第八話
走馬灯なんてまさか見る暇はないだろうと思っていたが、実際に起こってみると、ひどくスローペースで映像が流れていく様子は、いつか見たドラマそのものである。本当に時間の流れが遅くなるんだな。
春鳥に出会い、ばあさんの妖怪壺の存在を知られ、強引に開封を誘われ、根気に負けてついつい提案を受けてしまった。そんな映像が流れていく。
映像は、単なる記憶の癖してかなり鮮明だ。
そうそう、俺が春鳥と共にばあさんの妖怪壺を開封したのは、こんな薄暗い夕暮れのことだった。
家主の消えたばあさん宅に無断で侵入し、妖怪壺の位置を記した地図を入手、太平洋沿いの海岸をせっせと掘り、無数のお札に包まれた箱を見つけた。
『包まれた』。こうして走馬灯で再び目にしても、そう表現することしかできない。『貼られている』と形容するには、その様子は少し異常すぎた。箱の表面が一切見えないどころか、何重にも貼られたお札によって、原型すら留めていない。
俺は少し不気味に思ったが、春鳥は意気揚々と俺に開封を促す。
それで俺も不安をなくし、さほど躊躇することもなく、蓋のつなぎ目をお札の中から探しだし、それをこじ開けた。
中から出てきた壺は、お札も模様もない、なんの変哲もない骨董品に見えた。
正直、拍子抜けだ。
箱がお札で作ったまんじゅうみたいになっていたから、壺なんかそりゃもうひどい状態になってんのかと思っていた。具体的には壺1に対してお札100くらいの割合かと思っていた。
「案外、見た目の面白さはないね。壺自体に仕掛がしてあるのかな」
春鳥はそう言って俺から壺を奪った。
しばらくこんこんと叩いてみたり臭いを嗅いでみたりと壺に対してアクションを起こしていたのだが、やがて飽きたのか、不満そうに眉をひそめ、
「偽物なのかな? ま、良いさ。ものは試し。開けてみよう」
そう、春鳥が抜かした瞬間、俺の脳裏によぎったもの。
かつて、ばあさんが妖怪へ変じた時の姿。そしてその言葉だ。
『妖怪の気にあてられれば、妖怪は自然と身に宿る』
俺は春鳥とは違って、ばあさんを信じていた。
ばあさんの言葉は全て真実。
だとすれば、この後に起こることは何か。
壺の中にあるのは、妖怪の気の塊だ。
一つや二つではない。きっと三桁にも及ぶ。
それらは開封されれば壺から飛び出し、そして、自然と、
「へはっ!?」
必然だったんだ。仕方なかった。
俺は春鳥を突き飛ばし、春鳥が取り外した壺の蓋を拾った。
しかし、俺の行動は後の祭りという他なかった。
壺はすでに開封されていたんだから。
「百枝くんっ!」
春鳥のいた位置へ代わりに立った俺は、壺から這い出た妖怪全てをもろに食らった。
そして、気絶。
――しばらくして目を開くと、眼前に春鳥の顔があって、その口は堅く閉ざされていた。
初めて見る春鳥の真剣な表情に、俺は驚いたものだった。
ちなみに、オン膝枕である。
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