第三章 水曜日

今日も高須が見つからない、目的があって探している時ほど会わないものである。

だが、俺には何となくだが高須が居るところは分かっている。きっと奴は部室にいるはずだ、しかし今はそこに行くことは出来ない、これから最終講義がある。

それが終わらなきゃ部室へはいけない、まずはそれが終わってからだ。

講義が終わり、そそくさと部室へ行くとやはり高須はそこにいた。

「よお!今日も一番乗りだな修介」部室の扉を開けた瞬間に高須は一言放ってきた。

「お前、やっぱりここだったか、いつから居たんだ?」

そう言うと高須は「かれこれ二時間前くらいから居たんだな、今日はいろいろ皆に質問したいこともあってね。こっちの講義はつまらないからさぼってずっとここに居たわ」

「お前、どんだけ鉛筆にほれ込んでんだよ、俺はお前に言いたい事あって今日ずっと探してたんだぞ、もうその鉛筆使うの止めろ!それ俺に貸せ折るから」

そう言って高須ともみ合いになる。「ふざけんな、お前どういうつもりだよ!急に俺から鉛筆奪おうとすんじゃねえよ」高須の抵抗が強くなかなか鉛筆を取り上げる事が出来ない、するとその現場に正蔵君が現れて、俺と高須のもみ合いを止めに入ってきた。

「なにやってんですか二人とも!喧嘩はやめてください」

まさかの仲裁役乱入で高須から鉛筆を奪うことが出来なかった。

「お前邪魔すんな、鉛筆!高須の持ってる鉛筆」と俺が叫んでいると正蔵君の俺に対する顔がどんどん冷めていくのが見えた。

それを見ていると、自分の今の現状を客観視してしまった。

怒りが収まってしまった。「ごめん、なんか変に取り乱しちゃったよ俺」正蔵君にそう誤ると高須のほうを見て、「とにかくお前にも誤っておくよ、ごめん」そう言って部室に入って自分の椅子に座った。

とにかく冷静になりたかった。そうじゃなきゃ他の皆が来た時に顔が合わせられないと思ったのだ。

そんな時、部室に思わぬ来客が訪れた。

「修ちゃんいる~?おひさー」こんな軽い言葉で急に顔をのぞかせた女子は俺が中学校の時の同級生の寺山 あかねである。

いつもこういう態度で接してくる。俺はこの女を好いた覚えはないのだが、たまに校内で俺の顔を見かけると追いかけて話しかけてくる。

周りからは「彼女?」と声をかけられるので正直近づいてきてほしくないのだが、なぜか彼女は俺を好いて近づいてくる。

「なに!いったい何?」さっきまでの悲しい気持ちが一気に冷めてきた。

正直、あのテンションは勘弁してほしい、彼女は結構なおっちょこちょいで忘れっぽい性格なのだが、人間心理学科に入っている。こんな性格の奴がよく人間心理学科に入れたなと思えるほどだ。

「さっき、部室の入り口で修ちゃん見つけてさ!なんか悲しそうな顔してたから励ましてやろうかなって思って、ま!実際は私もサークルにはめてほしくてさ」

「サークルにはめろって、どうゆうつもりなんだよいつもはそんなこと言わないのに」

「私、帰宅部だし今日のバイトは家のお店がお休みで暇だからさ!」

俺にとってはあまり参加してほしくないのだが、彼女は一度決めると中々強情であきらめることはない、素直に乗っておかないと後でひどい目を見るのは俺なのだ。

「いいんじゃないの修介!たまには紅一点も必要でしょこのサークルも」

突然後ろから声をかけてきたのは恭介先輩だった。

「あっ、はい、僕もそのつもりで・・・」

彼女の言い分に否定はできないから賛成するしかない、だからこそ今回はメンバーに入れるわけだが、ただ一つこの現場に彼女にはマイナスになる存在がいる。

高須だ!あいつは今日も鉛筆で遊ぼうとしている。メンバーがそろえば彼女を含めて七人になる。彼女をそれに巻き込むのは嫌なのだが、巻き込んでしまったら、さらにややこしい事になる。

