第8話 凄え……


「さあ主様、午前の診療は終了です。

 わたくしはこれからサト様、エリ様、シズ様と薬品精製と分類の作業に入ります。

 主様も、授業の方をお願いいたします」

「おう、わかった……で、どうなんだご婦人方は?」

「はい、現状の習得率は60%ほどです。全てを習得するのは難しいと考えますので、主様のご提案通り、それぞれの得意分野を割り振って指導しています」

「上出来、じゃあ頼むわ」


 俺は後をウンディーネに任せ、裏庭の青空教室に向かう。

 モトコさんの言いつけ通り、村人達に薬の作り方や診察のしかたを教え、俺が居なくなった後も困らないように準備中だ。

 経過は順調だが、早いに越したことは無いからな。


 モトコさんの葬儀から、もう五ヶ月ほど経つわけだ。

 あの人は、やはり相当な人望が有った。

 彼女の死を悼んで、近隣の村からも多くの参列者がやって来て、一時ここの人口が2倍になった。

 聞く所によると、モトコさんが来てから新生児の死亡率が飛躍的に低下し、彼女が居た20年間で近在の人口は2倍になった程だという。

 この村を拠点に選んだのは、どの村からも均等に近い位置だったからだ。

 そしてどこの子供だろうと大人だろうと、希望すれば別け隔てなく文字や算術を無料で教えていたのも大きいだろう。

 おかげでこの村の識字率は7割に及ぶ。


「おー、みんな頑張ってるか?」

「あ、ケイ先生こんにちは! 今日は先生の作ってくれたソロバンの授業をしています」


 今この教室のメインはユキちゃんだ。

 彼女は頭もよく勤勉で、小さな子供たちに特に慕われていた。

 従って、俺が診療所に呼んで、彼女に先生になってもらうために特別授業を施したのだ。

 もちろん算数や文字の勉強だ! 大人になる勉強では決して無い!

 そして、この教室を含め、近在の村で密かなブームになっているのが今教えているソロバンだ。

 暇つぶしで作ってみたのだが、この世界において、画期的な発明となっていた。

 行商人が来た時に一つ渡して使い方を教えたら、目を丸くして驚いていた。

 帳簿や数の多い計算が早くて確実だからだ。

 ついでにその権利を売ってやり、そいつが発明したことにして全国に売って回るように促したら、これまた大ヒット。

 今じゃソロバン売るのが本業になったらしい。

 

