閑話

知識屋式ハロウィンの楽しみ方

「とりっくおあとり〜と!」

「へ?」


 必修なので渋々取った、朝一の講義。ギリギリに滑り込んだ後はいつものニュースチェックと睡眠補給でのりきった僕は、講義が終わるなりやたら楽しそうに呪文を唱えられたのだった。


 ……いや、なんの魔術も反応しない、可愛らしく安全な呪文だけどさ。普段なら間抜けた声上げる前に逃げるもの、僕の日常ってどうして物騒なんだろう。


 声を上げたまま突っ立ってた僕に、小海さんは可愛らしく頬を膨らませる。

「もー、嘉瀨君ってば。今日は10月31日だよ?」

「うん、それは知ってるけど……あーナルホド。ハロウィンね」


 言葉の途中で気付いて、納得。そういや今日は、最近流行のハロウィンだったね。あのイベントってひと月くらい前からひたすらカボチャ推しするから、何日が本番なのかつい忘れるよ。


 頷いた僕に満足そうに笑って、小海さんは両手を差し出した。

「とゆーわけでー、とりっくおあとり〜と!」


 掌を上に真っ直ぐ伸ばされた手と無邪気に楽しそうな笑顔を見るに、小海さんは純粋にハロウィンイベントを楽しんでる模様。飛び出しかけた「トリックいたずら希望っていったらどうする?」なんて冗談を舌先で止め、僕はバックをがさごそと漁った。


「えーと、お菓子お菓子……んー、チョコとクッキーとマシュマロどれが良い?」

「わー、嘉瀨君お菓子いっぱいだね! じゃあ、マシュマロもらうー」

「はいよー」


 個包装になったマシュマロを手渡すと、小海さんはその場で開けて食べる。嬉しそうに味わってるのを見てるだけで、僕まで気分がいいね。


「そーいやこれって、逆に僕から言ってもいーん?」

「いいよー」

 食べ終えた小海さんに訊いてみれば直ぐ答えが返ってきたので、にっこり笑っておねだりしてみた。

「じゃー、とりっくおあとりーと」

「はーい!」


 手渡された個包装なクッキーは嬉しいけど、うん。


「……手作りとは凝ってるねえ」

「うん、月菜と作ったー」


 まさか学年屈指の人気女性に、こんな衆目監視の中手作りお菓子を渡されるとは、流石に思ってなかったんだよね。


「へー、久慈さんと……」

 乾いた声で相槌を打ちつつ、視線でもう1人のお菓子制作者——これまた学年屈指の人気女性、久慈さんを目で探す。丁度こっちに来るところで、僕の手元を見てにこりと笑った。

