2 そんな魔王みたいなこと言わないで
さて、ここでゲームのパレスティの話をしよう。
ゲームのストーリーででてくるのは、だいたい中盤にはいる手前くらいか。勇者一行がアルケの北側で魔物が水害を起こしているという話を聞き、そこへいって十二将のひとりである青龍を倒したあとのイベントだ。
ちなみに十二将とは、魔王の力が目覚めたことにより起き出す神獣たちである。目覚めたばかりで力が弱いとされてるが、伝説級の存在で、十二将全員が目覚め覚醒すると魔王とともに世界を滅ぼす力がある、という設定だった。なので魔王のもとへいくまえに、順々にこの十二将を倒しレベルアップしながら魔王城へ向かうというのがイデアワールドの大きいストーリーだ。
そして青龍なのだが、実は先月あたりに本当に起き出していて水害を起こし始めていたらしい。ゲーム展開の通りのことがおこり、川近くの村たちが氾濫する水に水没しかかっているという報告を聞き、リンゴは大分焦った。本来なら勇者一行が向かうべき問題である。が、その勇者はいまだあらわれていない。
しかも水害が起こったという報告だけで、十二将と呼ばれる神獣が原因などとはリンゴ以外は誰も知らなかった。ゲームでもなんか怪しいから行ってみて、村人の話を聞いていたら川の上流に古びた遺跡があり…みたいなことを聞いて、という流れで知るのだ。
これはかつてのイドラ村のように予言という形で兵をだしてもらったほうがいいのか…?と悩んでいたら、次の日の報告では水害がやんだらしい。つまり誰かが青龍を倒したのだ。
勇者は現れていないのに、なぜかイベントが進んでいる?
まあ村人たちが安全になったらいいか…と思いつつも、いまいち納得しきれていないリンゴだった。
また、ちなみに次の神獣はそれこそこのパレスティの手前にある山にすむ白虎だ。起きた白虎は近辺一帯に雷を落としまくってまさに天災の被害を与える。そしてそれを倒して、パレスティに勇者一行は至るのである。
そしてこの白虎だが、パレスティのひとたちにそれとなく話を聞いたところ「そういえば1週間前まで近くの山だけ天候が不安で、つねに雨雲や雷の音がしていて変だったんだけど、昨日あたりからパタリと止みましたね。あれが続くともしかしたらリンゴ様たちがこちらにくるルートにかかっていたので、いやぁよかったですね」といわれたが、いやそれ確実に起きた白虎が原因だしそしてやっぱり誰かが倒したってことだよね????とリンゴは首をかしげまくっている。
「うーん…いったいだれなんだろうなぁ…」
「リンゴ様、他に誰もいない客室の中ではありますし、首を傾けるのはいいのですが、何分間もそんなにかたむけたままだと珍妙な像のようですよ
「アシュラン!珍妙ってなによ!それにそんな長くやってないわよ!」
「一応は国の代表のひとりなのですから、そこそこ体裁は守ってください。一応」
「アシュラン、あなたわたしを王女だと思ってないでしょう」
「私が生涯をかけてつくす主だと思ってますよ」
そう平然といいのけるアシュランにリンゴは苦々しげに見やる。
「そのくせ物言いは悪いし朝の起こし方はひどいしご飯抜きにしようとしたり敬意が感じられないわ、敬意が」
「それはリンゴ様が朝の寝坊が多いのと勉強をサボってイリアと一緒に縫製室にこもってたりするからですよ。自業自得という言葉があるそうですよご存知でしたかリンゴ様。ああリンゴ様ほどの学業の時間を必要ともしないほど博識かつ賢きお方ならもちろんご存知でしたよね?」
「くううううにくたらしい…‼︎」
「まあまあお二人とも、そこまで。そろそろ御仕度なさいなさいな」
愉快そうに笑いながらシヴァがいつの間にか部屋に入ってきていた。ノックの音に気付かなかったのはアシュランに気を取られていたせいだろう。
シヴァはすでに教会の神官の正装をしている。といってもいつもの白ローブに金色が多くなって、清楚ながらも高級そうなーーー実際結構なお値段のする宝石のロングネックレスをつけているだけであるが。
「リンゴ王女、こいつの口が悪いのも、そしてリンゴ王女馬鹿なのは知っているでしょう。こいつは貴方が望まれたのなら、国の一つや二つを一人で滅ぼしてみせるくらいに貴方に忠誠を誓っているのですから」
シヴァの言葉にリンゴはぐっと言葉を飲み込む。逆にアシュランは若干不服そうだ。
「心外だな、シヴァ」
