第4話 焼け落ちた羽衣

 喫茶店という空間は不思議なもので、ここにいるだけで日常から切り離されたような気分になる。落ち着いた雰囲気の中に漂う、コーヒーの香り。他に混じっているのは軽食として提供される、サンドウィッチやパスタ類の匂いだろうか? 難しいことは分からないけれど、嫌いな香りではない。慣れてくると心を鎮めてくれる、そんな効果があるように感じる。

 ここでなら慌てることなく、必要な情報を教えてもらえそうだと安心していた私に、最初から大きな衝撃が叩きつけられた。可能性としてはゼロだなん思ってはいなかったけれど、それでもこれはあってはならない話。私達がここに来た意味も、彼等をここに呼び出した意味も、全てがひっくり返ってしまった。

「つまり、佐藤君が吉田さんの彼氏であるという認識自体が誤り。そして、鈴木さんが浮気相手だというのも、間違っているということですね?」

 私達の関わっている案件、その相談者である吉田さん。彼女からは、彼氏が浮気をしているみたいだから、彼氏や相手の子に聞いて、事実を確認して欲しいと頼まれていた。正直なところ、最初に警戒していたのは、親友である鈴木さんが、この場に来てくれないこと。関係ないと言い張って、この場に来なかったり、来てくれたとしても何も喋ってくれなかったり。そんなことを心配していたから、口を開いてくれただけでも感謝しなければいけないんだけど。ちょっとこの衝撃は大き過ぎて、すぐに飲み込むことが出来ない。

「はい、僕達は高校に入る前から付き合っていますから。吉田さんも知っているものだとばかり思っていましたよ。どうして、そんな勘違いをしたのか僕には分かりません」

 こんなところに呼び出されたというのに、落ち着いたままで話してくれる、ちょっと背の高い男子。高校生として考えると結構声が低い感じがするけれど、こちらもまた真面目そうな印象を受ける、良いもの。なんだか、若い梅原さんを見ているようだ

「最近、様子がおかしいとは思っていましたが。まさかそんな勘違いをしていたなんて……小百合は、ちょっと思い込みが激しい子だからなの?」

 その隣に並ぶ鈴木さんは、小さな身体を大きく使い、オーバーリアクションで今の気持ちを伝えてくれる。こちらは落ち着いている雰囲気を壊しそうなほどにパワフルで、高校生らしさが感じられる。吉田さんの親友だと聞いていたけれど、随分と方向性が違う子だね。女子では珍しいんじゃないかな?

 どちらにしても、佐藤君と鈴木さんがお付き合いをしていて、吉田さんはただの友人との回答が得られたばかりだ。悲しい現実ではあるけれど、吉田さんが勘違いしていた為に話が大きくなってしまっただけで、実際のところは何か特別な事件があったということでもなく、なぜか吉田さんが勘違いしてしまったというのが、事の真相らしい。予想通りというべきか、厄介なことになりそうです。

「1つ質問ですが、お二人が恋人関係にあることを、吉田さんに直接説明されたことはありますか?」

 それが事実だと2人が口をそろえて言うし、逆に言えばそれ以外のことを聞けないから、私達としてはどうすれば良いのかが分かり辛い。出来ることと言えば、2人の状況を少しでも詳しく教えてもらって、吉田さんに説明出来るだけの情報を集めるしかない。それくらいはしなければ、私達がここに来た意味自体がなくなってしまう。

「ないですよ。正直なところ今更って感じですし、親友だというのなら気付いて欲しいです」

「僕も、その、言いふらすようなことでもないかなって。部活の連中に冷やかされるのも嫌だし。僕から吉田さんに伝えるのは、おかしくないですか?」

 顔を見合わせた後、それぞれの意見が私達に告げられるけれど、2人とも話したことはないと。恋人関係になってから、それなりの時間が経過しているらしく、かなり呼吸があっているように感じられる。周りにいる他の生徒達は既に気付いているみたいだけど、吉田さんには伝わっていないみたい。

 以前に話した感じだと、おっとりとした雰囲気が漂っていたし、それが理解していない原因だろうか?

「本当にお付き合いをされているようですね。でも、それなら、どうして吉田さんは勘違いしてしまったのでしょうか? 何か、心当たりはありますか?」

 親友なら気付いて欲しい。そう言っている鈴木さんの意見は分かるけれど、逆に言えば親友だからちゃんと伝えて欲しいと言われてもおかしくはない。ここについては2人の関係性によるから私から突っ込むつもりはないけれど、他人の善意に頼ることを前提にしてはいけない。それはマイナスを積み重ねる関係になってしまうから、どこかで崩れてしまう。減点式の評価というのは、お互いの欠点ばかりが目立ってしまうからお薦めは出来ない。

「その、心当たりというほどではないんですけど。前に小百合が告白に失敗した時に、あまりにも落ち込んでいて可哀想だったので、健二に相談に乗ってくれるようにお願いしたことがあります」

 失恋においては、同性からのアドバイスが耳に入らず、異性からのアドバイスのみで立ち直れる人がいると、これもまた本で読んだことがありますね。感覚の違いが良い刺激になるとありましたが、吉田さんはそのタイプなのでしょうか?

