第6話 聖堂の戦い! 女王を襲う者、そして護る者!
パクリコンが向かった先には、古びた聖堂がありました。パクリコンが扉を押しあけて聖堂の中に入ると、そこではランカシーレ女王がドレスをたくし上げて、ユーグ王子によって下腹部をまさぐられていました。
「女王陛下!」
パクリコンは思わず叫びました。ランカシーレ女王はパクリコンを見やると、ドレスの裾を正してフンと鼻息を鳴らし、こう言いました。
「下賤な者よ。早々に立ち去りなさい」
パクリコンは、レビアの言わんとしていたことを悟りました。
「女王陛下! 気を確かに持ってください!」
「下賤な者よ、立ち去れと申し上げているのです!」
ランカシーレ女王はドレスをたくし上げて、カツンとハイヒールを大理石に打ち付けました。
ユーグ王子はランカシーレ女王の下腹部をまさぐりながら、パクリコンに告げました。
「どこの誰だか知らないが、下賤な者よ。ここは私がランカシーレ女王と愛を育む場所だ。邪魔をしないでくれ」
「愛を育むだと……!? 女王陛下の心を操りながら、お前はなおもそのようなことを言うのか!」
「言うさ。心を操ってしまえば、ランカシーレ女王はその身を私にゆだねるのだ。そうしてしまえば、ランカシーレ女王は容易く私の子を孕む。そうなればこの国の未来は私のものだ」
ユーグ王子は高笑いをしました。パクリコンはそんなユーグ王子に歯ぎしりしかできませんでした。
ランカシーレ女王は言いました。
「下賤な者よ。私の愛を邪魔をするというのであれば、許しはしません。そこへ直りなさい」
ランカシーレ女王は傲慢にもドレスを両手でたくし上げて、パクリコンに二歩三歩と近づきました。
「平伏しなさい! いやしくも私に意見しようだなど、烏滸がましいかぎりです! 頭を地に付けなさい!」
ランカシーレ女王はパクリコンに近づき、思いきり平手打ちを食らわせました。パクリコンが思わずよろめくと、ランカシーレ女王はパクリコンの足に鋭くとがったハイヒールの踵を踏み下ろしました。
「ぐあああっ!」
パクリコンの足から血が流れ出ました。パクリコンは痛みに悶え、思わずうずくまりました。
「それでよいのです、下賤な者よ」
ランカシーレ女王は再びドレスを豪快にたくしあげ、パクリコンの身体をハイヒールの踵で踏みました。その鋭利な踵は、パクリコンの身体に深々と刺さってしまいます。
「卑しい身分のくせに、私に楯突こうだなど」
ランカシーレ女王は何度もパクリコンの身体をハイヒールで踏み抜きます。
「これに懲りたら、二度と私の前に姿を現さぬことを誓いなさい!」
ランカシーレ女王はパクリコンの身体をぐりぐりと踏みにじりました。
パクリコンは痛みに耐えながら、ランカシーレ女王を見上げました。ちょうどランカシーレ女王はドレスをたくしあげていたため、パクリコンからはランカシーレ女王の顔が見えませんでした。そのかわり、顕わにむき出しになったランカシーレ女王の下腹部が、パクリコンの前に堂々とさらけ出されていました。ランカシーレ女王が大切に大切に守り抜いてきた純潔を、今やランカシーレ女王はハイヒールを武器とするために、乱雑に見せつけているのです。
パクリコンはそんなランカシーレ女王の下腹部から脚にかけて、黒い粘液によって生じた長い沁みを見つけました。そしてその沁みはランカシーレ女王のハイヒールに向かって集中していました。そしてハイヒールは今や真っ黒に染まってしまっていました。
ランカシーレ女王がパクリコンをハイヒールで踏み抜くたびに血が滴ります。しかしパクリコンはじっと機会をうかがいました。
「これで……おしまいです!」
ランカシーレ女王は再びドレスを豪快にたくしあげ、パクリコンめがけて脚を振り上げました。鋭利にとがった真っ黒なハイヒールの踵が宙を舞います。そのとき、パクリコンはガバリと起き上がり、ランカシーレ女王のハイヒールをその手で受け止めました。
「これ! 何をする!」
ランカシーレ女王は慌てふためきました。しかしパクリコンはランカシーレ女王のハイヒールをぐっと掴み、そして力の限りを以ってハイヒールを外して遠くへ投げ捨てました。
