HB鉛筆

@aposso200

第二章 火曜日

日が明けた。鉛筆を受け取って二日目である。

いつもと変わらず講義をこなし、サークルに向かう今日はいつもと雰囲気が違う、高須がイライラしながら椅子に座っていた。

「よお、修介お前遅かったな!昼に食堂でも見かけないし、今日はお前に会いたくてウズウズしてたんだぞ!」出合頭にそんなことを言われてもただ気持ち悪いだけだ、俺には鉛筆に用事があることは分かっていたが言い回しが酷くて顔が崩れる。

「なんだよ、これだろ!ほら」そう言いながら鉛筆を高須に渡した。

「素直だな、サンキューな!実は試したいことがあってさ」そう言って高須は鉛筆を振りながらニヤニヤと笑顔に変えた。

そのかたわらで正蔵君はパソコンをいじりながらこちらを見ていた。

「香山先輩お疲れ様です。昨日のカラオケ楽しかったですねー」と昨日の事をまるで高須に自慢するかのようにあえて言ってきた。

高須はあまりそれを気にすることもなく「昨日はあの後カラオケ行ったのか!良かったな、俺はさ、ちょっと考え事があったから先に帰っちゃったけど、そのおかげでいい案が浮かんで良かったよ」終始ニヤニヤしながら話している。

そんなやり取りをしていると、拓氏先輩、一平さん、恭介先輩が部室に入ってくる。

「今日もあの鉛筆で遊ぶのか?サークル活動は中止ってことで?」そう言いながら恭介先輩が歩いてくる。

「お疲れ様です恭介先輩!昨日はあの後どうだったんですか?」

正蔵君が間髪入れずにきいてくる。それに対してなぜか一平さんが答えてきた。

「昨日は二人で居酒屋三昧だったらしいよ!」そう言って恭介先輩に話しかける。

「俺も行きたかったですよー、お酒飲みたかったなー!・・・かわいい子さそったんですか?」と、女の子と絡みたかったアピールをしてくる。

恭介先輩はちょっと嫌そうな顔でその会話をたしなめる。

「かわいい子はいないよー!結局、真人と二人でのんでたしぃー」そう言って受け流した。

そんな会話をかたわらで聞いていた高須はちょっとムスッとした顔をしいた。

「とーにーかーくー!鉛筆で遊んでみませんか?俺いい事思いついたんすよ、実戦してみたくてみんな集まるまで待ってたんですよ!」

そう言う高須はさらに顔がウキウキしている。

「鉛筆で遊ぶのね。じゃあ今日は活動中止でいきましょう!」気を利かせた先輩がそういってくれた。かく言う先輩も遊びたいことは目に見えてわかっていた。

ダルそうな雰囲気でやる気が見えない、きっと昨日の真人先輩との出来事で気持ちを持っていかれてしまったのだろう、恭介先輩は真人先輩の事が大好きだから、久しぶりに会うと次の日はいつもこうなのだ、一日真人先輩の事を考えてしまうらしい!

そう言うが恭介先輩はホモではない、友達として、親友として真人先輩が大好きなのだ、これだけは理解してほしい

それがあるからこそ、刺激が欲しいのだ!忘れたいのだろう。

サークルメンバーが皆そろい、今日は高須が仕切って鉛筆で遊ぶらしい、高須を見るとだいぶ鉛筆の能力に依存し始めているのがわかる。

それを考えると、この鉛筆に対して何か怪しい匂いがプンプンしてならない、昨日の最後に所有権が剥奪されてからはある意味では鉛筆に対して第三者の面で見ていた。

考えてみれば怪しい浮浪者から鉛筆をもらい、それを使ったら不思議なことに人の行動を操ることが出来た。・・・

考えれば考えるほど何かの策略じゃないかとしか思えないのだ、だが今はその先には進めない、そこまで考えうる信憑性が見えないからだ、だからこそ今日からまた鉛筆を使う機会があるなら何かが見えると思っていた。

