第8話 縁! それは異なもの、味なもの、そして幸せなもの!

 ランカシーレ女王は工芸小屋を訪れました。工芸小屋では、パクリコンがキャンバスに向かって満足げな表情で腕組みをしていました。

「ごきげんよう、パクリコン」

「ごきげんよう、女王陛下」

 パクリコンはランカシーレ女王を見やって、にこっと笑いました。

「女王陛下、ついに絵が完成したんですよ。見てください」

 ランカシーレ女王はそのキャンバスを覗き込ました。するとそこには、煤けた小屋の中で一心不乱に絵を描く芸術家とそれを見守る一人の貴婦人が描かれていました。

「まるで私たちみたいでございます。なんと微笑ましい絵でしょう」

「はい。そしてこれで……俺の仕事は一段落したと言ってもいいでしょう」

 パクリコンはランカシーレ女王のほうに向き、大きく息を吸いました。

「女王陛下。……いえ、ランカシーレ」

 パクリコンはランカシーレ女王の前にひざまずきました。

「芸術に貴賤が無いのと同じように、身分に貴賤は無いとあなたは示してくださりました。これからは、あなたをお守りし、あなたに誠意を尽くし、あなたに一生を捧げましょう。一人の芸術家としての魂を、どうかお受け取りください」

 パクリコンはランカシーレに一つの木箱を捧げました。パクリコンがその木箱を開けると、中には銀で出来た指輪が入っていました。

「私と結婚してくださりませんか、ランカシーレ」

 ランカシーレはパクリコンの目を見つめ、極上の微笑みを浮かべて、

「はい。どうか私と結婚を、パクリコン」

と返しました。

 パクリコンはランカシーレの左手の薬指に指輪をはめました。指輪はぴたりとランカシーレの薬指におさまりました。

 パクリコンとランカシーレは抱き合いました。ランカシーレはパクリコンの首に手をかけたまま言いました。

「これからはこの国の王配でございますね、あなた」

「ああ。芸術家だったはずですのに。なんて出世だ」

 パクリコンは小気味よく笑いました。ランカシーレは続けました。

「どこぞのお金持ちの娘よりかは、よい妻であり続けることを約束いたします」

「約束なんてせずとも、とっくの昔にランカシーレはよい妻ですよ」

 パクリコンもランカシーレも、お互いに見詰め合ったままふふふっと笑いあいました。

 ふとパクリコンはランカシーレに尋ねました。

「……ところで、今のこの光景を誰かに見られている、なんてことはあるのでしょうか?」

「はい。それはもう、かけがえのない方に、まぎれもなく」

 ランカシーレがそう言うや否や、工芸小屋の中に緑のスレンダーなドレスを纏った黒髪の女性が駆けこんできました。

「で、どうだった!? どうだったの!?」

「ああ、レビア。俺達は結婚することになったよ」

「やったあっ!」

 レビアはパクリコンとランカシーレに抱き着き、頬擦りしました。パクリコンは二人に言います。

「この出来事を国中の人たちに伝えるとなると、いろいろ言われそうだ」

「あなたは他の誰よりも相応しい相手である、と誰もが分かって下さります。ご心配など要りませんって」

 ランカシーレはパクリコンの頬にキスをしながら言いました。レビアもパクリコンに言います。

「そうだよ。それに、芸術家出身の王配なんて史上初だよ。やっぱりゴットアプフェルフルスのこういう自由なところは魅力だと思うよ」

「ははは、俺もそう思うよ」

 パクリコンはレビアの頭も撫ぜました。

「さて、これから忙しくなりますね」

「二人で頑張ってまいりましょう。たくさんの未来が待ち受けております」

 ランカシーレはパクリコンに言いました。レビアもまた、

「何かあったらあたしに頼りなよ! なんてったってあたしは侍女だからね!」

とパクリコンに熱く言いました。

 パクリコンはうんと頷き、

「それじゃあ……王宮に行きましょうか」

と言い、三人で工芸小屋を後にしました。

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