記憶喪失Ⅱヒキコモリのサイン ~戌のひあん様から頂いたお題「記憶喪失の使い方」より
「あんたは、うつる心配ないわね」
母さんが、嫌味ともあきらめともつかない様子で、バタンっとドアを閉めた。
夏休み前から一ヶ月以上、僕はその間一歩も外に出ていない。
所謂、ヒ キ コ モ リ。
だから、今流行の新型インフルエンザにかかる心配はない。
このインフルエンザの特徴は、数日間の激しいくしゃみと発熱、そして感染した前後の記憶がまったく無くなるって事だ。約二週間の…記憶喪失。
テレビ画面は、今その話題で持ちきり。
一番多いのは借金をして踏み倒すケース。貸した記憶がないのだから借りた方は丸儲け。
インフルエンザの特徴が認知されていない初期の頃、それは頻繁に行われ、そして認知された今では、もっと悪質な犯罪が起こっている。
僕はテレビを消した。
人の弱みに付け込んで罪を犯すなんて、…まったくセンスの欠片も無い連中だ。
僕なら…僕なら……もっと違うことを考える。僕なりの「記憶喪失の使い方」
「あほくさ」
僕はベッドに寝転んだ。
記憶を無くしても意味がない。(事実を消さなけりゃ!!)
僕が引き篭もった理由。それは夏休み前。
中学から好きだった子に告白をした。高校も同じ、クラスも同じ、奇跡だと思った。
今考えれば、少しテンションがおかしかったのかも知れない。
放課後、呼び出した彼女は、小さな声で「ごめんなさい」と言った。
でも、その時はショックじゃなかった。
こんな僕なんか相手にされるわけない…そんなことは分かっていた。
むしろ勇気を出して告白した、自分自身を褒めたいくらいだった。
告白した次の日、登校した僕にクラスメートの視線が集まった。
中にはあからさまに耳打ちする奴までいる。
(彼女が喋った…)
僕は足がすくんで、そのまま家に帰った。
だけどもう、このままで良いわけがない。
幸い夏休みを挟んでいたので、休んだのは三週間くらいだ。
高校を一年で中退じゃ、本当に一生、部屋の中だ。
僕は…決意した。
「よう~久しぶり」
クラスメートから、何事もなかったかの様に声をかけられる。
「病気いいの?あ、インフルエンザにかかったら、また二週間休みになるぞ。やべーぞ」
母さんは僕が病気だと伝えていたようだ。
僕がどんな気持ちで過ごしてきたか、誰も知らずに淡々と授業は進む。
見てはいけないと思ったが、彼女はうつむいて僕の方を見ることはなかった。
放課後。一人教室に残った。夏の太陽は、呆れるほどまだ強い光を放っている。
なんてことはなかった。明日からまた、僕は普通の高校生だ。
「あの…」
振り向くと、そこに彼女がいた。
僕は微笑むだけにした。彼女もきっと、からかわれたはずだ。
逃げ出した僕が悪い。
彼女が喋ったことなんか…罪じゃない。
僕は、右手で(ストップ)のサインを送った。
このまま黙って、卒業まで過ごせばいい…そう思った。このまま黙って立ち去ればいい。
「待って!あの時、後ろにみんな居たから…恥ずかしくって」
「え!?」
「私も…中学の頃からずっと好きで、同じクラスになって奇跡だと思って…へクション」
「じゃあ…僕のこと嫌いじゃなかったの?………ハクション」
「うん、それを伝えようと思ったら、ずっと休んでいるからすごく心配で…へクション」
「ハクション…僕はてっきり…ハ・ハ・ハックション!!!」
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高校生活も、残りわずか。
振り返れば、充実した3年間だった。
勇気で突破するってことが大切なのだと、僕はそれだけは学んだ。
あのとき決意しなければ、もしかすれば…僕は引篭もりのままだったのかも…。
振られた癖に可笑しいけれど、僕はそのことで悩むことはなかった。
彼女は輝いていたし、ふられた癖に、僕は彼女を真っ直ぐに見ることが出来た。
推薦で決まった大学に、この春から通うことになる。
彼女とはもう会うことはないだろうけど、不思議と残念だとは思わない。
好きだと言う気持ちは変わらないのに。
~FIN~
毎度恒例、~FIN~から始まる教授と助手のミニコントのお時間です。
「おい、助手!やっと解析が終わったぞ!」
「本当ですか?教授」
「ああ、可也複雑な分子構造だったがなぁ。天才のワシに不可能は無い」
「流れる石と書いて流石です!教授」
「このインフルエンザウイルスの特徴は…」
「特徴は?」
「確かに記憶組織を圧迫して記憶を消しさるが…」
「猿が?」
「それは一時的なもので、組織から毒素が抜ければ、即座に回復する」
「猿が抜きまくるのですね?」
「まあ、直ぐにではないな…回復してから約2年後ってところか」
「二年も…死ぬまでこすり続けるって本当なのですね」
「助手よ」
「はい、なんでしょう?」
「折角、ロマンチックなオチに、猿のオナニー話を混入するのはどうかな?」
「えーっと、(戌のひあんさん)はお笑い投稿戦士なので、その方面も充実させないと…」
「マイミク申請しようとした女性陣が木っ端微塵だよ、助手」
「もう諦めましょう、教授」
「そうだな…助手」
教授&助手 わあああああああああああああああああああああああああああ
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