第3話:魔女の指導
人間は食べなければ死ぬ。
思い起こしたように空腹感に苛まされ、セイジはこの世界の食事事情を思案する。
この世界に訪れてから彼が見た食材は、屋台の肉のみ。
店主自らがその場で火魔法を使って調理する光景を男は思い出していた。
――こっちは狩猟なんてゲームでしかやったことないぞ……。
言葉の壁を乗り越えた矢先の懸念事項である。
心が段々と不安になっていくのを聖志は自覚する。生命の危機に直面しているということを、セイジは頭では分かっていた。
食事、言語、住居、貨幣、衣服。この中で今セイジが持ち合わせているのは,
身に付けている衣服のみ。かつての世界での豊かな暮らしを思い出し、早くも挫けそうになっていた。
適当に過ごしていても、ある程度は生きていける祖国。
郷愁の想いに駈られたセイジには、在りし日の光景が即座に思い出されていた。
現実を認識した彼は、己の出来る事を考えた。
乳幼児のように、空腹を訴えること。彼が出来ることは皆無に近かった。
彼女と目が合う。今しかない、と彼は思った。
「腹減った、助けて!」
セイジは片手で自分の腹を叩きながら、もう片方の手で口にご飯をかき込む動きをしてみせた。なんて厚かましくて情けないのだろうかと、非常に惨めになりながらも、やるしかなかったのである。
「ふふ」
分かってるって! と言わんばかりの顔で笑う魔女。
「少し待つ、良い?」
直訳した言葉を脳内で再翻訳し、了承の旨を返すセイジ。
去り際、彼へと微笑んでからキッチンへと向かうラフィアルーン。
その時の笑顔が、セイジには天使に見えた。彼女が台所へ向かい、調理をしている音を聞きながら、彼は思う。
「意外と生活基準高いんだな」
先程までは狩猟が、と考えていた男である。
まともな料理や調理風景をまだ見たことがないこともあり、材料がどんなものなのかは皆目見当が付かなかったのだ。
だが、少なくとも原始的で野性的な食生活になることは避けられそうだと、セジは己の思いを改める。
少し経つと、二人の居る空間に家庭的な料理の香りが仄かに漂ってきた。
前の世界の実家で、彼が嗅いだことのある匂い。
セイジは空腹を訴える胃を宥めすかし、どんな料理だろうかと、期待で胸を膨らませていく。
一宿一飯に加え、言葉の指導。この人には必ず恩を返さねば。
そう思う彼の目の前にあるのは、白いパンと、野菜スープの入った皿。
木製の匙。同じ素材で出来たコップに入った水。間も無く同じ物が木の食卓の上に運ばれてくるのであった。
置かれた料理と、魔法使いの女性を交互に見る。
見た目は口に合いそうだが、味は違うのかもしれないと、若干の覚悟をしながら、男は事の成り行きを見守る。
まずは魔女が一食。匙でスープを掬って食べた。
礼儀作法とかは無いのか? と思いながら、彼女が食するのを眺めるセイジ。
食べていいよ? とばかりに、魔女の手が差し伸べられた。
――そりゃあいただきますとも。
ほぼ無自覚に、セイジの両手が動いた。
成人する前ぐらいから、手を合わせることなどすっかりやらなくなっていたのである。
それでもセイジは、この時ばかりは感謝の意を示そうとして両手を合わせてから、木匙に手を伸ばした。
単純に感謝の意を汲み取ったのであろう。彼女はそれを見ても何も言わなかったが、嬉しそうに顔をほころばせた。
温かな野菜がセイジの口へと運ばれる。
野菜の持つ食物繊維と、塩や胡椒らしき調味料で味付けされた風味。
何の野菜かは分からない。一見、レタスのように思えたが、抵抗を感じないまま咀嚼していった。
それらがセイジの口内へと優しく広がり、唾液を抽出させる。
スープの汁が、気付けば乾いていた彼の喉を潤す。
恐らく鳥肉であろう、木のスプーンと同じぐらいの肉を次に食べたセイジ。