「僕としては何を話していいか分からないので、微妙だったんですけど。彼女の頼みは断れないので」

 普段は下の名前で呼んでいるみたいですね。鈴木さんは人前であったとしても照れることなく、普通に呼べるみたいですが、佐藤君の方は彼女呼びですか。こういったところに性格の違いや、感覚の違いというものが現れているのかもしれませんが、鈴木さんが優位に立っていることは間違いないでしょう。

 恥ずかしいと感じていること自体を責めるつもりはありませんが、はっきりと口にしないというのは誤解を招く原因にもなりますので、もしかしたら無意識の内に吉田さんの気を引くような言動を取り、その誤解を晴らせていない可能性もありますね。

 彼女の頼みだからと、あまり乗り気でなかったのも起因しているかもしれませんが、佐藤君自身は良い彼氏なのでしょう。

「でも、話を聞いていただけですから、別に変わったことはしていませんよ? アドバイス出来るような経験があるわけでもありませんし」

 ただ、失恋した友人を励まして欲しいと、彼氏にお願いするのは一般的なのでしょうか? 親友という関係性だからこそなのかもしれませんが、その行動自体に危険性があったことを鈴木さんが把握していなかった可能性もありますね。親切心だとしても、相手にそのままが伝わるという保証はありませんし、何より落ち込んでいる状態で優しくされると心が動いてしまうこともありえるみたいですから。特別に何かがなかったとしても、ある程度の勘違いを招いてしまうことは、理解しておくべきでしたね。

「その時は、既にお付き合いされていたんですか?」

 もっとも、そこのこと自体を直接的に言及することは出来ませんが。

「そんなに前のことでもありませんから。そもそも、私と小百合が出会ったのは高校生になってからですよ?」

「なるほど、なるほど」

 ふむ、お付き合いを始めたのは中学生から、吉田さんと出会ったのは高校生からですか。そうなれば、既に知っている友人達が口を出すこともないでしょうし、吉田さんへの改めての説明がないことにも納得出来ます。

 ただ、この程度の話であれば、全てを信じることは出来ませんね。ある程度会話で揺らすようにしていかないと、この二人が口裏を合わせているだけの友人という、そんなオチが待っている可能性も捨てきれません。どこかで隙を見つけられそうであれば、積極的に突っ込んでいかなければ。そうすることで関係性を明確にしていけば、こちらの理解も深まりますから、不愉快に感じられない程度には質問していきますよ?

 それにしても、エピソードとしてはその程度ですか。確かに吉田さんは落ち込んでいたでしょうし、告白に失敗したということであれば、異性に慰めてもらえるというのはいい環境なのかもしれませんが。それだけで、勘違いすることはありえるのでしょうか? 私自身に恋愛の経験がないため、正直よく分かりません。ただ、他に思いつくことがないのであれば、これから原因と呼べるものを組み立てていくしかないですね。

「他に思い当たることがないのであれば、残念ながらそれが原因かもしれませんね。彼女のいる男性は余裕が出来ることにより、女の子の扱いが上手くなる傾向があります。お嬢様であることもあり、成れていなかった吉田さんは勘違いしてしまったのでしょうね」

 原因として見る時、最初は仮説でも構わない。それを基盤として組み立て、肉付けを行い、そこに色を付けていくような形で話を広げていく。これは作り話でしかなく、彼女達の事実とはズレているのかもしれないけれど、そこに修正を加えていく形でしか、私達は全体像を掴むことが出来ない。全体像を掴まなければ、対処方法を検討することも難しく、当然のように解決するのも難しいでしょう。私はあくまで、案件を解決するためにここにいるから。怒らせない程度の範囲で、仕事は仕事でこなさないとね。

「女の子の扱いに慣れてるって言われても、僕は美代以外の子と付き合ったことなんてありませんよ?」

「おっと、これは誤解を招くような言い方をしてしまい、申し訳ありません。単純に、彼女の居る男性は余裕が出来るため、女の子への対応がすごく柔らかくなるんです。興味が薄れてしまうんでしょうね。その余裕に惚れてしまう子というのは、世の中に一定数いるようですから」

