目に映るのは、小さくて遠い、いたって現実的で、平凡で日常的な月だ。半月から少しだけ太った、上弦だか下弦だか言う月だ。

 月に背を向けて歩き出す。月はどこまでも追いかけてくる。

 きっと明日も、今日と変わらない一日が来る。

 嫌だな……。

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