実習期間中 第1週 後日談





                       平成○○年 6月某日(〇曜日)







 朝からぐずついた天気で、少しどんよりとしていた、ある日の休み時間。







 彼女は独りで居る『大瀧河君』を見かけたので、何気なく声を掛けた。

「大瀧河君って、10日の日曜日【緑黄地自然公園】で、絵を描いてたよね?

 私もその日は、たまたま公園に居たの。」




 すると彼の反応は薄く

「あぁ、そうなん。

 俺、今忙しいんで。」

 そそくさと、その場を離れて行ってしまった。




 彼女は彼と分かれてから

『そうだよね。反応に困る事を言ってしまった。』と、心の中で反省をした。


















 その日の放課後。







 職員室には彼女と、『2年2組の担任』をしている『養老先生』の2人だけで、

すると近くの席に座っていた『養老先生』から

「ちょっといい?

 川凛先生。」と突然声をかけられて


「はい、何でしょうか。」

彼女は作業の手を止めた。




『養老先生』は

綺麗な顔立ちの黒髪ロングに、上品かつ気品のある雰囲気を漂わせた20代の女性で隣の『2年2組のクラス担任』兼『英語の先生』だったが、どうやらまだこの学校へ赴任してきたばかりで、年齢が近かい事もあってか、実習が始まるとよく話しかけて色々と教えて下さった。







『冴香先生って、さっき大瀧河君と何か話してたみたいだけど。

 彼は校内でも「結構な問題児」で、生活態度や素行に問題があるらしいし、それに何故だか【絵に関する事】だけ、凄く敏感に反応するみたいなのよ。


 彼と同じ小学校に通っていた生徒が言うに、小学生の頃はまだ雰囲気とか、今とは少しだけ違って、比較的に普通で大人しい児童だったようで、それに、普段から絵を全く描かなかったらしいんだけど、まぁそれでも昔から、周りとは慣れ合わないようだったみたいだけどね。


 それがある時から

絵にこだわりを持ち始めたのか、周りに隠すよう絵を描き始めたらしくって、だからその姿を見て、彼へちょっかいを出してきた児童と度々揉めてたらしいの。


 それからなのかな。

中学生になると、ガラリと見た目も中身も急に変わり出して、入学して暫くはかなり荒れてたようで、それからずっと目立つ行動を起こすようになるんだけど、絵だけはずっと欠かさずに描いてるらしくて。

 でも決して人前では絵を描かず、美術の授業も毎回休むばかりで、まぁ他の授業も時々休んでるけど、それでも最近は、だいぶ落ち着いてきたようなんだけどね。


 あと人前で絵を描かないのに、いつもスケッチブックを持ち歩いてて、放課後には独りで教室とかに居残って、いつも何かを描いてるみたいだけど、スケッチブックに描いてる絵を周りには見せないらしいのよ。


 学内で唯一、彼の描いた絵をまともに見た事あるのは、山田先生だけなんだけど。

 『山田先生』が彼の絵を見て

「【大瀧河君】に、何も問題はありませんでした。

 とても素晴らしい絵でしたので、彼のスケッチブックの件について、今後はあまり触れないであげて下さい。」と仰ったから


 それ以降教員の間では、彼のスケッチブックには【触れない事】にしてるの。


 だからさっきも言ったけど。

彼は入学してから、よく生徒間・教師間で喧嘩や揉め事等の問題を起こして、それに母子家庭とかで、複雑な事情を抱えてるみたいだから、無事に実習を終えたいのなら研修中は【彼に関わらない方がいいよ!】』




 彼女は『養老先生』から

教育実習中における彼との接し方について、忠告を受けた。

















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