1-3 警備任務
プーマとの和平会談の護衛をすること。
アルベルトもいきなり聞かされたことだった。交渉は、国民はおろか軍内部にも極秘裏に行われていたらしい。プーマは反政府勢力の中では穏健派であるため、利害が一致しやすかったのだろう。
交渉自体は順調に進んでいたらしく、停戦合意文書に調印するところまでこぎ付けたらしい。その会場護衛にアルベルトが呼ばれたのだ。
会場は、人目に付かないように軍の施設が選ばれた。上空から見ると、
プーマに睨みをきかせるための歩兵中隊の基地なのだが、それが和平会談の場となるとは皮肉な話だ。
アルベルトは、トラックに隠したAWVを基地に持ち込んでいた。AWVは戦場まで自走することはなく、トラックかヘリで運ばれる。今回は目立たないためという目的もあった。
アルベルト自身は緑が基調の迷彩服に身を包んで小銃を持ち、基地の歩兵に混じる形で司令部のあるコンクリートの建物の入り口付近に立っていた。兵士たちは皆、体格の立派な者ばかり。その中にアルベルトが混じっても見劣りはしない。むしろ背は兵たちの平均よりも高いぐらいで、見事に歩兵として同化している。
トラックにはいつでも乗り込めるよう、建物のほぼ真横に留めてある。
プーマを完全に信用は出来ないが、ここで無駄に警戒させて交渉が白紙になることは避けたい。そういう思惑があるようだった。
内務次官とレベジ将軍が、すでに建物内に入っていた。あとはプーマ側の交渉者を待つのみ。
そんな中、灰色の車がゲートを通ってきた。右ハンドルの4ドア乗用車だが、車種までは分からない。塗装は禿げ、助手席側のドアに大きな凹みと、弾痕の跡らしい穴が見えた。
AWVの乗るトラックの隣に車は止まり、人が降り始める。
アルベルトにも見覚えのある、白ひげを生やした老人がいた。プーマの指導者、ハズルという人物だ。もう一人も年配の、日によく焼けた男。交渉にはこの二人が当たるのだろう。
残りは二名。運転手と、助手席に乗っていた人物である。運転手でない方は小柄な人物だ。
ボディーガードのつもりなのだろうか、二人とも小銃を身につけ、色合いは同じだがバジルスタン陸軍のものとは違う模様の迷彩服を着ている。
運転手は指導者に付いていこうとしたが、建物の中に入る前に兵士たちと揉め事になる。結局銃を取り上げられ、ボディーチェックをされた後、中に通された。
残された小柄なプーマ兵は、建物の前に立つ兵士の近くに立った。どうやら建物を警備しているつもりのようだ。
見た目、それほど屈強には見えない。だぶついた迷彩服のせいで、体の輪郭は分かりにくい。いっぱしに緑のヘルメットを深く被っているため、人相も分からない。だが、ひょっとすると女ではないだろうか。バジルスタン軍とは違い、プーマには女性兵士もいると聞く。
なんとかしてあの兵士に話しかけたい。アルベルトはそう思っていた。この前の戦闘時に出会った、シャーマン戦車について聞きたいからだ。
シャーマン戦車について情報を手に入れたのは、ビアンコの見舞いに行ったときのことだった。
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