だが、自分では使いたくなかった。何かがそうさせなかった。

俺のプライドなのかもしれない、とにかく俺は鉛筆の真相を知りたくてたまらなかった。

「じゃあ、俺命令書きますね。今回は結果が出るまで皆見ないで下さい」

そう高須が言った。

高須が鉛筆を走らせている音を室内に響かせる。カリカリと鳴る音の中でメンバー皆黙り込みその姿をまじまじと見ている。

どういう命令が下るかわからない緊張感で皆若干顔がこわばっている。

静寂が少し続き高須が命令を書き終えると声を上げた。

「そんな、緊張しないで下さいよ変な命令を書いたわけでもないんだから、ひどい影響はないですよ」高須はそう言って皆をなだめる。

「ところで高須先輩!昨日考えてた事って今書いた命令なんですか?それともまた違う事なんですか?」正蔵君がそう言う

「今、書いてる事だよ!いろいろ考えてね。よくよく考えたら単純な事だったのがわかったけどね。まあ、結果が出たらちゃんと説明するよ!」高須はあいまいに返事を返す、正蔵君は何か感づいていたのだと思う、高須から何かしらのヒントを得ようとしていたのだろう。

すると、高須は正蔵君に話を振り出した。

「ちなみに、二兎君は昨日自分で所有権を得たのに何でまた修介に鉛筆渡しちゃうのさ、もったいないじゃん、理由は聞いてたけど俺は理解できないよ、もっと利用すべきだよ!」

「確かにそうだよねどうせだったら自分に有利な命令を他の皆に振るとかね。正蔵君は鉛筆に欲がなさすぎなんだと思うよ!だったら僕に所有権頂戴よ!僕がいいようにつかってやるからさ!」拓氏先輩がそう切り返してきた。

「僕、昨日から登録した時以外まだ一度も鉛筆触ってないし!命令書かせてよ」

ここぞとばかりにアピールしてくる。

最初は乗り気ではなかったのに、ここにきて面白くなってきたのだろう、まだ命令を書いてないという状況が鉛筆に対しての欲望に代わっていた。

「確かに、拓氏先輩はまだ命令書いてないんですね。そりゃあそうなりますよね!みんなで遊ぼうって言ったのに参加してるような感じしないですもんね。」二兎君はそう言うと高須が持っていた鉛筆をさっと取って拓氏先輩に持たせてあげた。

「僕は所有権いらないし、修介先輩も実際は所有権はいらなくてもいいみたいだし、だったら拓氏先輩に所有権譲ってもいいんじゃないかなって思うけど、どうしよっか?七人目の人が来てくれたら変えれるんでけどね。」

正蔵君がそういうと、高須がその話に突っかかってきた。

「え!正蔵君、今なんていったの?」

「拓氏先輩に、所有権を譲るって!」

その会話を終えて高須はさっき書いたメモを取り出す。

(二兎 正蔵 自分の所有権はいらないので国原 拓氏に所有権を譲ると発言する。)

「それは無理だろ!お前、この鉛筆のルールわかって言ってんのか?」

その文章を見て皆が一斉にそう突っ込んできた。

実際のルールではこうだ


7.所有者は登録された時点で所有権を解除することは出来ない、所有権を捨てる場合は七人

目の登録者が現れ所有権を誰かに譲る取引をしない限りは不可能、ただし例外もある。


高須がこのルールを理解しているなら、そんな無理な命令を書かないはずである。

しかし、高須はこれをいとも簡単に納得する言い回しで言いくるめ、皆の固定概念を覆したのである。

「確かに、説明書にはそう書いてあるけど、なんで俺がそんな命令を書いたのか説明してやるよ」

そう言いながらメモ帳に書き取ったそのルールに赤鉛筆でなぞりながら説明をし始めた。

「そもそも、説明書の文章“例外”ってのが引っかかってた。これは昨日正蔵君も言ってたから皆引っかかってたと思う、次に“所有者は登録された時点で所有権を解除することは出来ない”っていう最初の文章、この文章では所有権を解除する事しか言ってないんだよ、だから交換したり譲ることに関しては触れてないんだ!

