第5話 蠱惑!? 女王の眼と真実を追う者!

 そのとき、物陰から一人の女性が飛び出してきました。

「そこまでよ! いったい何をしたの!?」

 声の主はレビアでした。レビアはユーグ王子をきっと睨みつけ、事の真実を糺しました。しかしユーグ王子は驚きこそすれ、やがてレビアに対して冷たく言いました。

「ああ。私はこれからランカシーレ女王陛下とともに、夜のお遊びへと興じに行くのだ。二人きりで行くので、お前には無駄な詮索をせぬよう心掛けていただきたい」

「何が二人きりよ! ランカシーレ女王陛下の気を失わせておいて、そんな勝手なことはさせない!」

「気を失わせた? それは違うな」

 ユーグ王子は不敵に笑いました。それもそのはずです、気を失っていたかと思われていたランカシーレ女王が、ゆっくりと自分の力で立ったのですから。レビアはランカシーレ女王に言いました。

「女王陛下! すぐにその男から離れて! そいつが陛下に何をしでかすか、分かったものじゃありません!」

 しかしランカシーレは、蠱惑な眼でレビアにこう言うだけでした。

「あら。私はこれから、この方とともに夜のお遊びへと興じゆこうと思っております。邪魔などなさらぬよう」

 その言葉に、レビアは愕然となりました。しかしレビアは叫びます。

「そんな……! 女王陛下! 気をしっかり持って! 惑わされないで!」

「フン、お前の言葉などとっくに届きなどしていない」

 ユーグ王子は冷たく言い放ちました。そしてレビアがどうしたものかと逡巡した瞬間に、ユーグ王子はレビアの腹を思いきり殴りつけました。

「がっ……!」

「そこでくたばっておけ、女よ」

 レビアは倒れ伏しました。ユーグはレビアの身体を蹴り飛ばし、ランカシーレ女王の手を取りました。

「ではランカシーレ女王陛下よ、ともに行きましょうぞ」

「はい、ユーグ様」

 ランカシーレ女王はドレスの裾をつまみ、大胆にドレスをたくし上げながらユーグ王子の腕に自らの腕をからませました。

 二人が夜の庭園へと消えてゆく中で、レビアはぐっと身体に力を入れて立ちあがろうとしました。しかし脚が言うことを聞きません。助けを呼ぼうにも声が出ません。

 やんぬるかな、と思った時、レビアは視界の隅に煤けた小屋を見つけました。それは庭園の端にある、工芸小屋でした。そして運のいいことに、明かりもついていました。

 レビアは這って、工芸小屋の扉の前までたどり着きました。息も絶え絶え、最後の力を振り絞って、レビアは扉を叩きました。

 扉が開き、絵の具に塗れた前掛けをしたパクリコンが現れました。パクリコンは、地を這うレビアを見やると、すぐに抱きかかえて工芸小屋の中の藁の上に横たわらせました。

「何があったのです、ご婦人?」

「女王陛下が……連れ去られてしましました……」

 レビアは浅い息の中で言いました。パクリコンは険しい表情を呈させます。

「連れ去られた? 一体誰に? どこへ?」

「ユーグ王子によってです……。行き先は分かりません。ただ……女王陛下のご様子が尋常ではなく……陛下がユーグ王子に意のままに操られているようでした……。さらに……二人で夜の遊びに興じると言っていたので……恐らくは近場で二人は……」

「分かりました。それ以上喋らないで」

 パクリコンはレビアにタオルを手渡し、水の入ったコップと水差しを枕元に置きました。

「ご婦人。どうやら私は女王陛下のもとに行かねばなりません。どうか、ご婦人を見捨てる私をお許しください」

「許しますとも……。ですから……どうか……。女王陛下を……お助けください……」

 そう言って、レビアはがくっと気を失ってしまいました。

 パクリコンはレビアにタオルケットをかけ、急いで工芸小屋を飛び出しました。パクリコンはまず、レビアが這ってきた場所を探し当てました。ちょうど這い進んできたレビアによって草がなぎ倒されていたので、レビアが倒れ伏したであろう柱の陰はすぐにわかりました。そして同時に、その柱の陰から別の方向へと草がなぎ倒されていっているのも見て取れました。ハイヒールの踵のような鋭い物で土が抉られた跡もありました。

「こっちか……!」

 パクリコンはその方向へ向かって駆けて行きました。

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