一つ一つがそれなりに大きい肉。セイジの歯や舌へ、その大きさは歯応えを僅かに感じさせた。あまり噛まなくともすぐに溶けていった。
パンは全くと言っていいほど、味付けのされていない状態だった。
それでも、この組み合わせなら特に何もしなくとも合うようにセイジには思えた。
ふんわりと柔らかく、引っ張れば伸びそうな粘性を持っていた。その食感だけでも十分に旨いと男には感じられた。
この世界に初めて来て食べた食事。
未知の出来事だらけで恐怖に苛まされていたところへ、かつての世界での野菜スープに、ブレーンのパンを彷彿させる料理を口にしたセイジ。
どうかな? と、正面で食べながら彼を窺うラフィアルーン。
言葉こそまだ不鮮明であったが、何を言いたいのかはしっかりと伝わったのであった。
――今はどんな料理でも旨い。
空腹は最高のスパイスと言うが、理解の及ぶ食事が摂れたことへの幸運にセイジは感謝していた。思わず涙ぐみそうになりながら、
「美味しい」
と、先日まで使っていた言葉で伝える。
――伝わってないよな、そりゃ……。
首を傾げ、徐々に曇っていく彼女の表情を見てしまう。
色んな意味で泣きそうになるのを堪えながら、先程まで学んだ肯定と称賛の言葉を言おうとした。拙い発音だと伝わらない可能性を考え、全身を使って喜びを表す。
その慌てぶりを見たからか、はてはしっかりと伝わったからか。
良かった、とラフィアルーンは嬉しそうに微笑むのであった。
そこからは日常会話の練習を兼ねて、彼女の紹介が始まった。
この地で商売をやっていること。
魔道具と呼ばれる、魔法が込められた品物を取り扱っている、ということを説明された。
「魔法の……道具?」
ニュアンスこそ何となく分かったが、セイジの口から自ずと言葉が紡ぎ出された。
「魔道具、ちょっと高いけど、家の中にある。すっごく便利!」
聞き取れた言葉を組み立てていき、セイジは理解へと繋げていく。
――そういや、さっき見て回った時に色んな所にあったっけ。
頭の片隅で思い出し、共に食事を摂りながら魔道具についての説明を聞いていく。
魔法が込められた魔道具。
一定の決められた操作をすることで、効果が現れる。
魔力を注げば発動する仕組みが基本だと説明される。
物によっては、魔道具そのものが使用者の魔力を吸い取ることで、封じられた魔法が発動するタイプもある、と。
「魔法が使えない人でも、魔道具は使える」
凄いよねー、と朗らかに語るラフィアルーン。彼女に対して、男は恐怖心を堪えながら訊ねた。
「魔力、自分、ありません」
当然、魔法も使えない。そんな思いで己自身のことを説明していった。
魔法が日常的な世界と思えた。なのに、魔法が使えない。
世界を異にすることで何か秘められた能力に目覚めたのではないのか。
そんなことを今頃になって確かめるが、セイジには何も感じないように思えた。
「んー」
ラフィアルーンが手にしていた木匙を皿の中へ置き、考え込むようにしてセイジを眺める。
なんとなくこの先の言葉を予測したセイジは、自分が傷付くのを最低限のものにしようと、
「下手な慰めは要らない」
と前の世界の言葉で牽制していった。
そんな彼の保身の言葉言い訳と心境を知ってか知らずか、金髪の魔女は、日常会話の延長のように語った。
「セイジは魔力あります」
「マジで!?」
重大な事実が彼の耳を打った。
「え?」
「魔力、俺、ある!?」
魔法への期待。脳内にはその事だけしか存在しなかった。
セイジは己を律することが出来ずにいた。
衣食住もままならない、常識や日常で使う魔法すら知らない。
そんな最中に出会い、セイジへと食事と言語と常識を与えてくれた、金色の髪と紅い瞳を持つ女性。
「魔法について教えようと思います」
キリッとした表情で、セイジへと語るラフィアルーン。