 男子高校生に対して男性と呼ぶのは、どうかとも思うけれどこの場合は仕方がないでしょう。折角情報を提供してくれているのに、ここで下手なことを言ったままにして、情報を遮断されてしまうと厄介ですから。何より、彼女持ちの男性に惚れてみたり、彼氏持ちの女性に惚れてみたりというのは、世の中珍しい話ではない。フィクションではいくらでも溢れているし、現実に裁判沙汰にまで発展するケースも存在する。だから、相談に乗ってもらった結果として、吉田さんが恋心を抱くのは、そこまで不思議な話ではありません。こんかいの案件とは別の問題考えるべきですけどね。

「それにしても、相談に乗ってもらって恋愛感情を抱くまではまだ分かるんですが。どうして、付き合っていると勘違いしてしまったのでしょうか? 相談に乗ってもらっただけでは、勘違いするような流れになるとは思えませんが」

 恋をすることと、恋人だと勘違いすることは、ラインが全く違うはずです。普通に考えれば、勘違いしろというのが無理な話であって、今回のような相談ごとには発展しないはずなんですが。これは、私の感覚がおかしくて、勘違いしても仕方のないものなんでしょうか?

「……僕を見られても困りますよ」

 恋人と勘違いする為には、どんなことを言われる必要があるのでしょうか? 失恋をした時に、そんなことばをかけてもらえば勘違い出来るのでしょうか?

「今時の高校生は、告白すらなしに恋人になっていたりするんでしょうか? 私には想像も出来ませんが」

「そんなことはないと思いますが、どちらにしても心当たりはないです。彼女の親友ですから、勘違いをさせるようなことを言ったら面倒なことになりますし。それに吉田さんは泣いてばかりだったので、ほとんど聞いているだけでしたよ?」

 ふむ、私の感覚はまだズレてはいなようですね。流石に今時だからといって、告白すらなかったり、相談に乗ってもらっているだけで恋人だと勘違いしたりすることはなさそうですね。そうなると、もっと直接的な行動に出ている可能性もありますが。いや、でも、それをそのまま伝えてしまうと、さすがに鈴木さんに起こられてしまいそうですね。ここは少し言葉を選んで、ぼやかした感じで探ってみましょうか。

「つまり、口説くような真似はしていないということですね」

「口説いてどうするんですか? 僕には彼女がいるんですから、変なこと言わないで下さい」

 ふむ、口説いてすらいないんですか? 世の中には浮気をすることに賛成してみたり、女性を見かけたらとりあえず口説いてみるような男性もいるというのに、身持ちが硬いですね。ん? この言葉、こういった場面で使うのは正しいのでしょうか?

 どちらにしても、口説いていないとなれば、本当に理由が分かりませんね。誘われたわけでもなく、告白イベントがあったわけでもない。それなのに、どうして恋人関係なんでしょうか?

「これはこれは、鈴木さんのことを愛しているようでなによりです。変なことを言ってしまい、申し訳ありません」

「……私は健二を信じています。だから、小百合のこともお願いしたんです。あの時は、こんなことになるとは思っていませんでしたが」

 横に座っている恋人の顔を、時々覗き込むようにしている2人。普通に考えればただ微笑ましいだけの光景だけれど、本当にそうなのだろうか? 相手のことを信頼していて、信用していて、覗き見ているだけなのだろうか?

 何かがバレてしまうのを恐れているような、相手の様子を伺っているような。そんなふうに疑ってしまうのは、私の心が汚れているせいでしょうか?

「予想出来たのであれば避けたでしょうし、仕方のないことでは?」

 この2人が恋人であることを疑わないとすると、この視線の交わし合いには何かの意味があるはず。温かいだけではない、プラスの感情だけではない何か。それが今回の案件に直接的に関係しているのかは分かりませんが、この雰囲気をずっとひきずられても困るんですよね。私の目的はあくまで情報の収集です、2人の間でのみ通じるコミュニケーションをやられても困るんですよ。私にもちゃんと教えて下さい。

「ところで、鈴木さんと吉田さんがお友達になられたのは、いつ頃なんですか」

 この話題のままだと、新しい情報は得られそうになりませんね。仕事としてこの場にいる以上、それでは困ります。話を進めて、話題を転がして、少しでも情報を集めていかないと。ここにきた意味がなくなってしまいます。

 こちらは仕事としてやっているのだから、成果を出さなければいけない。そうでなければ、今日のこの場が何も意味ももたないものになってしまうし、私達は完全な無駄骨となってしまう。情報を持って帰れなければ、どうしようもない。

「さっき話したとは思いますが、高校生になってからですよ。そろそろ1年たつのかな? 小百合は引っ越してきたって話をしていたので、こっちにはあんまり友達がいないみたいでした」

「なるほど。それなら、お二人のことを知らなかったのかもしれませんね」

 人伝に得られる情報というのは時限性です。私達が今欲しているものもそうですが、タイミングが悪ければ情報というのは正しく伝わりません。特に人の関係の場合、出来上がってしまっている。完成してしまっている状態だと、周りは分かっているのに自分だけに伝わっていない情報というものが出来上がってしまいます。

