月と梟~ ちえぞう様から頂いたお題「梟(ふくろう)」への再挑戦
月灯りは、やさしい。
私はその柔らかな光のなかで、邪悪に想う。 そお、皆殺し。
だが、非力な女ゆえ、いまさら剣を磨いたところでどうなるわけでもない。
首都マゼンダが、蛮族の騎馬隊に制圧されたのは、約半年前。
生肉を食らうデルキア人は、笑顔で満たされた我が文明を、やはり笑顔で破壊したのだ。
水平に伸びた枝木に一羽、フクロウがそこに居る。
(月灯りが眩しすぎる。野ネズミも出てきやしない。今の君の様にね)
フクロウに話しかけられるのは初めてじゃない。別に驚きもしなかった。
(殺気がみなぎれば、向けられた相手は警戒をする。君は近付くことさえ出来ないだろう)
そんなことはわかっている。森の賢者よ、ではどうすればいい?
(愚かなことだ。女には女の戦い方がある)
国を憂う気持ちに、男も女もなかろう。賢者とは、偏狭なのだな。
(ここから西の里に、ひとりの男が暮らす。その男と結ばれるが、吉とある)
その男は強いのか? ならば、我が純潔を捧げてもいい。
(片足を失っておる。別に、役には立つまい。それに男は、元デルキアの戦士だ)
戯言を…。何故に敵国のしかも○○○に、我が身を捧げねばならぬ。
(吉と出ておる。それに偽りはない。女には女の戦い方がある)
フクロウの嘴(くちばし)は欠けている。随分と年老いたフクロウではないか…。
(足を失うまで、男は勇敢な剣士であった。その子はそれ以上の剣士になるであろう)
――――――――――――――――――――――――――――――――
今夜も、フクロウは餌にありつけはしない。それほどの、やさしい月。
我が子は、遠い満月に向かい、指を絡ませ、笑っている。
(その子を戦士にする心持ちか? ならば我が予言は…)
名前をつけて欲しい。
(素質に恵まれた、その子はいずれ…、……ん? 名前など、どうでも良かろう?)
森の賢者よ。行く末は、この子に決めさせてたいと思う。だから…。
(……我が子なら自分で名前をつけるがよい)
賢者よ。夫は、片足を失った絶望の淵で、私とこの子を愛してくれている。
夫の迷いは、心の弱さは、自らがこの子の未来を決めることを拒んでいるのです。
(ならば、きさまが決めればよかろう。……その前に、もう一度)
もう一度…?
(ふたりで話しあえばいい。何度でも。何度でもいい。剣を握るか、そうでないかは、その子が決める。でも、ふたりは話しあえばいい。名前の価値とは、お前たちが決めるものではない。でも、何度でも何度だって話しあえばいいのだ)
――――――――――――――――――――――――――――――――
古今東西、人語を話す鳥類の記述はない。
単純。
このお話は、自国の蛮行を憂い戦士が、義憤にかられ片足を失った事に始まる。
偶然。
荷車で運ばれる戦士に、一人の少女が恋をした。矛盾に満ちた……恋だった。
彼女が描いたフクロウは、実在したのかさえ、あやふやなものだ。
人は妄想に遊ぶ。ここに存在するフクロウは、ジクソーパズルの最後のピースでしかない。
脳のどこかで、彼女が決断した事に過ぎない。
お前に笑えるか? この寓話を。
人は、最後のワン・ピースさえ、見失うことがある。
彼女の選択が正しいのか、そんなことはどうでもいい。
でも、数百年後の今も、彼の楽曲は僕たちの胸を震わせている。
~FIN~
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