第5話 俺のターン 俺とオブリビオン・ソルジャーズ

「それではアツム様、【契約において命じますわ】わたくしの賊討伐へ力をお貸しください!」

「了解!」


さて、勢いでカッコつけたはいいが、まずは情報だな。


「メアリー、横で聞いていただけだが幾つか聞きたいことがある」

「はい、今すぐの方がよいですか? できれば早馬車が手配できるまでには準備を終えたいのですが」

「それも含めてだ。まず準備には何がいる?」

「わたくしはこの身一つで参る事が出来ますわ。アツム様を召喚したこの格好がそのままコントラスターとしての戦闘衣装でもありますから」


カードのイラスト衣装のままだと思ったらそういう事か。これが一番印象に残ってるからな、さもありなん。


「OKだ、次に早馬車はどれくらい準備に時間がかかる? それとその早馬車で現場までにどのくらいで着く?」

「早馬車は恐らく十分以内には準備できるかと、現場までは早馬車ならば二、三十分で着くかと」

「意外とかかるな……」

「北の広場まで六キロほどありますわ。恐らく只今兵士たちが早馬で避難誘導と、早馬車用の道を開けていると思いますわ」

「なるほど、けっこう距離があるな。俺の方もここで準備することは今は無い。他の事は向こうにつくまでに馬車の中で聞こう」

「分かりましたわ」

「よし、じゃあ早馬車の準備している場所まで行こう。時間が惜しい」

「こちらですわ、わたくしに着いてきて下さい」


客間を出て、メアリーの後をついて走る。メアリー意外と健脚だな。口の広いスカートをはいて走っているとは思えないほど速い。俺自身しっかりとついていかないとおいていかれそうだ。

そうこうしている内に外へと出る。

すでにしっかりとした馬車が準備されていた。兵士たちが馬を二頭、馬車の前につないでいるな。


「姫様、早馬車の準備がもう間もなくできます」

「ありがとう、メメル。この度の出撃はアツム様にもご足労願うことになりましたわ。手配をして」

「……姫様」

「メメルが言いたいことも分かるつもりですわ。ですが今は民の安全を優先します。メメルは御者をお願いしますわ。一刻も早く現場にたどり着くように」

「御意!」

「アツム様、すでに出発できますわ。馬車へお願いしますわ」

「了解」


さっさと馬車の中に乗り込む。続いてメアリーが乗り込み、メメルさんが御者の位置に座り準備をしている。

御者席から小窓が空きメメルさんが俺をにらんでいる。なんだろう?