「あら、美羽ったらもう嘉瀨君に渡したのね」

「だって嘉瀨君ってー、たまに講義ふらっとサボるでしょ? いる時にって思ったの」

「それもそうね」


 2人で笑い合う姿は眼福だけど、僕としては周囲の男共の代表の如くがっしと肩を掴んだ背後の怨念の方が気になるね。


「嘉ー瀨ー、自分どういうつもりやねん」

 おどろおどろしい声で囁くのは、言うまでもなく福茂。溜息をついて、見てるだけで華やかな女の子同士の会話の影で小声で言い返す。


「小海さんに下心を期待しない。僕とそこそこ会話するからイベント楽しみたいって顔でしょーが、アレ」

「ほほう。ワイはもらってないで」

「そりゃ、福茂がそーやって思い込み一直線な直情径行なキャラだから、久慈さんが防衛線引いてるんでしょーが」


 僕の真っ当な言い分に、福茂が束の間沈黙した。その隙を逃さず、僕は改めて久慈さんに話しかける。


「そだ、久慈さんもお菓子いる?」

「あはは、嘉瀨君ってば、それじゃあハロウィンの意味ないよ」

「んー、でも久慈さん相手ならトリートよりトリック希望だし」


 さっきは使えなかったジョークを飛ばすと、久慈さんはわざとらしく怒った顔をして見せた。


「こら、次の試験問題回さないよ」

「大変失礼いたしました」

 深々と頭を下げると、久慈さんがくすくすと笑うのが聞こえる。

「そこで弁明もしないで直ぐ撤回するとは」

「引き際は心得てるつもりだけど?」

 言いつつ鞄の中からお菓子をちらつかせれば、久慈さんはにこりと笑って手を差し伸べてくる。


「トリックオア、トリート?」


 福茂のせーだいな嫉妬の視線をガン無視して、僕は如才なく笑ってチョコを手渡した。






「にしても、なんで自分そんな大量に菓子もっとるんや?」

 ごもっともな福茂の問いかけは笑って流し、本日の講義を全消化した僕はバイクに跨がりハンドルを捻った。


 バイクをかっ飛ばす事50分、普段よりちょいと遅れて知識屋に到着。眞琴さんと薫さんが談笑しているのが見えたので、入って挨拶する。 

「はろー、お二人とも」

「ああ、来たね涼平。講義お疲れ様」

「あら嘉瀨君、大学の講義ちゃんと受けてたの? 珍しい」


 2人らしいそれぞれの返事に苦笑して、取り敢えず薫さんに反論した。


「薫さーん、人聞きが悪いよ。僕は適度に真面目、のラインは譲った事ないってば」

「あらそう? その割に、被っている講義で嘉瀨君の顔を見た事ないんだけど」

「う」


 突き刺さる指摘に視線が泳ぐ。いやだってあの講義は出席取らないし、クラスメイトに貰う約束してるノートで合格出来るし。


「はは、涼平らしい」

「何笑ってるのよ、眞琴。笑って済ませちゃダメでしょう」


 真面目ーに窘めてるけど、そこの魔女サマはほとんど講義取らずに学年上がった猛者ですよ、薫さんや。


 そんな思いが伝わったのか、眞琴さんはちらりと僕を見て意味ありげに笑った。

「ま、それで単位を落とすも涼平の責任だろ」

「そりゃあそうだけど……、なんか、嘉瀨君って単位だけは落とさなさそうだから、余計に腹立つわ」

「あはは、それはそうかもね」


 軽やかに笑い声を上げ、眞琴さんは薫さんにニッコリと笑って見せた。友人相手だからか、お得意の笑みじゃなく根っから楽しげだ。


「それじゃあ、普段の恨みも込めて菓子をふんだくろうか? 今日は天下のハロウィンだしね」

「おーい眞琴さんや、ハロウィンって別にお菓子強奪が法的に許される日とゆーワケじゃ……」

『Trick or treat?』

「……おおう、素晴らしいコンビネーション」


 ぴたりと声を合わせ、見事な発音で同時に手を突き出されちゃったら、乾いた笑みを浮かべて賞賛するしかないよね。


「はいはい、分かりましたよ。チョコもマシュマロもクッキーもたんと召し上がれ」

 鞄のお菓子を纏めて引っ張り出して1つずつ渡したとゆーのに、何故か2人とも微妙な表情。

「……予想以上に持ってたね、驚いたよ」

「嘉瀨君って甘党だったの? 意外」

「へ? あーいや、僕じゃなくてね……」


 苦笑してはぐらかすと、眞琴さんは直ぐに悟った模様。何とも言えない目で苦笑する眞琴さんを余所に、薫さんは一瞬きょとんとして——。


「……へえ? 嘉瀨君、誰かお菓子を渡す子がいるの?」


 ——何やら誤解をしてくれたらしく、ブリザード吹き荒れる声音でお尋ねなさった。


「……いやーうん。子というか、トモダチ?」

「へー、友達ねえ? 嘉瀨君の友達は随分枠が広いようね」


 思い切り軽蔑の視線を向けてくるこれは、うん、こないだのナンパが響いてる模様。自業自得は認めるし、そーゆートモダチがいるのも否定しないけど、さ。


「あのねえ、薫さんや。僕は擦れ違った10人中5人振り返れば幸いってレベルだよ? ハロウィン用にお菓子ごっそり用意しなきゃ女の子の要望に応えられませんーなんて羨ましい事態は、一握りのイケメンにしか許されてないってば」