 そういったものは徐々に伝わってくるものなんでしょうけど、今回はそれが失敗しているケースということでしょう。周りが知っている恋人関係を、吉田さんは知らなかった。察することも出来ず、直接伝えてもらうこともなく、話題にするには過ぎ去っているので誰も説明してくれなかったとしたら? 知らなかったことについては、それで説明がつくかもしれませんね。

 それでもやっぱり、勘違いしてしまった原因だけは分からないですが。どちらにしてもその話を進める気はもうありません。会話が止まってしまうだけですし、同じ話ばかりをしていると、大人はつまらないと呆れられてしまえば、これ以上の情報が出てこなくなる危険性もあります。そろそろこちらからも伝えるようにしないと、質問ばかりしていては話題が尽きてしまいますね。

 確かに、お話を聞かせてくださいとお願いをして、ここにきてもらってはいますが、根掘り葉掘りと、このような疑われたような状態で話し続けるのは、気分も滅入ってしまいますね。今の状況を改善するための助言くらい、私の方から出させてもらいましょう。

「窓口担当として出来るアドバイスとしては、今更とは言わずに吉田さんにお付き合いしていることを、直接お話いただくのが早急な解決につながると思いますが、如何でしょうか?」

 当たり障りの無い意見、言われなくても分かっていること。それこそが、意外なほどに効き目があったりします。素直な意見こそ、心に届くものなんですよ。難しく考えすぎると袋小路に陥ってしまいますので、手の届くところにあるシンプルな答えというのが、状況打破につながるのも珍しくはありません。こういった不明点が多い案件にこそ、効果を発揮します。

「それは、恥ずかしいんですけど。話さないとダメですか?」

 まぁ、そういう返事になりますよね。分かってます、さっきからずっと言われていましたから。高校生としては当然の返事ですよ。私は言うだけで終わる立場ですが、鈴木さん達は直接伝えなければいけないのですから、大変さは違いますよね。

 けれど、その恥ずかしさくらいは乗り越えて欲しいものです。これからお伝えする言葉は、仕事からちょっと離れている部分になる、ある種のサービスですから。素直に聞き入れてもらえると、嬉しいですね。

「今のままですと、彼を取られる可能性と、親友を失う可能性がありますよ?」

「そうなんですか?」

「あの、僕は浮気なんてしませんよ? それなのに、どうして?」

 大げさに驚く鈴木さんと、疑われたことに怒る佐藤君。んー、いい感じのカップルですね、お互いを大切にしているのが伝わってきて、微笑ましい限りです。

 それなのに、分からないのでしょうか? 私の言葉を疑う前に、驚く前に、考えたほうがいいと思いますよ?

「思春期の女の子というのは、時に普段の立ち振る舞いからは想像も出来ないような、大胆な行動に及ぶことがあります。告白やお付き合いも、それに近いものがあるでしょう? だから、佐藤君だけが気をつけていれば、大丈夫と断言するのは難しいんですよ」

「勘違いしているのは小百合ちゃんなのに。私達が何かをしないといけないんですか?」

 ふむ、確かに鈴木さんの言い分が分からないことはないですよ? 今回の件に関して、根本的に勘違いをしているのは吉田さんです。鈴木さん達は巻き込まれた立場ということも出来るでしょう。

 けれど、巻き込まれてしまった以上は、何もしないという選択肢はいい未来には辿りつけません。その選択肢を選んでしまうということは、自分達の未来さえも、彼女の勘違いに任せてしまうことになりますから。

「鈴木さんも、恋人になるために努力をしたでしょう? そして、恋人であるための努力をしているでしょう? その一環だと思って、行動されたほうがいいと思います。勘違いだと分かれば、吉田さんとの関係も今のまま、友達のままでいられるでしょう」

 鈴木さんの視線を正面から受け止め、出来る限り柔らかく微笑んでみる。大丈夫、あの映像の中の私はいい感じの笑顔でした。多少引きつっているかもしれませんし、キャラには合いませんが無表情で見つめているよりは、ずっと気持ちが伝わりやすくなるはずです。後輩の前ですから、私もやれるってところを見せておかないと。手持ち無沙汰でうずうずしている荒井さんを、安心させてあげられないようであれば、先輩として情けない。

 それに、自分達だけでどうにか出来る問題と、自分たちだけでどうにも出来ない問題があるのを知って欲しいです。人の力を借りなければいけない時もあるでしょう。誰かに邪魔されてしまう時もあるでしょう。恋愛というのは2人の間にしかないはずなのに、周りの影響をあまりにも受けてしまう、不確かなものです。今回の件は、マイナスな影響かもしれませんが、乗り越えることによって将来的には、プラスとなる出来事に変えていくことも可能です。しかし、放置してしまうのならば、この先の未来を壊しかねないものになるでしょうね。

