第4話 俺のターン 俺とコントラスターの能力
この世界の俺が手に取る本達は、ピカピカ光って左手に吸い込まれないと気が済まないんですかね?
青の粒子が左手に書き消えた後、ため息をつく。
大方この後の方法も一緒だろう。ちくしょう。
そーゆーのなんていうか知ってる? フラグっていうんだよ……。
「ルールブック」
予想どおり左手に現れたルールブックを見る。
先ほどまでメアリー達がお宝扱いしていた本が俺の左手にポツンとある。
「アツム様、何が起こったのですか!?」
そんなん聞かれても俺も分からないけどね。
少なくとも俺の意思でやったことではない。
「さぁ? ただ俺のコレクションやデッキみたいにひとまず取り込まれたし、呼び出せるかなって思ったからやってみたら出来た」
まずやってみる。いい言葉だ。リスクが無いならどんどん行使すべきだ。リスクがあるならリスクを秤に賭けた上でリスクを極限まで減らして行うべきだ。
行動無き人間に結果無し。まずやってみないと何事も始まらないわけだからな!
「まさかロードレスシンボルが主を迎える瞬間を、この目で見ることができるなんて」
メメルさんは驚嘆の顔をしている。まぁ、カオスアメイジングの世界では聖剣を勇者が抜いたくらいの話だからね。
ただ、この世界聖剣がアホみたいにある筈だから、ものすごく珍しいわけじゃない。たぶん。十年に一人とかそんな感じ。
「シンボルとしてその本がアツム様の物になった以上、わたくし達に出来る事はございません」
「しかし姫様、一応国宝として管理していたものです。良いのですか?」
「お父様にはわたくしからお話しておきます」
おぉう、やっぱりお宝扱いされてた。しかし国宝だったのか。契約にも貸すって明言しているし最終的には返せるといいんだけど。まぁ、先の話をいましてもしょうがない。今出来る事をやってしまおう。
「メアリー、一応俺はこの本を借りるだけのつもりだ。いつか返せるようになったらちゃんと返すからな」
「そういっていただけるだけでも助かります。ですが我が国に置いてあるだけでも意味がないのも事実ですわ。アツム様が使える物なのであれば存分に使ってくださいまし。ロードレスシンボルとはそういう物です」
「ですが姫様……、物が物なのですが」
「そうですわね、アツム様内容を確認して問題なければお話ししていただけると非常に助かります」
「了解」
メアリー達からしたら破壊と混乱の書かもしれないんだもんな。確かにこれは内容を確認してほしいだろう。
まぁ、俺の思うルールブックでも確認はしておきたい所なのだから何ら問題は無い。
ぺラリと表紙をめくると中々に挑発的な文章が目の前に綴られていた。
『やぁ、壊される未来しかない絶望の世界へようこそ!
残念ながら、夢でも、霞でも、謎の3D技術でも、特撮でも、ゲームでもない世界へようこそ!
ただこの本を読むことができた君は幸運だ!
日本語で書かれたこの本を読むことができ、この本の持ち主になれる君は所謂チートを持ってこの世界にいるはずだ。
その使い方をこの本では説明しようと思う。
この本をどう扱うかは君次第だがうまく使うことを切望するものである!』
うん、この本を書いたのは公式ではないな。そして書いた奴は少なくともいい奴かもしれないが性根が曲がっていると思う。
『キミが今居る世界はカオスアメイジングの世界だ。
おそらく君のいた世界ではゲームだっただろう?
そのゲームとこの世界は同じだ。
あの世界で得た知識が少なくとも通用する位には同じ世界だ。
ただ、すべてが通用するわけではない。
その差をこのルールブックに記していこうと思う。
前の世界でのカオスアメイジングの細かいルールも、私が思い出せるだけ後述しておく。
うまく活用してくれると幸いだ。』
うん、普通にいい奴だった。初めのページのわけのわからんテンションは何だったのだろう。
まるで素人が無理に物語を書こうとして失敗したかのような無理やりさがあるな。
まぁ、書いてくれた奴がどんな奴であれ役に立ちそうではある。ありがたく拝見させてもらおう。
『まずこの世界で君は恐らくコントラスターであるはずだ。
この本がここまで読めるのはコントラスターでしかないはずだから。
この本にはそういう人間しか主として認めない魔法がかかっている。
それ以外の人間がこの本を見ているとしたらご愁傷さま。君たちには使えない情報しか載ってないよ!』
要所要所に煽りを入れてくるな。そんな事わざわざ書かなくてもいいだろうに。あぁ、そうかいい性格をしているだけか。
『まずはこの世界でコントラスターとして戦うためには必要なものがある。
それは向こうの世界でもこの世界でも変わらない。
つまり、デッキ、カード、マナ、オド、ライフだ。
全てが向こうの世界と少しづつ違うから確認しながら読み進めてほしい』
ゲームに必要だったものは変わらない。だけどその扱いが少しづつ違うのか。現実にはターン制なんてないだろうから当たり前か。
『まずはデッキ。
向こうの世界では山札と呼ばれていたけど、こちらの世界ではコントラスターが召喚者と契約してそれを収めているシンボルの事をいう。
こちらの世界では、召喚者をデッキからドローして手札に加えてから召喚するなどという面倒な手順は必要ない。
デッキから対応する召喚者を選んでそのまま召喚すればいい。
デッキが手札であり、山札だ。これが無くなればコントラスターが何もできなくなるのは向こうとさして変わらない。
また、デッキは様々な機能がついている。』
マジか! そうするとこの世界では手札の概念が、ゲーム中の手札ではなく自分の持っているカードプール、所謂カード資産が全部手札になるのか。それはあればあるだけ有利になるな。
『デッキにはカードのソート機能。ライフ、マナ、オドの表示機能。撤退場情報。その他拡張機能がある。
拡張機能は特定の手段に置いて入手することができるがこれらの条件は私では解析できなかった。
もしも、誰か解析できたなら連絡してほしい。なんなら召喚してほしい』
どんだけだ。デッキの拡張機能はそんなに便利なもんなのか?
しかし、あのカードバインダーめちゃくちゃ高スペックだな。ゲームの時に必要だった情報は全部デッキだけで見れるって事か。拡張機能か、どんなのがあるんだろうな。いったんデッキを出してみるか。
「デッキ」
左手のルールブックがデッキに変わる。今までの経験上、思うか言えば機能は発動するハズだ!
「ライフ、マナ、オド、撤退場情報の表示」
右のページが情報ページに変わった。何コレ便利!
―――――――――――――――――――――――――――――――
コントラスター 京極 集
ライフ 20
マナ 0
オド 1000/1000
撤退場情報
撤退者
なし
クールタイム呪文
なし
―――――――――――――――――――――――――――――――
しかし情報を見て明らかにおかしい表示がある。ライフは分かる。特定のコントラスターを使わずにゲームをした時の初期ライフは20だ。
マナもわかる。マナは、オドをマナに変換しない限り溜めておく事が出来ないものだ。0なのも納得だ。
だがしかし、オドてめーは何だ! オドはゲームでは自分のターンが来るたびに1づつ増えるエネルギーだ。初期値は0のはずだ。しかも分母までついている。これに関してはなんとなく心当たりがあるが今はいいだろう。しかし、これもこの世界の違いってやつか?
「アツム様、デッキを出してどうかなさったのですか?やはりあの本は破壊の書だったのですか?」
メアリーが物凄く心配そうな顔でこちらをうかがってくる。本を読むことに集中しててほったらかしだった、ごめんよ。
「いや、あの本はやっぱりただのルールブックだな。恐らく俺と同じ世界から来た人間が描いた物だろう。この世界と俺の世界との差を書き綴ってあるものだ」
「そう、ですか……」
あからさまにほっとしてるな。まぁ、あんな風に思っていた本を読み進めていた人間が、いきなりデッキを出したら困惑もするか。ライフやマナ、オドはまずルールブックを読んで確認してみよう。
「ひとまず読みながら確認してみるよ。それで疑問が出たらメアリーに聞いてもいいかな?」
「はい、わかりました」
「ルールブック」
デッキをルールブックに変え直して続きを読むことにする。
『カードについて。
この世界ではカードを「契約の証」と呼ばれているがこの本では元の世界に伴いカードと言うよ。めんどいからね。
召喚者を呼び出すには最低でもその召喚者のカードを一枚以上入手する必要がある。
召喚の仕方は向こうの世界のルールと変わらない。
召喚に必要なだけなマナを用意し、召喚者の名前を呼び出し【コール】すればよい。
また、同名のカードを複数持っていても一度に召喚できる同名のカードは一枚だけである。
ただし一枚目が撤退した後に同名のカードがあればすぐに召喚する事が出来る。
