4 最重要機密事項
「いやあ、話のわかる巫女様で何よりでしたねえ。おかげさまで禁書が読めるようにまでなって!いやあわざわざ山を超えてまで来た甲斐がありました」
「シヴァ、あなたこれを最初から狙っていたのね?それが読みたいためにわざわざきて、あんな話を持ち出したのね」
「王女殿下、私は最初から建前が半分、趣味が半分と話していたじゃあないですか。むしろ実際私以外のガチガチの精霊信仰の司祭だったらあのお方の相手はできなかったじゃないんですかね。あちらから先に挑発してきたようなものでしょうあれは」
「言い過ぎだろうシヴァ。こんなご時世で宗教戦争を起こすほどのバカはさすがに……いやいるか、中央には」
いさめようとしたパルバティがはあとため息をつく。リンゴも正直、そこは否めなかった。
与えられた客室にはパルバティとシヴァ、アシュラン、それに侍女のイリスだけ。他の護衛たちは部屋の外にいる。ちなみに神殿のごときサロメの謁見室にはアシュランとイリスははいれなかった。ちなみにそれにアシュランはだいぶ不満であったらしく、いまはリンゴの後ろにぴったりとくっついている。
「そうでしょう王子殿下。特に今は勇者探しで熱がはいっておりますからね。精霊のお告げである勇者を血なまこになって探しているのにいまだ見つけれていないこの現状は中央としては面目丸潰れの状況です。それなのにそれを侮辱されるようなことがあったら戦争をおこそうとするバカなんてあの教会にはいくらでもいますよ」
「うん、君も中央教会の傘下の王国教会司祭のはずだよね…?あと僕たちも一応精霊信仰の国だからね?忘れないでね?あと僕だってはやく勇者が見つかってほしいと思ってるよ」
「でもウラヌス国王もパルバティ殿下も、このまま勇者が見つからなかった場合に備えて近隣諸国と軍事同盟を結んで魔王城を攻める計画を裏で進めてますよね?」
「最重要機密事項をさらっと他国で言うのやめてくれないかなほんと」
パルヴァティが盛大に肩を落とす。シヴァもシヴァでなぜ司祭の立場で−−−しかも内容としては中央教会に反するような動きのため特に教会側には情報が漏れないようにしていることを−−−軍事機密を知っているのか。
楽しそうに微笑んでいる姿は高貴で神聖なローブ姿も相まって、ほうっと年頃の少女たちがため息をついて見とれてしまうような姿であるというのに、本当にこの男は腹黒く、全くもって敵に回したくない人物のひとりだ。
しかしシヴァが言っていることは本当で、このまま魔王の脅威を放っておくわけにはいかない。いまだ被害は大陸の北側だけだとはいえども、北側ではすでに幾つかの村が侵略され、各地でも魔物が活発化してるという。このままいつ現れるかわからない勇者を待つよりも、まだ勢力図を広げ切っていない魔王を諸国合わせて倒す動きがでるのは当然と言えるだろう。
「大丈夫ですよ、外に声は漏れないように結界ははっております。防音の結界は得意中の得意ですし、リンゴ王女もこの部屋周りにはっておられますよね?」
「まあ私の場合は結界をはるのは癖になっているようなものだからね、アシュランがいるとこの特技もあまり意味はなさないのだけれども…」
「確かに。アシュランが王女殿下の一番の防御壁であることには疑いはありませんね。ところでアシュラン、もしも魔王遠征軍がほんとうになったとしたら君も行くのかい?」
「リンゴ王女殿下が行くわけもないのにそんなところに行く理由がない。俺の分もお前が働いてこい、シヴァ。お前の魔術もそこそこ役立つだろう」
「うーん伝説の魔王を一目見てみたい気持ちはあるけどねえ……そうなると司祭の役職のままじゃなあ。それこそ勇者様とご一緒に、とかだったら教会からの支援ももらえるんだけどこのままだと難しそうだしねえ。悩むところだ」
「わざわざ魔王を見たいからって討伐しにいこうとする気概は学者の本気を感じるよ、まったく」
「お兄様。シヴァの言動をいちいち気にしてたら身が持ちませんわ。シヴァが異端審問にかけられた時に私たちには関係がないという証拠を先に揃えておいたほうが建設的ですわ」
「そうだね、僕たちとシヴァの間には私的な関係はなくあくまで公的行事くらいでしか会っていないということにして、まあそこらへんはアシュランやイリスや父上にも口裏をあわせてもらうとして…」
「そんなさらっと私を見捨てる発言をしないでくださいよ両殿下。だいたい私を異端審問にかけられるほどの度量のある人間なんてうちにはいませんよ?これでも身辺には気をつけておりますしね」
実際そうであろうことが若干腹が立つところである。なぜかシヴァは王国教会の中でも信頼があつい。リンゴに前世があるように、こいつの前世は詐欺師かなにかじゃないかと疑うことがあるリンゴである。
前世といえば忘れがちではあるが、実際シヴァは本来は勇者と一緒に旅をするパーティーの一人である。
ちなみにゲームでこんなに腹黒かった記憶はないが。
「ねえシヴァ、あなたは勇者っぽい人に会ったことはないの?」
「っぽい、とはこれまた抽象的ですね。伝承によると勇者は金眼であるそうですが、そのような御仁にあったことはないですよ王女殿下。第一、金眼は珍しいですからね、一度会ったとしたらまず忘れませんよ」
「あなたのことだから会ったとしても黙ってるとかありええるかなって…」
「おやおや、教会に篤き信仰と忠誠を誓うこの司祭になにをお疑いなのやら」
「うん、お兄様。はやめにこの人間との関わりがあったことを抹消いたしましょうそうしましょう」
「そうだね、もう教会のタブーを他国の最重要人物をいうような人間だ、いたしかたあるまい」
「リンゴ様がお申し付けいただければ、場内の人間には口裏を合わせさせることなど1日あれば終わらせますとも」
「アシュラン、きみも簡単に友達を見捨てないでくれないでくれたまえ」
「私とこいつの関係も消せねばリンゴ様の御身に関わりますね。しかし私は教会に行くこともあまりなかったですし、そこまで難しいことはないでしょう」
「うん、どんどん皆様の中で私を排斥する方向で固まっておりますね。だがしかしそんな簡単に破れる男だと思わないでくださいまし、死ぬ時はもろともですともっ」
「はいはいはい皆様方、シヴァ様排斥論で楽しんでいるところ大変申し訳ございませんが、そろそろ御支度なさいませんと?祝祭の儀に遅刻とあっては王国代表の名折れでございますよ?」
忍者チート持ちかつ優秀な次女イリスがやんわりと場にはいってきて、仕方なしにリンゴとパルバティもほこをおさめた。
「いつもながら完璧な間の取り方。どうです、うちの間者になりませんか?」
「光栄なスカウトでございますが、私もアシュラン様ほどではないですがそこそこ武芸を嗜んでおります。お見せいたしましょうか?」
にっこりと笑うイリスはいつの間にか短刀を持っていた。
この子、本当にくのいちかなにかじゃないんだろうか。
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