第8話 決着の時

 しばらくの浅い眠りから覚めたあと、たき火を消して、リリィは魔王城へと足を運ぶ。不思議なことに、魔王島には魔物がいない。おかげでゆっくりと休みながら、城へと向かうことができた。やがて、おぞましい外観をしたその城へとたどり着く。

 敵の城にノックなど不要だろう。ギギィ・・・と重い音を響かせながら、門扉を開く。その開いた先には、

「ようこそ、勇者殿。お待ちしていた。」

怨敵が、いきなり出迎えてきた。逆に不意打ちを食らう格好になったが、なぜかその男、カダス・ングラネクはまったく攻撃を仕掛けてこない。それどころか、親しい客人を歓迎するように両腕を広げている。無防備きわまりない。

「フフ・・・。鳩が豆鉄砲を食ったような顔だな。それとも、狐につままれたかな?」

ずいぶんと余裕があるようで、そのような日常会話を投げかける。

「カ・・・カダス・・・!」

気を取り直して、戦闘態勢に入る。が、

「そう慌ててくれるな。勇者殿。我々のフィナーレに相応しい場所へとご案内しよう。この城は広い。迷子になってもらっても困るからな。」

よく見ると、カダスは帯刀してすらいない。魔剣がなくても勝てるということか。しかし、その余裕こそ重畳というもの。今ここで決着をつける。そう構えたときだった。

「慌ててくれるなと言った。勇者リリィ・クリエット。ここで無駄に歩き疲れる必要もあるまい。」

カダスはクルリと踵を返すと、スタスタと歩いて行ってしまう。

 なにを考えているかもわからないが、ここでついて行かないという選択肢もあるまい。言うとおり、無駄に歩き疲れて戦うなど、それこそ思うつぼのような気がして、無言でついて行くことにした。

 カダスの足取りは軽く、広い城内で、まっすぐにどこかの部屋を目指しているようだった。その道すがら、

「ああ、そうだ。」

カダスから口を開く。

「私が用意した地獄は、気に入っていただけたかな?」

いかにも楽しそうに聞いてくる。思わず、ギリと歯を噛み締めると、

「フハハハハ!どうやら楽しんでいただけたようだ。重畳、重畳。」

さらに上機嫌になるカダス。もういい。今ここで殺してしまおう。そう決心した矢先、

「この部屋だ。この中で、メインイベントが用意してある。」

ひときわ大きな扉の前で、カダスは足を止めて振り向いた。

「メインイベント?そんなもの見る必要はない。アンタは今ここで殺す!」

リリィがここぞとばかりに戦闘態勢に入る。しかしまた、カダスは扉を開けて部屋の中に入ってしまう。まったく取り付く島もない。

 部屋の入口に、なにか罠でも仕掛けているかもしれない。上下左右前後と確認して、注意深く部屋に入る。しかしてそこには、意外な光景が広がっていた。


 吹き抜けの大きな部屋だった。まず目立つのが、中央奥にある立派な玉座。が、そこには誰も座っていない。床には、巨大な魔方陣。石壁は所々にひびが入っており、カビが繁茂して、独特の臭気を放っている。

 玉座以外飾り気のない、大広間の壁の一角に、これまた大きな十字架が立てかけられていた。それに磔にされているものを見て、リリィは我が目を疑った。かつて目の前に虚像として現れた、骨を模した鎧。生気のない顔。そう。磔になっていたのは、魔王メア・ヘルヘイムその人だった。よく見ると、全身の鎧はボロボロに欠けており、血が十字架を通してしたたり落ちている。その傍らに、カダスが帯刀して立っていた。

「なに・・・?コレ・・・、どういう・・・?」

状況が飲み込めなかった。これはどういうことだ。なぜ、魔王がボロボロで磔にされている?なぜ、腹心のカダスがピンピンした様子で立っている?

「改めてようこそ、勇者リリィ殿。これから、メインイベントが始まる。アナタがオーディエンスだ。じっくり見物していただきたい。」

カダスが語りかける。

「イベント・・・?さっきから、なにをしようっての・・・?」

リリィはまだ状況が掴めずにいる。

「・・・カダス・・・。裏切り者め・・・。」

メアが初めて口を開く。その声色は弱々しい。

「・・・裏切り・・・?」

カダスが裏切った・・・?なんのために・・・?