所持カードが残り一枚もない場合。撤退カードは再使用に日数が必要となりその日数はレアリティによって変わる。
コモンなら一日、アンコモンなら三日、レアなら五日必要となる。
また、呪文などにもクールタイムがある。
ただし、呪文のクールタイムは召喚者とは違いカードによって異なる。
カードは向こうの世界とこちらの世界で効果が違うものがある。デッキサーチ系の効果などは変わっていることが多い。
カードの入手方法については後述するが私の方法が通用するかどうかはわからないので参考程度にしてくれ。』
いくつか気になることが書いてあるな。
呼び出すのはそんなに難しくなさそうだ。細かいやり方はメアリーに聞いてもいいな。
同名のカードは一枚までしか出せないってことはボード上ではハイランダーみたいになるわけか。
同名のカードで行うコンボは実質不可能になるわけか、一部の戦略は使えないと思った方がいいな。
召喚者と呪文のクールタイムは割と重要な要素だな。一度手に入れてしまえばマナが許す限り無限に呼び出せるも同義だ。うまく使えばそれだけで戦力になる。
カードの入手方法まで書いてくれているのは助かるな、うまくいけば儲けもん位に考えておいた方がよさそうだが。
『ライフについて。
ライフはこの世界での自身の存在力になる。
ライフが無くなれば存在ごと消滅する。
これはすべてのコントラスターにいえることで、この世界のコントラスターも同じだった。
ライフの上限については詳しく調べることはできなかった。
ただし、何か事が起こってからライフを増やしても精々二倍までしか増えなかった。
また、ライフが大きくなればなるほどオドの回復が遅くなっていくことも確認した。』
これは生死に関わる重要な案件だな。生命線であるライフが中々おかしなことになっているな。
公式ルールではライフの上限はなかったはずだがこの世界ではあるようだ。
ライフが減る条件はやっぱり直接ダメージを食らう事なのか?
しかし、ゲームではライフが無くなると負け。で、すんだが現実ではそうもいかないだろう。
そもそも物理的に傷ついたり病気になった場合は影響があるんだろうか?
こればっかりは書いてないからと言って試すわけにもいかんからなぁ。
まぁ、いいや次にいこう。
『マナとオドについて。
マナとオドはこの世界でも扱いはほとんど変わらなかった。
ただし、マナを溜めている時にライフにダメージを食らったときに起こるバーストについては非常に気を付ける事。
この世界ではアクティブターンなど存在しないのでダメージが即反映される。
基本的にマナは溜めないほうが賢明だと言える。
オドは人により条件が異なるが、既定の日数を超えると最大値が増え、なおかつ使用分が最大値まで回復する。
ただしこれに関しては増える条件がよくわからない。
また、最大まで回復しないときもあった。』
マナに関してはゲーム時代からあるシステムがそのまま反映されているのか。
マナを展開したままライフにダメージが通ると起こるバーストが怖いな。
バーストは溜めていたマナがそのままダメージになりかつマナが消えてしまう。
公式ではマナの暴走が自身にダメージを与えるためって言ってたっけな。
オドに関しては知りたいことは知れなかったな。なんか他の項目と違って分からないことが多いみたいだ。
恐らく規定日数による最大値の増加と最大値までの回復がゲームの時の名残なんだろう。
これはあとからメアリーに聞いた方がよさそうだ。
『契約について。
新しいカードの入手法を記載しておく。
この方法はこの世界のコントラスターにはできない方法もあった為、私にしかできない可能性も高い。
しかしながらこの本を読める人間であれば、この条件でも入手できるかもしれないので書くだけ書いておく。
・この世界にいる人と直接契約を結ぶ。
コントラスターとしてこの世界に住む人と契約を結ぶことで契約の証を手に入れる事が出来る。
・契約の地へ赴き、コントラスターの登録を行う。
トレカに存在していた建造物にはコントラスターにしか分からないマナの流れがある。
そこで自分のマナを必要な分だけ流すことで建造物のカードが手に入る。
・イベントにて入手する。
よくわからないが色々な条件を満たすことでカードを入手できることがあった。
統一性などは無く、どんなきっかけで入手できるかも不明。
・デッキにある、入手済みのカードをシングル買いする。
購入するには【功績ポイント】が必要になる。
すでに持っているカードしか買えない。
ただしよく使う呪文やコモンカードなどは安いので買っておいてもよいかもしれない。
・最大六十日毎に出てくるパックを購入する。
購入するには【功績ポイント】が必要になる。
なぜかはわからないが約六十日を経過すると向こうの世界と同じパックが買えるようになっていた。
買えるパックは古い物から順番で、第一弾から買う事が出来た。
ただし、この六十日が早まることもあれば、いきなり複数のパックを買う事が出来るようにもなったりした。
パックを購入できるようになるタイミングでデッキからお知らせが届いていた。』
カードを増やす方法が思いのほか多くてびっくりした。しかし、これは書いた人間にしかできない方法もあるかもしれない。
本当にカードの購入ができるのであれば戦略面でかなり余裕が出来る事になる。しかし購入に必要な功績ポイントというのは何だろう?
