第6話

『おお、坊ちゃんやないけ。おかえり』

「坊ちゃんじゃない。俺の名は関水城戸という」

 今度は糸子と共に、再び上滑滝を訪れると、カバは昨日と同じようにがぶがぶと滝の水を飲んでいた。なお、関所は糸子の町長パワーにより難なく通過している。初めから俺は糸子を頼るべきだったんじゃないのか。あんなキラーマシンなんかではなく。……惚れた相手を利用する後ろめたさがありはしたが。

「城戸君? もうナメオカマスは喋ってるの?」

 おっと、糸子からは俺が独り言を言っているように聞こえているんだったか。

「大したことは言っていないがな。『坊ちゃんやないけ。おかえり』だそうだ」

「どうしてエセ関西弁なのよ?」

「お前の親父と同じだ」

 糸子とて身内の恥を晒すのは辛いのか、顔をしかめてみせる。顔をしかめた糸子も美しい。

「……城戸君。ともかく私の話を伝えて。ナマステ、ナメオカマス。青い汗ってことは、やっぱり志奈溝町にも滑丘町と同じように宇宙生物がいるの?」

『おるで。向こうは地球でいうところのカモシカゆうやつやな。シナミゾシカいうて名付けたらしいで。安直やな。こっちとおんなじや。……なあ城戸くん。ナマステてなんなん?』

「糸子。お前の言葉は向こうに伝わっているらしい。安心しろ。カバからの言葉だけお前に伝えることにする」

「ええ、助かるわ。――シナミゾシカはあなたのお知り合いかしら?」

「個人間での繋がりはないで。種族としてはまぁ知っとる」

 俺は耳に届くカバの言葉をそのまま口にする。

「どうやって情報を得たの?」

「ここに来る連中の話きいとったらわかるわ。ゆうて、わしもそちらさんと同じ情報持っとっただけやで。やけど知識量が違うねん。これでもおっちゃん宇宙生物やから」

「青い汗ということは、やっぱり『しなみぞブルー』の味の秘訣は、シナミゾシカの汗?」

「せやな。激旨やで。地球人的には」

「どうしてこのことを私に教えてくれたのかしら?」

 糸子の最後の質問に、カバは沈黙した。

「城戸くん?」

「ちょっと待て。俺が話を止めてるわけじゃない。カバから返答がないだけだ。おいカバ。俺の評価を下げるな。殺すぞ」

『殺さんといて。まぁ……シナミゾシカと呼んどこか。シナミゾシカの情報を得た切っ掛けはナメ会連中の話を統合した結果なんやけど、そこから先はシナミゾシカ本人からの情報提供なんやわ』

「次に言い淀んだら蓮華呼んできてスタンガン食らわすからな」

 俺はカバの言葉を糸子に伝える。

「どうやってシナミゾシカと会話を?」

「それもテレパシーやがな。あちらとこちらで飛ばしあったら、こう、上手い具合にいきよってな、ちょくちょくお話しとんのよ」

「……ええと、さっきの質問の答えとはどう繋がるのかしら?」

「急ぎなさんなや糸子ちゃん。まあ伝えづらいことなんやけどな。糸子ちゃんらを利用する形にもなるしな。やけどほら、これもウィンウィンの関係やさかいに。ええかな思て」

「前置きはいらないわ」

「ほな御言葉に甘えて」

 カバがぶしゅうと鼻息。

「あんな、シナミゾシカ、ホームシックやねんて。母星に帰りたいらしいわ」

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