第6話 俺のターン 俺と【ゴルガス帝国怪人:クー・タラチュニア】
「こいつらは予想通り囮だ。本命は東の孤児院だ」
「どういう事ですの?」
「俺のコレクション、シンボルにな。今日の出来事が書かれている、北の広場で囮の部隊が騒ぎを起こす。その間に東の孤児院にゴルガス帝国の怪人が現れて子供たちを誘拐する算段だ!」
「それは本当ですか!?」
「確証はないがほぼ確信している。今そのページを開いているんだがな、今あったことが描写されている行まで赤く光ってる」
「それは、わたくしと契約した時と同じ光ですの?」
「そうだ、これで何も無い。って言いきるのはちっとばかし無理じゃないか?」
「わかりましたわ、すぐに参りましょう、メメル!」
「こちらに」
「早馬車を回して! 東の孤児院へ向かいます、今回も最速で参りますわ!」
「御意!」
兵士たちがいままで以上に慌ただしく動き始める。
何人かの兵士たちは馬に乗って先に東の方へ駆けて行った。
「姫様、ここに残す人員はどうなさいますか?」
「周りの警戒を怠るわけにはまいりませんわ、馬が使える者を二名と歩兵はここにて警戒探索を行わせて。何かあったらわたくし達とお城へ馬を飛ばして」
「はっ!」
「姫様、早馬車の準備が整いました」
「すぐに参りましょう、アツム様」
「あぁ、行こう。しかし大盾持ちと神杖巨兵はどうする?」
「流石に連れてはいけませんわ。仕方ありませんが帰還してもらいましょうか」
「そうだな、仕方ないか」
「神杖巨兵、ありがとうございました。あなたのおかげで助かりましたわ」
「大盾持ちもありがとうな、また頼む」
二人して召喚者にお礼を言うと二人の召喚者はゆっくりと魔法陣へと消えて行った。
やられた時と違ってゆっくりと帰還するんだな。
「それでは参りましょう」
「了解」
俺達はすぐに早馬車に乗り込む。行きと同様にメメルさんが御者をするようだ。
馬が嘶き、進行とは逆向きに加速したGが身体に掛かる。腹に響く振動と音もよそにメアリーに話しかける。
「俺の杞憂ならいいがそういう訳にはいかないだろうな」
「現状を考えると可能性はかなり高いですわ」
「何もないに越したことはないんだがな。しかし最悪を想像すると下手したらこれでも間に合わん」
「それでも行かないよりマシでしょう。行って間に合うかもしれません」
「行ってみないと分からない。情報源は俺のシンボルか。言っちゃ悪いが兵を動かせるだけの説得力はないな」
「向こうについて何もなく、問題と言われるならば始末書の100枚や200枚位書いて差し上げますわ」
「ははっ、そりゃ頼もしい」
やはり命令権限のあるメアリーには相応の責任がついているみたいだ。権利があれば義務もある。当たり前だが目の前にいる子に負わせるには少しばかり荷が重すぎやしないかと心配になるな。
「しかし、このような事になってしまうとは。オドを使い切ってしまったのは失策でしたか」
「いずれにせよメアリーが他の召喚者を召喚しても、あの場では対応できなかったと思うぞ?」
「……あの召喚者達はそれほどまでに強かったのですか?」
「あぁ、右側にいた犬みたいなのがパワー3000、左にいた蠍がパワー1000で【必殺】持ち。で正面で戦った狼男モドキがパワー5000だ」
「そんなに……」
戦ってみてわかったが相手の召喚者のスペックを調べる方法がないんだよな。
自分の契約した召喚者はデッキで確認できるからいいんだけど。
俺には知識があるからなんとでもなるが、この世界のコントラスター達の戦いは命がけだな。
「まぁ、俺が他の召喚者を召喚してもよかったんだが、俺が全部やるとメアリーの威信とかに関わりそうでな」
「威信ですか?」
「あぁ、あの場では兵士たちが多かっただろ? 俺が全部かっさらっていくと何かと面倒ごとが起きそうだったから、おいしいところをメアリーに持って行ってもらったのさ」
「そのようなことまで考えていたのですか」
「あとはメアリーの実力が確かめたかったのと、馬車の中で話していた可能性の戦術ができるかどうかの確認のためだな」
何も知らない兵達が、ぽっと出の俺が無双する様子を見たらどう思うだろう。それを考えるとどう考えても悪い予感しか起きない。悪い予感ってのはよく当たるからな。その点メアリーなら王女だしこの国唯一のコントラスターだから兵たちの信頼も厚いだろう。何かあった時のフォローとして動いていたんだが、この先の孤児院の事を考えると早計ではあったな。
「よくもまぁ、あのような場所でそこまで気が回るものですわね」
「俺自身でも不思議だ。俺はこんなキャラじゃなかったと思うんだけどな」
「きゃら?」
「あー、性格つーか、人間性っていうかそんなもんだ」
俺自身はそこまで思慮深い人間でも、冷静に物を考える人間でもなかったと思う。はじめこそ血の匂いで動揺はしたがそれもすぐにおさまった。なんだか俺が俺じゃない感じがして少し不気味だ。
「なるほど、その辺りは何かしら召喚の影響を受けているかもしれませんね」
「身体に影響はなかったと思うけど?」
「心や魂に影響を受けていらっしゃるのかもしれませんよ? わたくしは召喚前のアツム様の事を存じ上げませんので何とも申し上げられませんが」
「怖っ!」
心や魂に影響が出てるってそれは本当に俺って言えるのか?
