実習期間中 回想 ~本当の姿~





 けれど小学4年生となって

日中はまだ残暑が厳しかったが、日が暮れると急に肌寒くなる、ある日の放課後。






 彼女は

周りから見た『本当の自分の姿』を目の当たりにして、知る事となる。




 それは

『自分が周りの同級生たちから、厄介者として嫌われ疎まれていた。』という事実

だった。
























 その日はたまたま

机の中に忘れ物をしてしまい、教室へ向かい、1人廊下を歩いていると

とある教室から、聞き覚えのある声が幾つか聞こえてきて





 それは

彼女が普段よく一緒に居る、『同級生やクラスメイト』の声だった。










 何故か彼女は

足音を立てないようコッソリと、気配を消して教室へと近づいていた時。 



「あぁ~もう。

 今日もマジで、【アイツ】最悪だよ~。」


「ホント、めんどくさいよねぇ。」


「【サエ】のそばに居るとさぁ、正直しんどいよねぇ。」


「やっぱりぃ?

 そうだよね~。」


「今日もさぁ。

 【あの子】が授業中に、自分がミエナイからって色々訊いてくるからさぁ。

 こっちがいちいち手ぇ止めて相手しないといけないから、全然進まなくって」


「あぁ~、私も分かるぅ。

 【サエ】に教えてあげるの集中してたら、渡センの話し聞き逃しちゃってさ。

 その後渡センに当てられた問題が分からなくって、注意されたんだよねぇ。

 意味わかんないし、マジで。こっちが親切にしてあげてるってのにさぁ。」


「あぁそれそれっ、あるよねぇ。

話を聞き逃しちゃったり、ノート書けなかったり、問題解けなかったりとか。」


「そうそう、そう言う時に限ってさぁ大事な事とかだったりするよね。」


「だよねぇ、それっあるある~!

 なんかぁタイミング悪いってか、間が悪いんだよねぇ。

 【あの子】と関わってるとさぁ。」


「そうだよねぇ、なのに【サエ】ってさぁ、渡センからは怒られないよねぇ。

 渡センって絶対【サエ】に甘いよね。」


「だよねぇ、渡來って【あの子】には甘いよねぇ、あれってズルくない?

 【あの子】の前だと、いつも優しくニコニコしてさぁ、バカみたいじゃん?

 アイツっ!」


「やっぱぁ、ウチの担任の渡來とか絶対【サエ】に甘いしっ。

 実はロリコンとかなんじゃないの?」


「えぇ、ウケルっ!!!

 何それぇ、渡センめっちゃヤバいじゃん!」


「ってかさぁ。

 それだったら、ウチらもヤバいんじゃね?」


「確かに!そうじゃん。

 もぅやめてよ~。そんなん!ありえないしぃ。」


「まぁ実際は、【サエ】だけじゃない?

 『何でも許されるっ。』みたいなのは? ねぇ?」


「そうそう!