最後の購入期間六十日っていうのは向こうの世界の発売日と同じなのか。奇数月の十日といえばカオスアメイジングの最新弾の発売日だった。
『これがこの世界で私が得た知識だ。
誰かはわからないが役に立つことを願っている。』
やっぱり、書いた人はいい人だな。俺にはとてもじゃないが見ず知らずの人間のためにここまではできんと思う。
まぁ、書いた人の事はいいか。いくつか気になったことをメアリーに聞くとしよう。
「メアリー、ひとまず読み終わったよ」
「それで、その、何か分かりましたでしょうか」
「あぁ、メアリーに聞きたい事、俺自身で確認したい事、検証したい事はたくさんあったけど、この世界を破壊するような手段は何も書いてなかったよ」
「それではやはり?」
「あぁ、俺たちの世界からこの世界に来た人間がコントラスターとして戦えるようになるための指南書みたいなもんだった。」
「よかったですわ、それで聞きたい事とは?」
「あぁ、そうだな幾つかあるが、メアリー達こちらの世界のコントラスターはどうやってカード、契約の証を増やしている?」
「それはもちろん契約することによってですわ。対象を召喚し契約する方法ですわ」
「それ以外には?」
「聞いた事がありませんわ。ですから今回の事は完全に例外だと思っておりますわ」
なるほど、この世界のコントラスター達は基本的に召喚して契約。という方法でしかカードを増やす事が出来ないみたいだ。それ以外の方法は順番に試してみるしかないだろう。功績ポイントっていうのも気になるしな。
「なるほど、じゃあ次だ。メアリーはオドをどのくらい持っている?」
「今ですか?」
「あぁ、今と最大の量を教えてくれると助かる」
「今の量はアツム様の召喚によって4まで減りましたわ。そして最大値が8ですわ」
「あ、ありがとう」
俺の数字が高すぎるのか、メアリーの数字が低すぎるのか。
向こうの世界基準で考えるならメアリーの数字基準でも問題ないはず。
「どうかなさったのですか?」
「いや、俺の最大値がおかしな事になっているからな」
「大丈夫なのですか!?体に異変などはありませんか!?」
「あぁ、そういう異常ではない。さっきデッキで調べたら最大値が1000あったんだ」
ピシっと空気が固まる音がした気がする。メアリーの顔が仮にもお姫様がしてはいけない顔になっている。
「やはり、そういう意味では異常なのだろうな」
「……オドをそれほど持っていらっしゃる方というのは、歴史に残るほどの方でもいなかったと思いますわ」
「ちなみに歴史に残るほどオドが高い人物ってのは?」
「その名前の由来ともいえる方で、お名前を「オドリセス=フォード」という方ですわ。全盛期には100を超えるオドを持ち、コントラスターの力をふるったとか」
なるほど、そう考えると文字通り桁が違うな。
「オドというのは人が体内に貯めているマナというのが有力ですわ」
「体内のオドを体外に出すことでマナとするってわけだな」
「はい、しかしオドにおいては体内で回復する。というのが一番の特徴だと思います」
「オドの回復が早まったり、遅まったりする事はあるのか?」
「早くなるというのは聞いた事がありませんわ。こちらは長年研究されているテーマでもあります。逆に遅くなるというのは多々ありまして、よくある現象としては体調が悪いだけでオドが回復しないという事もありますわ」
オドの回復はコントラスターとして生命線だからな。知りえる限りの事は知っておいた方がいいだろう。
「メアリー、後々でいいからオドが回復しない、遅くなるなどの事例をまとめておいてくれないか?」
「わかりましたわ」
「できうる限りでいいからなるだけ多く頼む」
「はやく回復する方は良いのですか?」
「あぁ、はやく回復するに越したことはないが緊急性が高いわけじゃない。それよりもオドが回復しないことになる方が問題だ」
オドが無くなるっていうのはカードが使えないってことだ。手札がいくらあろうともそれを使うためのリソースが無けりゃあ使えない。まさに宝の持ち腐れになる。はやく回復すればそれだけリソースが多く使えるってことで有利にはなるがそれだけだ。どちらの方が重要かなんて考えるまでもないな。
「なるほど確かにそうですわ。なぜ今まで気が付かなかったのでしょう……」
「そういう風潮だったってだけだろ。気にするようなことじゃない」