これを踏まえるともうすでに俺が書いた命令は繁栄されると思いがちになる。

そうすると、所有者の意志で自由に所有権が交代されることになっちゃう、だけど違うんだ!文章をよく見て考えてみると所有者は登録された時点で解除に等しい行為を自分の意志ではできないことになってるんだよ、だから“自分の意志”で交換することは不可能なわけ、じゃあなんで命令されたものならいいんだよってなると思うけど、考えてみると“命令”はこちらからの介入された意識であって、本人の意思ではないんだよ、つまりこっちからそういう命令を書きこめば簡単に所有権を交換することが出来るわけ!

これが、説明書で書かれてた文章の最後にあった“例外”につながるんだよきっと!」

高須の熱い説明が終わり、メンバーはそれを聞いて唖然としていた。

「なるほどね。僕も昨日はそういうの考えてみたけど、そこまで考えつかなかったわ!すごいですね高須先輩」正蔵君が高須のその理論を絶賛する。

すると、高須はしてやったりといった表情で俺たちをぐるっと見てきた。

「面白い事発想したみたいだけど、これってちゃんと鉛筆のルールに反映されるわけ?もともとないルールなわけじゃん、説明書には“例外”って書いてあるけど、本当に高須が考えたそれが反映されのかね?今の所有権は拓氏先輩になってるのかな?」

一平さんが疑問を投げかける。だが、それに正蔵君が答える。

「つまり“例外”って言うのはその説明以外の事を指していて、所有者交代の意味で書かれた命令なら“例外”として通じるわけですよ。だから、説明の文章に何かしら触れていない文章なら、ルール的には反映されてしまうわけ」

「なるほど、じゃあ俺は今ちゃんと所有者になっているわけなのか!」

正蔵君と、一平さんの会話を受けて拓氏先輩はやっと自分の立場を理解した。

「そういう事なんだから拓氏先輩、何か命令書いてみたら!せっかく所有者になったわけだし」そう言って高須は拓氏先輩に鉛筆を渡した。

「いいね。なんか今まで影薄かったから、やっと主役になった気分だわ」

拓氏先輩のテンションが上がってきたようだ、今までちょっとだけ張りつめていた空気は消え去り、一気に周りの空気は和やかになってきた。

鉛筆を受け取った拓氏先輩の顔はほころび、何か命令を考えているようだ自分の持っているメモ帳に鉛筆をコンコンと叩きつけながら考え事をしている。

「いざ、何か命令書けって言われると中々出てこないもんだね。どうしようかなー何にしようかなぁー」

とニヤニヤしながら考えている。

「あんな拓氏先輩見るの初めてですよ。なんか気持ち悪いですね。」

正蔵君が拓氏先輩の行動を見ながらそう言った。

それを傍らで、何かを思いついたかのようにメモ帳にカリカリと命令を書き始めた。

「何か考え付いたみたいですね拓氏先輩!筆の進み早いですよ、しかもなんか長くないですか?」

正蔵君がそう言いながらもまだひたすら拓氏先輩はメモに命令を書き続ける。

「いやいや、ちょっと長くない?どんだけ書いてんですか拓氏先輩」

書いて書いて書きまくる。拓氏先輩は一心不乱にメモに命令を書き続けている。

その間、もうすでに命令はおき始めていた。

「なんかつまんねー、拓氏が鉛筆陣取って俺ら何もすることねーし!掃除でもしてようかなー」そう言いながら恭介先輩が部室に乱雑している資料本やらを片付け始めた。

するとそれに便乗するように俺や高須、正蔵君、一平さんも掃除を始めた。

「暇な時は掃除って感じですかね。なんか誰かが始めると急に意気込んじゃいますよね。」

俺がそう言うと、命令を書き終えた拓氏先輩が傍らで物凄くニヤニヤしながら俺たちの行動をじっくり観察していた。

「どうしたんですか拓氏先輩?」そう言いながら俺は先輩に近づいて行った。

むふふと笑いながら拓氏先輩は俺たちを見続けている。

メモを出すのを渋っていたが俺はその状況を見て拓氏先輩のそれに気づいた。わかってますよと言わんばかりの目で拓氏先輩を見ていると、意志が伝わったのか俺にメモを出してきた。