なんか心や魂が変わればそれは別人って感じがするんだけど。
この辺は確かめられるなら確かめておかないと心のささくれになりそうだな。
「それでアツム様、孤児院に着いてからの話なのですが」
「あぁ、メアリーはもうオドがないだろうから召喚者の相手は全部俺がやる」
「お願いできますか?」
「そういう契約だ、気にするな。その代わりさっきと同じように兵士の指揮は全部任せるからな?」
「分かりましたわ」
さて、大まかな指針はコレでいいんだが細かい戦術をある程度決めておきたいんだよな。
「デッキ」
さっきの戦闘で使った分のリソースの確認をしておく。
―――――――――――――――――――――――――――――――
コントラスター 京極 集
ライフ 20
マナ 0
オド 989/1000
功績ポイント 0
撤退場情報
撤退者
忘却の突撃兵 (3D)
忘却の兵士 (1D)
クールタイム呪文
広がる平原 (00:27)
広がる平原 (00:27)
―――――――――――――――――――――――――――――――
オドは使った分がしっかりと減っているな。
【広がる平原】が1、で二枚で合計2。
【忘却の突撃兵】が5。
【忘却の大盾持ち】が3。
【忘却の兵士】が1。
全部合わせて使用オドは11か。
撤退者は【忘却の突撃兵】と【忘却の兵士】だな。それぞれ突撃兵は1枚、兵士は2枚予備があるから使うだけなら使えるな。
1Dや3Dってのはルールブックの情報によると一日、三日って事だろう。DはDayの略か?
戦闘が終わってから返した【忘却の大盾持ち】は撤退者には入っていないな。
デッキに入っている使用枚数は……、うん初期枚数の3枚だ。どうやら戦闘終了して自力で帰った召喚者は撤退場におけるクールタイムは必要ないみたいだ。うまく戦うことで連戦に行かせることだろう。そうなると迂闊な一対一は慎むべきだな。本当にスマン兵士よ。
それで建造物であるはずの【広がる平原】は呪文の欄に入ってるな。しかもクールタイムが存在しやがる。真ん中のコロンが一秒おきに点滅してるな。右の数字は、……今減ったな。00:26か。恐らく一般的なデジタル時計と同じ時間と分なのだろう。馬車に乗ってから三、四分経ったはずだからたぶんそういう事だろう。ここは後で確認しておこう。
しかしさっきの戦いだけでオドを11使っている。最低限の戦いしかしていないつもりだけど回復条件が見えないと1000のオドもあっという間に枯渇してしまいそうだ。それに何よりカードを増やさないと、オドがあってもクールタイム待ちで召喚できる召喚者がいないという事になりかねない。
カードを増やす手段の功績ポイントも今の所増えてはいない。
そうやって増えるかもわからないからこれを当てにするのも早計だな。
閑話休題。
「コレクションブック!」
もう一度コレクションブックを取り出し、件のページを見てみる。
相手の事を確認しておかないと対策も立てられないからな。
ページのタイトルは【ゴルガス帝国怪人:クー・タラチュニア】、クモの格好をした怪人だ。
カードのスペックも載っているな。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ゴルガス帝国怪人:クー・タラチュニア
ダークブレイン
レア 闇
コスト4 軽減:闇1
パワー1000
効果:このカードが場から撤退場へ送られた時、相手の召喚者を1体選び撤退場へ送る。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
これはどうあがいてもこちらの召喚者がやられるな。
【ボルネの六十九柱:メガザジン】の【必殺】と違うのは戦闘した時ではなく、クー・タラチュニアが撤退した時だ。
撤退時に道連れを行う能力は確実な一対一だからな。特殊能力の【必殺】は戦闘さえ行わなければこちらがやられることは無いんだが……。パワーは1000で最低クラスなので気にする必要がないが、最低でも一体は撤退させられてしまう。
今のデッキにあるカードではどう頑張っても一枚は犠牲にしないとどうしようもないな。
いや、まてよ? 【ボルネの六十九柱:メガザジン】の必殺は、あの時こちらの攻撃に合わせて発動していた。
そう考えると【ゴルガス帝国怪人:クー・タラチュニア】が撤退する瞬間に相手の能力が使え無ければどうだろう?
効果は発動するが、その効果を無効化することができないだろうか?
さて、孤児院で子供をさらう計画をしているくらいだ。召喚者はこいつだけとは限らないな。
コレクションブックに書かれている内容だけ見れば攫うために【ゴルガス帝国戦闘員】を連れてきている描写がある。
こいつらは【忘却の兵士】の闇バージョンみたいなもんで、最低コスト最低パワー能力なしのコモンカードだ。
その他に召喚者はいる描写は無いな。これを全部鵜呑みにするわけじゃないが、相手がこの戦力だけならファッティを出す必要はないな。ファッティはコストとパワーが大きい中型、大型の召喚者の事だ。カオスアメイジングではおおよそ6000を超えるカードはファッティに分類される。メアリーの召喚した【忘却の神杖巨兵】はその一例だな。
今後の事を考えると消費はできるだけ少ない方がいい。
【ゴルガス帝国怪人:クー・タラチュニア】の効果で撤退させられるカードがあることを念頭に入れて対策を立てるか。
・
・
・
「姫様! もう間もなく到着します!」
メメルさんが御者席から報告してくる。出来ればもう少し対策を練っておきたかったがメタを張れるカードがない以上、これより上を望むのは酷か。
「アツム様、準備はよろしいですか?」
「なんとかな、最善は尽くすよ」
次第に前方に掛かるGが増えてきている。メメルさんが早馬車のスピードを落としているようだ。
最後に少しだけガクッと強めのGが掛かり馬車は止まる。
「申し訳ありません、停車の際小石を蹴ってしまいました」
「気にしないですわ、すぐに参りますわ」
「御意!」
「了解」
馬車を降りるとすでに兵士たちが孤児院を取り囲んでいた。何もなかったとは言えないほど、物々しい空気が周りを支配している。
「只今よりこの場の指揮はわたくしがとりますわ! 現状の報告を!」
「はっ! 東地区第四兵舎長である自分が報告させていただきます!」
「状況はどうなんですの?」
「複数の賊が孤児院の子供と職員を盾にこちらへと攻撃を仕掛けてきております」
「人数の把握はできていますか?」
「正確な人数は確認できておりませんが少なくとも十名以上いるとのことです!」
「思ったより多いですわね」
マズいな、さすがにそこまで多いとは思っていなかった。こりゃあ、悠長に出し渋っている場合じゃないかもしれんな。数で押す戦法も考えなきゃならんか?
