5-4 妨害

 戦闘開始は十四時と周知された。

 それは砲撃開始の時刻であり、次に動くのは歩兵と戦車だ。しかし、いつでも出られるよう前線近くまでは移動しておかなければならない。


 ブリーフィングが終わった後、総員に昼食を取るよう命令が下った。今回はあのまずいレーションである。だが、それすらも満足に取れないぐらい状況は忙しい


 整備は整備で、輸送は輸送で別々にブリーフィングは行われていたらしい。基地内がいつになく活気づいている。アルベルトたちもコンドルに乗り込み、動作がうまくできているかをチェックしなければならない。

 チェックリストには砲やミサイルの配線、照準装置の設定なども含まれている。

 ビアンコやブレストはいい加減なそうにも見えるが、このチェックをおこたれば死が限りなく近くなる。


 そんな中、初見であるはずのビアンコとキリがいくらか言葉を交わしている様子が見られた。

 人見知りするらしいキリだったが、中隊での生活で順応能力は磨かれたようである。


 四人が戦車兵の黒い制服に着替え、自機をトラックに固定し終わり、いざ出発となった頃のことである。

 トラックの前に横付けした四駆車から、緑服にMPの腕章を巻いた一団が現れたのは。


「その出発、待っていただきたい」

 進み出たのはマリウス。前に絡んできた憲兵大尉である。


「まさか任務に憲兵が口を挟むつもりかな? そんな権限などないはずだけど」

 オズマが降り、マリウスに歩み寄る。


「誤解しないでいただきたい。私はあなた方の行動を邪魔するつもりはありません」

「なら、トラックの前を塞ぐというのはどういうことだ?」

「フィレシェットを連れていくおつもりだとお見受けしますが」

「そうだよ。彼女は強力な戦力だからね。それがどうかした?」

「それが問題なのです、少佐!」

 ただでさえ大きな目玉を、飛び出さんばかりに開く。


「この大作戦において、フィレシェットが裏切りを画策している恐れがあるのです」

「なら、僕たちだけで行けというわけ?」

「はい。フィレシェットは我々で預かります」

 刺の含んだオズマの声にも、マリウスは譲る気はないらしい。


「それは困るね。もしキ……フィレシェットが何もしなければ、僕たちだけで戦わなければならない。フィレシェットが力を貸してくれるなら、これ以上ありがたいことはないんだけど。大尉は裏切ると決めつけてるよね? 何か理由はある?」

「それは、手紙です」

「手紙?」


「ええ。軍事郵便を利用せず、マルスの商人を通じてやり取りをしていたそうです。手紙を渡していたことに関しては目撃者もおります。プーマと呼応した反乱計画を企てていたに違いありません!」

 自信たっぷりに、早口にそうまくし上げる。

 オズマは、ほう、と息を漏らす。


「反乱を起こしたところで、しょせんは戦車が一両だ。そんなものに何が出来る?

 もしプーマが呼応したとしても、僕たちの後ろには治安部隊が控えている。その目をかいくぐって前線に来られるのは少数だろうし、治安部隊を排除するだけの大兵力を送ってくるなんてことも考えにくい。違うかな?」


「なにか我々も気づかない盲点があるかもしれません!」

「大尉。君の発言は全て推測だね。もし君の行動が正当なものであるのなら、命令書があるはずだ。見せてもらえるかな?」

 そこでマリウスは言葉に詰まる。


「もしないのなら、君の行為は軍の指揮系統への不当な介入となるよ」

「しかし、フィレシェットは軍の人間ではありません」

「同行させるのは、レベジ将軍からの命令だよ。君のこの行為は誰からの差金だ?」

 マリウスは顔を真っ赤にし、唇をかみしめる。勝負は決したようだ


「どけろ!」

 マリウスが苛立つように部下に指示し、自らも脇に引く。


「では大尉。お見送り感謝するよ」

 乗り込んだオズマのトラックは発進する。


「後でこのことは査問会議にかけさせていただきます。くれぐれも私が止めたことだけはお忘れなきよう!」

 負け惜しみとも取れるマリウスの言葉を聞きながら、四台のトラックは基地から出撃した。

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