 この教室から見える近くに、モトコさんの墓がある。

 村の皆が建ててくれたもので、子供たちの様子が見える位置に有る。

 きっと本人も喜んでくれている事と……信じたいものだ。


 そして、モトコさんの予想通り、官吏のシンさんの動きが何やら怪しくなってきた。

 最近やたらと俺の周辺をウロウロしているらしいのだが、特に接触はしてこない。

 その情報をくれたのはユキちゃんだ。

 彼女は俺の周辺に、くまなく気を配ってくれるありがたい存在だ。

 昨夜も差し入れと称してセンベイを作ってきてくれたのだが、その時もシンさんが遅くまで俺の事を見張っていると教えてくれた。


 ウンディーネは「あの少女は主様との『交配』を望んでおります」などと危なっかしい事を言っていたが、あの夜以来そういった事は考えないようにしている。


 あれといえばハルナだが、彼女はまたどこかへ行ってはたまにふらっと現れる。

 そして二、三日ウチで過ごしては、またしばらく何処かへ消えるの繰り返しだ。

 あいつが知っている「仲間」との接触は、一応協力してくれるとは言っていたのだが、まだ誰にも会った事は無い。

 聞く所によると、ハルナを除いて現在3人がこのヤマトに居るそうだ。

 全員男っていうのはつまらないが、それも致し方無いだろう。


 そんなわけで、ここ暫くは概ね順調だ。

 困ることと言えば、ハルナが来ている間ユキちゃんが不機嫌になっている気がするのだが……これは俺の考えすぎだろう。


 そんなある日、朝起きたらウンディーネが俺の枕元に仁王立ちしていた。

 かなりビビったが、彼女には悪気はおろか、悪戯心すら無いので多めに見よう。


「おはようございます主様、今朝方ハルナ様より暗号文が届きましたのでお持ちいたしました」


 俺はそれを手にとって中を見た。

 暗号文というから何かと思ったら、書いてあるのは普通の日本語だ。

 ただ……久しぶりに見る可愛らしい丸文字で、漢字も多用されているからウンディーネには読めないのだろう。

 それに、これはカラフルなボールペンによる文字だ。

 あいつは何気に元の世界からの持ち物を、わりと大事に持っているのだろう。

 それに手紙なんて検閲無しでやり取り出来るもんじゃない、きっと俺たちが居ない間に放り込んでいったんだろう。


【deer・鬼畜レイプマンへ、仲間の一人とコンタクトとったどー!

 中年で足の臭いおっさんだけど、あんたがどうしても会いたいって言うからこのハルナ様がまごころこめてお願いしたら、特別に会ってやっても良いって。

 カイ村ってトコロにいるゴンゾーさんをたずねなさい。バーカバーカ!! 変態 】

 

 ひ、酷え文面だ……。

 嬉しい情報なのに、無茶苦茶腹が立つ! 今度来たら本気で寝こみを襲ってやる。

 いやいかん、落ち着け俺……。


 カイ村ってのは、ひょっとして甲斐の事だろうか?

 そう思ってウンディーネに聞いてみたら、やはり山梨のあたりにカイ村ってのが有るそうだ。

 まあ、俺はこの世界から戻りたいわけじゃないが、同じ世界の出身同士、連携はとっておきたい。

 早速ウンディーネに伝え、二人で3日ほど出かける事にした。

 もちろんその間の診療も、青空教室も村の皆さんにおまかせだ、俺一人で歩くのは時間が掛かるし面倒だからな。

 それに今後、俺達が居なくなってからも困らないようにする予行演習でもある。

 俺は診療所のスタッフとユキちゃんのそれぞれに宛てて、置き手紙を準備した。

 スタッフの若奥さん達には薬の調合レシピと、その置き場所。

 ユキちゃんには、生徒たちへのカリキュラムと彼女への宿題だ。

 

 思い立ったら吉日って事で、今夜から出発する事にした。

 そのゴンゾーさんに会ったら、ハルナがミノタウロス見てしょんべん漏らした事も忘れずに伝えてやろう。



――――――



 カイ村は、鬱蒼とした山の中に有った。

 街道が整備されているので、馬や馬車でも難なく来れる場所なのだが、如何せん俺は乗馬が出来ない。

 で、俺の身体がすっぽり隠れる大きなリュックを用意して、ウンちゃんに運んでもらったわけだ。

 小脇に抱えられたりダイレクトにおんぶされたりしては、男として情けないし絵面も悪い。


 それと驚いたのは、ウンディーネは結構な有名人(?)だった。

 彼女に対する人々の反応は、誰も驚かないどころか歓迎すらされているようだ。

 

「前マスターのお供として、数年に1度はヤマト八州を巡回しておりました。

 わたくしの容貌は一度目にすれば忘れることは無いと思われます」

「ふーん、そういう事か……ときにゴンゾーさんとやらの居場所は分かったのか?」

「判明いたしました、一つ向こうの山奥だそうです。

 かなりの変人で、あまり村人との交流も無いと。ですが、大変『凄い』方との評判です」


 何がどう凄いのか分からんところが凄い。

 取り敢えず、俺もリュックから出て一緒に歩く事にした。

 ウンディーネとは面識が無いらしいし、いきなりクロームメッキ仮面の女が訪ねたんじゃ相手も驚くだろう。

 