「お客人、馬車の中で姫様に失礼が無いように」

「大事の前にそんなことしないよ、それよりも現場の情報ってさっきの報告以外に集まってる?」

「いや、追加の報告は来ていない。なぜだ?」

「相手の人数や背格好だけでも解れば対応が取れるかもしれないからさ」

「私が聞いた限りではその辺りの報告は無かった。細かい報告が出来る状態でもなかったかもしれん」

「そうなるとますますまずいな、急ごう!」


ここから現場まで早くて20分、現場から同じように早馬出来ていたとして同じく20分。

到着までに事件発生から40分経ってからしか介入できないわけだ。被害が無いってのはありえないな。限りなく少ないのを願うだけだ。


「準備が完了しました!」

「それではメアリー姫様早馬出ます。開門、周りの者は離れるように!」


ゴゴゴと、重みのある門が左右に分かれて開門された。


「開門、完了しました!」

「出発!」


ヒヒーンっと馬が嘶き馬車に大きなGがかかる。

ドカッドカと地を蹴る蹄の音が腹に響いた。


「うぉ!?」

「飛ばすぞ! 舌をかまぬようにな!」


見る見るうちにスピードが上がっていく。これは確かに早馬車というだけあるな。

しかし、時間は無い。現場に着くまでにある程度の戦術は練っておきたい所だ。


「メアリーデッキを出してくれ、戦略を練りたい」

「戦略ですか?」

「あぁ、ぶっつけ本番だがある程度の作戦は合った方がいいだろう。その作戦をとるために戦力のすり合わせをしておきたい」

「わかりましたわ、デッキ!」


二人でデッキを出して戦略を練ることにする。何ができるかの可能性だけでも示唆することで行き当たりばったりよりマシになるだろう。


「メアリー、君が今召喚して戦える者はいるか?」

「はい、ですが誰もが決定力には欠けると思いますわ」

「そうか、どんな召喚者が使えるか聞いてもいいか?」

「はい、【忘却の兵士】【忘却の盾持ち】【忘却の伝令兵】ですわ」


それは、俺も持っているな。デッキで能力を確認しておくか。


―――――――――――――――――――――――――――――――

【忘却の兵士】

オブリビオン・ソルジャーズ

コモン 光

コスト1 軽減:なし


パワー1000


効果:なし

―――――――――――――――――――――――――――――――

―――――――――――――――――――――――――――――――

【忘却の盾持ち】

オブリビオン・ソルジャーズ

コモン 光

コスト2 軽減:光1


パワー3000


効果:このカードは攻撃できない。

―――――――――――――――――――――――――――――――

―――――――――――――――――――――――――――――――

【忘却の伝令兵】

オブリビオン・ソルジャーズ

コモン 光

コスト2 軽減:1


パワー1000


効果:このカードが撤退したとき、あなたは1点のライフを得る。

―――――――――――――――――――――――――――――――


1人のコントラスターが召喚できるのは1人までみたいだが、二人以上のコントラスターが同じカードを召喚することはできるのか?

しかし、絶対的にパワーが少ないな。これじゃあ相手によっては一方的に蹂躙されて終わってしまう。


「……確かに決定力には欠けるな。他にはないのか?」

「今はオドが足りなくて召喚できませんが一応【忘却の神杖巨兵】と契約しておりますわ」

「なるほどな、メアリーの今のオドは確か4だったな」

「はい。マナもありませんからどう頑張っても【忘却の神杖巨兵】は召喚できませんわ」


えぇっと【忘却の神杖巨兵】のスペックはっと。


―――――――――――――――――――――――――――――――

【忘却の神杖巨兵】

オブリビオン・ソルジャーズ

アンコモン 光

コスト7 軽減:光4


パワー6000


効果:なし

―――――――――――――――――――――――――――――――


おそらくはこれがメアリーの切り札なんだな。だがコストが7かかる上に今のメアリーのオドは4だ。召喚する上ではマナが足りない。

他の召喚者もコストが多いせいでどう頑張っても2体までしか出せない。軽減が発動するのは主に建造物の効果だからな……。

ん?軽減効果?そういえば……。


「メアリー、少し聞きたいんだがメアリーの盾持ちのコストを教えてくれないか?」

「盾持ちですか? コスト1ですわ」


クククク、なるほどな思った通りだ!


「じゃあ、次だ。神杖巨兵は?」

「コスト6です。軽減が3ですわ」


やっぱりな。

メアリーはただのコントラスターじゃない。カオスアメイジングでも最初期、第一弾からコントラスターとして出ていた最古参の一人だ。そして彼女の能力は……


―――――――――――――――――――――――――――――――

【コントラスター・メアリー王女】

コントラスター

レア 光


ライフ  20

手札 7

能力

【光軽減1】

―――――――――――――――――――――――――――――――


そう、彼女が召喚する光属性の召喚者は条件によってコストが1少なくなる。

これならば彼女の持つカードでの戦略はかなり幅広くなるだろう。


「ありがとう、メアリー。少しだけ良い戦略を思いついた」

「わたくしは何をすればよいですか?」

「幾つかプランがある。作戦名と内容を説明するから現場の状況次第で動けるように頭に叩き込んでくれ」

「わかりましたわ!」


メアリーと作戦を話している間にも馬車は大通りを爆走していく。

ガリガリガリと、早馬車の車輪が石畳の道を削っていく。メアリー専用に作られたその馬車は早く着くためだけに頑丈に作らてていた。そう、走っている間に故障しないために車輪は石ですら削るような金属製のスパイクを履いたものだ。

勿論乗っている人間の事もほとんど考慮されていない。この馬車は一に速度、二に頑丈、三四が無くて、五に軽量だった。一般の馬車とは設計思想から異なる馬車は一般道を走るのには適さない。道の方が持たないからだ。