状況的にはあってほしくないのだ、高須がさらにテンションを上げてしまうような気がするのだ、さっき高須にちょっとだけ釘を刺したが奴は絶対のってくる。

「はい、あかねちゃんこれ読んでおいてね」と高須の声がした。

「ちょっと!なにやってんの高須、あかねちゃんを巻き込むなよ」

「いやいや、説明書を読ませてるだけだよ、鉛筆触らせたら取引が始まっちゃうからとにかくルールだけでも」完全に高須は、彼女もはめて鉛筆で遊ぼうとしている。

「なにこれ、面白そうだね。私もはまっていいの?」

突然来たのに彼女も乗り気になってしまっている。嫌な予感しかしない、なぜ彼女は来てしまったのか、招かれざる客である。

しかし、こんな状況になってしまっては受け入れるしかないのが事実、もう否定はしないほうが無難だ、今の状況に流されていこうと決意した。

今は、俺と高須と恭介先輩、そして正蔵君がいる。

あと二人来ればメンバーはそろうわけだが、その二人がちょっと遅れているため待ちぼうけをくらっている。

その間に高須は、乗り気になってしまったあかねちゃんに鉛筆の説明を事細かにしていて、その一方で恭介先輩は携帯をいじりながら正蔵君と話をしている。

取り残された俺は、今目の前で起きてしまった事実を飲み込み呆然としているしかなかった。

ただ唯一鉛筆に対する不信感だけは抜けず、それに対して何かしらの対策を考えねばという曖昧な思考だけが俺の脳裏に漂っていた。

そうこうしていると拓氏先輩と一平さんが一緒にこちらに歩いてくるのが見えた。

「あれ修介君、部室に入ってないなんて珍しいね。」と言いながら一平さんが歩いてくる。

すると何かに感づいたかのように一平さんが少し早歩きを始めた。それを追うように拓氏先輩が一歩遅いテンポで走ってこっちに近づいてきた。

「やっぱり、あかねちゃんだ!」

一平さんがちょっと声を張って言ってきた。

顔がキラキラしている。

かなりあからさまなリアクションだが一平さんは彼女の事が好きなのだ、部室に来るのは今回が初めてだが、たまに校内で俺とあかねちゃんがしゃべっているところを見かけて、その時に一目ぼれしたらしい、本人的には一方的にアプローチをしているらしいが、あかねちゃん曰く女ったらしみたいな性格が嫌であまり好かないらしい、ただ話している分にはいい人らしいが・・・

「あ、一平先輩お久しぶりです。」とあかねちゃんは愛想笑いをしてきた。

「久しぶりだね。最近は校内で顔を見かけないからどうしたのかなぁっておもってたんだよ、ははは」と一平さんが返してくる。

「元気ですよ!一平先輩も元気そうで良かったです~」とあかねちゃんは明るく答えてくる。彼女はあまり深い意味の言葉を使わないのでほとんどの言葉がド直球なのだが、たまにお茶を濁したような言葉を使ってくるので正直、今のセリフがいい意味での発言なのか、黒い意味での発言なのか理解出来ない、俺にとっては彼女のそういう部分を知っているので後々の展開が怖いのである。

そのかたわらで高須は鉛筆をカバンから出して皆に声をかけようとしている。

「じゃあ、皆そろったし今日もやりますか!」と高須が言うと「え!今日もやるの」と恭介先輩がちょっと不機嫌そうな顔をして言ってきた。

「そうだよ、今日はあかねちゃんもサークルにはまりたいって来てるんだし、鉛筆はちょっと」と俺は恭介先輩の言葉を利用してうまく重ねてみた。

しかし「え!私はいいよ、鉛筆やろうよ面白いからさ!」あかねちゃんはそう言ってきた。

俺は?と思いつつも状況に流されるべく「わかったよ、しょうがないな」と仕方なく鉛筆遊びに参加することにした。

だが、恭介先輩は「俺はパスするは、付き合ってらんねーからお前らでやってな、俺の事は気にしなくていいからさ」と言って鉛筆遊びにはまらなかった。

そんな一連があり、一人抜けで鉛筆遊びが始まった。

「ところで、昨日は家に帰ってから何か変わったことはあった?」と急に高須が聞いてきた。

いったい何事だろうと皆首をかしげていると、高須が一人ひとりの名前の書いてある紙を俺たちに渡してきた。

皆ハテナな顔をしながら開封していくと、その紙には自分たちに向けての命令が書いてあった。「なにこれどういう事?」と俺が質問すると高須が答えてきた。

「いつも、こうやって皆で集まってから鉛筆で遊んでるじゃん、だからその鉛筆の効果をみなまで確認できるわけだけど、個人個人バラバラの状況で命令した事って一回もないじゃん!だから昨日は帰ってから俺が皆に命令を書いてみたわけ、ちゃんと効果があるのかどうかね。」