「裏切りとは滅相もない。メア様。アナタの行いがアナクロだと言っているのですよ。人類廃滅にこだわるなど。フッフフフ・・・。」

「・・・アナクロ・・・?」

「・・・人間は・・・滅せねば・・・。カダス・・・貴様こそ・・・。」

「わざわざ滅する必要などないでしょう。人間を滅したあとの、魔物たちの娯楽のことも考えてやっていただきたいものですね。」

「娯楽・・・?」

リリィには、なにがなんだか、さっぱりわからない。

「フフ・・・。リリィ殿。足下の魔方陣が見えますな。ご説明いたしましょう。それこそ、すべての人類を滅する、呪いの魔方陣です。すべての人間に、『死』を与える術式が書き込まれております。」

「・・・っ!なんですって・・・!?」

足下の魔方陣が、人間に死を与える・・・?

「発動させたければ、その魔方陣の中心で、祈りを捧げればよろしい。ですがね・・・。人間が滅したら、その後の世界はつまらなくなる。娯楽の対象がいなくなってしまうのですから。」

「その娯楽って・・・、なんのこと・・・?なにを考えているのよ、カダス・・・!」

リリィは戦闘態勢で警戒する。

「魔物たちの娯楽・・・。それは『人間狩り』・・・。」

「な・・・っ!?」

「人間狩り」が、魔物たちの娯楽・・・?

「悪趣味な・・・!」

「人間の思考で考えるから、そう聞こえるのですよ。人間は考える。どうすれば狩られにくくなるか。知恵を絞ってね。こんなに面白い狩りの対象は、そう現れるものじゃない。」

カダスはいかにも楽しげに説明する。

「だが・・・。人間は武器を持って魔物に攻撃もしてくる。一筋縄で狩られてくれるほど、甘くはない。」

「ええそうね。人間を甘く見ないことね、カダス。」

「だからだよ。私はね、リリィ殿。その魔方陣を、書き換えようと提案したのですよ。『死』から、『隷属』にね。」

「隷属・・・?」

「人間どもを、魔物に逆らわない奴隷種として飼うのだよ。普段は農耕などをやらせて、魔物たちに食事を提供する。そして、魔物が人間を狩りたいと思ったときに、好きなように狩りを始める。よくできた仕組みだと思わないかね?」

「・・・反吐が出るほど悪趣味ね・・・!」

リリィが本音をぶつける。

「そう・・・。メア様も、廃滅にこだわり、隷属させることに反対した。だから・・・、下克上ですよ。」

そう言って、

ザシュッ

無造作に、まるで当然であるかのように、魔剣をメアに突き刺した。メアは「ゴプッ」と血を吐き、息絶えた。

「フフ・・・魔王は死んだ。ん・・・?おやぁ~~~?」

カダスが、なにかを考える様子を見せる。

「コレは・・・。私が魔王を倒したことになるのかなぁ~~~?と、いうことは、だ。私が『勇者』ってことになるのかなぁ~~~?ハッハハハハハ!」

カダスは高笑いをする。だが、それに対して、

「感謝するよ。『勇者』カダス殿。」

リリィは賛辞を述べる。

「ん~?」

カダスは高揚したまま、リリィを見据える。

「アンタを殺したあと、魔王を倒す手間が省けた。正直、魔王をどうしようか、悩んでたんだよね。私には人間の存亡とか興味なかったから。だから、感謝するよ。カダス。あとはアンタを殺すだけ。」

「ほう・・・。簡単に言ってくれるな。・・・なぜ、この一帯に魔物がいないか、考えたかな?」

カダスは自信たっぷりだ。

「どうせ、アンタがやったんでしょ。魔剣に怨念を詰め込むために。」

「フフ・・・。正解だ。さて、どうする、リリィ殿・・・?」

「決まってるでしょ。」

カダスの余裕に対し、リリィも余裕を見せる。

「『聖杖』よ!神のひとしずくよ!この場に漂う魔を吸い尽くせ!」

リリィが「聖杖」を掲げ、呪文を唱える。聖杖は明るく輝き、周囲に蔓延する怨念を吸収する。さらに、メアの怨念すら吸い上げ、それだけでなく、

「グ・・・おおぉぉおぉおおぉぉ・・・!」

カダスが苦しむ。魔剣から怨念が放出され、「聖杖」に吸収されているのだ。

「ぬうぅぅぅ・・・。えぇい・・・!」

たまらなくなって、カダスは魔剣を放り投げた。魔剣は部屋の隅にガランと転がる。これでカダスは丸腰。アドバンテージはリリィにある。この機を逃さず、一気に攻勢に出ようとしたときだった。

 丸い「なにか」が、伸びてきた。避けきれず、丸い「それ」を腹部に食らう。それが長い「棒」であることを、攻撃を食らいながら気づいた。リリィは壁にたたきつけられ、床に崩れ落ちる。

「・・・かつて、『斉天大聖』を名乗る猿の仙人がいた。その斉天大聖が得意としていたのが、所持者の思うとおりに自在に伸縮する棒、『宝具如意棒』。およびその棒術だ。

 その正体は、棒状に形を整えて放出する魔力やチャクラの塊。魔力を放出することで伸ばし、再び体内に戻すことで縮む。理屈は簡単だが、極めるのは難しい。

 だが、斉天大聖は所詮は猿。『如意棒』の真価を発揮できぬまま、いい気で使っていた。私は違う。真剣にこの棒術を鍛錬し、完全に習得した。剣などに頼らなくても、私は強いのだよ、リリィ。」

リリィは話を聞きながら、ゆっくりと起き上がる。

「さて・・・。受け続けられるかな?」

カダスは容赦ない如意棒による連撃を繰り出す。リリィはなんとか聖杖を利用するなどして受け止める。が、カダスの連撃は激しい。2発、3発と、体に直接打ち付けられる回数が増えていく。ただ打ち付けられるのなら、まだいい方だった。が、如意棒は魔力の塊。すなわち、術式を変換することで、爆裂、氷結、感電などを引き起こす。この追加ダメージが非常に大きい。リリィの防御は次第になくなっていき、如意棒の連撃と、爆裂、氷結、感電をもろに受けてしまう。無限ともとれる連撃を食らい、リリィは意識が朦朧としていく。

「せぇい!」

気合い一番、カダスの横なぎで、リリィの体は木の葉のように舞い、部屋の隅にたたきつけられ、再び石床に倒れ伏した。

「おやおや・・・。もうおねんねか・・・。先ほどまでの威勢はどこへ行ったのかな?」

(・・・強い・・・!あんな隠し球まで持ってるなんて・・・。)

意識が朦朧とする中、カダスの足音が近づいてくる。とどめを刺す気だ。

(・・・逃げなきゃ・・・。どこかで回復して、仕切り直しを・・・。どうやって・・・。)

体がまともに動かない。こんな状態では、逃げることもままならない。

 そのとき、あるものが目の前に転がっていることに気がついた。剣だ。おそらく、カダスが先ほど捨てた剣。「魔剣バルザイ」。藁にもすがる気持ちで、その剣に手を伸ばす。

 柄に手をかけたときだった。

―憎いか―

頭の中に声が響く。

―あの男が憎いか―

(ええ。憎いわ・・・。殺してやりたいくらいに。)

頭に響く声に、心の声で応える。一歩一歩、カダスが近づいてくる。

―それでいいのですか・・・?―

別の声が響いてくる。

―その憎しみが、アナタを悲しませることになっても・・・?―

(知った・・・こっちゃない・・・。)

―ならば、我を取れ―

―アナタの怒りは正しい。そして悲しい―

剣の柄をしっかりと握る。自分の内から、どこからともなく、黒い力がみなぎってくる。

「憎い・・・。憎い・・・。憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い・・・」

カダスが足を止める。

「魔剣に飲まれたか。これで、もうアナタは勇者ではないな。」

カダスの皮肉も耳に届かず、リリィはゆっくりと立ち上がる。黒い力がたぎり、目元には血涙のような隈取りが現れる。と同時に、自分の内に秘められた500年の呪いも、頭をもたげてきた。

