生きる為に。~どら様から頂いたお題「アリクイの主張」より
ヒント
:扉は2つ。扉を開ける鍵は、既に用意されている。
:ひとつ目の鍵はビンの中。ふたつ目はビン其の物。
俺はメモを投げ捨てた。白い紙片は、同じく真っ白い四方の壁に同化してゆく。
気付けば密室に閉じ込められていた。まるで小説ドグラ・マグラの冒頭の如く。
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「今勉強しないで将来どうするの?」「お客様おめでとうございます。当選です」「今回限りの特別価格で」「本当です、ずっと悩んでいた人が…」「一回会おうよ」「絶対に損はさせません」
雑多な声が、仕切られた小部屋の薄壁から漏れてくる。
基本、何でも売る。英会話教材、羽毛布団、偽絵画……。
デート商法が主力だが、相手が老人の場合、屋根の修理を申し出る事だってある。
「チーフ!アポ取りました」
「ご苦労さん」
彼女の役目はここまで。美人じゃないから、実際に客と会って商品を売りつけるのは別の奴が担当する。水商売の面接を落とされた未婚の母は、ここで頑張るしかない。
罪悪感くらいは…ある。しかしアリクイは、アリしか食えないからアリクイなのだ。俺達には、バカな奴を騙す以外、生きる術がない。無作為に人の波に舌を差し込み、貪るだけだ。
…すべては、生きる為に。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
…恨まれる理由が多すぎて、誰がやったか詮索するのは諦めた。
兎に角、俺は白い壁で囲まれた密室に、今閉じ込められている。
そして俺の目の前には、頑丈な鉄の扉が立ち塞がっているのだ。
でも……監禁を企てた人物は、一枚のメモに謎の言葉を残した。
:扉は2つ。扉を開ける鍵は、既に用意されている。
:ひとつ目の鍵はビンの中。ふたつ目はビン其の物。
部屋の中央には小さなガラス瓶が置かれ、その底に鍵がへばりついている。
頭脳戦?
(二つ目は、ビン其の物)
つまり一つ目の扉を開けても、その奥にもう一つ扉があるということか?
ふたつ目の鍵は、ビンを差し入れる事で、開く仕組みと言う意味だろう。
謎解き。
:ビンから鍵を取り出して、一つ目の扉を開ける。
:ただし瓶を破壊すれば、二つ目の扉は開かない。
簡単な事だ。 ビンを割らずに、鍵を取り出せばいい。
・・・・どうやって?
瓶をいくら振っても、鍵は底に張り付き、決して落ちはしない。
手を突っ込もうにも、ビンの口は小さく、指数本しか入らない。
・・・・届かない。
俺は確かに悪党だが、殺される程の罪を犯したと思えない。
謎の人物はだから、脱出のチャンスを俺に与えているのだ。
考えろ!考えろ!考えろ!
知恵比べ。
必ず!必ず方法はある! 俺はきっと脱出できる!……生き延びてみせる!
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「で結局…扉は一つだけだったのですか?」
「ああ…。単純にビンを割って扉を開けていれば、被害者は助かっていた。正確に言えば、(第二の扉とはビン其の物)……第二の扉から先に開けろという意味だったんだ」
「ちょっと、死体を見てきます」
「待て!……見ない方がいい」
「ご心配なく。腐乱死体など見慣れていますよ」
「死因は餓死じゃない。窒息死だ」
「はい!?どういう事でしょう?」
「窒息死だよ、窒息死。全く、人間の生への執着とは、恐ろしいものだ」
「仰っている意味が分かりません」
「割らずに鍵を取る方法を死にもの狂いで考えた。…おぞましい、余りにもおぞましい姿だ。人体の中で、指より長く到達するもの、……結果、死体の姿はまるで………」
~FIN~
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