#10-2 合同訓練
「次、7番のチーム集合して!」
ようやく呼ばれた番号に優斗達は歩き始める。そして、彼等と同じように対戦相手のチームが姿を見せた。
「あ」
「げっ」
その中についさっき見たばかりの顔を見かけて、優斗が思わず声を上げると、同じく優斗に気付いた少年──霧谷空はあからさまに表情を歪めた。
「最悪。もう二度とおにーさんみたいな偽善者の顔なんて見たくなかったのに」
「随分嫌われたみたいだな」
「……空、知り合いですか?」
優斗の顔など見たくないとばかりに顔を背けていた空にそう声をかけたのは、彼と同じチームの女生徒だった。
光り輝く金の髪に髪と同じ金の瞳。穏やかな笑みを浮かべるたおやかな少女。高貴な身分な方なのだと自然と感じさせる優雅さを纏っていた。
少女は優しい眼差しで空と優斗を見ている。
「別に。さっきぶつかっただけの赤の他人。名前も知らないよ」
「そうなのですか。……申し訳ありません。チームメイトが失礼をしたようで。チームのリーダーとして代わりに謝罪させていただきます」
「い、いえ、ぶつかったのは俺の方なので」
「まあ、謙虚な方なのですね。えっと……」
「あ、月舘優斗です!」
彼女の雰囲気に思わず敬語で返事をしてしまう優斗だが、彼女は気にした様子なく穏やかに笑う。
「月舘さん。
「は、はい」
「良き対戦は無理だと思うけどねぇ」
二人の会話に水を差すように声をあげたのは白だ。
彼は笑顔だがどこか不機嫌そうな顔で優斗達を見ている。
白としては雑談してないで早く並べと思っているのだろうが、残念ながらそれは壱伽には通じていないようだった。
「まあ、妙菊先生。今のはどういう意味なのでしょうか?」
「どういう意味もなにもそのままだけど? 君達は今年の一年でもっとも優秀な生徒達が集まった天才チーム。そして、もう一方は問題児だらけの落ちこぼれチーム。結果は火を見るより明らかだと思うけど」
「……そうなのですか。ですが、勝負に絶対はありませんわ。お互いに全力で挑みましょう」
「こ、此方こそ」
差し出された右手を優斗が握り返せば、壱伽は穏やかに笑った後、スッと距離を取る。
「話は終わった? なら説明始めるよ。まず、先程引いたクジに書かれていた番号が○に囲まれていたのはどっち?」
「私のチームのようですね」
「そう。それなら、雷堂さんのチームから森に入ってもらう。それから五分後、月舘君達のチームが入る。そして、五分後にスタートの合図が鳴るからそれでスタートだ」
白の説明を聞きながら優斗は相手チームに視線を向けて、ある事に気付く。
優斗達が六人チームであるにも関わらず、壱伽のチームは四人しかいなかったのだ。
優雅に笑う壱伽と敵意丸出しの空。そして、興味なさそうに腕を組んでいる少女とひたすらお菓子を食べている少女。何ともバラバラな雰囲気のメンバーだった。
「なあなあ、シロセンセー! そっち四人しかいなくないか? ハンド? ハンドか!?」
「それを言うなら、ハンデでしょ。とにかく、問題はないよ。雷堂さん達は元々四人チームだからね」
「大体、人数が多いからってハンデでも何でもないから。思い上がらないでくれる? おにーさん達なんて僕の足下にも及ばないんだからさ」
「いけませんよ、空。そのような事を言っては……どのような相手にも礼節を持って接しなさいとあれほど言っていますのに」
「うるさいな。確かにあんたはリーダーかもしれないけどさ、僕に指図しないでって言ってるでしょ? あんたの言う事なんて聞く筋合いないんだからさ」
壱伽は優雅な笑顔のままだが、あきらかに二人の空気が殺伐としたものに変わる。チームメイトがそんな空気になっているというのに残りの二人は相変わらず関心がないようで口を開こうともしない。
「はいはい、チームメイト同士の喧嘩は後でやって。それじゃあ、地図とカウンターを配るから受け取って」
「カウンター?」
手渡されたのは腕時計型の小型の機械ディスプレイの部分には『0―0』という表示がある。
「そう、全員必ず腕に着用すること。このカウンターをしていれば、鬼を退治した時に自動的にカウントされていく。逆に言えば、カウンターをつけていない時に退治した鬼はカウントされない。カウンターにカウントされてない場合、成績には反映しないから気をつけて」
白の説明を聞きながら、全員がカウンターを腕に付けていく。
「そのカウンターはタイマーの役目も兼ねてるから、制限時間終了の合図が鳴り次第、すぐにこの入口に戻ってくること。説明は以上だけど、質問はある?」