しかしそれを見る民衆の目は憧れに満ちていた。

普段は目にすることのないこの国唯一のコントラスター。そして王女であるメアリーが出撃したのだ。

兵士たちは必死に避難誘導などしているが民たちはさほど心配していない。かの王女が出てきたのだ。光の国で彼女が負けるなどとは彼らは微塵にも思っていないだろう。

そんな彼等の期待を背に馬車は爆走していく。


そして、馬車は北の広場前へと到着した。


「姫様! これ以上は馬車が邪魔になる可能性がございます!ここまででよろしいでしょうか!?」

「よいですわ、メメル。一応撤退の準備をお願いしますわ」

「御意!」

「アツム様、それでは参りましょう」

「了解、っとあれか?」


目の前の光景はとても現実のものとは思えなかった。

幾つかのパーツが無くなった、人であったものが赤い池を作っている。

むせかえる程の生温い鉄の匂い。それが血の匂いだと気付いたのはメアリーに声をかけられてからだった。


「アツム様」

「あ、あぁ、すまない。呆気に取られてしまった」

「まさかこれ程の惨劇が起こっていたなんて、許せませんわ……!」


メアリーの顔からは先ほどまでの凛とした表情は鳴りを潜め、殺気にも近い憤怒の表情が現れる。

戦う意思を持った人間の顔だ。先ほどまで心に決めていた覚悟が上っ面だけの薄いものだったと感じ恥ずかしくなる。

俺も覚悟を決めないとな。

すぅと、深く吸い込んだ息は血の匂いがした。えづきそうになるほどのその空気は先ほどまでの甘い考えを捨てるには十分な薬だった。


「メアリー、まだ応戦している兵士たちがいる。召喚者達は俺が対応、メアリーは現場の兵士の指揮のプランBだ!」

「分かりましたわ!アツム様お気をつけて!」

「メアリーもな!」


「「デッキ!!」」


二人で広場に滑り込む。その場にいる生き物を確認する。

兵士の格好をした者がおおよそ十数人。

それを攻め立てるようにしているのはまさに化け物。クリーチャーだった。おおよそ三匹、姿かたちがそれぞれ違う化け物だ。しかしながら、その姿に俺は見覚えがある。カードのイラストに描かれていたそれらには黒々と光る魔法陣を足元にひいていた。黒色が光るなどという道理を無視した魔法陣に若干だけ嫌悪感を感じる。あれが、召喚者。今、俺の倒すべき敵。


「全部キメラティックモンスターかよ、たしか厄介な能力持ちだったな、こりゃ真正面から行くのはマズいな。少し仕込ませてもらおうか」


敵はそれぞれ【ボルネの四十六柱:メガヴァイゼ】【ボルネの四十八柱:メガヴォイド】【ボルネの六十九柱:メガザジン】だ。思い出せ、奴らの能力を。思い出せ、奴らのスペックを! カオスアメイジングにおいて召喚者のバトルは一方的だ。パワーが高い方が勝つ。ただそれだけ。

パワーはそれぞれヴォイゼが5000、ヴォイドが3000、ザジンが1000だったハズ!

