第4話 推参! 南国の王子と隠しきれぬ意図!? 

 数日後、ランカシーレ女王と南の王国の王子との食事会が開かれました。食事会は王宮内の庭園にて行われることになり、王室お抱えの料理長が腕によりを振るって最高級の料理を並べていきました。

 食事会には多くの臣下が呼ばれました。大臣から兵士長に至るまで、およそランカシーレ女王をよく知る者は皆列席していました。ただその場には、パクリコンの姿はありませんでした。

 ランカシーレ女王は庭園内の玉座に座って、南の王国の王子の到来を待っていました。ランカシーレ女王があまりにもこわばった表情をしていたため、臣下や下女はたびたびランカシーレ女王に、

「お気分がすぐれないように見えますが……」

と心配そうに声をかけていました。しかしそれでもランカシーレ女王は気丈に、

「ありがとうございます。私は平気ですので、どうぞお気になさらずに」

と返答していました。

 やがて人々の声が高まり、南の国の王子が到着したことにランカシーレ女王は気付きました。人々の列が割れ、ランカシーレ女王の玉座まで道ができました。

 ランカシーレ女王が見やると、馬車を降りてこちらに歩いてくる男が一人いました。短く刈り上げた黒髪に、精悍な体つきの男が、南国の礼服に身を包んで一歩一歩近付いてきます。

 ランカシーレ女王は立ち上がり、男の前に歩み出て言いました。

「はじめまして、ユーグ王子殿下。お待ちしておりました。どうぞおくつろぎください」

 するとユーグ王子はランカシーレ女王の前にひざまずき、ランカシーレ女王の右手の甲に接吻を施して言いました。

「初めてお目にかかります、ランカシーレ女王陛下。お麗しゅうございます。どうぞ、我が国とゴットアプフェルフルス国との未来を祝して、今日は是非とも語らいあいましょう」

 その姿を見て、ランカシーレ女王の臣下は思わずうなずきました。しかしランカシーレ女王だけは硬い表情のままで、

「ではあちらにお席を用意しております。どうぞお楽しみくださいませ」

と言って玉座に再び座りました。

 食事会はとても和やかに進みました。同じテーブルについたランカシーレ女王とユーグ王子は、料理を前にして海産物や農作物についての話に花を咲かせていました。ときおり冗談を交えつつ愉快そうに話すユーグ王子は、ランカシーレ女王に対してとても情熱的でした。ゴットアプフェルフルス国について、伝統と文化によって築かれた大国であると真摯に話す様は、さしづめ未来のゴットアプフェルフルス国の王として相応しかろう、と誰もが思ったことでしょう。唯一気がかりなことがあるとするならば、ランカシーレ女王の表情がずっとこわばったままである、という点だけでした。

 やがてコース料理が終わり、人々は歓談の時間を迎えていました。ユーグ王子はランカシーレ女王にこう持ちかけました。

「ランカシーレ女王陛下。どうか二人だけで夜の庭園を散歩いたしたいと思います。ご一緒していただけましょうか?」

 ランカシーレ女王は、ついにこの時が来たか、と思いました。相手もおそらくこの瞬間を最大のチャンスとしているはずです。ランカシーレ女王は気を緩めぬように、

「はい。ご一緒いたしたく存じあげます」

と言って席を立ちました。

 臣下の人々は「ついに女王陛下が王子と二人きりになったか」とわくわくした目で見送りました。ただそんな人々の中で、レビアだけは怪訝な目で夜の闇に消えゆくランカシーレ女王とユーグ王子を見ていました。レビアは何かに納得ができなかったのでしょうか、やがてレビアも夜の庭園へと姿を消していきました。

 二人きりで夜の庭園をあるくランカシーレ女王とユーグ王子は、しばらくの間庭園の美しさとその造形について語らいあっていました。しかしやがてユーグ王子は口をつぐんだかと思うと、ランカシーレ女王にこう切り出しました。

「女王陛下。私は女王陛下を一目見たときから、その美しさに心を奪われてしまいました。女王陛下のたぐいまれなる知性と、その麗しい器量に、どうか愛の言葉をささやくことをお許し願えないでしょうか」

 その言葉を聞いて、ランカシーレ女王はユーグ王子に言いました。

「そう言って、一体これまで何人の女性をおたぶらかしになったのです?」

「たぶらかす!? とんでもない。このようなことを申し上げる相手は、ランカシーレ女王陛下が初めてでございます。何しろランカシーレ女王陛下ほど美しい女性など、この世のどこを探してもおりますまいに」

「……とこれまで何度女性に仰ってきたのです?」

 固い表情で告げられたランカシーレ女王の言葉に、ユーグ王子は一瞬言葉を失いました。しかしやがて、ユーグ王子はさきほどまで浮かべていた笑みをかなぐり捨てて言い放ちました。

「ランカシーレ女王こそ、何人の男を囲っているのです? 少なくとも十人で済んではいらっしゃるまいに」

 ランカシーレはその言葉を聞いて、かっと頭に血が上るのを感じました。

「何が十人ですか! 私は私の純潔くらい守り通しております! あなたと一緒になさらないで! 全ての女性が、自らの身体を遊び道具にしているだなどと思いあがらないで!」

「ほう」

 ユーグ王子はランカシーレ女王に一歩近づきました。あまりに近づいたのでランカシーレ女王はたじろぎ、つい柱の陰になっている部分に歩を退けてしまいました。

 ユーグ王子は言いました。

「権力があれば性も集まるものだ。現に私の後宮には百人ほどの女が、毎日性を持て余して遊び暮らしている。彼女たちに性の悦楽を与えるのもまた、私の仕事だ。そう、後宮の百一人目女性がランカシーレ女王になるという、ただそれだけの話ではあるのだが」

 ユーグ王子はランカシーレ女王の顎に手をやりました。ランカシーレ女王は思わず恐怖を感じてその手を払いのけましたが、ユーグ王子はしつこくランカシーレ女王の肩に手を回してきます。

「あなたがどんなに聡明な女王だと言っても、所詮は女に過ぎない。さしづめ、どんなにゴットアプフェルフルス国が栄えようとも、所詮は貧国であるように。強大な力の前では、哀れなほどに無力だ」

 ユーグ王子はランカシーレ女王に顔を近付けました。ランカシーレ女王はごくりと唾を飲み込みました。ユーグ王子はランカシーレの耳にこうささやきました。

「それをこれから証明してやろう」

 ユーグ王子は懐から一本の杖を取り出しました。その杖の先端には、不気味な紫色に光る宝石がはめこまれていました。

 ランカシーレ女王が驚いていると、ユーグ王子はおもむろにランカシーレ女王のドレスの裾をわしづかみにしました。

「いやっ、やめてっ!」

 ランカシーレ女王の抵抗も虚しく、ユーグ王子はランカシーレ女王のドレスを思いきりめくりあげました。ランカシーレ女王の白磁のような脚と、絹の下着で守られた下腹部が顕わになりました。ランカシーレ女王は己の貞操の危機を感じました。しかしユーグ王子が狙ったのは、ランカシーレ女王の下腹部ではありませんでした。

「こうしてやればいいだけなのだからな!」

 ユーグ王子は杖の先端で、ランカシーレ女王のハイヒールをコツンと突きました。その瞬間です、ランカシーレ女王のハイヒールにこびりついていた黒い粘液が急激に膨れ上がり、ランカシーレ女王の肢体にまとわりついていったではありませんか。

「いやあああああああああっ!」

 その粘液はランカシーレ女王の身体にしみこんだかと思うと、ランカシーレ女王はぐったりとなり、その身をユーグ王子に委ねました。

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