二話:翌日の決まり
二日酔いの頭痛と格闘しながら僕は鎮痛剤を飲む。
酒を飲むのは構わないが、徒野に片付けを切実にしてほしかった。
いくら綺麗じゃない状態が怖い僕だからと言って酔いつぶれてしまえば片付けが出来ないのは当然で、テーブルの上には無数の瓶ビールが転がっていた。
徒野は二日酔いなど存在しないといった具合に朝から元気におきて、リビング兼事務所の事務机で偉そうに本を悠々と読んでいた。
せめて、片づけをしてほしい。
「徒野。酒を飲んだら片付けをしてくださいよ」
一応注意をするが返事はなかった。徒野の方が年上のはずなんだが、どうにも子供の面倒を見ている気分になるし、反抗期かよ! と叫びたくなる。
ため息をつきながら、瓶ビールを手に歩く。振動が頭に響いてズキズキと痛む。
鎮痛剤が利くまで横になれればいいのだが、部屋が汚いと片づけを優先したくなる。
瓶ビールを分別のごみ箱に入れると一杯になった。
いつ瓶の回収日だったか――と考えて青ざめる。週に一回しかない回収日は今日だった。
しかし、二日酔いのせいで目が覚めたのは昼過ぎだ。当然ゴミ収集車はもう瓶を回収している。
「あぁぁあしまったぁぁあ」
来週まで、瓶を回収できないとかと落ち込む。
以前は瓶を回収していたスーパーが近くにあったのだが、今月から瓶の回収をやめてしまった。
なんと間の悪いことだろうと落胆しながらも、仕方ないからもう瓶を徒野に出したりしないようにしようと僕は誓った。せめて来週までは。
ゴミが増えなければ表面上は綺麗なままだ。綺麗だから大丈夫と自分を安心させるための暗示をかける。
――大丈夫。綺麗だ。
目を瞑ってから開く。視界に広がるゴミ箱は蓋つきだから外に溢れていることはない。
「徒野。片付けができないなら暫くは禁酒ですよ!」
台所からリビングに戻ってから、片づけをしてくれと切実に訴える。
「二日酔いか」
「えぇ。頭がガンガンしています」
「頭が痛いのならば放置しておけばいいだろう」
「無理ですって」
綺麗なじゃない状態は落ち着かない、怖くて無理だ。
酔いつぶれて何もできなくなっていたわけではないのだから、我慢できる程度の痛みは身体を動かせないわけではない。
「知っているか? 葛がインフルエンザに罹ったら、部屋がごみ屋敷となることを」
「……予防接種にいかなきゃいけませんね」
予防接種にいったところでかかるときはかかるのだが。その時は仕方ない、身体に鞭をうってでも片付けよう。ごみ屋敷に住むとか心が耐えられない。
「そうだな。金を出してやるから予防接種にいってこい」
「徒野は行かないのですか?」
「注射は好きじゃない」
「ガキですか」
僕より年上なのに子供っぽいことを言う。
「子供と大人差別だ。大人だって嫌いなものは嫌いなんだからな」
まぁ徒野は子供のような外見と大人のような雰囲気両方を醸し出しているから、子供っていっても通じそうな気配がないわけではない。けれど童顔かと言われれば違うと答えるだろう。微妙で、曖昧な境界に徒野はたっている。足元まで伸ばした髪の毛に手を触れる。柔らかく伸びた髪には枝毛が見当たらない。
「安心しろ。葛がインフルエンザに罹ったら、家政婦を雇う」
「ダメですよ。家政婦さんがインフルエンザに罹患したら困ります」
「私は構わないのか!?」
「予防接種をしない徒野が悪いのです」
徒野ならばインフルエンザに罹患しなさそう。隣でマスクもしないでゴホゴホしていても風邪ひかないし。
「お前は私を超人だとでも思っているのか」
考えが顔に現れていたのか徒野は眉を細めながら抗議してきた。
「徒野ですから。昼食は少し鎮痛剤がきいてきたら作りますから暫く待っていてくださいね」
本当はすきっ腹に薬を飲むものではないのだが、致し方あるまい。飲まないと動けないのだから。
三十分後、割と動けるようになったので台所に立つ。
徒野の好物を作ろうかと思ったが卵を切らしていたので、スパゲティーミートソースにすることにした。
徒野が嬉しそうに手料理を食べてくれるのは、いつものことながら嬉しい。
もっと、料理の腕を磨いて徒野に喜んでもらいたいと思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます