4-1 趣味が半分、建前半分
「え、シヴァも一緒にいくの?」
「さようですよ、リンゴ様。まあ私は趣味が半分、建前半分なんですがねえ」
真っ白な髪は胸元まで伸びて、アイスブルーの瞳が物憂げな色を見せる。その白髪は決して年のせいではなく、生来のものらしい。
金色の縁取りに飾られた白いローブを着た青年は眉目秀麗という言葉がよく似合う。しかし青年らしい若々しさよりも、思慮深げな雰囲気とすらりとした身体を持っている。「知的クール美青年キャラを地でいくような顔と体型だなあ」とリンゴは常々思う。
シヴァは王国教会の司祭という立場にいるが、元は貴族の出身ということもあり、また国柄のため教会本堂そのものと城が隣接して建設されているため、彼は修行僧のころからリンゴやパルバティと親しんできた。有り体に言えば幼馴染といえよう。ちなみに本日の朝食のクリームもこのシヴァが教会からくすねてきたものであろう。
シヴァの年齢は20歳。パルバティが18、リンゴは現在15と、それぞれ少しずつ離れてはいるものの、精霊にまつわる教えを学ぶこともあれば、結界魔法を一緒に訓練したのもこのシヴァである。ちなみに、城を抜け出し城下町で遊ぶ方法も教えてくれたのも彼だ。ようはいいことも悪いことも教えてくれたもう一人の兄のような立場とも言える。
そしてちなみに、彼はゲーム上に出てくるキャラクターで、序盤で勇者の仲間になる。
その時は回復兼サポートキャラであったが、実際学んでみるとそこのあたりも確かに一流と言えるほどのレベルの高さなのだが、ぶっちゃけ攻撃力もある。リンゴが本気で発揮する結界はこの国が抱えている魔術師でもそう簡単に崩せるものではないが、シヴァ相手だと互いに気絶する寸前まで拮抗する。いや、本来教会の司祭と王女が「矛と盾、どっちが強いか勝負しようぜ!」みたいなことしてちゃいけないんだが。
そのシヴァが、明日のパレスティ視察に同行するという。今日のクリームのお礼をかねて、アシュランとともに教会を訪れたら告げられた事実である。
「あそこにしかない本が見たくてですね。ここの教会は中央の精霊教会よりかは融通が利きますが、やはり精霊を真っ向に否定するような本はなかなか見られず…」
「いやそりゃあ教会が簡単にそんな本置いてたら困るでしょう」
「知とは常に開かれるべきものですよ。たとえそれが異端だとしても、学問というものは両者どちらの意見も取り入れて発達していくものです。まあそんなわけで面倒ですが私もこの国の司祭兼第一学者というわけですし?なんか行かなきゃ休み減らすって国王様に脅されてもいますし?まあ本来国王が行くべきところ第一王子と王女だけじゃあ物足りないかもっていうことで建前の人数合わせのひとりですよ」
「いろいろぶっちゃけすぎててあなた本当にいつかつかまりそうね、あなたほんとうにこの国の司祭兼第一学者なのかしら。賄賂とかで得た地位とかではなくて?」
「リンゴ様、このような者の心配などする必要はありませんよこいつは一度くらい中央教会の牢屋に捕まったほうが世のためにも国のためにもなりますよ」
アシュランの三白眼がいつもより尖ってシヴァを睨むが、それにシヴァは肩をすくめて答える。
「おー王女の護衛は相変わらずこわいこわい。その剣に斬られたくないからね、さっさと準備に戻りますよ。だからはやくその物騒なものから手を離してくださいアシュラン」
「騎士たる俺が自分の剣に手をかけていることがそんなに不思議なことか?」
「魔物もいないのに今にも鞘から剣を抜き出そうとしている騎士を見てたら不思議にもなりすよ何を斬る気かと」
「俺のアッタンはリンゴ様の害になるものを退けるためにしか使わない」
「わかったわかった、だから早くアッタンをしまってくれ」
『アッタン』とはアシュランが持つ刀の名前だ。アッタンは西洋の剣、というよりも日本刀と同じような形をしている。鍔も鞘もシンプルであるが、特徴としては、黒い。持ち手、鍔、鞘、そして刀身に至るまで黒曜石を更に深くしたような漆黒だ。
髪も瞳も服装も、そして武器も黒づくめの人物がリンゴの護衛騎士である。その怜悧な顔立ちも含め、またリンゴのことに関すること限定ではあるが、こうしてすぐに武力を使おうとするあたり魔王軍の配下にいそうな雰囲気である。
魔王軍副官とか似合いそう、とぽろりと昔からの付き人である侍女イリスにこぼしたら「まあまあその場合はリンゴ様が魔王になりませんと、アシュラン様は副官などならないでしょう」と返されてしまった。
「まあそんなわけですから、幼少のころからの馴染みものどうしで気楽な視察になるでしょう。楽しみましょう、王女殿下」
「なんだか、不安な気しかしないわ…」
はあ、とリンゴがため息をつくとシヴァは面白そうに笑った、
「大丈夫ですよ、王女殿下。王女殿下の憂いはすべて、あなたの護衛騎士がはらってくれましょう。本当にその男というものは、あなたのためにしか存在しないのですから」
シヴァにいわれて横をみると、アシュランは「何を当然なことを」という風情で立っているだけだった。
確かにアシュランはリンゴを護ってくれるだろう、アシュランを疑うことなどしない。だが、と。
ゲームと同じストーリーが進んでいるのか、進んでいないのか、わからない中でパレスティにおもむくということへの不安は、ゲームの記憶を持っているリンゴには誰にも言えなかった。
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