高須が疑問に思っていた事だったらしい、もし、個人が家に居る時に命令の効果があればそれは鉛筆の効果の範囲はほぼ関係ないと考えていたらしい、だけど、その中でも一部の人しか命令が反映されなければその範囲は狭くなると考えていたらしい、かく言うメンバーの中で一番自宅が遠い恭介先輩でさえ高須の茨城県から栃木の距離になる。

そんな恭介先輩にも紙を渡してみてもらったが「いや、俺はこんなことは昨日してないから」と言われてすぐ突っ返された。

その中身を確認すると(神奈 恭介 自宅でトイレに行こうと急いで階段を下っていると足を踏み外してちょっと転んでしまう)という内容だった。

「皆、それなりに印象に残るような命令にしておかないと仮にそういう出来事が起きたとしても記憶してないかもしれないから、ありえそうでインパクトのある内容にしたんだけどさ」と高須が鉛筆を振りながら話してくる。

だが、ほかのメンバーもまた皆首を横に振る。命令の効果は届いてなかったらしい

「なるほどね。じゃあ範囲は限定されてきたね。鉛筆を持っている人の半径から近い距離じゃないと効果がないんだね。」

と解決してきた。だけどそれに対して正蔵君が突っ込んできた。

「高須先輩はそう言うけど、効果の範囲はもっと広い可能性だってあるわけじゃん、例えば埼玉県内とか、それともこの地区内とか?はたまた校内とか!どうかは分からないけど行動できる範囲で試してみても面白いと思うよ」

そう言うと高須はワクワクしながら乗ってくる。

「いいねぇ~面白そう!やってみようよ、試しに校内でって考えて一回外に出てみるとか?」そんな会話を聞いて真っ先に拓氏先輩が「え!じゃあ俺やる。外行ってくる」と言ってさっさと部室から出て行った。