 だから、納得出来ないかもしれませんが、頑張って欲しいです。障害として躓かなくて良いように、この程度のトラブルは、笑って乗り越えられるように。恋人として強くなる為に必要だったと思ってほしい。

「そうですね。健二を信じたみたいに、小百合ちゃんのことも信じて見ようと思います。あの子、思い込んじゃったら周りが見えなくなってしまうから、今のままは良くないですね」

「んー、僕はそうは見えなかったけど。美代が言うのなら、それでいいよ」

 ここは、女の子と男の子の感覚の差かもしれませんね。コミュニティに求めるものが違うから考え方すら違うと聞きますし、鈴木さん達の年齢くらいからその差が如実になってくるのかもしれませんね。お互いの考えていることが分からない、最初の頃と違って冷たくなってきた、そんなすれ違いも経験する頃でしょう。いいですね、青春です。

「アドバイスありがとうございます。私から小百合ちゃんに、話してみますね」

「いえいえ、こんなアドバイスしか出来なくてごめんなさい。私としては、久しぶりに同年代と話せて、楽しかったですよ」

 この場において幸いだったのは、鈴木さんが話を分かってくれる子であり、佐藤君が分からないからと全てを質問しようとしないことですね。もしかしたら、こうやって男の子は男性へと成長していくのかもしれません。分からないこともそのまま飲み込める、私には難しいですが、彼には出来るのでしょう。

 ただ、分からないからといって放置するのは良くないですよ? 少なくとも、この話し合いが終わった後で彼女にたずねるくらいの、手間はかけて下さいね。そうしなければ、将来的なすれ違いが心配になりますから。

 まぁ、私は恋人すらいない身分なので、余計なお世話でしかありませんけどね。他人の心配をする前に、自分の心配をしろってやつですか。一応社会経験もある、大人の女性であるつもりですが、まだまだ子供ということでしょう。お酒すら飲めない年齢ですから、まだ頑張れるはずなんですが、私の青春ってどこにあったんでしょうね。

「何か疑問に思うところがあれば、お答えしますよ? こうしてお会いしたのも、何かの縁でしょう」

 それにしても、そろそろ自虐ネタが尽きるので鈴木さんには、どうしたいのかを早々に決めていただきたいのですが。先ほどから居辛そうに、もじもじしていますね。もしかして、トイレでしょうか?

 確かに男性陣の前で言い出し辛いのは分かりますが、それくらいで佐藤君が幻滅するとは思えませんよ。安心して口に出してよろしいのでは?

「あの、失礼かもしれませんが、天野さんがおいくつなのか、聞いてもよろしいですか?」

 どんな質問が飛んでくるかと、心配していたのに、その程度ですか。今回の案件にまったく関わらない、質問ですね。私が頼りないということでしょうか?

 なるほど、納得出来ないことはありません。年齢が近いから忘れそうでしたが、役所の人間としては私はありえないくらいに幼いですからね。荒井さんを押さえ込んで喋っているのも、不思議に感じるところでしょう。

 そこからつなげていけば、私に対する信頼と呼ばれるものが築かれていないというのも、無関係ではなさそうですね。ここら辺、吉田さんとはまったく別ですね。彼女はどちらかと言えば、こちらの言葉をそのまま信じてしまうタイプでしたから。

「十八ですが、どうかされましたか?」

 さて、この回答、この質問からどうつなげてくるのでしょうか? 私の、私達のどこに突っ込んでくるのでしょうか? 大人では聞けないような意見が出てきてくれると、私としては嬉しいですよ。折角、高校生と喋っているんです。後の頃ばかりを考えた、綺麗な言葉は要りません。そのままをぶつけて下さい。

「学校には行かないんですか?」

 そうきますか。いやいや、流石に予想していませんでしたよ。市の職員であることは名乗ったはずなんですが、それを信用されていないということですかね。まぁ、仕方がないと感じる部分があるのは、どうしようもないんですが。

 質問に悪意があるようには感じられません。私自身を試しているといった、そんな圧迫感もありません。はたして、この質問には意味があるのでしょうか? それとも、会話のつなぎとして聞いただけでしょうか?

 分かりませんね、鈴木さんが何を求めているのか、私が答えるべき言葉が。こういった、謎かけのようなものは得意ではないんです。今回の吉田さんの勘違いにしても、面倒ではあるんですよ?

「高卒認定を受けていますから、行く予定はありませんね。勉強が嫌いなんですよ」

「それなのに、市の職員ってなれるんですか?」

 これは、就職先についての相談なのか、それとも私自身への質問なのか。何かを考えている雰囲気はないし、企んでいるというふうにも見えない。ただ、油断は出来ないかも?