「そう、でしょうか?」
「そんなもんだ、じゃあそれについては頼むな。次の質問だ」
「は、はい」
「増える減る関係でライフだな。これも命に直結してるからできるだけ知っておきたい」
「と、申しますと?」
「まずはどんな条件で減るのかだな」
これを知らないと迂闊に行動もできない。もしもちょっとしたけがでライフが減るなんてことになったら訓練すらできないぞ。
「一般的には召喚者の攻撃を受けると減ると言われております」
「ん?一般的には?」
「はい、わたくしもアツム様以外のコントラスターとお会いしたことはございません。今までライフが減ったことがないのですわ」
「マジかぁ、メアリーはこの国で一番のコントラスターって聞いてたんだけど」
「それは今現在この国には、わたくし以外のコントラスターはいないからでは?」
「……そういうことか」
「あの、ご期待に沿えなかったようで申し訳ありませんわ」
「いや、メアリーのせいじゃない」
「しかしながら、アツム様がいらっしゃる以上わたくしは二番目になりますわね」
「そんなことないんじゃない?」
「いいえ、わたくしには膨大な知識も、大量のオドも、たくさんの契約者も、呪文もありませんから」
「うーん、スペックだけでいうなら俺の方が上かもしれないけど、メアリーにはコントラスターとしての知識がしっかりとあるだろう?むしろそれがない俺はどれだけのスペックを持ってても使い切れないポンコツだぞ?」
「そ、そのようなことありませんわ。ですが、わたくしはあのような契約でもできたことには感謝すべきなのかもしれません」
「ん?どうして?」
「やはりわたくしではコントラスターの力量だけでもアツム様の足下に及びません。わたくしはこの国の王家の一端であり、それと同時にこの国唯一のコントラスターなのです。どのような内容であれ大きな力を借りられる契約ができたことには感謝すべきかと」
なるほどな、自分自身に確かなプライドを持っているのか。それを自分自身で昇華しようとするのは好ましいだろうな。
「俺と契約したのはメアリーだ。俺の力を貸す以上俺の力もメアリーの力だ。違うか?」
「アツム様はお優しいのですのね。そういう事にしておきますわ」
「そもそも一緒に戦うんだろう、それならどちらが優れていても問題ないだろう?」
「そう言われればそうですわ」
「だろ? そもそも気にするだけ無駄さ」
「ありがとうございますわ」
「それじゃあ話を戻すよ。ライフについてなんだが」
「あっ、ハイ」
「メアリーはけがや病気をしたことはあるかい?」
「怪我は覚えがないですが、病気なら何度か」
おいおい、怪我をしたことないってマジか。実はメアリー結構な箱入り娘なのか?
「それじゃあ病気をした時にライフが減ってたりしていたか?」
「あっ、考えたこともありませんでした。体調が悪い時にデッキを出したことがないですわ」
それもそうか、しかしそうなるとライフが減る条件が見えないな。命に直結する事は確かな確証を得ておかないと不安でしょうがないな。
「そっか、ありがとう。この辺は早いうちに検証しておこう。何かあってからじゃ遅い」
「ハイ、わかりましたわ」
「それから、あとは……そうだ! デッキ」
俺の手にデッキが出てくる。カードを増やすうえで気になっていたことがあったことがある。
「どうかなさったのですか?」
「まぁ、ちょっとね。功績ポイントの表示」
―――――――――――――――――――――――――――――――
コントラスター 京極 集
ライフ 20
マナ 0
オド 1000/1000
功績ポイント 0
撤退場情報
撤退者
なし
クールタイム呪文
なし
―――――――――――――――――――――――――――――――
思った通り表示は出てきた。だけどやっぱりポイントは0の様だ。そこまで甘くはないって事か。
「こうせきぽいんと?」
「あぁ、メアリーもデッキを出して同じように表示をしてみてはどうかな?」
「もしやデッキの拡張機能ですの!?デッキ、こうせきぽいんとの表示」
「あぁ、これが拡張機能になるのか」
「アツム様!出ましたわ!功績ポイントですわね!」
なんかメアリーがスゴイはしゃいでいる。
「スゴイですわ! スゴイですわ! ポイントも600もありますわ!」
なん……だと……!?