そんな一連を見ていたあかねちゃんは「面白いね。このメンバーで遊ぶの楽しいよ」と

言ってくれた。正直、そう言ってもらえたのはちょっとうれしかったが、なぜかあかねちゃんのその言葉がちょっと引っかかっていた。

「拓氏先輩乗り気だね。とりあえず何か命令書いてみようか!」

そう言いながら拓氏先輩の携帯に電話をかけた。

「あ、拓氏先輩ですか?もう校内から出ましたか?」

高須がそう言うと電話越しに拓氏先輩の声が聞こえてくる。「ごめん、ちょっと待ってくれないかな。いま階段降りてる!」と息をちょっと切らせながら言っていた。

ちょっと焦っているのだろうか、そのまま電話をつなげているため拓氏先輩の「はあはあ」という息遣いが聞こえてくる。

それより遠くのところにかすかに階段を下りる足音が(コツコツ)と電話越しに聞こえてるのがわかった。

それを聞いていて高須の電話の音量が大きすぎではないかと、思っていた。

「ごめん、電話かかってくる前にトイレに行ってて遅れちゃってね。」と言いながら拓氏先輩が息を切らせながら電話越しに誤ってきた。

「今出たから!」やっと校外に出たらしい、ちょっと声を張り上げて拓氏先輩が答えてくれた。

そのかたわらで高須は電話を肩で挟んで無言で命令を書き始めた。

(国原 拓氏 ゴーゴーダンスを踊りだす)「ちょっと何書いてんのよ」と命令を見ていたあかねちゃんがちょっと含み笑いをしながら声を上げる。

すると電話越しに「え!何書いたの?ちょっと笑ってない?」と拓氏先輩の声が聞こえてくる。

「あのー拓氏先輩、所で何か今やってますか?」と高須が言うと「いや別に何も変わったことはやってないけど?」と答える。

「なんか遠くから変な音楽聞こえてるんですけどそれなんですか?」高須の突っ込みで俺たちもその音楽に気付いた。

「ほんとだ、携帯の音量でかいからかすかにだけど聞こえる。」と正蔵君が言ってきた。

拓氏先輩が「ああ、これ斜め迎えで路上パフォーマンス的な事やってるみたい、なんか古臭い音楽使ってるけどね。」

と言うと高須が曇った表情になって拓氏先輩に問いかけてきた。

「確かに古臭いみたいな感じですけど、踊る的な事ってないですかね?」

と言ってきた。「それじゃ、誘導尋問でしょうが」と俺が突っ込んだが電話越しに拓氏先輩が「そんなことはないけど、なに?命令何なのよ?」と気になり始めてきていた。

「これは効果ないみたいですね。誘導尋問したって無駄ですよ、とにかく呼び戻してもいいんじゃないんですか?」と正蔵君が答える。

すると、「確かにそうみたいだから、もおいいっすね。拓氏先輩、効果ないみたいなんで戻ってきてください」そう言って拓氏先輩を部室に呼び戻すことにした。

だが、拓氏先輩は「ちょっと待って!とりあえず部室の近くに行くからまた命令書いてみてもいいんじゃないかな?」と言ってきた。

「そんなもん、近く過ぎてもあまり面白くないから別にいいだろう」と一平さんがぼやくと「きっと拓氏先輩も楽しみたくてやってるんですよ」と正蔵君がなだめるように発言する。

その話を横目に高須は「ああ、うん」と薄い反応をしながらも拓氏先輩の発言に乗ってあげたみたいだった。

電話がつながったまま、拓氏先輩はまたひたすら歩いて目的の場所へ向かう、聞きなれたコツコツという靴の音がまた携帯から聞こえてくる。

しばらくすると扉が開く音が聞こえてきた。「いいよー」と拓氏先輩の声が聞こえると、心なしか声が響いて聞こえてきた。

「あれ、もしかして拓氏先輩トイレの個室に入ってます?」と正蔵君が聞くと「そうだよ、同じ階のトイレに居るから意外と効果あるんじゃないかと思って」

そんな話を聞いてから、高須は無言でまた命令を書き始める。

(国原 拓氏 便座に座ってウ○コを始める。)下品である。ありえない話である。

「いや、ダメでしょ!それはダメでしょ、実行されたら最悪ですよ、音が」メモを見ていた俺は間髪入れずに突っ込んでしまったがなぜか高須は冷静である。

「俺の感ではこの部室内でしか効果はないと思う、だからこんなもの書いても絶対実行はされない!俺が保証する」高須が苦い顔をしながら冷静に答えてきた。

「なに?命令なに?、俺がそう聞いちゃう命令?え、何?」

さすがの拓氏先輩も二回目になってくると気になってしょうがないらしくしつこく聞いてくる。

「気になる。なに?もう実行されてる?」しつこいのでもう帰ってきてほしいのだが、高須は一向に「戻ってきて」と言わない、そんな高須の顔を見ると半分嫌な顔をしている。

「先輩、効果はないみたいです。戻ってきてください」と言って電話を切った。

電話を切る前の先輩の声が少し漏れて「りょ」で消えてしまったが、テンションが高い事がわかるくらい高い声だった。

今の一連で疲れたのか高須が浮かない顔をしてこっちを向く「とにかく、効果があるのは部室内とわかったからいいよ。まあ拓氏先輩がテンション上がるとめんどくさいってのも分かったかんじだけど。」

あかねちゃんがそんな俺らのやり取りでちょっと苦笑いになっている。

それはそうである。ゴーゴーダンスに下ネタ、女子の前ですることではない、彼女がいるのにデリカシーのない男だ!ゴーゴーダンスも時代遅れはなはだしいくらいの死語だし、基本的にセンスがないのだ「とりあえず、鉛筆は近くに人がいないと効果はないんですね。」