 これである。身内にそーゆーにっくき……もとい、ちょっと腹立たしい……でもなくて、羨ましいイケメンがいるのは認めるけども、僕は如才なさで上手く遊んでるだけの一般人。そんな前準備は悲しい哉、不要なのだ。


「……そう?」

 プライドを投げ捨てた主張に少しは納得してくれたのか、薫さんの声がちょっぴり和らぐ。それでもまだ疑わしげな眼差しを向けてくるのでさてどーしようかと考えかけたその時、パンと手を叩く音が響いた。

「はい、そこまで。薫はちょっと偏見入ってるよ。涼平、奥でお茶でも淹れてきて。後少しで薫に手伝ってもらってる書の整理終わるから」

「……そうね、ごめんなさい」

「いえいえ。じゃ、お茶淹れてきまーす」


 助かったーと、よい子のお返事。これ以上薫さんを刺激しないよう、僕はそそくさとその場を離脱した。






「……でも実際、涼平はトモダチとやらにモテてるよね」

「うん、眞琴さんや。それちっとも嬉しくないって事を分かって言ってるでしょ」


 いつも通りきちっと整理整頓をしてくれた薫さんとお茶した後で送り出しつつ、そんなやり取りを交わしていた矢先。ひじょーに慣れ親しんだ気配がたかたかと近寄ってきた。


「おやまあ、噂をすれば」

「もー、店には来るなって言ってるのに……」

 げんなりと呟く僕と面白がる眞琴さんの言葉に被さるようにして、普通の人には聞こえない声が響いた。


『りょーへー!』

「はーい整列!」


 自棄気味に言ってみれば、駆け寄ってきたチビ達は一斉にびしっと整列した。うむ、大分動きが洗練されてきたね。


「……成程。梗の字の言う通り、無駄に見事だね」


 呆れと関心がない交ぜになった眞琴さんの呟きには、頷くしかないね。


「こいつらほんとーにノリ良くて。さて君達、どーしてお店に来たかな? 約束したでしょーが」


 にこっと笑いつつもちょっと魔力を滲ませてお説教モードを作ってみれば——いやはや、参考になる人が身近にいるとやりやすいね——、チビ達は途端整列を崩してぴょんぴょんと跳ねた。


