実習 8日目~14日目
平成〇〇年6月11日(月曜日)~6月17日(日曜日)
実習期間中 第2週 8日目~9日目
平成○○年 6月11日(月曜日)
↓
6月12日(火曜日)
先週は全学年・全クラスの様子を見学して回ったが、2週間目からの教育実習は、中学2年生のクラスを中心に、山田先生の数学の授業を付きっきりで見学しながら、実習指導を受け、山田先生のクラスに、担任業務の補佐として入る事となっており、また朝と帰りのホームルームを任され、日々の実習を通して、より多くの事を学んで吸収していくように心掛けていた。
そして3週間目は、山田先生の担当クラスで、数学の授業の教鞭を取る事となり、『教員としての自立』を促されていた。
2年生の数学担当となってから、授業を始める前に、担当するクラスの生徒へは、自分が【色覚異常】である事を告げた。
その為
『教科書やプリント等に『見えにくい部分』が所々あり、黒板やノートの書き方から説明や授業の進め方や教え方が、山田先生と多少異なる部分があるかもしれない。』と事前に説明してから、授業へと参加していた。
すると山田先生も、クラスの生徒達へ報告と注意を促し始めた。
「皆さん。
来週の月曜日からは、冴香先生に授業を進めてもらいますので、ちゃんと真面目に授業を受けるよう、お願いしますね。
先生は皆さんの後ろから、授業の様子を見守っていますから。」
生徒達は口々に
「は~い!」
「冴香先生、頑張ってね!」
「サエちゃんの授業、めっちゃ楽しみ~。」
「カワり~ん、ガンバっ!」等の声援を送った。
彼女は少し恥ずかしそうで、また少し緊張した表情をしつつも
「はい!
精一杯頑張りますので、皆さん宜しくお願いします!」と大きな声で声援に応え、深々と一礼した。
その様子を見て生徒からは
「授業の前から、緊張し過ぎやろ~。」
「緊張するのは、まだ早いよ!」
「めっちゃ、テンパっとるやん?」
「冴香センセ~、かたいってば。
ほらっ、リラックス、リラックス~。」
「サエちゃん、深呼吸したら?
はい、大きく吸ってぇ~。
はい、大きく吐いてぇ~。
はい、大きく吸ってぇ~。
はい、大きく吐いてぇ~。」
「サエちゃん、いいよっ!
いいよ~、その調子!
あぁ~あともうチョイ、少しだけ前に胸張ってぇ!」
「ちょっと何やってんの、男子!
それって、セクハラじゃん。
もうサエちゃんも、そんなの真面目に付き合わなくていいからっ!」等と
生徒との関係は良好であったのか、和気あいあいとした雰囲気だった。
【色覚異常の件】は
教育実習の依頼で電話を掛けた際、自らが抱える事情として、事前に学校側へと説明していた。
研修前の打ち合わせの日。
『山田先生』に初めてお会いした際にも、彼女はこの事を直接相談していた。
教育実習が始まる前に学校側と相談し、専用のチョークとケースを自前で用意し、研修の際には毎回持参して、校内では常に肌身離さずスーツのポケットに入れて持ち歩き、彼女のチョークには、持ち手に目印が付いている。
彼女は教育実習が始める前から、担当の先生と何度か打ち合わせを重ねていき、
少しでも生徒が自分の授業で混乱しないよう配慮しつつ、見えない色を彼女なりに
見ようと 使おうと 書こうと 努力をしていた。
今までの人生から、自分は周りより準備や行動に少し時間や手間がかかると理解し自覚していたからこそ、人より早めに動き出して、人の倍以上に時間を費やし努力しながら、時には素直に周りへと助けを求めるようにしてきた。
一時期、周りの人へ訊くのを躊躇う事はあったけれど、それでもある時から気持ちを切り替え吹っ切れてからは、自分の目で見えない部分は、周りを頼って素直に人へ訊き、力を借りられるようになった。
人の助けなしにこの世の中が生き辛い事を彼女は知っていて、結局見えないモノはどうやっても見えないので、人に訊かなければいけないと自覚し、既に学んでいた。
教育実習が始まる前、山田先生は彼女に
「実は今この学校にも、貴女と同じように【色覚異常】を抱えている生徒が居るの。
貴女がその生徒と、もしかしたら接触をするかもしれませんが、たとえ誰の事かと気づいたとしても、絶対に【その事】を周りには言わないで下さい。
周りの生徒は、【その事】を知らないの。
その生徒の御家族から、『周りの生徒に言わないでほしい。』との要望があって、だから貴女と【同じ悩みを抱える生徒】について、どの生徒かはプライバシーの問題で言えないのだけれど。
私は生徒にとって、貴女と触れ合える機会が、何かしらの良い刺激や経験になればと思い、貴女には期待をしているから頑張って下さいね。
あと最後に、生徒と接する時にはくれぐれも節度を保ち、十分に配慮しながら注意して下さい。」と真剣な表情で話をしてから
今度は先程までよりも、更に険しく真面目な表情で
「それともし、生徒から悩み相談とか何か話しかけられたら、基本的に実習生の身であれば、生徒からの個人的な話や相談は聞かずに受けないのですが。
先程話した【貴女と似た生徒】から、『ハンディを抱えながら生きる人生の先輩』として、直接相談をされたのであれば、聞いて下さってもいいのですれども。
自分の言葉には、相手の話には、必ず責任を持ちなさい。
責任が持てないようなら、最初から話を聞かずに何も答えないで下さい。
それと実習期間中、生徒からの相談や個人的に話した内容は、放課後に私の所へと内容を報告して、生徒から聴いた話は、全て私以外には実習中も実習後も絶対に他言しないよう。これは、厳守でお願いしますね。
それともう一つ、冴香先生ならもう分かっているでしょうけど、改めて言います。
『報・連・相』は社会人として基本の基本なので、この事をよく覚えておくよう。」
彼女は『山田先生』から、教育実習中における注意点について、念を押し深く釘を刺されながらも、終始ずっと真剣な面持ちで、静かにじっと話を聴いていた。
そして話を聴き終えたら
「はい!」と元気よく返事をしてから
「実習期間中は、何卒宜しくお願い致します。」と言って、深々と頭を下げた。
数学の授業が始まると、教育実習の1週間目から、授業風景をよく見ていたので、山田先生の授業進行をちゃんと理解しながら、教室の一番後ろから見学していると、生徒が問題を解く時間になった時、山田先生からの提案で、来週の予行演習として、生徒が並んで座る列の間を様子見しつつ、時々声を掛けながら教えて回る事になり、いきなりで最初は戸惑ったが、懇切丁寧に理解しやすい説明を心掛けて、それでいて常に笑顔を忘れず、生徒と接する事ができるだけの心の余裕を持つ事ができていた。
放課後はいつも通り、職員室の山田先生の近くの席で、翌日・翌週の授業や教材の準備と確認、それに指示された資料の確認・整理・作成・準備して、帰宅後も夜遅くまで翌日・翌週の準備・確認やスケジュールの確認をしながら、来週から始まる数学の授業の準備を着々と進めていた。
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