―我を讃えよ・・・!我を讃えよ・・・!―

「・・・ええ。グリジッド・・・。世界がアナタを讃えるようになるわ・・・。」

―おお・・・!―

「さぁ、この剣に宿りなさい。ついでに、聖杖に詰め込んだ怨念も、すべて剣に注ぎ込んであげる。アナタは魔王を倒した剣として、永劫讃えられるわ・・・。」

―おお・・・!おおぉおぉぉおおおぉぉおお・・・!―

新たに剣に宿る、500年の呪い。聖杖から、5000年分の執念と、屠られた魔物たちの怨念。それらが溶け合い、混ざり合って魔剣を変貌させる。

「吠えなさい・・・。『呪殺剣グリジッド』・・・。」

―おおおーーー!―

カダスは驚愕していた。これほどの魔力。怨念と執念のすさまじさ。

「まるで・・・、魔王・・・。」

呪殺剣を左手に。聖杖を右手に。黒い気をまとい、静かにたたずむその姿。魔王リリィ・アゼル。勇者を捨てた、新たな魔王。

「毒をもって毒を制するなら、魔をもって魔を制すのみ。」

「ほう・・・。上等だ・・・。」

互いに構える。決戦の仕切り直しだ。

「先手必勝!」

カダスは如意棒を振り回す。なぎ払いと突きの混じった連撃。先ほどはリリィが防ぎきれなかった攻撃。しかし。今度のリリィは、左手の呪殺剣をもって、棒を受け止め、受け流す。一撃一撃が、完全に見えているようだった。

「動きがまるで違う・・・!これは・・・!?」

「グリジッド・オルファ。千人力の猛将の異名は伊達ではない。」

怨念に取り憑かれ、感覚を呪殺剣にゆだねている。猛将グリジッドの感覚と反射神経ならば、如意棒の連撃をしのぐことも可能。そして、

「でぇあ!」

リリィが剣を一降りする。カダスはそれを如意棒で防ぐ。が、

「ぬぅお!?」

細身に宿る魔の力が、大きな膂力をもたらす。その一降りで、カダスの体は軽々と吹き飛ばされる。カダスは壁にしたたかに打ち付けられる。

「ぐぅっ!」

短い悲鳴を上げる。その様を見て、リリィは邪悪な笑みを浮かべる。

「・・・フ・・・。いかにも『魔王』らしい笑い方だ。」

「そうだね。『勇者』カダス・ングラネク。」

皮肉の言い合い。立場が逆になった現状を、2人して楽しんでいるかのようだった。

 カダスはすぐに立ち上がり、態勢を立て直す。

「せぇい!」

再び、如意棒による連撃。しかし、今度は速さが圧倒的に違う。カダスも本気を出してきた。

「フッ、ハッ!」

リリィは剣で受け、杖で受け、身をひねらせてかわす。

「チィッ!しぶとくなったな!魔王リリィ!」

「一辺倒の攻撃で、よく言うわ。すでに見切っている。」

「そうかい!」

カダスは如意棒でリリィを突こうとする。当然、リリィはこともなげにかわす。が、如意棒はグニャリと曲がると、後ろから再びリリィを狙う。

「わからないとでも?」

リリィは後ろからの一撃もかわす。しかし、顎下から、不意打ちが来る。

「くぅっ!」

かろうじてかわす。それで終わりではなかった。如意棒の両端が、リリィを狙って曲がりくねりながらリリィを目指す。

「魔力の塊だと言ったろう!ただの棒きれとは違うのだよ!」

カダスはもう片方の腕からも如意棒を生成する。計4本の棒の先端が、獲物に食いつく蛇のようにすさまじい勢いで、リリィに襲いかかる。もはや棒術もへったくれもない。

「チッ!面倒くさい棒きれだ!」

触れれば即座に別の魔法に変換される棒きれだ。それが高スピードで伸びてくる。厄介なことこの上ない。

「フハハ!先ほどまでの余裕はどうしたかなぁ?魔王殿ぉ!」

また形勢が逆転したと見て、カダスが余裕を見せる。

「・・・。」

しかしリリィはなんの反応も見せない。接近戦を諦めた様子で、カダスの周りを右往左往しながら、少しずつ距離をとる。そうしている内に、部屋の隅に追いやられるリリィ。

「終わりにしようか!魔王リリィ殿!」

カダスが如意棒を伸ばそうとした、そのときだった。リリィが再びニヤリと笑い、

「『クロック・ダウン』」

リリィが呪文を唱える。その瞬間、カダスも、如意棒の動きも、極端に鈍くなった。

「し・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ま・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

