エピローグ
アリストリアル皇帝サフィードの治世は、約四十年の長きにわたり続いた。その間、大きな戦乱は起こらず、アリストリアル最大の繁栄を築くこととなる。
彼と皇后シトリアーナとの間には子どもがおらず、また、父の教訓故か彼は側室を持たなかったことから、遠縁にあたる将軍ヴィラメット=ガジェットの息子、ルージェヴィム=ガジェットが養子となり、次代皇帝となった。
ルージェヴィムは若い頃、機龍にまたがり、アリストリアルに限らず世界中を巡って、各地の言葉を記録していた。彼の記録をまとめたそれは、世界で最初の「辞書」であるとされており、後の世に出回ることになる『通訳機』の元となり、
彼の治世を支えた皇后の名は、何故か残されていない。が、彼女は
彼の双子の姉ルーシェヴィア=ガジェットは、十歳年下のシャニー公子に嫁ぐ。
その年齢差から政略結婚であったとの説が根強いが、中には本人たっての希望だった、恋愛結婚だった……など、様々な説が唱えられている。
彼女は息子と娘を一人ずつ産んだ。娘は早くに亡くなったと記録されるが、残された一人息子ルビウスを大切に育て、教育をし、そして九十近い年齢で大往生を遂げた。
母の死後、ルビウスはアリストリアル帝国から独立を宣言。『ラディアータ』という、新たな国を建国する。
が、ルビウスは祖父である、ぺリドラディウス=ラジスティアを『初代』と数え、自らを第三代皇帝と称した。彼の行為は様々な謎を呼ぶが、彼が祖父に対し、敬意を持っていたことは、間違いない。
ぺリドラディウスについては、公式的な記録とは別に、様々な逸話が残されている。
曰く、彼は精霊術を使う際、瞳の色が変色した。その特徴は彼の子孫……ラジスティア皇家に、今でも代々受け継がれている。
また、隣国の大公と愛妻自慢対決になり、危うく戦争になりかけた。との話もある。妻、エーメラルダは三十代半ばでこの世を去ったが、彼は生涯、彼女以外の妻は娶らなかった。
だが、彼の逸話の中で、もっとも有名なのは、息子の嫁、ルーシェヴィアとのエピソードだろう。彼はことあるごとにルーシェヴィアに怒鳴られ、また、彼もなにかと怒り返していた。と、伝わる。
決して本気で仲が悪かったわけではない。
が、この複雑な舅と嫁の言い合い喧嘩は、ある意味シャニーの名物となり、後世、笑い話……喜劇として、今も、伝わっている。
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