3-2 どうぞ内密に


サロメは小鳥のさえずりのような笑い声をあげた。


「司祭様がそのようなことをおっしゃってよろしいのかしら?その教えは教会にとっては禁句ではなくて?」

「伝承をひもとけばその結論にならざるを得ませんからね。精霊をうみだしたのが創世主ならば、魔王を生み出したのは誰なのか?…この部分の研究はそれこそ、私どもよりこちらの国の方が詳しいでしょう」

「昨夜、我が図書館に一晩こもり切りでパレスティ第一学者をつかまえて議論をしていたというお話はまことのようですわね、シヴァ様。なかなか面白い司祭を据えているようですわね、パルバティ殿下?」

「ええ、まあ……たださすがにこの話を我がアルケ内で堂々とするわけにはいきませんからね、どうぞ内密にしておいてほしいものです」

「勿論。私どもにとっては当たりまえのことですし、大した問題でもありませんわ。精霊と魔王の争い等、……結局、創世主から見たら、ただの兄弟喧嘩でしかないですもの」


そう、創世主信仰にとっては当たりまえの話で、精霊信仰ではタブーの話。

それは、精霊と魔王とは、どちらも等しく創世主の生み出した存在である、ということだ。


―この世界を作りたもうた時に、

 右目からは息子を、

 左目からは娘を、

 創世の主は生み出された。


右目から生まれた息子は今いわれる魔王。この世に災厄を呼び、破滅をさせんとする存在。

左目から生まれた娘はもちろん精霊。この世に実りを与え、魔王の災厄をおさめんとする存在。

それはゲーム上でもこのパレスティに来て明かされる真実の一つだ。この世界を滅ぼそうとする存在が実は精霊のきょうだいでしたーなんていうの、まあプレイヤーにとっては「そういうバックボーンなのね、なんかの神話でありそうね」となるところだが、実際問題この世界においては非常にインパクトが強い説なのである。

なにせ全ての悪の権化のごとく扱っている魔王が、実はきょうだいです、なんていうこと、普通にこの世界で精霊信仰をもっている民には刺激が強すぎる。なのでそれは精霊教会のなかでは邪説であり、ソレを主張したら地位が剥奪されない話なのだ。

ちなみに普通の信者たちや生活をしている民たちは知らないし、その説を知っているのも教会内でもそこそこの勉強をしたり地位を持っているものに限る。その中でさらに教会内ではそれを「邪教」であり「ソレは間違った話である」と否定している。前世にてダーウィン進化論が否定されたように。

ただパルバティとリンゴも、それが教会が自分たちの権威を保つために否定しているだけで、その事実自体は覆らない、ということを知っている。

なにせこのシヴァという、世渡り上手でありながらも全く精霊信仰を持っておらず、ただたんに真理の追求のためだけに出世してきた司祭兼学者兼魔術師が幼なじみなのだから。


「皆等しく創世主の子供達であることには変わりませんわ。どうぞシヴァ様、滞在中はお好きに我が国の書物を御読みなさいませ。大統領にどの本の閲覧許可も与えるように申し付けましょう」

「ご配慮、ありがたく頂きます」

「それでは皆様方、今宵の主神祭をどうぞお楽しみ遊ばせてくださいませ」


にっこりと彼女は微笑んで、巫女とアルケ王国代表陣との会談は終わりを告げた。

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