「おや、なにがです?」
「一つや二つなど。十はいける。時間は多少かかるがこの大陸一つ分くらいならまず問題ない」
「いやいやいや問題ありまくりよ!わたしはそんなこと望んでないし、そんな魔王みたいなこと言わないでアシュラン!なによりあなたがいうと本当に洒落にならないわ!」
全力でリンゴはつっこむが、アシュランはなにが問題なのかわからないという顔でリンゴを見つめている。なんだこの残念イケメン。そしてシヴァはその横でほんとうに愉快そうににやにやしている。ほんとこの腹黒イケメン神官やめればいいのに。
ぶっちゃけ、アシュランは強い。ものすごく強い。アルケ王国の軍隊全てと戦ってもおそらくアシュランは傷一つ負わないで勝つだろう、というくらい強い。昔師団一個との模擬戦闘を見たがあまりの戦力差に30秒で戦闘を中断したという伝説もある。
また、数年前に魔物が大発生し、王都からほど近い距離であって軍隊の出動をウラヌスが考えていたところ、「リンゴ様は、あれらが邪魔ですか?」と聞き、リンゴが「それはもちろん。わたしの結界を使えばこの王都は守れるでしょうけど、近くの農村のものたちは…」と焦っていると、アシュランは一言「なるほど、わかりました」と言って部屋から出て行った。
そして30分して先ほどと全く変わらないたたずまいで戻ってきたかと思うと斥候の兵士が飛び込んできた。
「ま、魔物がす、全て駆逐されました!あ、アシュラン騎士おひとりで…」
ちなみに彼はその駆逐シーンを一部始終見ていたらしいが、一ヶ月夢に見るほど凄惨なものだったらしい。圧倒的な力で魔物を殲滅させていくアシュランの黒衣はまるで死神のようだったと、しばらくトラウマで城に出勤できない程だった。
どうしてそんなに強くなったのかはわからないが、アシュランにそれを聞くと「貴方様の騎士ですから」しか返されない。そもそもアシュランが幼少の頃からリンゴの元につくようになったのは、シヴァの仲介に近いものもあったので、それならシヴァなら知っているかと聞くと「それ、いったらわたしもあいつの剣の餌食になるのでご勘弁を」と笑顔でありながらも真剣に言われたため謎のままだ。
とりあえず、前世風にいうならチート並に強いのがアシュランだ。ゲームにはあったが、この世界で確認はできない、レベルというものがあったらおそらくアシュランはカンストしてる。しかもたぶん人間規格のレベルではない感じでカンストしてる。
そしてそんなアシュランだが、アルケ王国の騎士ということもあり、所属はアルケ王国のはずなのだが、それこそウラヌスやパルバティに礼は尽くしても忠誠を誓うことはないし、軍の戦いにも参加はしない。純粋にリンゴの護衛騎士という身分でしかない。
しかしウラヌスもパルバティも、他の城の臣下たちもそれに否やをいうことはなく「まあ、アシュランはリンゴ命だし。たぶんリンゴが死んだら後追い自殺しちゃうし。むしろリンゴに何かあったら暴走して世界滅ぶし。それだったらおとなしくリンゴのそばにいてくれたほうが平和!」ということで一致してる。おそらく、リンゴの一番の謎はこれに尽きる。なんでその結論になる。というかお前がもう魔王倒しに行けよ、という感じであるが、アシュランはリンゴのそばを離れたがらないので、たぶんそれも無理、ということもみんなわかってるのである、
アシュランの中では、世界の平和よりもリンゴの方が優先順位が高いのだ。
「…まあいいです。着替えます。今日は巫女様もお会いできるとのことですし、気を抜けないからね」
はあ、と溜息をつき、侍女のイリスと一緒に衣装部屋に入る。イリスもずっと部屋の中にいたはずだが、全く気配を感じなかった。なんだこの子も忍者チートかなんなのか。たぶん部屋の外にはアシュランか微動だにせず立っているだろう。
「もうなんなのあれ。もっと有効的な力の使い方があるはずでしょあれ」
「王女殿下。差し出がましいようですが、リンゴ様のそばを離れたアシュラン様は私たちにはどうにもできません。リンゴ様のそばにアシュラン様がいること。それが世界の平和です」
ひどく真剣な顔でとかれ、リンゴはまた一つ溜息をついた。
なんかもう、魔王にさらわれそうになってもアシュランが居たら大丈夫なんじゃないの?
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