Clear Man
追い込まれる。早送りの世界。日が昇って、ただ落ちるだけ。
夕暮れを見るたびに、やるべきことを整理して、今日はもう眠たいと思ううちに、気が付けば次の日が昇る。
そうした日々を繰り返すうちに、少しずつ信頼が消えていく。
僕は、信頼だけが頼りだったのに。
もう一年も終わろうとしている。
十二月半ば、だんだんと冷え込みが厳しくなって、朝、布団から出るのが苦痛になった。朝方から昼にかけては、日が落ちた夜半の寒気を引きずって、やる気の炎も燃えない。
だから、追い込まれている。
やるべきことはたくさんある。
なのに、怠惰は静かに心の細部にまで浸透していた。
怠情を芯に置いているときは、日々の流れが恐ろしく感じる。
その恐怖がまた怠慢を誘発する。
もう何もしなくてよくなれば、それ以上の幸福は無いのに。
こうした日々の中でふいに、僕の胸で八月の海みたいにきらきらしていた初心の熱さはどこに行ったのだろうかと考えることがある。
僕の胸にあった情熱は、血管や食道を経由して、溜息と一緒に口から漏れ出たら、空気に交じって昇って行って、今頃は宇宙を彷徨っているのだろうか。
今の僕は、凍結した道路みたいにつるつるしている。
それは、ちゃんと磨いた鏡みたいに誠実な感じではなくて、悪い意味でまっさらなのだ。人というのは、良くも悪くもざらついて、個性があるものだ。今の僕みたいな人は違う。自我を忘失したみたいに主張がない。
僕はただその氷上を滑って、風が吹くままにあっちこっちしているのだ。
海の真ん中でオールを無くした小型ボートみたいな不安を感じる。
いつかどこかにたどり着けるのだろうかと、漠然とした恐怖に身を置いて、そのくせ自分でなんとかしようとしない。
なぜ僕がこんな恐ろしさを感じるのかわからない。
初心がなぜ宇宙に居るのかわからない。
八月の海が、アダムとイヴが去った後のエデンみたいに寂しそうで、今も細波で泣き声をこぼしている。そして、春を見ても、夏を見ても、秋にも冬にも、僕が居ない。
加熱された想いは外気で急激に冷めて、今は凍結した道路に交じって息苦しそうにしている。僕はそれをときおり思い出して、まだ僕が、過去の熱情を覚えている事に安堵して、それに自己満足してまた氷上を滑る。
こんな日々がやたらと続いて、ふとした瞬間に、体に切り傷がある事に気が付いて、僕はまたざらついた道路を歩くのだろうけれど、今はまだ日が昇って、ただ落ちるだけ。
A Man stormers @stormers
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