「その中でも二名、足元に黒色の魔法陣が浮かび上がっているため召喚者だと思われます」
「二名? 他の者は?」
「顔を隠しておりますが、特別な力などは感じられません。一般人では無いかと推測されます」
「そう、もしその二名を押さえられたら他の賊は兵士たちだけで取り押さえられる?」
「ある程度抵抗されるとは思いますが可能だと思います」
なるほど、召喚者でないなら兵士達だけでも対処可能なのか。メアリーの指揮も入ればなんとかなるか。
「アツム様、当初の予定通り召喚者をお願いいたしますわ。わたくしは兵を連れてその他を鎮圧いたしますわ」
「了解、無茶はしないでくれよ?」
「わかっていますわ、アツム様も気を付けてくださいまし」
「うし、じゃあスマンがその召喚者のいる方へ案内してくれ」
「あ、あのこちらの方は?」
「わたくしに助力してくださるアツム様ですわ。こう見えて優秀なコントラスターですわ」
「はっ、失礼しました。またこの度の御助力大変感謝いたします!」
「そういうのは今は良い。事の収拾が先だ。」
「分かりました! こちらです!」
兵舎長さんの後をついて走る。
召喚者が二体ならコレクションブックにあった通り【ゴルガス帝国怪人:クー・タラチュニア】と【ゴルガス帝国戦闘員】だろう。
「デッキ!」
遠目から見て二体の召喚者を確認する。足元に黒く発光する魔法陣がある二人組。
片方の見た目は完全に戦闘員です。本当にありがとうございました。
何をもって戦闘員とするかわからないと思うけど、全身プロテクターでシルバーのフルフェイスヘルメット。革ブーツを履いて大き目のバックルのついたベルトをしている。こんなのが普通に歩いていたら不審者待ったなしだと思う。しかもこいつら武器がなぜかトンファーなんだよな。
もう一人は完全にイラスト通りの【ゴルガス帝国怪人:クー・タラチュニア】だ。もとになってる蜘蛛がどんなものなのかは分からない。人間をベースにした怪人なのだが、実際に動いているのを見るとかなり来るものがあるな。
人間でいう肩が前後に一つずつ、合計四本の腕を持ち、股関節から書く二対づつの脚で四脚で動き回っている。その顔にある目も正面から左右に4対あり、黒光りする不気味な目だ。背中から下に大きく膨らんだ身体は身体の体積の半分はあるだろうか。
「ビビッてもしょうがない!イラストアドは勝負に関係ないしな!いくぞ、オドをマナに変換して、【忘却の兵士】【忘却の儀仗兵】を召喚!」
先程も召喚した兵士と今回は【忘却の儀仗兵】を召喚する。
―――――――――――――――――――――――――――――――
忘却の兵士
オブリビオン・ソルジャーズ
コモン 光
コスト1 軽減:なし
パワー1000
効果:なし
―――――――――――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――――――――――
忘却の忘却の儀仗兵
オブリビオン・ソルジャーズ
コモン 光
コスト1 軽減:なし
パワー1000
効果:場にある他のオブリビオン・ソルジャーズが攻撃対象になった時、
このカードを撤退させる:このターン、対象のパワーを+2000。
―――――――――――――――――――――――――――――――
両方ともコモンカードで低コストのユニットだ。この場では優秀な部類だ。
だけどこのまま戦えば戦うだけでお互いに撤退してしまう。そうならないための場が必要だ。
「さらに建造物、【忘却の城】を召喚!」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
忘却の城
建造物
レア 光
コスト3 軽減:なし
効果:あなたのコントロールするすべてのオブリビオン・ソルジャーズのパワーを+1000。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
建造物は破壊されなければ場に効果を与え続ける。
今回召喚した【忘却の城】は俺の光の召喚者であるオブリビオン・ソルジャーズ達のパワーをあげてくれる。
これで戦う場もそろった。
「兵士 !戦闘員を食い止めろ、出来るならやってしまって構わん! 儀仗兵、怪人を狙え! 今のお前のパワーなら負けないはずだ! ただし、うまく攻撃を当てたら引け! ヒット&アウェイを心掛けろ! 周りの兵士たちは邪魔にならんように退避しろ! 召喚者同士の戦闘に巻き込まれるぞ!」
怪人の周りにいた兵士達が息も絶え絶えに退避してくる。
「コ、コントラスターが来てくれたのか……」
「姫様の召喚者じゃないのか……?」
「あの黒い召喚者といい、何が起こっているんだ」
命だけは助かった兵士たちが口々に疑問を唱える。
「悪いがあんたたちに説明している暇がない、戦闘中なんでな。一般人の方をメアリーが指揮してる、落ち着いたらそっちに行って指示を貰ってくれ!」
「なっ、姫様に対してなんて無礼な!」
「大体なんなんだお前は!」
俺のぶっきらぼうな態度にキレかかっている兵士たちが口撃してくる。
「うるせぇ! ここで俺が召喚者を相手するのはその姫さんの指示だ! 気に入らねぇなら直接文句を言いに行きやがれ!」
すでに俺の召喚者と敵は相対している。弱点にしかならない人間がうろついていられても困るだけだ。
「儀仗兵! 正面と背面には立つな! 側面に回って攻撃を仕掛けろ!」
正面はその腕からくる手数、背面はベースになった蜘蛛の能力である糸が飛んでくる。しかし、四脚であるがゆえに回り込んだら方向転換に時間がかかる。
シャン、シャン!と儀仗兵がその武器を振るう度に独特の音色が周りに木霊する。
タラチュニアの身体はやはり昆虫ベースだからなのか相当堅そうだ。
儀仗兵の杖とタラチュニアの上肢の爪が交叉する度に重く乾いた音が鳴り響く。
その五メートルほど横では【忘却の兵士】と【ゴルガス帝国戦闘員】が真正面からの殴り合いをしていた。
「でー! ありますありますありますあります!」
「フンフンフンフンフン!」
二人とも武器としての装備品があるにも関わらず素手で殴りあってる。
しかもお互い防具はしているもののノーガードで殴りに行ってる。
さらにお互いにわけのわからない掛け声で二人の場所だけカオスになっていた。
ガンッ、ガンッ! と響く儀仗兵とタラチュニア!