 麓から続く山道を、二時間ほど歩いただろうか。

 獣道だった場所が、次第に街道並……いや、それ以上に整備された道に変わってきた。

 そこから更に歩いて行くと、俺は感嘆の声を禁じ得なくなった。


「すげえ……」

「……凄いですね」


 ウンディーネも同意見だ。

 その道の幅はおよそ5メートルは有り、両端には木製だがガードレールまで作ってある。

 地盤も綺麗にならされており、アスファルトでも敷けば完璧に近い。

 これがすぐにゴンゾーさんの仕業だと直感した。

 

 平坦で歩きやすい道は、その後1キロほど続いた。

 その先に、恐らくは目的地であろう家が見えて来たのだが……。


「すげえ……」

「立派ですね」


 そこに在ったのは、純日本風の立派な「お屋敷」だ。

 俺の背丈より高い塀が続き、そのど真ん中に立派な門が有る。

 その向こうには、瓦屋根では無いが、山から切り出したと思しき木材を使い、見事に仕上げた屋根が見えた。

 門には表札がかかっており「平田権蔵」と漢字で書かれている。

 間違いなく俺と同じ世界から来た人だ!


 やべえ、緊張してきた。

 つい呼び鈴を探してしまったが、この世界にそんなもの有るわけないか。

 取り敢えず大声で呼んでみよう。


「ごめんくださーい!!」


 暫く待つ……返事がない。

 しかし、門の向こうで何者かが動いている様な気配を感じ、俺はもう一度呼んでみた。


「ごめんくださーい!!」

「ぶもおおおおおお!!」


「………………えっ?」


 扉が勢い良く開き、声の主が現れた!

 紛うことなき「あいつら」だ、そう、この世界での宿敵ミノタウロス!

 しかもこの前の奴よりもデカく2.5m級のミドルサイズ、しかもそれがいきなり3頭も現れた!

 ウンディーネはすぐに戦闘態勢に入り、俺も身構えつつ、会うことも叶わなかったゴンゾーさんの冥福を祈――!?


「こらこら、ポチ、チロ、タマ。お客さんだぞ、大人しくしてろ!!」


 …………えっ? 


 ミノタウロス達の背後から、恰幅のいいおっさんが現れた。

 禿頭で人の良さそうな顔、七福神のえべっさん……恵比寿様みたいなおっさんだ。


「ああ、あんたが不破君……だろう? うちの子達が驚かせちまったみたいだな、ハルナっちから話は聞いてるよ、オレが平田権蔵だ」


 大きなミノタウロスを押しのけて、にこやかに恵比寿様……じゃなくてゴンゾーさんが手を伸ばしてきた。

 俺は何がなんだか分からないまま、その手を握り返した。

 豆だらけのゴツい手だ。


「さあさあ、見掛け倒しの家だが入ってくれ、お茶でも振る舞おう」


 人の良さそうなおっさんは、そのまま俺の手を引いて中に案内してくれた。

 ミノタウロス達は、全く敵対行動を取ること無く、二頭が俺たちを先導するように先に門を潜り、最後の一頭は全員が敷地に入るのを確認し、丁寧に門を閉めていた。

 全くわけが分からないが……すげえ。


 外の立派な門構えと裏腹に、中は本当に見かけ倒しだった。


 立派な屋根の下は、柱の下は何も無い……診療所の青空教室みたいな東屋だ。

 その脇に、この世界には無い……在ってはならない建物が在った。


「これって……プレハブ小屋?」


 その隣には、見覚えの有る……やっぱりこの世界には無い「ブルドーザー」と「パワーショベル」が鎮座しており、これはまるで……。


「十年くらい前になるのかなあ……オレが『現場ごと』ここに落ちてきたのは」


 すげえ……。


 ゴンゾーさんの話はこうだった。

 大雨が続いた山奥の工事現場で、一人事務所に泊まりこんでいる時に運悪く地すべりが発生し、その現場事務所や周囲の建設機械やらと、まるごとこっちに来てしまったそうだ。

 身一つで来た俺と違い、えらくスケールがでかい。

 

 その後村にも下りるようになり、地元の人々とも親しく交流するまでになったのだが、それでもここが異世界だと気づくのに一年近くかかったというのんびり屋さんだ。

 そして、麓のカイ村との交流を持ちつつ、暇つぶしに山を切り開いて道路を作ったり、家を立てたりして過ごしていたそうだ。


「で……その、そこの……あの……」


 俺は一番の疑問、えらく大人しく従順な、ポチとチロとタマについて聞いてみた。


「わははは、変わった『牛』だろう?」


 いや、ウシじゃねーし!!