「なんか、気付いたみたいだね。これ皆に見せてよ」

そう言って渡してきた。

俺は、掃除している皆を呼んでメモを見せた。

「えっ、何、メモ?」そう言いながら皆が近づいてくる。

俺を中心にメモを取り囲んで皆がのぞき込んできた。そのかたわらで拓氏先輩はニヤニヤしながら俺たちをずっと見続けている。

(神奈 恭介 部室の乱雑した本、資料の片づけを始める)

(二兎 正蔵 机の上の雑貨を片付け始める)

(高須 佳悟 部室の窓掃除をする)

(香山 修介 部室の掃き掃除を始める)

(菊島 一平 部室の埃があるであろうありとあらゆる所を徹底的に掃除していく)

「なんだこれ、全部掃除の事ばっかじゃないか」

そう、一平さんが言うと拓氏先輩はこの輪の中に入ってきた。

「そうだよ、俺前からこの汚い部室気になってたんだよね。誰も片付ける気配なんてないし、俺一人じゃ手だしても無理な散らかりようだし、これを機会に命令で片付けさせてやったのさ!」

と自慢げに言ってきた。

「確かに、拓氏先輩ってちょっと潔癖入ってますもんね。あの散らかりようは嫌になるの当たり前か!」

そう返答するのは正蔵君、だが、こんなことをされたのが腑に落ちない者も居た。

「先輩、どういうことですか!命令で俺らに掃除させて、そんなくだらない事に使ってもったいないじゃないですか」

高須は嫌だったらしくちょっと嫌な顔をしながら拓氏先輩に文句を言ってきた。

一平さんと恭介先輩も「なんだよ」というようなリアクションを取って少しだけムッとしていたがすぐに気分を変えて「まあいいか」というような素振りをしていた。

「いや、しかしこれ命令書くと楽しいね。もう一個書いていいかな!」

と言いながら拓氏先輩は再び鉛筆をを走らせる。

「また書くんですか!くだらねー俺はいいや」そう言いながらまた部屋の片づけをし始めた。

すると、高須はハッ!と気付いたように拓氏先輩のメモをバッと取り上げた。

「やっぱり」そういいながらメモをクシャクシャにして投げた。

それを一平さんが拾って広げると、皆が予想した通りの事が書いてあった。

(高須 佳悟 文句を言いながらも再び片づけを始める。)

「そんな、腹立てなくてもいいじゃん高須さ!」

そう言いながら拓氏先輩は鉛筆をクルクルと手の中で回している。

少し怒ったような顔をして拓氏先輩の近くにいた高須は「先輩、鉛筆かしてください」そう言いながら鉛筆を取り上げた。

黙って自分の持っていたメモ用紙に高須は命令を書き始める。

「まったく、気を使って拓氏先輩に所有権を与えてあげたのに、これじゃ掃除ばっかの命令になっちゃうじゃないですか!」

そう言いながら命令を書いていると拓氏先輩がちょっと恐縮しながら「なんか俺、場違いな事しかしないみたいだからいいよ、所有権を高須にゆずりゃあいいんだろ」

何かを悟ったかのように拓氏先輩はそう発言すると高須はその状況を見ていた俺らにメモを見せてきた。

「まあ、案の定だよな!」

そう言うのは恭介先輩である。

(国原 拓氏 高須佳悟に所有権を譲ると発言する。)

メモの内容を見た皆は恭介先輩同様のリアクションをしてその場でうなづく「高須先輩だいぶ依存してますね」そう言いながら正蔵君が高須のもとに近づいていく。

「先輩はどんな命令を書くんですか?」と高須を馬鹿にしたような言い方で正蔵君が話しかけてきた。

「なんだよ急に!俺になんか文句でもあるわけ?」高須がそう言うが正蔵君は冷静に切り返す「いや、別に馬鹿にしてるわけじゃないんですけどね。説明書の事でまだ解決してないことがあって、その事を確かめたかったんで先輩にけしかけたっていうか!とにかく、僕に命令書いてくれないですか?」