誰も答えない。その反応に質問はないと判断した白は壱伽達を見た。
「それじゃあ、雷堂さん達のチームから入って。五分後、月舘君達のチームが入る。そして、更に五分後、開始のタイマーが鳴るからそれで訓練を始めてもらう」
「はい、問題ありませんわ。それでは、月舘さん。お手柔らかにお願い致しますね?」
「ふん、精々背後には気をつけることだね。鬼と間違えて殺しちゃうかもしれないからさ」
「空!」
窘める壱伽の声を無視して、空は一人で森の中に入っていく。それに続くように先程から黙ったままだった二人の少女も森へと入っていった。
「申し訳ありません。空の非礼は後程謝罪させますので……」
「い、いや、気にしないでください」
「ありがとうございます。それでは、私もこれで」
実に見事な一礼をして、森に入っていく壱伽。
彼女達の姿が完全に見えなくなった所で、ようやく張りつめていた空気が緩んだように優斗は息を吐き出した。
「いやー、流石の策略だったなぁ」
「それを言うなら迫力。でも、確かに全員隙がなかった」
「……こ、怖かった」
「大丈夫だ、聡よ。奴等が何を仕掛けてこようとも聡は我が守る」
「晴……」
「二人の世界に入ってる人達は無視するとして、どうするんです? 無策なまま突っ込んで自爆なんて無様な真似はしたくありませんよ」
幸太郎の言葉はもっともだ。
相手は今年の一年の中で一番優れている優等生。対して優斗達は落ちこぼれの烙印を押された劣等生。
何の策も無しに闇雲に動いた所で負けるのは確実だろう。
「思ったんだけど、多分彼女達は連携しないんじゃないか?」
「私もそう思う。個々の能力が高いから連携するよりも各個撃破の方が効率が良いと考える筈。あまり仲が良いようにも見えなかったし」
思い出すのは殺伐とした彼女達の空気。
壱伽は穏やかだが、誰に対しても攻撃的な空。そんな二人に興味すら抱いていなかった少女二人。とてもじゃないが、彼女達がチームプレイを重要視するようには思えなかった。
「け、けど、相手チームが連携しないからって、一人一人の実力はぼく達より上だし、勝つ手なんてあるのかな……?」
「何言ってんだよサトルン! 何事もやってみなくちゃ分かんないだろ! それに相手より早く鬼を倒せばいいだけだろ? 馬鹿のオレでも分かる単調明快な事だ!」
「単調じゃなくて単純」
「はっはっはっ! 細かい事は気にするな! どーんとオレに任せとけ!」
何故そこまで自信満々に言えるのかは分からなかったが、嵐の言葉に励まされたのは確かだった。
「まあ、確かに相手チームは優秀なんだろうけど、俺から見たら花音達だって充分凄いと思うけど」
「え?」
「あの試験の時から何度も鬼と戦う花音達を見てきて……俺は守られるばかりで何の役にも立たなかったけど、それでも花音達がいたから俺は今でも此処にいられる。だから、その……なんていうか、俺にとっては天才と呼ばれてる雷堂さん達より、花音達の方がよっぽど凄いと思うんだ」
自分の言った事がよほど恥ずかしいのか顔を赤らめて、顔を逸らした優斗を花音達は無言で見つめる。
どこか居た堪れない空気になってしまって優斗は先程の言葉を撤回しようとして、花音達を見て、何も言えなくなった。
いつもの無表情はどこにいったのかと思えるほど、本当に嬉しそうに笑う花音。これ以上ないほど笑っている嵐と聡。基本的に聡の事以外ではあまり笑顔を見せない晴の笑み。そして、優斗をからかうようにニヤニヤと笑っている幸太郎。
誰もが笑って優斗を見ている。その笑顔に優斗も何も言えずにただ笑みを返した。
「よーし分かった! ツッキーがそこまで言ったんだ! 絶対に勝つぞー!」
「任せて。優斗君の為に必ず勝利を」
「い、いや、そういうつもりで言ったんじゃ……」
「聡よ、何か策はあるか?」
「……う、うん。確実とは言えないけど、このメンバーなら良い所まで行けると思う」
「良いでしょう。話しなさい、その策とやらを」
「う、うん。まず――」
「はい、五分経った。次、森に入ってー」
「嵐君。ちゃんと作戦は覚えた?」
「問題ないぜ! ひののん!」
「ふん、落ちこぼれと侮った相手に負けたら、あのいけ好かない連中はどんな顔をするか楽しみですね」
「あまり緊張するな。大丈夫だ、我がついている」
「う、うん」
「……それじゃあ、みんな頑張ろう」
優斗の声に全員が頷き、そうして彼等も森の中へと足を踏み入れたのだった。
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