 この3頭のミノタウロス、数年前に山で山菜採りの途中、偶然見つけたそうだ。

 その時は皆、生まれたばかりで目も開いておらず、大きさも人間の赤ん坊程度だったのだが、ひどく衰弱して死にそうだったらしい。

 一人暮らしで寂しかったゴンゾーさんは、この三頭を不憫に思い飼う事にした。

 村の大工仕事などを引き受けつつ、その報酬で牛乳などを買い、ここまで立派に育てて躾もしたそうな。

 

「名前は向こうで飼ってた犬と猫からとったんだ、オレにとっては今はこいつらが家族ってわけだ、可愛いだろう?」


 いや、怖いです。


 三頭の巨大なミノタウロスが皆目を細め、ゴンゾーさんに擦り寄って顔を舐めまくっている光景は……すげえ。

 しかしあれって味見してるんじゃないよね?


 よくハルナが平気だったと思ったら、彼女と会うのは村の中でだけ。

 ハルナはおろか村人もここへ来たことはほとんど無いらしい。

 そりゃそうだよな。


「てことで、あんた達は二番目の客だ。一番目も同じ日本人だよ」

「へー……って? そのもう一人はどこに居るんですか!?」


 俺はこの話に食いついた。

 ハルナに教わるのは癪だし、距離が近ければこのまま会いに行きたいとも思ったからだ!


「奴はイカホに居るよ、ほら、群馬の伊香保温泉ってあっただろう?

 そこで元の世界に戻る研究をしているらしい、行くなら大沢って男を訪ねてごらん」


 イカホか……群馬って、そこまで遠くはないな。

 ウンディーネの脚なら一飛びで明日には行けるだろう。


「主様、わたくしの移動速度を当てにしていると推測いたしますが、現在エネルギーが枯渇状態です。

 回復にはあと18時間必要ですのでご了承願います」


 これまた驚いた。

 いや、少しは配慮すべきだったのだろう。

 ウンディーネが疲れるなんて、考えたことも無かったからだ。


「じゃあ今夜は泊まっていくといい、オレも久々に話し相手が出来て嬉しいしな。

 それに……そっちの姉ちゃん見てたら……へへへ、久々に血が騒ぐな」


 おおい、スケベオヤジ!

 ウンディーネは……元々そういう用途なんだけど……今じゃ俺の大事なパートナーなんだ、いくら何でも貸さね―ぞ!

 俺は彼女を庇うように前に出た。

 するとおっさんは高らかに笑った。


「いやいや、そうじゃねえさ。来てみな」


 そう言ってゴンゾーさんは、俺たちを現場事務所……もとい、プレハブ小屋へと案内した。


「ほら、これさ……電源が無いから使えなくなってな、その辺に捨てるわけにもいかないし、置きっ放しにしてるんだが……久しぶりにチンチンジャラジャラやりてえな~」


 そこに有ったのは、埃を被った古いパチンコ台だった。

 なるほど、ウンディーネの仮面を見てこっちを連想したんですか、それはそれで失礼だぞ。


「ゴンゾー様、質問です。このたくさんの球体は、一体何でしょう?」


 彼女が手にとっているのはパチンコ玉だった。

 何か似通ったモノ同士で惹かれるものが有るのだろうか?