カダスは時間が極端に遅くなった結界で、身動きが取れなくなる。そこに、

「呪殺剣グリジッド・・・。」

リリィは剣に念を集中する。

「・・・切り裂け!」

剣を横なぎに振りかぶる。強烈な怨念の奔流がカダスを襲う。クロック・ダウンの効果で無防備となったカダスは、その強大な奔流に飲まれる。その奔流はとどまることを知らず、部屋の壁を砕き、柱を砕き、しまいには魔王城を真っ二つに切り砕いてしまった。ガラガラと瓦礫が崩れ落ちる。立ちこめる土埃で、視界が真っ暗になるが、慌てる必要はない。カダスはまだ、クロック・ダウンによって固まっているはずだ。リリィは、土埃が晴れるのを、静かに見守った。


 カダスの肉体は、一見すると無事に見えた。だがそれは、クロック・ダウンの効果で、ダメージが入るのも遅いのだ。その証拠に、

「リリース」

リリィがパチン、と指を鳴らすと、カダスの肉体は即座に上下に裂けた。

「グアアアァァァ!」

カダスの断末魔が聞こえる。

「・・・?」

不思議と、聞いた覚えがある声のような気がした。

 裂けたカダスの上半身へと向かう。マスクの下の、悪趣味なツラを覗いてやるために。カダスはもはや、抵抗できない。とはいえ、油断はせずにゆっくりと近づいてゆく。杖を放し、金のマスクを外して、その顔を覗き見る。

「・・・え・・・?」

リリィは驚愕して、剣を落とす。マスクの下の顔は、

「よく・・・やった・・・。リ・・・リィ・・・。」

そんなことがあるはずがない。この顔は、この見覚えのある顔は、忘れもしない、その顔は。

「よろ・・・こべ・・・よ・・・。あだ・・・うち・・・でき・・・た・・・ろ・・・?」

「・・・リュウ・・・?」

恋人の、顔だった。


 なんで?どうして?頭が混乱している。まともな思考ができない。殺した?自分が?リュウを?どうして?リュウが?リュウを?殺した?

 まるで点と点が繋がらない。そんなリリィに、

「かみ・・・に・・・あえ・・・リリィ・・・。」

リュウが必死で、遺言を伝えようとしていた。

「たく・・・せん・・・の・・・ち・・・。しん・・・でん・・・。かみ・・・の・・・にわ・・・に・・・。」

「リュウ・・・。なんで・・・。私・・・。」

リリィはまだ気が動転している。

「かみ・・・に・・・あえ・・・。すべ・・・て・・・しって・・・」

「リュウ・・・!死なないで・・・!私、知らなかったの・・・!お願い・・・!」

助かる傷ではないことはわかっている。だが、そんなことまで頭が回り切れていない。

「リ・・・リィ・・・。あい・・・し・・・」

この言葉を最後に、リュウは息を引き取った。

「リュウ・・・?リュウ・・・!イヤ・・・!イヤァ――――――――――――――――!」

リリィが悲鳴を上げる。

 殺してしまった。愛する人を。それとは気づかずに。2度も死なせてしまった。自分のせいで。なぜ、こうなった・・・?なんで、こんなことに・・・?

「かみが・・・すべて・・・しって・・・」

リリィはつぶやく。

「託宣の地・・・。神殿・・・。神の・・・庭・・・。」

リュウの遺言。いまわの際に、リリィに託した、おそらく最後の目的地。

「・・・行かなきゃ・・・。神を・・・殺しに・・・。」

ミュドル大陸、カーナ神殿。そこに、神の庭とやらの入口がある。神に会い、すべてを吐かせて、殺してやる。自分に、この、地獄の運命を背負わせた、責任をとらせてやる。

 再び杖と剣を手に取り、リリィは神殺しの旅に出た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る