「この……無礼者!」
ランカシーレ女王は逆の脚でパクリコンを踏み抜こうとしました。しかしまたもパクリコンはランカシーレのハイヒールを強引に掴み取り、同じようにハイヒールを投げ捨てました。
ランカシーレ女王の脚からしゅううううっと黒い煙が出て、ランカシーレはうつろな目を呈しました。
「私の……ハイヒールを……!」
「女王陛下! お許しください!」
パクリコンはそう言って、ランカシーレ女王に深くキスをしました。パクリコンとランカシーレ女王の舌と舌がからみ、唾液が混じり、二人は息の続く限り接吻をしていました。やがてランカシーレ女王の身体から、黒い煙がしゅうううっと吐きだされていきました。そしてランカシーレ女王の肢体から黒い沁みが消え、ランカシーレ女王の身体のこわばりは次第に薄れていきました。
長い長いキスを終えて、パクリコンはランカシーレ女王を見つめました。ランカシーレ女王はしばらく呆然とした面持ちでいましたが、やがて何かに気が付いたかのようにパクリコンの顔を見つめ返しました。
「あ、あの、パクリコン……!? 私は……一体……!?」
「女王陛下。もう大丈夫です。ご安心を」
パクリコンはランカシーレ女王陛下の髪を撫ぜ、優しくそう言いました。
その瞬間のことでした。パクリコンがふと見やると、ユーグ王子が剣を抜いてこちらに切りかかってきました。
「危ない!」
パクリコンはランカシーレ女王を抱いて横転し、ユーグ王子の剣先を避けました。ユーグ王子は荒々しい声でパクリコンに言いました。
「よくも……よくも私の術を……! 女王を我が物にする術を……! 許さん!」
ユーグ王子はパクリコンに再び剣で切りかかってきました。パクリコンに抱きかかえられたランカシーレ女王は、思わず目を瞑ります。しかしその剣はキイイインという音によって弾かれました。そう、パクリコンが手にしていた筆によってです。
「この筆は、俺が芸術の道を選んだ時に師匠から貰った筆だ。ペンは剣より強し。同様に、筆は剣より強し、だ」
「こしゃくな!」
ユーグ王子は再び剣を振り上げます。しかしその瞬間、パクリコンは懐に隠し持っていた絵の具を勢いよく噴出させ、ユーグ王子の目を橙色で塗りつぶしました。
「ぐうううっ! おのれ……卑劣な……!」
ユーグ王子は激痛とともに、視界を奪われてしまいました。パクリコンは懐から橙色に染まった刷毛を取り出しました。
「芸術家って奴はな……」
パクリコンはその刷毛をユーグ王子の口の中に押し込みました。口腔に油性絵の具が押し込まれ、ユーグ王子は思わず咽せびました。
「己より大事なものを守るためなら、どんな手段だって使うんだよ!」
パクリコンは筆の柄で、ユーグ王子のみぞおちをいきおいよく突きました。ユーグ王子は吐血し、倒れて動かなくなりました。
「……急所を狙えば、筆一本でも人は倒せる。殺せはしないが、婦人一人くらいなら守れるものだ」
パクリコンは前掛けを手で払い、ランカシーレ女王に手を差し伸べました。
「どうぞ、立ち上げますか、女王陛下?」
ランカシーレ女王はパクリコンの手を取ったかと思うと、勢いよくパクリコンに抱き着きました。
「ああ、パクリコン! パクリコン!」
ランカシーレ女王はパクリコンの身体をぎゅっと抱きしめながら言いました。
「私はどうやらこのユーグ王子に操られていたようです! なんとあなたに愚かなことをしてしまったことでしょうか! あのハイヒールとあなたのお身体の傷を見れば、一目瞭然でございます! なんとお詫びすればよいか、私にはわかりません! ああ、お許しください!」
「女王陛下。お詫びなど要りませんって。それに今はまず、安全な場所までまいりましょう。ユーグ王子のことは、庭園で広く臣下に伝えれば良いだけの話です」
「パクリコン……!」
パクリコンはそう言ってランカシーレの腕を自らの腕に絡ませ、聖堂を後にしました。
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