『あーっ、りょーへーがノリ悪いぞ!』

『人間達はきょうはみーんなおまつりさわぎなのに、りょーへーが怒ってるぞ!』

『こういうの人間は「くうきよめない」ってゆーんだろー、知ってるぞー!』

「涼平、雑鬼に空気を読めないと言われた感想をどうぞ?」

「……ちょっぴり踏みたくなりました」


 くすくすと笑う魔女サマや、僕の返事を訊くなりよじ登ってきた雑鬼達をどーにかしてくれませんか。


『そーゆーこというなら俺達も考えがあるぞー!』

『そーだそーだ、おんびんにすませてやろーって思ったのによー』

「うん、君達の穏便って何だろうね、一応多分妖さん」

「穏便な妖……っ」

「眞琴さん、そこ笑い出すトコ違うと思うんですがどーですか」


 既に肩を震わせてる眞琴さんに半眼で突っ込むも、肩や頭にまでよじ登ってきた数匹が『せえの』と言ったのに物凄く嫌な予感が走る。


『とりっくおあとりーとーー!!』


「いっ……!」

 耳を塞ぐ暇も魔術を使う暇も無く、耳元での全力大合唱。悶絶してしゃがみ込む羽目となった。これはたまらん。


「き、君達、そのちっこい身体でよくもまぁそんな大きい声が出たね……」

『やったー、だいしょーりっ!』

『今のうちだ、潰せー潰せー』

「おっとそれは勘弁」


 耳を押さえたまま素早く立ち上がると、足元にとさとさっとダイブしたチビ達が積み重なる。


『ちえ、りょーへー早いなあ』

『りょーへーのくせにー!』

「ちなみに、君達が今潰しに成功すると、トリックが成り立つからお菓子上げる必要なくなるんだけどね」

『りょーへーさまー!』


 たちまちころっと態度が変わるチビ達に、溜息。こいつらほんとーに調子良すぎだよ、まったく。


「あはは。楽しいねこの子達」

「見てるだけの余裕。これにモテて悪戯された挙げ句お菓子持って行かれるーなんて事実、僕は嬉しくも何ともないんだけどね」


 傍観するばかりでちっとも助けてくれない眞琴さんをジト目で睨むと、眞琴さんはいつものチェシャ猫の如き笑みを浮かべた。


「いやあ、涼平の腕ならギリギリ音を遮れると思ったんだよ。てっきり遊びに付き合ったと思ってたのに——」

「いやだなあ眞琴さん勿論そうに決まってるじゃないか」

「……嚙まなかった器用さに免じて、見逃して上げよう」

「有り難き幸せ」


 ノンブレス誤魔化しに呆れ返った様子の眞琴さんに両手を合わせて拝むと、チビ達がわあわあと騒ぎ出した。


『りょーへー、相変わらず魔女のねーちゃんの尻に敷かれてるのなー』

『なっさけねー』

『そんな事より早くお菓子よこせよー』

『よこせよー!』

「……はいはい」


 反論は山の如しだけど、不毛すぎて諦めたね。溜息混じりに答えて、僕はここに来るまでにも大分持って行かれたお菓子を、チビ達にそりゃっとばらまく。


『わーい!』

 途端わっと集まってお菓子をその場で開けだしたチビ達。あの爪が長かったりそもそも指がなかったりする手で包装を開けてるのを見ると、こいつらはやっぱし普通じゃない存在なんだなーと一応思ったりする。