 【サエ】ってちょっと可哀想で可愛いからって、みんなから大事にされてさぁ。

 【サエ】の何が一番気に入らないかって、あの子さぁ、周りに居るみんなから、

何だかんだちやほやされて絶対調子に乗ってるし、勘違いしちゃってるよね。」


「分かるわ~、それ~。

 本人わかってないのかもしんないけど~、【あの子】って意外とモテてるじゃん

 誰にでも気軽に話しかけるし、何か近すぎるし、よくニコニコしてるからさぁ。

 男子とか勘違いしてる奴って絶対居るじゃん、アレって!」


「そうだよねぇ。

 実際に【サエ】が告られてるの、何度か見た事あるし。

 何かそれは断ってるみたいだけどさ。

 それでもクラスの男子もだけど、クラス以外の男子でもさ、結構【サエ】の事を

狙ってる子って、多いみたいだよ!」


「えぇ~、あれって案外人から好かれるのとか、わかってやってんじゃないの?」


「まぁねぇ。

 多分アレは分かっててやってるよ。きっとさぁ。

 ホントっ、分かってないんだから。

 男子ってバカだよねぇ。」


「っていうかさぁ。

やっぱ毎回分からないからっていちいち訊かれて、【あの子】の相手すんのわねぇ。

 付き合ってあげてる、こっちの身にもなれっての。」


「そうそう!だよねぇ。

 『見たら分かるじゃん』って事をさぁ、いっつも訊いてくるから。」


「こっちはいつでも【アンタ】には、構ってられないっての!」


「あぁ、それ分かるぅ。

 だって、普通は『見ればわかるじゃん!』って思うよね。」


「えぇ~、でも【サエ】ってさ、確か見えないんでしょ?」


「うん。だって輪野先生がそう言ってたんだよね?」


「あぁ、まぁ、それならさぁ~、しょうがないじゃん。

 だって【あの子】ミエナイんだから。」


「そうだけどさぁ~。

 分ってるんだけど、だってさぁたまにその事忘れちゃうじゃん。

 だって【あの子】、見た目は普通じゃん?」


「あぁ~、まあね。

 だよねぇ~。」


「それにミエナイからって、【あの子】とは色々と話合わない事もあるしさ。

 何か話してても、たまに【あの子】が居ると、雰囲気悪くなるしぃ。

 それでこっちが【あの子】に気ぃ遣うのわ、それはそれでつまんないじゃん。」


「でも【サエちゃん】って、やっぱり可哀想なんだからさぁ。」


「そうだよぉ~。

 可哀想なんだから、仲間外れは良くないよ。」


「みんな【サエ】には、優しくしてあげないとね。」


「まぁフリでもいいじゃん!

 【あの子】の前だけ適当に付き合っとけば、裏でハブっとけばいいんだし。

 【あの子】と仲良くしてると、周りの評価良いしさ。」


「まぁしょうがないし、それでいいじゃん。

 どうせクラス替えまでの事で、卒業するまでの間だしねぇ。」


「そうだよねぇ~。」










 彼女の居ない教室で

友人たちが、『隠された本音』で語らう姿を、見て聴いてしまった。







 彼女は自分の事が何だかすごく惨めに思えてきて、思わず目的も忘れてしまい、

すぐさま、後ろを振り返る事なく一目散に施設を目指し、その場を走り去った。























 これは担任の『渡來先生』もだった。

「はぁ、ホント毎回疲れますよ、全く。」


「どうかしたんですか、渡來先生?」


「あぁ、黒旗先生!

 すみません。溜息なんかついて。

 ウチのクラスに居る児童の【川凛 冴香】の事なんですけどね。」


「【川凛 冴香】って、【あの子】ですか?

 確か色がミエナイとかいう『色覚異常』でしったけ?

 『それ』を抱えてるとかの。」


「はい、そうなんですよ。」


「何かあったんですか?

 大人しそうで、真面目な児童に見えますけど?」


「いえ、何か問題があるとかそういうわけではないんですけど。

 まだ彼女への配慮が慣れなくて、少しっ、ですねぇ。

 やっぱり手間と時間がかかるので、大変なんですよねぇ。

 彼女の為だけに、わざわざ特別な配慮や資料作成が求められますから。

 ただでさえ色々とやる事が多くて、忙しいので。

 たまにちょっとだけ、煩わしかったりはするんですよね。」


「あぁ~、そう言うことでしたか。

 そうですね、慣れないと大変でしょうねぇ。

 そう言えば渡來先生って、【あの子】の居るクラス担任は初めてでしたよね?」


「はい、そうなんですよ。

 まぁ彼女は確かに大人しくて聞き分けが良いですし、真面目な児童ですけど、

でも良い児童だからこそ、正直対応が困ったりする事や面倒ではありますよ。」


「そんな事言っては、いけませんよ。

 まぁ、お気持ちは察しますけど。

 彼女の担任が初めてだと、色々と気苦労はありますからねぇ。」


「そうですねぇ。

 あのクラスは、ただでさえ色々と気をもむ事が多くって、気苦労が絶えませんよ。


 おっと、いけない。

 そろそろ行かないと。」


「あっ、ですねっ。

 今はお互いに、お仕事頑張りましょう!」


「はい!そうですね。

 黒旗先生、ありがとうございます。

 それじゃ、失礼します。」




 彼女は

偶然でも聴いてしまったら、聴いてしまった事を、忘れられなかった。



















 あの頃はまだ子どもだったから

誰かに何かを訊く事を、恥とも恥ずかしいとも何とも思っていなくて




 それに

確かに周りの人ではなく、常に自分の事だけを考えていたかもしれない。










 だから分からない事は、素直に何でも誰にでも訊けていたけれど




 でもそれが

周りにとってはずっと迷惑だったのだと知り、こうして気付いてしまった。





 自分の事しかミエテおらず、周りのコウイに甘えて、周りから優しくされるのが、当たり前だと錯覚して、今までずっと優しさに甘えていた事を自覚した。











 これは彼女にとって

周りから見えている『自分の姿』を、改めて見つめ直すと同時に、『今後の自分』を考える【岐路】となった出来事だった。



















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