「説明書で解決してない事?なんかあったっけ?」

そう言いながら高須は正蔵君に対しての命令を書き始めた。

(二兎 正蔵 机の上の鉛筆立てをひっくり返す)

「あるんですよ実は!ここにちゃんとした説明書が、えーっと」

と机の上を探していると鉛筆立てを倒してしまった。「あららら」と言いながら正蔵君は説明書を手に取って高須に説明し始めた。

「この一連、4.所有者は登録者からの命令に対し5回まで拒否できる。5.所有者に動かされた者はその行動を拒否することは出来ない 命令の拒否に関しての事なんだけど」

そう言うと高須は命令を書いたメモを見せてきた。

それを見た正蔵君は「やっぱり、僕思ってたんだけど命令が反映されてもそれに基づいて行動する人たちは命令で動かされてる事を認識できてないんだよ!」

「?どういう事」と高須が答えると

「だから、命令で動かされててもそれを認識しているわけじゃないから、拒否しようにもどうやって拒否したらいいかわからないんだよ!」

「・・・あーなるほど」

皆、それを聞いて納得した。「確かに、説明書を見たときには全然気にしてなかったけど言われてみればそうだね。どうするんだろう?」

一平さんがそう答える。

「僕も、所有権を得るまではそんな事考えてなかったんだけど、その時に改めて考えてみたら、(あれっ)て」

正蔵君のその説明をうけて高須も考えていた。

「そう言われてみるとそうだな!基本、拒否できるのは所有者だけみたいだけど・・・何か特別な事があるとか?」

「いやいや、それはないと思いますよ高須先輩!だって僕が今日、所有権を拓氏先輩に譲るときに何か特別な事があったわけでもないし、それに、それ以降も命令を受けたけど体が自然に動いてて不自然な事は一切なかったわけだから特別な事はないんですよね。」

「そうか、正蔵君はどっちの立場も身をもって体感しているわけか!」

「そうなんですよ、香山先輩!だからこそわからないんです。」

という会話を皆と繰り広げていると、ずっと黙って考えていた高須が急に会話に入ってきた。

「あのさあ、もしかしてだけど!この命令拒否の仕方ってこういう事なんじゃないのかな?」

と言ってメモ用紙に命令を書き始めた。

「いやいや、だからさ!拒否の仕方を考えてるんだからそれは違うでしょ」

恭介先輩が口を挟むがそれを押し切るように命令を書き続け「こういう事です」と書き終えた高須がメモを見せてきた。

(高須 佳悟 次に受けた命令を拒否する。)

「なるほどー」という皆の声が上がった。

「高須先輩、こういう事は頭の回転がいいんですね。」

そう正蔵君が言う、「お前、一言多いんだよ!いちいち、とにかく、こう言う事なんじゃないの?それ以外考えられないよ!事前に拒否するっていう命令を自分に与えておけば次に自分に与えられた命令はすでに命令されてる“拒否”の命令で帳消しになるって事なんでしょ!」

そんな話をしていると、横から入ってきた拓氏先輩がおもむろに高須の鉛筆を取って命令を書き始めた。

「多分無駄ですよ!」そう言いなが高須は絶対に命令を拒否できると断言するようにその場に仁王立ちで立ち尽くしている。

(高須 佳悟 国原拓氏に所有権を譲る。)

高須先輩はその命令を俺たちに見せてきた。だが、高須の口からは一向にそれに対する発言が出てこない「やっぱり、無駄なんですかね?」そう正蔵君が言うと拓氏先輩が持っていた鉛筆を一平さんが奪って自分のメモに命令を書き始めた。

(高須 佳悟 菊島一平に所有権を譲る。)

「何をやってるんですか俺には今、命令は無効なんですよ!一平さんも、所有権譲ってみたいな書いたんじゃないでしょうね。じゃあ言ってやりましょうか?一平さんに所有権譲りまーす、はい、これ自分の意志だから無効だよね。」