彼らは場所を変え、彼女の住む家の裏庭――砂と土、囲いで覆われた敷地――に居た。
心身ともに擦り減っていた。
彼の希望と言えば、介抱のみならず生活の面倒まで見てくれている彼女と、魔法であった。
人としてもゲーマーとしても、魔法の存在は純粋に楽しみではあった。
実際に魔法を見た時はショックで気を失ったのだが。
あれは初見殺し――分からん殺しだ――と割り切り、黒歴史化して封印する。
魔法をいざ学べるとなると、否が応にも期待してしまうのであった。
「魔法式が完成してから」
と語り始める魔女。
魔法として発現する流れを知る為には、まずは魔力を見付けること。
拙い言語理解と芸術的な絵による説明で、そこまでは理解したセイジ。
「あ、待って」
と言いながら、セイジは両手を軽く前に出した。
「ん?」
ラフィアルーンが言葉の訓練を兼ねて教鞭を執ろうとする。
だが、彼はそれにいきなり待ったを掛けた。
魔力とは何なのかを、具体的に知らなかったからである。
魔力とは何か、と思ったままに訊ねた。
すると、彼女は言っておくけど、と前置きをして、
「魔力見付けられないなら、魔法使うのは多分無理」
「……――ええぇ!?」
脳内翻訳での時間差の後、セイジにとって驚愕の事実が魔女によりもたらされた。
魔力吸収タイプの魔道具なら使えるけど、と補足をしていくラフィアルーン。
「魔力は、体の中や周囲にあります」
「体の中、周囲……」
「そう。だから、最初はセイジが見付けて!」
説明するラフィアルーンは手を胸へと当て、励ますように片手を掲げる。
彼女が話す相槌や肯定、否定といった表現。
数時間とはいえ、付きっ切りの会話訓練の時間を過ごしたセイジであった。
こういった接続詞やニュアンスを、彼は少しずつ分かってくるようになっていた。
その後、集中しやすいように気を遣ったのか、その場から数歩離れてセイジを見守る。穏やかな夜風が流れ、彼女の金糸の髪束と、紺色の外套を微かに撫でていった。
彼女に言われた言葉を受け止めるセイジ。
体内や空気中にあるという、魔力。魔法や魔道具を行使するにあたって、欠かすことの出来ない存在。
この存在を知覚出来なければ魔法を唱える事が不可能。そう考えた彼は、
「……最初の壁だ」
軽く呟き、ひとまず目を閉じて体内を意識しようとした。
――こういうのは身体の中に眠ってるのが定番だ。
意気込みを新たに、そんなことを考えながら魔力を探そうとするセイジであった。
生きとし生けるもの全てに魔力は宿っている。
これはこの世界での常識であったが、その辺りの知識がセイジには依然として不足していた。魔法は存在するのに自分は使えないのではないか、と期待から不安へと心情が傾きかける。
――大丈夫、俺にも魔力はあるって言ってたから。
空気中の魔力は全く分からないままであった。けれども、少なくとも自身の体内には魔力が存在していることを知らされたことで、セイジは安堵した。
「やるか」
手を握り込み、両足を肩幅程度に開く。足の裏で大地を踏みしめる。
「がんばれー」
セイジの耳に、少し遠くからラフィアルーンの声が聞こえた。
――この、研ぎ澄まされていく感じ……。
これは良い兆候なのでは、と自分を誉めた。
彼が最初に意識したのは、自身の腹部。
何かの影響か、丹田という言葉を思い出したからであった。あるとしたらここだ、と意識していく。
少し時間が経ち、ラフィアルーンが声を掛ける。
「セイジ、見付けた?」
目を瞑ったまま、セイジは前の世界の言葉で答えていく。
「……分からん」
体内や大気中に満ちているという魔力を、彼は何も感じられなかった。
手が熱くなっていることに気付く。力を抜くと、徐々に熱が引いていった。魔法の兆候ではなく、握りしめた事による、ただの自然反応であった。
瞼を開き、目を凝らして見るセイジ。魔力らしき存在を、彼は知覚出来ずにいた。
数歩の距離で微笑み、視線を向けられたことで首を傾げるラフィアルーン。
一応、とセイジは上空を見渡してみるも、雲と月がくっきりと浮かぶだけであった。
ついで、セイジは匂いを嗅いだ。魔女から発せられる匂いだと推測した。なんとなく、桃の香りに似ていると感じた。
「魔力の匂いは……するけど、セイジには種族的に分からないと思う」
思案気な顔をする彼女を見て、嗅覚以外で不確かなものを探る。
恐らく味覚に頼るのも違うのだろうと考えた。
彼女の言い方だと、そういった人間以外の種族がこの世には居るということ。
それが可能なラフィアルーンも、同様の種族かもしれないということ。その事に気付き、ハッとした顔で魔女の方を向き直る。
「分かった?」
セイジの表情が変わったことに反応するラフィアルーン。
分かりませんと、現状を渋々と認めたセイジの返事を聞いて、
「その感じだと分からなさそう」
特に落胆した様子もなく、魔女は自然と己の予想を口にした。
一方、不適合の烙印を押されたと感じたセイジは、失意の底に沈み掛けていた。
無味無臭で無色透明、触れないエネルギーという認識。
そんなの分かる訳がないと、彼はいきなり躓いていた。
――何かきっかけになるものがあれば……。
埒が明かない現状を見直し、隣に佇むラフィアルーンへと懇願する。
彼女は何歳ぐらいなのだろうか。成人前後に見えるが、自分より若いかもしれない、などと考えていたところへ、
「じゃあ、魔力を送ります。何か分かったら言って?」
セイジへと近付きながら、手を差し出すように身振りで示す。
そんな事が可能なのかと驚き、セイジはとりあえず右手を彼女へと伸ばした。
ラフィアルーンがそれを両手で覆い、合図とともに魔力を送ると説明した。
「触ってるとこを意識して」
触れている所、つまりセイジの右手。
ここを意識するとは、と思うと同時に不可視の波が流れ込んでくるのを男は感じた。
「おおぉ……!」
声と同時に、表情にも出たセイジを見て、目の前の彼女は顔をほころばせ、
「それが、魔力です!」
おめでとうございますと、嬉しそうに語った。
――これが、魔力……!
大きく目を見開き、握られている拳を彼は見た。そこには彼女の手以外に、何も存在しないように思えた。
だが、カーテンのような、帯状のような、水のような、球体のような、あらゆる不定形の波が、手を通じて体内に入り込んでくるのを自覚した。
敢えて色を表現するなら、透明のような、目に見えない白色。というのが彼の印象であった。
魔力の波が己の中の湖面を揺らす。
彼が次に気付いたのは、そういったイメージであった。
一旦気付いてしまえば、彼の中の魔力とせめぎ合っては混ざり合う様子を感じることが出来た。
元々自分の持っていたという魔力と、彼女の魔力。同質のようで全く別物ということにも気付く。不快感は無く、魔力を感じ取れた喜びで満たされていた。
「すげえ……!!」
現地の言葉で喋る余裕など無く、セイジはひたすら感動していた。
二人の魔力が掌の入り口付近で混ざり合い、己の魔力として加わっていく動き。
憧れ続けていた存在を、セイジは己の感覚を通じて確かめていった。
「そのままどこに向かうか視て」
ラフィアルーンに言われて、彼はそのまま意識を傾ける。
今感じている魔力の波が、手から肘、肘から右肩まで勢いよく向かう。
己の決めた波の始点を見失ってしまい、もう一度、手から追跡を開始する。
手から首、胸、左肩の三方向へと別れ、首へ向かった波は頭頂部まで到達し、折り返す。
胸へと下った波が胴体全体へ拡散し、下腹部で一度収束した後、足に沿って二岐に別れる。
――全身を循環しているのか?
左肩へと流れた波が指先まで到達しては戻っていくのを、彼は辛うじて察知した。
あまりに一瞬で過ぎていく為、何度も基点を見付けては追い直していた。
「体に廻ってるのが分かる?」
分かる、と声に出したつもりのセイジであったが、音にならなかった。代わりに僅かに頷いたことで、理解の旨が伝わる。
「良かった! じゃあ魔力に属性を乗せるから」
笑顔のまま両手を握り直し、嬉しそうに細めた赤い目を瞼で覆う。
「え、何?」
理解していないということを彼の口調から感じ取ったのか、
「魔法の属性、さっき説明したでしょ!」
というような言葉で捲くし立てた。
聞き取れなかったと感じて、男は呟く。
「属性……」
魔道具の説明の際、彼女に何度か言われていたことを思い出す。
日常生活と密接な関係である火、水、風、土という言葉を意識するあまり、属性という単語そのものを失念していたのである。
「すまん、あ、ごめん。大丈夫」
セイジはそう言い直して謝罪し、再開するように申し出る。
彼女が目を閉じたのに合わせ、彼もまた、再び魔力の流れを知覚しようと集中していった。
晴れ渡った空。澄んだ色という印象に近いとセイジは感じた。その波が、奔流となって体内を駆け巡りだす。感動で魔力の流れを夢中で追っていると、
「それが水属性の魔力」
と、落ち着いた様子で語るラフィアルーンの声が聞こえるのであった。
全身を廻るのは変わらないが、先程と違い、心臓付近を中心に集まっている様子を感じ取れた。
「水魔法が使いやすくなると思う。生きる為に、水は大事です」
「そうなのか。いや、助かります」
――綺麗だった。魔力が胸に集まってるけど。
青年が色んな感想を述べている内に、両手から喪失感を覚える。
「一回やめるよ」
と彼女に言われることで、いつの間にか閉じていた目を慌てて開く。
手と彼女の顔を交互に見るセイジに対して、彼女は語り掛ける。
「命の流れるところに魔力あり、って覚えたら良いかも」
「命の流れ」
ラフィアルーンの説明を鸚鵡返しし、続けて言葉の持つ意味を脳が理解していく。
命の流れ、すなわち人間の血のことだろうと考えると、セイジは納得することが出来た。心臓に溜まりやすく、血流に乗って魔力が全身を循環するのだろう、と。
彼女の教えをすんなりと受け入れながら、体内に存在する魔力を意識する。
これをどうすれば魔法を使えるのだろうか。手から放つイメージだろうか。
自問自答したと同時に、掌に向かって流れを感じた。
「あ、出る!」
「わぷっ」
魔法を使えそうと感じたのと、掌から水魔法が放たれたことを同時に感じた。
音を伴わない水属性の魔力は、目の前に居たラフィアルーンに直撃する。
「ヤバい、ごめん!」
が、中断の方法を知らず、セイジは彼女に対して放水を続けてしまう。
水の衝突音が響き渡り、男は慌てて手を別の方向へ向ける
「悪いことをした」
思わず前の世界での謝罪ポーズを両手で取り、彼女を見て謝るセイジ。
そのラフィアルーンといえば何故か真顔であり、左手を彼の頭へと向けていた。
「……女の人に水を掛けるとか」
紺色の外套が肌蹴て、その下から白の質の良い服が露呈する。
そこからフリルをあしらった下着が透けて見えたのである。
――黒! この世界ってちゃんと女性用の下着があるのか! って、普通は透けても大丈夫な服にしないのか?
驚きと感心、謝罪とあらゆる興奮の中、妙に平坦な声が聞こえてきた。
「反省が必要だと思います」
セイジの頭に、ラフィアルーンの手が乗せられた。
凝視していたのがバレてしまったのかと彼が思った途端、
「っうおおぉあぁっ!?」
セイジの体内のあらゆる箇所から、頭頂部に向けて魔力が引き上げられていく。 「あれっ、動けない。あ、ああっ……!?」
魔法を使った反動で動けないのだが、彼がその理解に至るには知識不足であった。間抜けな疑問と声を発し、全身を脱力感が襲っていく。
僅かな時間の後、セイジは妙に心地の好い人生二度目の気絶をしたのであった。
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