メアリーはすでに功績ポイントを持っているのか!? いったいなぜなんだ?これがもらえる条件も分からん。これも早いとこ解析したいが、何かあるたびにデッキをこまめに確認するしか方法が思いつかない。
「アツム様! アツム様! この功績ポイントは何なのですか?」
「落ち着けメアリー。これは先ほどのルールブックに書かれていたことの一つだ」
「まぁ! それではやはりあの本はコントラスターの指南書だったのですね! スゴイですわ! ですわ!」
何だろう。はしゃいでいるメアリーは可愛いんだがなんとなくアホの子みたいだ。
「それでそのポイントを使うことで新たなカードを増やす事が出来るみたいなんだ」
「新たなカード……?」
「あぁ、新たな契約の証だな」
「す、凄すぎますわ! どうやるんですの! はやく、はやく教えてくださいませ!」
「それが分からないんだよ。それができるってことは書いてあるんだけど、どうやってそれをやるかは書いてないんだ。だからそれをやるためにいろいろ試してみなきゃなぁ」
と、なぜか周りが騒がしい。たしかメメルさんが人払いをしていたはずだよな?
「御注進! 御注進! 姫様、メアリー姫様はいずこか!」
「なんですか、騒々しい! 今ここは立ち入り禁止の命を出しているはずですよ!」
急に兵士っぽい人が部屋に入ってくる。メメルさんはものすごい剣幕で怒ってるな。やっぱり人払いをしていたからだよね。ちょっと疑っちゃってごめんよメメルさん。
「申し訳ありません! ですがメアリー姫様に御注進で御座います!」
「メメル、下がって。サブロー、内容を聞かせて」
メアリーの顔が険しくなった。御注進ってどんな意味だっけ。何か大変ってことぐらいしかわからんな。
「はっ、首都コウカン北の広場にて闇の世界の者が侵入。召喚者と思われる者が市井の者を攫っているようです!」
「なんですって!」
「これにより軍部と姫様へ緊急出動命令が国王陛下より下知されました。姫様に置かれましては召喚者の対処を命じられております」
「召喚者が? このコウカンに?」
「はっ! 足元に魔法陣があったとの事なのでほぼ間違いないかと。しかしながらコントラスターの姿は確認されていません!」
「分かりましたわ。お父様には支度が出来次第、早馬車で向かうとお伝えください」
「御意! それでは失礼いたします!」
兵士の人は来たとき同様バタバタと外へと出て行ってしまった。
しかし、聞いた内容が内容だな。こりゃ早くも一戦だな。色々試してから初実践といきたかったが、現実なんてこんなもんだわな。与えられたカードで最善を切るしかないんだ。まぁ、今ある手札で凌ぎきってやるよ。
「メメル聞いていたわね、城の北の門にわたくしの早馬車を早急に用意させて」
「至急用意させます!」
「アツム様」
「ん?」
「大変申し訳ないのですがお話は一端ここまでにさせていただきますわ。都内に賊が入り込みました。わたくしでなければ対応できない相手ですので行ってまいりますわ。アツム様はここでお待ちいただいて構いませんので」
「何言ってるんだ?」
「え?」
どうしてここでそんなこと言っちゃうかね。俺が何でここにいるかは知れないが、何のためにいるかどうかはさっき二人で決めたじゃないか。それに答えなきゃ俺が契約不履行になっちまうじゃないか。
「ついていくに決まっているだろう? メアリーはそのために俺を呼んだんだろう?」
「で、ですがアツム様は実践をなされたことはないのでは無いですか?」
「それを言うならメアリーだって一緒だろ? なに知ってるさ、その位」
「危険ですよ?」
「なにを遠慮しちゃってんのかねぇこの王女様は。こんな時はただ一言いえばいいのさ」
「え?」
「【契約において命じる】ってな。その為の俺たちの契約だ」
「……ありがとうございます」
「礼は後、全部終わったらだな」
「それではアツム様、【契約において命じますわ】わたくしの賊討伐へ力をお貸しください!」
「了解!」
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