ゴス、バス、パン! と鳴る兵士と戦闘員!
先に決着がついたのは儀仗兵とタラチュニアだった。
儀仗兵の杖術が流れるようにタラチュニアを追いつめ、攻撃をぶちかましたのだ。
「ギュ! ダガ貴様モ道連レダ!」
怪人てのはやっぱり人の言葉が喋れるのか。怪人のカードのフレーバーテキストにはそういう記述も多かったからな。
そして案の定タラチュニアはカードと同じ効果を発揮してくるのか!
「儀仗兵! 最後の攻撃が来るぞ! 何とかよけろ!」
俺の言葉に反応した儀仗兵がタラチュニアから距離を取ろうとする。
「遅イワ!」
なんとタラチュニアは撤退の魔法陣が自信を撤退させる直前に、四本の腕を爆発させてきた。
この不意を突かれた攻撃を儀仗兵は避けられない。しかも爆発した範囲周辺に大量の糸が落ちている。もちろん儀仗兵にもべったりだ。
「その能力はそういう事か!」
蜘蛛の糸ごと召喚陣に消えていくタラチュニア。それに引きずられるように儀仗兵も撤退させられた。
上手くいけば撤退の能力を躱せるかと思っていたんだがそうそううまくはいかないらしい。
付け焼刃の戦術じゃあそうそううまくいかないことに歯噛みしながらも心を切り替える。
「やったであります!」
儀仗兵とタラチュニアの戦闘に注目している間に、兵士と戦闘員の攻防も決着がついたようだ。
まぁ、こちらに関しては不安要素なんて何もなかったから放置していたしな。
「兵士、上手くいったか」
「これくらいの相手なら当然であります。今は普段よりも力が出せる気がするであります!」
そりゃそうだろうよ。【忘却の城】の効果でパワーが1000も上がっている。【忘却の兵士】の元々のパワーは1000だから合わせて2000だ。いつもの倍のパワーで戦闘できればそりゃあ楽だろうよ。ただ兵士、顔ぼっこぼこだぞ? 青タンまでできてるし。
「我々がああも苦戦した相手をこれ程圧倒するのか」
「これが召喚者なのか……」
戦いが始まる前に散々人をディスってくれた兵士の面々は、顔を青くしてこちらを見ている。
見ている限り戦闘員相手に兵士三人でも抑えるのが必死みたいだったしな。
そう考えるとやはり召喚者の能力は一般人からすると殺意が高すぎるな。
「ンンッ? 怪人が撤退したから見に来てみれば、んだこりゃ?」
何もない空間から新しく召喚者が召喚された!?
一般的な成人男性よりも二回りほど大きく筋骨隆々、リーゼントをのっけて特攻服をきた浅黒いヤンキーがそこ立っていた。
ア、アイツは、まさか!
「貴様! 何者だ!」
「止まれ! 止まれぃ!」
人間が敵う相手じゃない。姿だけならその辺にいるヤンキーだろう。
だがその足元には召喚者としての証の魔法陣が存在している。
「やめろ! お前達にかなう相手じゃない! 兵士! 足止めだけでも頼む!」
「任せるであります!」
「ごちゃごちゃとウルセェエ! カスのエサ風情が俺様の前に立ってんじゃねぇゾ、コラ!」
ぶわっと大きな突風がヤンキーを中心に炸裂する。
その煽りを受け、兵士たちは吹き飛ばされる。しかも……。
「な、何でありますか!? なにをされたでありますか!?」
【忘却の兵士】が突風を受けただけで撤退させられた。あの突風は召喚者としての能力だろう。
「ハッ、雑魚は俺様の前に立つことすら許さねぇよ」
そしてあの格好をしている召喚者を俺は知っている。
「【ゴルガス帝国大幹部:サー・ゲニアス】……」
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