ボルノの神であるキメラティックモンスターは、その柱の継投で能力が分かれている。四十柱は召喚コスト系、六十柱は必殺持ちだったハズ。ならば……。


「俺のオドをマナへ変換! 召喚! 【忘却の大盾持ち】! 【忘却の突撃兵】! 【忘却の兵士】!」


俺の体からオドが減りマナとなってデッキへ注がれていく。デッキから三枚のカードが俺の前面へと浮かび上がりそのまま地へ降り立つ。

三人の忘れ去られた兵士が俺の前へ立ち並ぶ。オブリビオン・ソルジャーズと呼ばれる彼らは忘れ去られた戦場を戦い抜いてきた過去の猛者たちだ。

召喚は思いの他うまくいった。一番最初の懸念は払拭されたな。


―――――――――――――――――――――――――――――――

忘却の大盾持ち

オブリビオン・ソルジャーズ

アンコモン 光

コスト5 軽減:光3


パワー7000


効果:このカードは攻撃できない。

―――――――――――――――――――――――――――――――

―――――――――――――――――――――――――――――――

忘却の突撃兵

オブリビオン・ソルジャーズ

アンコモン 光

コスト7 軽減:光3


パワー4000


効果:このカードの攻撃が防御された時、対象のパワーを-2000する。

―――――――――――――――――――――――――――――――

―――――――――――――――――――――――――――――――

忘却の兵士

オブリビオン・ソルジャーズ

コモン 光

コスト1 軽減:なし


パワー1000


効果:なし

―――――――――――――――――――――――――――――――


いきなりこれだけ使うのは性急すぎたか? しかしギリギリの戦いで戦力の逐一投入よりマシだ。


「いきなり実践で悪いが力を貸してもらうぞ! オブリビオン・ソルジャーズ達」

「「「応!!!」」」


俺の知る彼等なら十分にこの状況を制圧できるはずだ。あとは俺の采配次第だ。

光のカードはウィーニー(多数展開撲滅戦)が得意なんだ。効率よく潰していくぜ。


「メアリー、こちらの召喚者で相手を叩く! 兵を下がらせてくれ!」

「分かりましたわ! 皆の者、攻撃をさばきつつ密集陣形のまま撤退なさい!」


「「「「「はっ!」」」」


メアリーの命令で兵士たちがゆっくりと下がってくる。敵対している面は相手の攻撃を捌きつつ下がっている所為で、徒歩よりもはるかに遅い。

三か所ある攻防の内、メガヴォイドと交戦していた右翼の撤退が思ったより早い。仕方ない少し早いが、ここで仕掛ける!


「大盾持ち、中央のメガヴァイゼと交戦している部隊を助けろ。お前の防御なら抜かれないはずだ! 突撃兵、右翼のメガヴォイドを倒せ! 兵士、左翼のさらに左側から回り込んでメガザシンを攻撃!」


三体全てに命令を出す。突撃兵が右翼の兵士たちと交差する様にメガヴォイドに吶喊する。ときの声をあげながらその手に持つ長槍を正面に構え走っていく。


「おおおおぉぉぉぉ!!!!」

「VAAAAAZEEEEEEEEE!!!!」


メガヴォイドが威嚇のような咆哮を突撃兵に向ける。中型犬のような姿を持ちながらその姿に似合わぬ大きな爪と七支刀のような形を持つ尾が奴の武器だ。おおよそ人の生身では受けきれないであろう大きな爪、その爪を躱したとして次の瞬間に尾による追撃が待っているのである。


「突撃兵! 爪としっぽの攻撃に気を付けろ! 二段攻撃で来るぞ!」


言うや否やメガヴォイドは突撃兵を攻撃を仕掛ける。突撃兵を敵と認識したメガヴォイドは、ターゲットを兵士達から突撃兵へ変更する。ビュンビュンとおおよそ人が買わせるとは思えないほどの音量を出す爪と尾を突撃兵は躱す。彼にはその身に着けている兜と鎧以外には防具は存在しない。盾で身を守る方法は無いのだ。故に躱す。


躱す。

躱す。

躱す。


その様子を見て心配していた俺だったが、次の瞬間それが杞憂に終わる。

メガヴォイドが爪を振る! メガヴォイドが尾を振る! さらに爪を振ろうとしたその攻撃の合間の瞬間。突撃兵はメガヴォイドの頭を長槍で穿ったのだった。

メガヴォイドに攻撃が通り奴の体から力が抜け落ちる。その直後召喚陣が一瞬強く発光したと思えば奴の体が消え、召喚陣も一瞬で収縮して消えてしまった。


なにはともあれ右翼はコレでなんとかなった。

中央の兵士たちもほぼ撤退が完了していた。

メガヴァイゼと大盾持ちがにらみ合っているからだ。

メガヴァイゼは身長二メートルを超える大柄の狼男だ。黒々とした体毛を持ちそれ自体が防具の役割をするらしい。

大盾持ちのパワーは7000。しかし彼はその身よりも大きい盾のせいで自分から攻撃することはできない。

対するメガヴァイゼのパワーは5000。攻撃を仕掛けるとまずい事が分かっているのか一定の距離を保ったまま様子を見ているようだ。戦況が硬直してこの場だけ見れば千日手みたいな事になっているがコレでいい。この間にボードアドバンテージを稼がせてもらう。