高須がそう言うと一平さんはメモを見せながら言い放つ「今、連続で書いたからお前気付いてなかったのかもしれないけど、俺の命令は二番目な!」

一平さんはしてやったりといった顔をしていた。一平さんの持つメモには拓氏先輩の命令の下に連続で書いてあるのが見えた。すると高須は悔しそうな顔になって一平さんのそばに近寄ってきた。

「気付かなかったですよ、一平さん!やってくれましたね。」

そう言いながら今度はワクワクしているような顔に代わる。

「楽しいですよね。この感覚!なんかぞくぞくしません?俺たまらないっすよ」

高須の発言がどんどん鉛筆に対する依存を高めているように聞こえてくる。

それを聞くたびに俺はこの鉛筆を怪しく思えてくるのだ、まるで何かの策略のような雰囲気がプンプンする!

その一連を見ている恭介先輩は冷めた目で見ながら「何やってんだあいつ!大丈夫か?」

と発言しながら部室の出入り口に歩いて行った。

高須がそれに気付いて恭介先輩を呼び止めた。

「どうしたんですか先輩?もっと遊びましょうよ!」

そう言うと、「ごめん、真人から連絡入ったんだ!遊べないかって、俺先に帰るからお前らで遊んでな」と一言添えて部室から出て行った。

「恭介先輩抜けましたー、じゃあ六人で遊ぼうぜ!何か試したいこととかない」

と高須が言い出す。一平さんと拓氏先輩は乗ってくれている。正蔵君はちょっとは乗り気だが(別にいいや)というような素振りをしている。

かく言う俺は完全に乗り気ではない、鉛筆に不信感しか抱いていないからだ、俺は二日目にして結構な依存を見せている高須にちょっと不安を抱き「なんか、怪しいからやめないか?」と説得に応じてみた。

だが高須は「こんな面白いもの、なんで止める必要がある」と断固として拒否してきた。

一平さんから鉛筆をもらった高須はまた何か命令を書こうとしていた。しかし、そんな時に高須の携帯が鳴った。

高須は嫌そうに電話を見ると彼女だったらしくちょっと焦った表情で電話に出た。

「ごめん、忘れてた。今から行くから」そう言いながら携帯でしゃべりながらそそくさと部室から出て行った。

全員唖然である。

台風のように去っていった高須の影は一切なくなり、教室は一瞬にして静寂になった。

俺は「あいつ、大丈夫かな」とボソッと一言いうと正蔵君が「あれは、もう救えないような状況かもですよ香山先輩」と放つ、一平さんと拓氏先輩は何事もなかったかのように椅子に座りパソコンを触り始めた。

「あれ、先輩たちは今日は何かやっていくんですか?」

そう言うと「昨日調べようと思ってたことがあってね。今日は気になるから調べてから帰ろうかと思って」と似たような発言をする。

俺と正蔵君は何もやる気が起きないようで、「じゃあ、俺らは帰ります!すいませんけどお先に失礼します。」

そう言って二人で部室を出て行った。

「高須先輩大丈夫ですかね?なんかすごく鉛筆に執着してるっていうか!」

正蔵君も何かを悟っているかのように高須の事を心配していた。

「そうなんだよ、昨日あいつと絡み始めてから徐々に、何か危険な香りがするんだよね。あの鉛筆、さっき止めろって言ったのに聞かなかったし・・・」

不安の心が大きくなってきた。

「香山先輩は小説書いたりするから、結構、客観視すること多いですからね。だから高須先輩のああいう所が際立ってわかっちゃうんじゃないんですか?僕も気になりますけどあまり考えすぎるのも!」

正蔵君の言い分も間違ってはいないのかもしれない、俺はちょっとだけ冷静になって考えた。「とにかく、明日会ったらまた声かけてみるよ」そう言って足取りを速めた。

俺と正蔵君は同じ駅に行きお互い自分の家路への切符を買う「それじゃあ」俺はそう言って正蔵君と駅で別れた。

電車の窓から見える景色はいつもと変わらないが、何か自分の中にある奇妙な雰囲気で少し違っているように見える。

そんな風景を見ながら俺はちょっと物思いにふけるようにため息をついた。

「なんか、パッとしないな」そう呟いて周りの人間観察をして俺は家路についた。

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