夜に落ちる

 夜。

 学校の屋上に、私たち二人だけがいた。


 午後八時。

 空には星が光っていて、屋上は星と月の明かりだけで輪郭を保っていた。

 一つ一つの境がぼやぼやしていて、とても暗い。


 ふっと薄目になると、私たちが宵闇に溶けてしまう錯覚に陥る。

 そうなれば二人が一つ。

 わずらわしさと一緒に、きっと静かに亡くなれる。


 ねぇ、そろそろ行こうかと美奈が言った。

 私はそっと頷いて美奈に寄り添う。


 思えば逆境ばかりだった。

 とかくこの世は住みづらい。


 大多数無宗教派の世の中には独自の宗教的常識が芽吹いていて、大衆化した否定肯定の基準が私たちをどんどん端に追いやったのだ。


 しかし、もうどういった心配もない。

 他人にどうこう言われようもないのだから。


 これからはずっと一緒。鉄柵を超えて、一歩で落ちた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る