中央の状況を確認した後左翼を見入る。俺の命令通り兵士がメガザシンと交戦している所だった。

メガザシンはこの中でパワーは一番低い物の実は一番の強敵でもある。

体長50センチ程のサソリのような姿。二本の尾をもち実際に戦闘をするにも厄介そうな相手だ。

ギチギチと顎をならし全体的に黒い光沢をもつその姿は、大きさだけでは出せない存在感がある。

それはあいつの特殊能力である【必殺】の所為だろう。

特殊能力の【必殺】は交戦した召喚者を撤退させる。という強制除去を持つスイーパースキルだ。

どんな召喚者であれ、戦闘してしまえば必ず一対一交換を強いる厄介な召喚者だ。

それゆえにパワーは低い。ここはカードゲームの定石どおりに一対一交換を行う。

故に選んだカードは【忘却の兵士】。最低コストのバニラ。一番基本となるコモンの召喚者。


「兵士、どんな攻撃でもいい! 当てろ!」

「了解であります!」


これが実際の兵士に対する命令なら無能もいいところだ。

味方と相手を一対一交換しようなどと考える人間なら下種もいい所だな。

だけどこれは違う。召喚者同士の戦いだ。人間が巻き込まれて死ぬ方がまずい。先ほどの光景を広げるわけにはいかない。死んだ人間は生きかえらないのだ。

しかし、召喚者は違う。

調べた限りでは召喚者は死なない。契約通り戦いきって帰還するか、やられてもクールタイムを持ってリチャージされるのだ。

だから俺は彼らをこう使うことに躊躇わない。戸惑わない。躊躇しない。

俺は契約したからな、メアリーに力を貸すと。そこで力を出さないのであれば契約違反だ。


「うおおおぉぉ! であります!」


と、そうこうしている内に兵士がメガザシンに一撃を入れていた。

ガチガチと死に際の恨みがごとく顎をならしている。そして尾の一本が兵士を突き刺していた。


「ぐっ? や、やられたであります……」


兵士が膝を折る間もなく彼と奴は魔法陣と共に、この空間から姿を消した。

心に決めていても罪悪感は出るもんだな。わるいな兵士、それでも今は感傷に浸っている場合じゃない。


「メアリー、そっちはどうだ!?」

「準備できたましわ!」

「よし、やってみろ! プランCだ!」

「出来なくても文句言わないでくださいませ! わたくしのオドを変換! 御出でませ御出でませ我が国を守りし神の宮代!其の御業を用いて我らが民を守りたまへ【忘却の神杖巨兵】! 召喚!」


兵士を完全に撤退させ中央でにらみ合いをしていた大盾持ちの十メートルほど後ろでメアリーが神杖巨兵を召喚させる。

メアリーのマナを纏って召喚された神杖巨兵は、綺麗な白色の魔法陣を敷きながら降臨した。


「ほ、本当にできましたわ!」

「よし、うまくいったな。メアリー最後の大仕事だ。派手に頼むぜ!」

「言われるまでもないですわ! 神杖巨兵ッ、大盾持ちさんの背後より中央のワンころをやっておしまいなさい!」


馬車の中で仕込んでおいた【光軽減1】の建造物【広がる平原】。


―――――――――――――――――――――――――――――――

建造物

コモン 光

コスト1 軽減:なし


効果:【光軽減1】

―――――――――――――――――――――――――――――――

これを二枚俺が先んじて展開しておいたのだが、俺と契約しているメアリーにも効果があった。

メアリー自身の能力で軽減が1、平原が2枚使えて軽減が2、合わせて軽減3。

【忘却の神杖巨兵】のコストを3減らし、メアリーのオドをすべて使って召喚させた。

建造物は召喚者と違って同名カードが一度に使えたのでできた戦略だ。


メガヴァイゼの二倍近くある神杖巨兵は、その大きな巨体をメガヴァイゼへと叩き付ける。

流石に奇襲とはならない攻撃にメガヴァイゼも神杖巨兵の武器である錫杖を避ける。

大盾持ちが我々の前にいる以上こちらに来ることは無いが、神杖巨兵の攻撃に右往左往している。

スキがあればこちらへ突破するか、逃げるか位はしそうだ。


「メアリー、奴に隙を作る! 大盾持ちと神杖巨兵を連携させてくれ!」

「分かりましたわ!」

「突撃兵! 背後に回って攻撃優先でお前から攻撃を仕掛けろ!」


突撃兵にはこちらが攻撃を防御された時に相手のパワーを下げる能力がある。

攻撃さえ当たればパワー5000のメガヴァイゼをパワー3000まで落とす事が出来るが、本命はそちらではない。


「メアリー! 突撃兵が隙を作ったら、神杖巨兵の攻撃をなんとしても入れろ」

「分かりましたわ、頼みましたわよ神杖巨兵」


突撃兵の攻撃が激しさを増す。

が、その攻撃がメガヴァイゼに当たる事は無い。メガヴァイゼもそれをわかっているのか、避け方に余裕があるように見える。


「GYUUU! RAAAA!!!」


突撃兵の攻撃に痺れを切らしたのかメガヴァイゼが突撃兵に攻撃を仕掛けてくる。

それを待ってたんだよ!


