実習期間中 第3週 18日目
平成○○年 6月21日(木曜日)
教育実習生としての実習期間は、終わりへと近づくが
この日は
朝からずっと雨が降りしきり、ジメジメとした空気に包まれていた。
『彼との騒ぎがあった』翌日からも、今までと変わらず、明るく元気で普段通りに
彼女は生徒と接しながら、朝のホームルームを進めていたが、教室の中はざわつき
校内での彼女の立ち位置は、少し微妙な所となって、生徒とは若干の距離ができて
しまっていた。が
そんなざわついたクラスの雰囲気を、『山田先生の一声』で、クラスの雰囲気は
ピンと張り詰めた空気に包まれ、引き締まり、いつも通りの様相を、取り戻した。
彼女の心は
山田先生に対して、『感謝と共に、申し訳ない気持ち』で、いっぱいになった。
生徒の中には
彼女と彼の事を、気にする生徒も心配する生徒も、色々と居たが
「心配かけてごめんなさい。
大丈夫だから、ごめんなさい。」
真摯にただひたすら、皆へきちんと謝り、自分に落ち度があるのだと、話し伝えて
周りは、『昨日の放課後の事』を気にしていたが、彼女の姿を見ると、何も言えず
それ以上は、深く訊く事をしなかった。
そして彼女は
いつも通りに実習を進めていくが、彼は朝から学校を休み、そのまま登校して来ず、会う機会は訪れなかった。
その日の放課後。
職員室で、作業をしていると、山田先生から
「冴香先生。ちょっといい?」と、声を掛けられて
すぐに彼女は、作業の手を止めて
「はい。大丈夫です。何でしょうか。」と、山田先生の方へ、振り向くと
山田先生は
真剣な眼差しで、彼女を見つめながら
「あのですね。
教育実習の最終日についてなのですが、本来は実習前の話通りなら、今週の土曜日で貴女の実習は終わる筈だったのだけれど、来週月曜日まで実習を延期して、あと1日だけ学校に来てくれませんか。」と、都合を訊かれて
突然の事で、彼女は、少し驚いた表情をしたていたが
「えっ、あっ、はい。勿論、伺わせて頂きます。
あのもしかして、それは騒ぎを起こしてしまったからでしょうか?」と、すぐ不安な表情へと変わり、申し訳なさそうに訊いてみると
山田先生は
心配している彼女を、気遣うような、穏やかな表情と声で
「あぁ、その事とは関係ありませんから。違うので、大丈夫ですよ。
そう、来て頂けるのね。大丈夫なのね?
それなら良かったです。
あのね。
教育実習最終日の放課後に、部活や予定のある生徒が居るかもしれませんので、自主参加とはなりますが、体育館で全校集会を開き、『教育実習生の送別会』を行おうと思っていまして、そういう事ならば、比較的都合がつけやすくて生徒が集まりやすい月曜日の方がいいって話になったのよ。」と、事情を伝えた。
『あっ違うんだ。』という、ホッと一安心した表情から、また驚いた表情に変わり
「えぇっ、そうだったんですか?
お忙しい所、申し訳ございません。
そのような貴重な経験とお時間と機会を頂けまして、有難う御座います!」と、
感謝の気持ちを込めて、彼女は、深々とお辞儀をした。
山田先生は
いつものように、優しく包み込むような笑顔で
「いいのよ。
これは、実習前から検討していて、それに、生徒からの要望もあったのだから。
それでね。
その全校集会の場で、冴香先生に、お願いがあるのだけど、少しだけでいいから【冴香先生の事】を話して欲しいの。
彼らの今後の人生の為に、少しでも、助けや支えとなるよう、貴重な体験や夢に
ついて話して欲しいと思っているのだけど。
どうでしょう、お願いできますか?」と依頼をされた。
ほんの一瞬だけ悩んでから、すぐに、彼女は答えた。
「はい、分かりました。
私の話でよければ、皆様の前でお時間を頂けるなら、精一杯話させて頂きます。」
彼女が快諾してくれた事に、山田先生は、安心したような、安堵した表情で
「そうですか。
良かったわぁ、本当にありがとう。
急にこんな事を頼んで、ごめんなさいね。
当日話してもらう時間はそんなにないけど、予定として5分10分位かしら。
取り敢えずは全校集会の場で話す前に、一応私の所まで当日話すスピーチの内容を原稿に書いて持って来て、見せて下さいね。
それでは、宜しくお願いしますね。」と、彼女に感謝しつつ改めて依頼した。
真剣な表情をしながらも、明るいトーンの声で
「はいっ、わかりました!
有難う御座います。
宜しくお願い致します!」と、また彼女は深々と頭を下げた。
彼女は
今までの人生を、【複雑な事情を抱えて】生きていた。
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