 何粒かを手にとって、うっとり……かどうか分からんけど眺めているようだ。


「ああ、どうせ使い道なんか無いんだ、良かったら好きなだけ持っておいき」


 この時の彼女の感激っぷりときたら、想像しがたいものだった。

 おっさんの頭をその巨大な胸の谷間に抱いて、何度も感謝の言葉を述べまくっている。

 後ろに居たポチとタマが、心配そうに眺めている、もちろんおっさんは真っ赤な顔して超嬉しそうだ。

 

 そして、更に驚いたことがまた一つ。

 どこへ姿を消していたのかと思ったら、チロが起用にお湯を沸かし、お茶の用意をしてくれていたのだ。

 人間同様5本の指を持ってるだけあって、実に器用なのに驚いた。

 確か聞いた話じゃミノタウロス始め合成して作られた魔物達って、遺伝子レベルで人間を憎むように作られていたんじゃ無かったっけか?

 だが、その後出されたお茶に、俺は感激して涙がこぼれた。


「こ、こ、これってココ、コーヒーじゃないですかあ!?」

「ああ、現場で用意してあったやつさ、インスタントだけどな。

 こっちじゃ手に入らないってわかったから、大事に飲んでるんだ、もうだいぶ古いがまだまだ香りはするだろう?」


 ウンディーネは飲めないので、彼女に用意されたぶんも俺がいただいた。

 意外な場所で出会った故郷の味、これだけでもここに来た甲斐が有ったというものだ。


 それから深夜まで、ゴンゾーさんと色々な話をした。

 それによると、あのブルドーザーとパワーショベルは、既に燃料切れで動かないそうだ。

 この世界、特にこのヤマト国では鉄鉱石が産出しないので、鉄は貴重品だ。

 確か、我が国では古来から日本刀などの優れた技術が有ったものの、原料は砂鉄だった。

 この建設機械は鉄の固まりだから、売れば相当な額になるのは間違いない。


「知ってるだろう? この国では65歳で死ななきゃならん、だからオレも下手な事して目立ちたくは無いのさ」

 

 ゴンゾーさんは既に66歳になるという。

 ここの存在が領主にバレると、有無をいわさず献魂させられるんだし、彼の建設技術はカイ村では必要とされているらしく、村民も協力的なのだそうだ。

 彼としても、帰れるものなら帰りたかったのだが、もう既に死亡扱いになっているだろうし、奥さんは既に先立たれ、息子たちはとっくに独立している。

 今更無理しないで、このままここで余生を過ごしたいそうだ。

 俺としても、そのへんは尊重してあげたいと思った。


 それにここでの生活は、結構快適らしい。

 水は近くの沢から引いているし、野菜は自家栽培で米は村から分けてもらえる。

 そして、夜になると三頭の『息子』達が山に入り、鹿や猪を狩ってくるのだそうだ。

 大半は自家消費にまわるわけだが、余った分を燻製にしたりして、村へ卸している。

 自給自足の生活が、若い頃から憧れだったそうだから、何の不満も無いそうだ。


 翌朝早く、俺達はゴンゾーさんの家を後にした。

 ウンディーネは、腰に巻いた新たな装備にご満悦だ。

 昨夜、ゴンゾーさんにもらった作業用のベルトと革製の腰袋を二つ、ここに大量のパチンコ玉を詰めてある。

 彼女に関しては、重くなるとかそういった心配は無用だ。

 時々取り出しては、嬉しそうに眺めている。


 先ず、イカホへ行って、大沢さんとやらに会う。

 年齢は25歳くらいだというから、結構俺と近い。

 そして、元の世界へ帰る研究をしているという。

 俺はこの世界に来て、一度死んで変な物を身体に入れられて、そんで診療所と村の皆とウンディーネを頼まれた、だから帰るわけに行かないし、帰る理由も向こうには無い。


 こんな事を考えつつ、今もリュックの中で揺られているのだが、明らかに座り心地が悪くなった。

 腰の袋に入りきれなかったパチンコ玉を、リュックの底に入れてあるからだ。

 そもそも彼女はこれを何に使うつもりなのか、それは俺のあずかり知らぬ事だ。

 しかし、あの三頭のミノタウロスには本当に驚かされた。

 帰る頃には、俺達に対しても好意的な眼差しを向けていた。

 人造生物とはいえ、世代を経るうちに新たな習性をも身につける事を知ったのは、これはこれで収穫かもしれない。

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