「高校卒業程度で職員としての試験を受けるのは、可能ですよ。その時の募集状況とかで随分と違いますけど、鈴木さんは市の職員に興味がおありですか?」

 就職先としての相談なら、受け付ければいい。私への疑惑なら、ある程度晴らせばいい。それだけの話でしかないから、会話を避けたり止めたりする理由にはならない。何を知りたいのか、細かいところは説明されないと分からない。

 高校生というのは、ある程度思ったことをそのまま口に出したとしても許される年齢のはずです。なにより、今回に関して言えば、こちらはお願いをして話を聞かせていただいている立場ですから、少々のことは気にせず、遠慮のない言葉をぶつけてもらって良いんですよ?

「それとも、私のことを疑っている感じでしょうか? ある程度のお話を聞いてしまった後になりますので、必要であれば私に関しては、ある程度の情報開示が出来ますよ?」

「いえ、その、考えてみたら不思議だなって。名刺を貰ったから安心していましたけど、市役所の人が恋愛相談くらいで、動いてくれるものなんですか? 窓口で話を聞いてくれるってだけなら、すぐに納得出来るんですけど」

 なるほど、これだからお役所仕事というのは面倒なんだよね。どうしても、動きが遅かったり、定時を過ぎたら何もしなかったり、冷たいイメージを持たれてしまっている。まぁ、私もそんなイメージを持っていた側だから、鈴木さんの言いたいことが分からないわけではないですが。そんなイメージの元で考えるなら、なるほど私達の行動が疑わしく思えてしまうのにもうなずける。これがせめて、業務委託をされている、民間企業の名刺であれば話が別だったのでしょう。

 いや、一度疑いだしてしまえば一緒ですかね。どちらかと言えば、架空の会社を名乗ることが容易である、民間企業のほうが警戒されますね。正直なところ、私としては吉田さんにひっかかりを覚えたから、この案件を長期として扱い、荒井さんの研修目的にさせてもらっているだけなんですよね。だから、そこまで疑われると、正直面倒です。これなら、就職関係の相談の方が楽でしたね。

 こちらから提示出来るのは、私の情報、次点として荒井さんの情報くらい。後は、窓口での業務内容程度であり、正直信用して欲しいと言えるだけのものはない。

「んー、個人的には鈴木さんが疑っているのも分かりますが、とりあえず詐欺ではないですよ。お金が絡むようなもの、薦めたりしていないでしょ?」

「後から請求書が届くとか?」

「その場合は、警察に連絡入れて欲しいけど。私は君達の住所を知りませんよ? だから、今回のお話もこの喫茶店になりました」

 見覚えのない請求書が届いたとか、振り込め詐欺的名話を市役所に相談されることがあるけれど、正直なところ素直に警察に相談してもらった方が、早い。こちらから連絡を入れることは出来るけれど、最終的には本人に話をしてもらわないと、どうしようもないですからね。私達は、警察の出先機関ではありません。

「市役所の人なら、学校でもいいですよね?」

「こちらとしてはいっこうに構わないのですが。学校に伺うことになった場合、正式な手順でアポイントをとる必要がありますので、先生方に事情を話してしまうことになりますよ。? それでも、よろしかったですか?」

 役所の人間が高校に行くの自体は難しくないし、正式な手続きさえ踏んでしまえば学校側に協力を要請するのは難しくありません。

 ただしその場合は、機密性や秘密性を保つのが難しくなってしまいますね。何も喋ることなく、おたくの生徒さんに校内で面会させて欲しいと伝えても、許可が出る可能性は限りなく低いでしょう。また、仮に許可が得られたとしても、実際に面会出来るのは随分と先の話になっていたのではないでしょうか?

 そうなってしまうと、今回の件がなかったことになる可能性もあるから。それはそれで、面倒ですね。

「先生達にバレるのは、恥ずかしいです。私達の問題ですから」

 自分達の間で解決してしまいたい、恋愛関係の問題を公にされてしまうを好む人はいないはず。隠しておきたい、誰にも知られたくない。そう願う人が大半でしょう。

 特に、今回は知らない人が勘違いしているのではなく、親友と呼べる相手が勘違いしているから。仮に吉田さんがこの場にいた場合、ここまで素直に話が進むことはなかったでしょう。そして、先生方がいらっしゃる場合、遠慮のない質問や意見をぶつけてくるのは難しかったでしょう。

 喫茶店とは、結構便利な場所なんですよ。

「私達としても、そういった形で解決していくのを望んでいるわけではありません。もちろん、市役所のほうにお越しいただくという案もありましたが、学校からではそれなりの距離がありますので、面倒をおかけすることになりますから」