「大盾持ち! サポート!」


カードゲームと同じなら行動していない召喚者が防御に回ることはできたはずだ。

しかし、大盾持ちと突撃兵の距離が離れておりサポートに間に合わない。

サポートガードができない盾持ちはカードとは使い勝手が変わるな。

ここで思惑と違う動きになるとはな。少々じれったいが仕方ない。


「メアリー!!」


ズン!と突撃兵を攻撃していたメガヴァイゼの腹に錫杖が突き刺さる。

大盾持ちの真後ろで待機していた神杖巨兵の錫杖だ。

突撃兵とメガヴァイゼがまるで相打ちになったようにほぼ同時に消えていく。

シーンと一瞬周りを静寂が包み込む。


「終わったのか?」

「周囲を警戒してください! 報告を素早く、暫定でかまいませんわ!」


メアリーが周囲の兵士たちに指示を出している。

兵士たちが周囲へ散り散りになって良く。

今の攻防である程度確信したがやはり召喚者の行動済みと未行動は存在するらしい。

攻撃や能動能力、防御をした場合におこる召喚者の行動済み。

そして行動済みになっている召喚者は攻撃を避ける事が出来ない。

しかし、ゲームと違う所もあった。行動済みの召喚者に対する未行動の召喚者のサポートが間に合わなかった。

これに関してはただ単に距離が足りなかったからなのか、実際に行うことが不可能なのかは分からないな。

この辺の情報は後でメアリーと共有しておくか。


「姫様、周囲に敵影ありません」

「気を抜かないでくださいまし、警戒を密にしたまま索敵範囲を広げなさい」

「御意!」


一応この近辺には敵さんはいないらしい。何はともあれほっと一息だな。


「ふぅ、ひとまず安心か」

「……おかしいですわ」

「なにが?」

「敵の目的が見えません。首都の広場に入り込んで住民の殺戮のみが目的とは思えません」


やけに具体的だな。だけど言われてみれば確かにそうだ。

なんの為にこんな騒ぎを起こしたってんだ?威力偵察……にしても杜撰過ぎるだろ。


「その他に目的がある……と?」

「なぜこのようになったのかを調べないと分かりませんが、今回の襲撃はあまりに不自然ですわ」

「確かにな、相手のコントラスターが見当たらない」

「それだけではありませんわ。戦った相手もおかしいですわ」

「キメラティックモンスターの事か?」

「アレの総称がそれならばそうなのでしょうが、コントラスターと共に指揮官やリーダー格の者もいないのはおかしいですわ」

「それに準ずるものがまだ近くにいると?」

「あるいは何かをしようとして、その準備段階で発見された。その為あれらだけ囮にしてその者が逃げたか……」


何かの計画中の段階でばれて逃走か、ありえない話じゃないが三体も召喚者を置いていく意味がない。

あれだけの力がある召喚者なら一般の兵相手なら一体で十分だよな。

万全を期して三体を残していくにしてもスペックが高すぎる。

なんだ?なんか引っかかるな。こんな話をどこかで聞いた覚えが……


「!?」


まさか、まさかな?俺の記憶違いならいいが……。

カオスアメイジングの物語の内容の一つに心当たりがある。

コレクションで確認したいができるか? デッキみたいに呼び出せば出てくるか?


「コレクションブック!」


デッキがコレクションブックに変わる。

やっぱり光に変わったシンボルは俺の意思で出し入れできるみたいだな。

出てきてくれてよかったぜ、マイコレクション。そんで今確かめたいのは闇の召喚者の項目!


「……っ! やっぱりか、メアリー!」

「どうしたんですの? アツム様」

「こいつらは予想通り囮だ。本命は東の孤児院だ」

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