5-5 炎の牙作戦
十四時前。コンドルに乗り込んだアルベルトたちグレイゴースト中隊は、事前に工兵隊が構築していた偽装された盛り土の後ろに隠れていた。キリだけは盛り土の横に寝そべり、ドラグノフ狙撃銃のスコープで敵方向を
アルベルトたちもコンドルのスコープを土の上に伸ばし、敵前線を観察していた。
今のところ、敵の姿は確認できない。それでも戦車部隊を含めた相当数の兵力がこもっているはずである。
「時間だ」
オズマの声が全員に届く。その直後だった。
敵前線の上空に何か飛来した。何十発も現れたそれは空中で破裂したかと思うと、地面に連続した赤の光を発生させる。かなり遅れ、雑音混じりの爆音が鼓膜を震わす。
今のはロケット弾である。しかも、このロケット弾は弾頭に小弾頭を含んでいる。これが空中から散布されることで、より広い面積を攻撃できる。
先進国では禁止されているらしいクラスター弾によるものだが、我が国では関係無い。
たった数秒間で広範囲が耕された。カタログスペックによると、一機の多連装ロケット発射装置で百数十ヘクタールに小型弾が降り注ぐ。掘り返された地面では、どれだけの兵士が生き埋めになったことだろう。
それでも、
基本的に、砲撃戦だけで雌雄が決することなどないのだ。
続けて、榴弾砲による支援砲撃が行われる。これは予定通り敵右翼に集中される。土煙が収まった後、鉄条網と塹壕線の一部が粉砕されたのが確認できる。もっとも、最大望遠でもここからでは人間の輪郭を確認するのは不可能であり、どれだけの損害を与えたのかは不明である。だが、これで副次的に地雷原を処理するということも達成されている。
最初の砲撃はここまで。砲撃を行うと、砲兵陣地の位置がばれてしまう。砲兵は射撃二割、移動八割と言われるぐらい頻繁に移動する。でないと、報復砲撃で致命的な損害を被ってしまう。
アルベルトの視界の上に、太陽光を反射する機体が見えた。来た方角から、バジルスタンの攻撃機だと分かる。敵の迎撃は間に合っていない。
その間に、バジルスタン軍の戦車と装甲車が動き出した。偽装のため半分地下に埋もれていた車体を穴の縁から乗り出し、砲列をそろえると次々と火を噴き出した。弾着部分に次々と火柱が上がる。
だが敵も黙ってはいない。反撃のために飛来した砲弾が、次々と戦車の周りで炸裂する。しかし、破片や爆風程度では戦車に致命傷を与えることはできない。
運悪く直撃を受けた一両が爆発の後に動きを止め、火災を起こす。それでも、鋼の軍団は止まらない。
こちらの陣地にも砲弾は降ってくるが、アルベルトたちの所へは一発も飛んでこない。
戦争がいくら非効率的とはいえ、無駄弾は撃たない。アルベルトたちの所は、陣地の少し後方である。周囲に目標物がない以上、誤射でない限り弾は飛んでこない。
戦車隊と敵との交戦距離が縮まると、機関銃も盛んに使用される。歩兵からも対戦車火器で反撃が行われるが、そこにバジルスタン側の榴弾砲の第二射が来る。
今度は前進する部隊の正面に横一列に並んだ弾着である。これを利用し、戦車部隊は一気に敵との距離を詰めた。
この段階で、大半の敵兵は戦意を喪失しているはずだ。対戦車兵器の射手は、戦車を撃破できたとしても別の戦車に殺される運命にあるのだから。
戦車は砲塔を左右に振り、機関銃で敵を威圧する。その後方に続いていた装甲車の後部が開く。兵士が次々と降車しているのが分かる。
彼らは被弾して倒れるものも居るが、装甲車の後ろや地面のくぼみに伏せ、戦車と共に射撃を開始する。
彼らは戦車や装甲車の目となり、最終的に陣地を確保する役目を担っている。こうして敵陣地の数百メートル手前に装甲車両と歩兵部隊が展開した。
それを迎え撃つべく、ようやくモブロフ軍の戦車が左側から現れた。残念ながらAWVの姿は見えない。ハンマーベアは引っ張り出せなかったようである。
だが、味方は十分に目的を達した。後は踏みとどまってくれればいい。
主攻は、この第三騎兵連隊に任されている。まず先鋒の部隊が中央めがけて飛び出した。四機のコンドルで構成された、グラント中隊である。
敵陣へと砲を撃ちながらグラント隊は前進する。左右二機ずつに分かれ、的を小さくしつつ相互支援を行っているようだ。
ジグザグと動く基本的な回避動作を忠実に守り、白煙たなびく敵陣に斬り込むかのように乗り込んでいった。
これで敵戦車は正面と側面に脅威を抱えることになる。特に側面からは、AWVによる至近距離からの正確な射撃が待っている。
この上、まとめて歩兵部隊も殲滅できれば言うことはない。
「グレイゴースト中隊、出る!」
「了解!」
キリも含め、部隊員が唱和する。
オズマの機体にだけは強力な無線装置が積んである。これで戦車大隊と歩兵大隊にも連絡は行ったはずだ。
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