 ……と言うか、最近それくらいしかこいつらに妖要素を見出せないんだけど、それもどうなんでしょう。


「ハロウィンの日に雑鬼にお菓子を持って行かれるとは、何とも愉快だね」

「いやいや、コレお菓子代バカにならないんだってば眞琴さん。こいつらもちょーし良いんだから……」


 ホント、最近食費よりもお菓子代の方が上になりそうで、安いお菓子探しが大変だよ。知識屋への到着が遅れたのも、こいつらと同類がお菓子せがんできたからだし。


「ふうん。じゃあ折角だし、涼平も楽しませてもらったら?」

「へ?」


 なんのこっちゃとチビ達から眞琴さんへと視線を移せば、とっても楽しそうな笑みと右手に浮かばせた魔法陣が目に入り、ずざっと後ずさってしまった。





『おー! おもしろいぞー!』

『流石魔女のねーちゃん、りょーへーよりずっとずっと魔術がじょーずなんだなー!』

「あはは、お褒めに授かり光栄」

「いや、うん、なんだろうこの違和感……」

 ノリノリなチビ達と、大層満足げな眞琴さんのやり取りに、ちょっぴり遠い目になってしまった僕は悪くないと思う。


 今僕の目の前に広がる光景。しゃがみ込んだ魔女が雑鬼達を上機嫌で眺めている、と言うだけでもかなり珍しいんだけど、更にそのチビ達のカッコがなんとも愉快。


 1本角のまるっとしたやつは角にオレンジのリボンを巻かれた上で魔女の帽子を被って、箒にちょこんと乗っかり。


 ちょっとごつごつしたサルみたいなやつは黒いマントを羽織り、尖った爪を黒い手袋で覆われ、牙を強調するメイクを施され。


 猫又みたいなチビは白い毛並みが黒くなり、コウモリのツバサみたいなものを生やしてオレンジのとんがり帽子をちょんと乗せ。


 のぺっとした顔にネジが施されて、ツギハギだらけになってるのまでいる。



 早い話が、魔女っ子、ドラキュラ、悪魔っ子、フランケンシュタインをモチーフにしたデザイン。その他諸々バラエティ豊富な、よーするにハロウィンコスプレだ。



 なお、魔女サマに魔術をかけられたチビ達は、大層ご満悦である。つくづく生存本能が消え失せてる気がするんだけど、大丈夫なんだろーか。


「服レベルにうっすい幻影魔術纏わせて……何気に凝ってるね、眞琴さん」

「そう? コレを全部手で縫う方が難しいと思わない?」

「……それもそーですね」

 そいえば眞琴さん、変なとこで手先不器用だった。僕でも出来ますよーと告げちゃおううかと一瞬考えたけど、上機嫌に水を差すのも何なので追従しておく。


『りょーへーの魔術もおもしろいけど、魔女のねーちゃんはすっげー細かい感じだな!』

『りょーへーのは魔術だって分かるけど、魔女のねーちゃんのは本物にしか見えないぞー!』

「だってさ、涼平」

「うん……否定はしないけど。それで良いのかな、雑鬼って」


 僕と眞琴さんの力量差が雑鬼にも丸分かりという切ない事実は横にどけておくとして。魔術批評する雑鬼ってもう存在定義が迷子になってる気がするんだけど、どうだろう。


「まあ、それは今更にも程があるんじゃない? もう私は「涼平と仲が良いから」で片付けてるよ」

「ちょい、その根拠はなんなのさ」

 聞き捨てならんとじとっと睨むも、魔女サマはどこ吹く風。

「涼平の周りにいる雑鬼が常識外なのも、涼平の異能が常識外なのも、今更証明する必要ないだろ」

「うぐ」

 突き刺さる指摘に胸を押さえる。うん、なんとなーく自覚くらいはありますとも。


「ま、そんな事は良いとして。ホラ、涼平も遊んでご覧」

 こうやって、と言いながら眞琴さんが更に魔術を展開する。多重魔法陣の時間差展開とは恐れ入るね。


 キラキラ、と効果音が聞こえてきそうな輝きから、カボチャがぽこっと出て来た。親指の爪くらいのサイズのそれは、ちょっとばかし不気味なくらいににっこり笑った形にくりぬかれ、中からオレンジ色の光がぼうっと浮かび上がった。


『おー、きれー!』

『おもしろいなー、触っても熱くないぞー!』

「あはは。そりゃ、幻影だもの」

「ちっさいのに細かいねえ。ジャック・オ・ランタン、だっけ?」

「正解」


 にこりと笑う眞琴さんは、どうやら表に出ている以上にこの遊びにテンションが上がってる模様。ああほら、カボチャがゆらゆら揺れながらすいーっと飛び交いだした。


『すっげー!!』

 チビ達のテンションはもはやてっぺん突き抜けてどこまでも上がっていく。ついには互いに互いを踏み台にして、カボチャに飛びつこうとジャンプし始めた。


「おーい、落ちるぞーチビ達よ」

「大丈夫、そこまで高いとこを飛ぶようにはしてないから。ちなみに上手く飛び乗れればそのまま浮くんだ」


 さらっと告げられた自立制御式と浮遊魔術付加の事実に、一瞬硬直。1つ深呼吸して、僕は呆れ満載、感心微量なツッコミを入れた。


「……他愛ない着せ替え遊びに魔術技術と魔力を惜しみなくつぎ込む魔女。力の使う場所を全力で間違ってるよーな気がするのは僕だけですか、眞琴さんや」

「夏に『冷風扇風機(小)!』なんて呪文で涼んでた涼平にだけは言われたくないよね」


 にこやかに言われて、そういやそんな事もしたっけと首の後ろをかく。いやだって、真夏のバイクは地獄なんだってば。



「それに、そんなつまらない事はどうでもいいじゃないか。ほら、可愛いだろ?」

「……まあ、ね」



 ぴょこぴょこ跳ねるチビ達を指先でつつきながら、珍しく子供みたいに無邪気に笑う眞琴さんが、とっても可愛い。



 そーんなこと、口が裂けても言えないけど。これはもっと楽しませた方が良いぞと、僕も笑って魔法陣を作り、チビ達の新たなカッコをデザインし始めた。


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知識屋 吾桜紫苑 @cherry-aster

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