 市役所に来てもらう、こっちから行くのではなく来てもらう。正直なところ、経費面を考えるとそれなりに優秀な案だし、採用しようと考えたこともありましたが、結局はなくなってしまった。

 その中でも大きいのが、市役所と学校の間にある距離。それなりの距離が離れてるため、歩いてきてもらうのは難しいかったんですよね。だからといって、タクシー代を出すというのは経費処理的にかなり面倒なことになりますし、避けるべき出来事だと考えたのが間違っているとは思えません。私達が移動するのならまだ理由が書きやすいけど、相談されたからというレベル程度で、関係しているだけの高校生を呼び出すというのは、却下される結果しか見えない。うちの室長も、そこまでは甘くないので。

「本当に、それが理由ですか?」

「それが全てというわけではありませんが、理由としては大きいです。そうでなければ、経費処理が面倒になる喫茶店でなんて、お願いしませんよ」

 実のところ、喫茶店もそれなりには面倒なんですよね。

 目上の方を招いているわけでもないので、接待費としての申請は通らないです。しかし、何も申請しなければ変な疑いをかけられる可能性もありますし、話を聞かせてもらうのに何もないというのは失礼でしょ?

 相手に求める前に、まずはこちらが大人の対応を見せないと。聞けたはずの情報が、私の耳に入らなくなってしまう。自分自身で、案件に対する難易度を上げる必要性はないわけですから。

 仮に学校での面会が叶っていたとすれば、学校側にとってはお客さんである私達は、ただでコーヒーを頂くことも可能だったでしょう。そうすれば、移動費用は何も問題なく経費で落ちるし、追求されるであろうコーヒー代を気にする必要はありませんでしたが、先に述べたとおり別の問題があります。

「……分かりました。とりあえず、信用しておきます」

「それくらいで構いません。全面的に信じられて、どうにかして欲しいと頼られても困りますからね」

 私達は相談窓口を担当している、市役所の職員でしかありません。今回、このようにして外に出られているのは、直接的に出向くことが出来ているのは、申請書に許可印が押されたからであり、常に叶うものでもないんです。

 通常業務のみを行っていた場合、私達の業務では外に出る理由なんて殆どありませんから。

 相談に来てくれる勇気のある人なら、直接私達に相談してくれます。私達が動かなくても、何もしなくても、相談しに来てくれるので、こんなふうに出かける必要はありません。

「天野さんて、そういうことを隠されないんですね。私は話しやすくて良いんですけど、普通、はぐらかしたりするものじゃないですか?」

「細かいことを気にしていても、疲れるだけですよ? ちょっと調べれば分かることです。話が進みだしてから信用を失うくらいなら、最初に説明してしまった方が、やりやすくなります。何かを求め行動に移すのなら、多少のリスクは飲み込んでしまったほうが楽ですよ」

 今回は成果物を求めているわけではなく、元の関係に戻ること、戻すことを望んでいるだけ。達成した結果として、何かが得られるわけでもありません。

 けれど、達成しなければ失われるものがあるのなら、結果を先取りしていると考えることも出来ますよね。つまり、何も行動を起こせないのであれば、リスクを飲み込めないのであれば、今の結果が失われてしまう。そう考えられるのなら、不思議な話ではないでしょう? 世の中に存在する手順は限定的ではあるけれど、1つではありませんから。

「そういうものでしょうか?」

 聞けば応えてくれる。質問すれば教えてもらえる。

 そう無邪気に信じていられるのは、いつまでのなのか。それを信じる自分を、笑わないでいられるのはいつまでなのか。随分と古い記憶の中にしか残っていない、そんな私と鈴木さんを重ねることは難しい。

「ええ、少なくとも私にとってはやり易い方を選ばせて貰いました。しかし、鈴木さんに私のようになるように、お勧めは出来ません。折角の可愛らしさが家出してしまうのは、勿体無いですからね」

 大人になった。そんな言葉で片付けてしまえば、簡単なのかもしれない。感情を表に出すことなく、尖っている部分はそぎ落とし、疑問を抱いても口にしない。許されないと判断したのなら、発言さえ押さえ込むこをと求められる。

 ただ、その先にたどり着く場所は、その結果としてたどり着いた未来に、幸せがあるとは限りません。だから、夢を見ましょう。夢を見られる学生の内に、可愛らしさを持てる内に。

「効率化や仕事だけを求めていると、そういった女の子らしさが失われます。必要に駆られたのなら仕方ありませんが、望んで捨てるには勿体ないですよ? 捨ててしまった結果として私が得ているのは、10代なのに手すら出してこないような、パートナーしかいないんですから」

「天野さん、僕には妻がいるのですが?」

 こういった話を振っても怒らないんですね。んー、この場で最初にする質問が、こういったのだと流石に怒ると思っていましたが、予想以上の堅物といったところでしょうか? それとも、子供の発した戯言だと流れているのか。