と正蔵君がオウム返しのように高須と同じことを言ってきた。

微かに遠くから軽快な足音がコツコツと聞こえてきた。

「拓氏先輩が帰ってきた」と皆感づいた。すると高須が「とにかくさっきまでの一連は忘れよう、この命令は捨てます。これはなかったってことで」

そう言っていると拓氏先輩が部室に入ってきた。

「戻りました~」とすごい楽しそうな声を上げてくる。

部室の空気は正直変な感じになっている。なのに拓氏先輩はそれを読めずに場違いな発言をかましてくる。

「で、命令文章は何だったの?俺に見せてよ!」今のテンションの拓氏先輩がいやなのか高須は「いや、もう捨てましたから、とにかく効果は分かったんでもういいですから」

そう言って拓氏先輩をあしらうとやっと場の空気を感じたのかちょっと控えめに「え!ああ、捨てた?・・・ああ・・・はいわかりました」と返答した。

すべて一瞬で冷めた。しかし、高須はめげないような表情をしている。

「とにかく、仕切り直しましょうか!今日はあかねちゃんもいることだし、これから本番って形で楽しんでいこうか」そう言って雰囲気の切り替えを図ったのだった。

そして「はい、これが例の鉛筆ね」そう言ってあかねちゃんに鉛筆を渡した。

「え!いいの?」とあかねちゃんの驚きの発言に対して、「恭介先輩が乗り気じゃないし、とにかく登録者として交換する感じかな!」そう言って速攻であかねちゃんと恭介先輩を交換して新登録者含め6人で鉛筆遊びが始まった。

「じゃあ、かして貸して」とあかねちゃんが早速鉛筆を使いたそうにねだってくる。

それに対し高須はすんなりと鉛筆を貸してしまった。

「ちょっと待ってよ、ほんとにいいのか?もうちょっと他の皆に回してからでも!」

と拓氏先輩が言うがあかねちゃんは、「いいから私に貸してよ」というような顔をして俺たちを見てくる。その顔を見ると「ああ、いいよ」と結局先輩ですら了解する始末である。

このサークルの男どもはつくづく女に弱いやつらである。

「ありがとう、じゃあ早速使わせてもらうね。」と言って高須から借りたメモ用紙を使って命令を書き始めた。

(高須 佳悟 私にアイスをおごる約束をする。)

(国原 拓氏 この鉛筆を神奈恭介に触らせる。)

(高須 佳悟 所有権を私に譲ると発言する。)

サラサラとまるで手慣れたようにメモ帳にこの命令を書き綴った。

そして「はい、ありがとう佳悟君、メモ帳返すね。」と言って自分で書いた一枚を破って高須にメモ帳を返した。

「あかねちゃん飲み込み早いね。これは楽しくなりそうだよ、なんか熱くなってきたから後でアイスでもおごってあげようか?」と高須が言う、拓氏先輩があかねちゃんに「次は俺ね。」と声をかけて勝手に鉛筆を取ろうとした。

だが、うまく取れなかった鉛筆はあかねちゃんの手から落ちて床に音を立てて転がっていった。

「あ!」と声を上げた拓氏先輩は、転がっていった鉛筆を目で追って止まった先を見て

恭介先輩に声をかける。

「恭介先輩、そっちに鉛筆転がっていったんで取ってもらっていいですか?」

今、自分で言ったその言葉を拓氏先輩はふと思い返したような表情をした後に「あ!」

と声を上げた。

当然である。恭介先輩が鉛筆を取ったらまた、所有権交代の取引が始まるのである。しかしそれがあかねちゃんの差し金など皆知る由もなく「アホ、なぜそんな声をかけた。」と拓氏先輩に馬頭が飛ぶ。

そんな中で恭介先輩は普通に鉛筆を取ってしまった。

「あーあ、先輩なぜ取っちゃうんですか!参加しないって言ってたのに」と高須がめんどくさそうな顔で声をかけると「しょうがねーだろ、声かけられたからとっさに取っちまったんだよ、いいから早くどうするかお前決めろ!」

半ば強制的に参加させられたような感じになった恭介先輩は、若干切れ顔で高須にすり寄りながら声を上げている。

「お前さ、この間から若干調子に乗ってねーか?たいがいにしないとマジ切れするからなオイ」と恭介先輩が高須に鉛筆をぐりぐり押し付けながら怒り始めた。

その顔にビビった高須は鉛筆を受け取って「すいません」とおびえながら言った。

黙って高須から引いて行った恭介先輩は再びパソコンに向かって作業をし始めた。

すると「今の恭介先輩の顔はマジだった。きおつけないと俺が本気で怒られそうだから皆できるだけ静かにやろうぜ!先輩、気が立ってるみたいだからさ」

と言うと「で!所有権どうするんだよ、恭介先輩は自由にしろって言ってるんだからさっさと決めて!」とせかすように拓氏先輩が言ってきた。

「ああ、じゃあまずはあかねちゃんに所有権を譲ってちょっと遊んでみる?」

と高須は簡単に決めつけた。

すると、あかねちゃんがゲラゲラ笑いながらメモを渡してきた。皆がそのメモを見て唖然

とした。

「え!あかねちゃんの仕業?なんでこんな事できるの知ってんの?」と高須が問い詰めると「だって説明書見れば何となくだけどわかるじゃない?」とあかねちゃんが答えた。

それに対して俺はどう考えてもおかしいと思った。

だけど、ほかの皆はそれに対して何も疑いもなく「あかねちゃん、案外頭の回転早いんだね。」と口をそろえて発言する。

だが、皆がさらに唖然としたのがメモの最後に(寺山 あかね 次の命令を拒否する)と書いてあった。

昨日今日でやっとわかったようなルールを彼女は説明書を見ただけで把握して、一回のメモだけでそこまでの命令を書いたのだ、頭の回転が速いだけではすまない事をしているような気がした。

だからこそ俺はあかねちゃんを疑った。すでに鉛筆の使い方を知っているような感覚で鉛筆を使いこなしたからだ、きっと何かある。

俺はそうにらんだ、そして、あかねちゃんは鉛筆を使い終わると拓氏先輩に鉛筆を渡してあげた。

「あとは自由に使っていいですよ、私もう楽しんだから大丈夫です。」

本当に満足したような顔で満面の笑みでこちらを見ている。

そんなあかねちゃんを見ていた拓氏先輩は、鉛筆を渡されたにも関わらず少しフリーズしていた。

すこしたって「ありがとう」と、あかねちゃんに声をかけると拓氏先輩は命令を書き始めた。

(菊池 一平 あかねちゃんを口説き始める。)

(高須 佳悟 あかねちゃんへの命令を書く)

すると、しびれを切らしていたかのように一平さんがあかねちゃんに近づいてきて話しかけ始めた。「ほんと、あかねちゃんって笑ってる顔かわいいよね!今日は一緒に帰らない?ねえねえ」と言うと「ごめんなさい、私修ちゃんと帰る約束してるから」と拒否をしてきた。

「なんで香山となんだよ、いいから俺と」と食い下がるがあかねちゃんはそれに物おじせずに「修ちゃんと帰る約束しているから」と繰り返す。

その会話を聞いて俺は「そんな約束はした覚えはないが?」と思いつつ彼女の気を察して何も反応せずにいた。

すると、高須が「また変な命令書いたんですか?拓氏先輩、次俺に書かせて下さい」と鉛筆を奪い取る。

(寺山 あかね 香山修介に告白)

(寺山 あかね 高須佳悟に所有権を譲ると発言する)

とメモにそそくさと命令を書くとまた拓氏先輩が鉛筆を奪って命令を書こうとしていた。

すると、「そうだ、私もう鉛筆楽しんだしあと帰るね!だから佳悟くんに所有権譲るよ

、じゃあ帰ろ修ちゃん!」と言って俺の腕を引っ張ってきた。

「え!ちょっと俺まだ」と声を上げる。

しかし、あかねちゃんの強引な力で俺は部室の扉に引きずられていく、「ばいばーい」と皆に声をかけて俺とあかねちゃんは帰ることになった。

その強引さを見ていたメンバーは「あらら」と思いながらもその後も少しだけ鉛筆で遊んでいたらしい、俺はあかねちゃんと帰ることになり久しぶりに、中学での出来事を会話の話題にして懐かしみながらも家に帰って行った。

その間、俺はあかねちゃんを怪しみながらも、鉛筆の事については質問しないでおこうと

思っていた。

何か核心があるわけではなかったからだ、そんな中であかねちゃんからいきなり「ねえ、今日泊まっていい?」と言われたが「それは出来ない」と即答して、家に上がらせる事はしなかった。

彼女の気持ちに何かあったのであろうが、俺には関係ない!

あかねちゃんは可愛いとは思うが、恋愛の対象外なのだ、中学の時から知っているとはいえあの性格は好きにはなれない、ただ俺は今のあかねちゃんが何かしら鉛筆にかかわっているのではという疑いの気持ちでしか見れないでいる。

だから、たとえそんな言葉をかけられても、今の気持ちでは何も揺らぎようがないのである。

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