1-9 幕間
それは、深緑色のテントの中だった。
二人は湯気を立てる銀色のカップを手にして、ゴツゴツして冷たい地面の感覚を伝えるビニールの床に座っていた。
ショートカットにまとめた黒髪の少女と、筋肉質の男である。
もっとも、少女の方も鍛えていることに変わりはない。タイトな緑のシャツを身につけており、男は筋肉で、女はそれプラス別のもので膨らんだ胸の線がよく分かる。
二人とも、日に焼けた肌を晒しているのは共通するところである。
そして、左手にされた黄色いバンドの時計。この色はモブロフ軍人であることを示している。
「お仕事ご苦労さまです」
テントの口を開け、第三の男が首を突っ込む。だが、中には入らない。かなり狭いテントである。二人しかいないのに、座ってしまえば膝と膝がつきそうなほどなのだから。
長身の二人に比べれば、男の背は少し低い。七三に別けた髪と無精髭が特徴ではある。しかし、深緑が支配するこの空間では着ている白衣が一番浮いていると言えよう。
「ボス。報告にはまだ早いのでは?」
そう少女が丸い目を向ける。
任務が終わり、酷使した体を休めているところ。報告書の提出にはまだ早いはずだ。
「違いますよ。ちょっと重要なことを知らせようと思いましてね。君たちにも関係のあることですので」
と、白衣の男は唇を少しゆがめる。
「北で、AWV隊が全滅しました」
「フィレシェットの捕獲に失敗したと?」
男が顔をしかめる。
「その通りです」
と、白衣の男は肩をすくめる。
「たかが女一人。俺たちがやれば余裕だってのに!」
男がコップを床に置き、悔しげに拳を手のひらに打ち付ける。
「そう考えてると君も痛い目を見ますよ?」
「ボス。私たちの力を疑っておられるのですか?」
「実力を疑っているわけではありません。それだけフィレシェットが厄介だっていうことです。
言ったでしょ? あの子の出す戦車は、まともに相手をしたらいけないって。
もし君たちで捕まえるのが無理なら、モブロフ軍にできる部隊はないでしょう」
とりあえず実力に対してのお墨付きに、早口の少女は安堵の息をつく。
「全部、情報部の怠慢。敵の戦力を見誤り、その上、私たちにこんなところでゲリラ狩りさせるだなんて」
白衣の男は腕を組んで、首を傾けてみせる。
「うれしそうですね、ボス」
「わかります? やっぱり、私たちの手で捕まえてやらないと。私のフィレシェットなのですから」
と、白衣の男はのどの奥で愉悦の声を響かせる。
「でも、まずはこっちの任務を終わらせないと。君たちには頑張ってもらいます」
「分かりました」
「やっぱりやるしかないんだな」
きっちりしたものと苦笑混じりのものと、二種類の返事が白衣の男の耳に届く。
「話はそれだけです。それじゃあよろしくお願いしますね」
振る手を最後まで残し、白衣の男は去った。
「あの人は元気だな」
「前線に出てくるのが好きな人ですから」
そんな感想がかわされた後。テントの中では、しばらくコーヒーを飲む音だけが聞こえていた。
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