「既婚者だというのは知ってはいますが、浮気は男の甲斐性だと聞きますよ?」

 テレビで見たのか、それとも小説などで読んだのか、記憶としては定かではないけれど、そういった感じのフレーズをどこかで見かけました。私としては、浮気というものについてプラスの感情は持てないけど、そこまで言い切れるのだけは凄いと思えましたね。憧れるようなことはありませんが、考え方としては面白いと思います。

「このタイミングでは、最悪の発言ですね」

「そうですか? あぁ、これは若いお二人の前で失礼しました」

 そもそも、今回は浮気が絡んでいる形で、この二人は迷惑を受けている状態でしたね。私の中での相談者は、未だに吉田さんだから失敗しました。目の前で展開されている話も、三人の関係も、複雑に絡んでいる気がするのでそのままを飲み込むことは難しいですが。

 相談の根底にある、恋愛というもの、恋と呼ばれる感情。病気とされてみたり、電気信号の異常だと言われたり、勘違いだと言われたり、世の中での扱いがひどい時もあるけれど、それこそが憧れている人が多い証拠でもあるのでしょう。中には私のように不必要だと切り捨てる人間もいれば、その経過の1つとして荒井さんのように結婚を選択肢に入れた人もいる。起因している感情は1つでしかないはずなのに、そこから生まれる過程と結果は千差万別。あまりにも数があり過ぎて、統計を取ることさえ難しいです。苦労して得た場所が良いとは限らず、楽をして得たものが悪いとも限らない。本当に、難しい事象です。

「いえ、気にしなくて大丈夫です。天野さんは面白い人ですね。信じてみることにしますよ」

 だから、こんなふうに誰かを信じると、口に出してしまう子もいる。口に出すことが出来ない子もいる。それは個性と呼ぶべきものでしかないし、道を進んでいく上では指標とされるものを決める時に、大いに関わってくる。どちらかが正解で、どちらかが間違っているといった、算数のような簡単な答えでは出てこない。とても繊細で、面倒なもの。

「面白いですか? んー、時々言われることがありますけど、私ほど面白みのない人間は、中々出会わないと思いますけどね。鈴木さんは、人の顔を覚えるのは得意なタイプですか?」

「はい、人の顔とか名前とか覚えるの得意ですよ」

 話を切り上げる為に関係のない質問を投げただけでしたが、私は覚えるの苦手な方ですから得意だと言える鈴木さんが羨ましいです。人間は最後に話した感じで、相手への印象を決めることが多いと読んだもので、プラスの印象で帰ってもらおうとしただけですが、これなら成功と言えるのではないでしょうか?

 プラスの印象のまま終われたのであれば、吉田さんへ話しかけてもらえる確率も上がりますし、次に声をかけることがあった時に応えてもらえる可能性が上がりますから。ズルいやりかたではあるけれど、仕事として関わっている以上、スムーズに進められるように努力するのは、私の役目です。

「素晴らしいですね。んー、将来は営業関係のお仕事とか如何です? 特技として、大きな武器になりますよ」

「そうですね、ありがとうございます」

 鈴木さんの対応は、当たり障りのないもの。相手の心象を悪くすることもなく、だからといって良くすることもない。大人としては理想かもしれないけれど、子供でいられる内に身に着けてしまうのは、お勧めしたくない方法ですね。

 もっとも、そこまで口を挟んでしまうのは過干渉というものでしょう。

「さて、話もまとまったことだし、梅原さん我々は退散しましょう。後は、若いお二人がいれば十分でしょ」

 伝票を掴み、再び暇そうにし始めた梅原さんに声をかける。怒らない人、私を子供だと軽んじない人、その程度には今日理解出来た。この間の初対面に比べれば、幾分か付き合うのが楽になった気がします。これも含めて、収穫と言えるでしょう。

「それを言うほどに、天野さんは大人ではないでしょう? 先ほど、ご自分で同世代だと言ったばかりなんですから、いきなり年を取らないで下さい」

「あら、揚げ足取りをするとは、言うようになりましたね」

 いじる時の参考にもなるし、話もしやすくなる。意思疎通が出来ないようであれば、この仕事はやってられないから。私から伝えられることを伝える為にも、仲良くなろうとしておいて損はしない。

 それに、室長に任されたのだから、彼が相談窓口担当者として対応出来るように、こういった現場にも着てもらって方が良い。今日のこの場だけで分からなかったことも、帰りに解説をする。解説をしながら考えてもらえば、彼ならばすぐに習得してもらえるでしょう。

 扉の向こうにある、まぶしい世界。そこへ足を踏み出すには似合わない黒いものが、私の心には残っていた。

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