モザイクと剣 ~Norieさんから頂いたお題「小説家」より
流行作家。
読者の心に突き刺さる剣を持つ。それは建前。
モザイク。
私の私生活は、誰にも貫かれぬ盾に守られる。
デビューは高校二年の夏だった。最年少受賞者。瑞々しい感性を持つ女子高生作家。
対人恐怖症ぎみだった私は、すべてのメディアへの露出を拒否した。結果……それが成功要因。
美しい容姿や、過酷な生き様を晒した作家は、一次的な脚光を浴びる。
でもそれは例外なく、世間の理不尽な嫉妬を買った。
最年少受賞ブームの渦中にいたライバル達は、次々に世間に叩き潰されてゆく。どんなに素晴らしい作品を書いても、例えそれが本物の血肉であろうと、世間は許してはくれない。
「作風を変えたい」
デビューから四年後、私は編集者に告げた。
「それは、リスクが大き過ぎます」
取り合っては貰えなかった。
本が売れない時代。
損益分岐点の上を行く者に、冒険は出来ない。
徐々に作品は劣化し、腐敗していく。でもファンは、陳腐な恋愛に、いつまでも酔いたがる。
孤独。
子供の頃から浮いた存在だった。文学の中に、逃げ場を求めた。
蓄積された知識は、同世代への軽視に変わり、やがてそれは更なる孤独を生む。
……人生で一度しか恋愛を経験したことが無い。
二十歳を過ぎた頃から、這い上がってくる奴らに怯えるようになった。
彼らは、無名の屈辱を乗り越え、本物になっていく。
……私が蓄積したものなど、とうに錆び付いていた。
神秘のベールを剥がさぬ様に、モザイクから私生活を小出しにしてゆく。
でも…それも限界。
男性のファンレターの中に、彼の存在を探す。
自分でも愚かだと……。
たった一度の、本当の恋。
あがいても抜け出せない輪廻の中で、私は遂に禁断の果実に手を伸ばす。
ゴーストライター。
編集者から紹介された人物は、全盛期の私と比べて、なんら遜色はない。
この程度の書き手は、世間に幾らでもいるのか?でも守るべきは、私の存在。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
仕事の依頼が来た。
流行作家の代役にしては、余りに安い報酬。
矛盾。 どんな盾もつらぬく矛(ほこ)と、どんな矛も防ぐ盾 両者は決して共存しない。
彼女は今、自ら作った盾に苦しめられている。
僕のたった一度の恋は、執着に変わったのだろうか?
でも、僕はきっとたどり着く。君が見ることのない世界へ。
いつか 僕の剣は 君をつらぬく。
~FIN~
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます