2 神官
フィルウィーズのジングウ。その用務所の中にある、神官長の私室。
「……ということだったそうだよ」
慈乃の手紙の内容を渚が語って聞かせた後も、ミィは静かに俯いていた。
「ライゴウ=ガシュマールの不死性は、彼を苦しませるためのものだったのですね」
「元から魂は壊れていたんだろうよ。多分、ユキナ=エウクレイデスを失った時に。その魂を不滅の肉体に封じた、死んでいないだけの死人……それがあの男の正体だったのさ」
「だからこそ、生きることに苦しみ続けた。だからこそ、生きる希望を取り戻した途端に不死性を失い滅びてしまった……」
「当然、元から砕けていた魂も完全消滅だ。復活の呪文でもどうにもならない。死を望む限り苦しみ続け、生を望んだその瞬間滅びて消える……まったくよくできた皮肉だよ」
「あの子は……慈乃は、今何をしているのでしょうか」
ミィが暗い表情で言う。いつも小言ばかり言ってはいるが、そんなミィが慈乃を本当に案じていることを、渚は知っていた。
「わたしがあの時もっとしっかり引き止めていれば、あの子はフィルウィーズに留まっていたはず。こんな哀しいことにも遭わなくてすんだはずです。わたしのせいで……」
「本人のいないところでは優しいね、アンタはさ。けど、留まってたってのはどうかな。もともとフィルウィーズに閉じこもっているような器じゃなかったんだよ、あの子は」
「…………」
「いつどんな形でかはともかく、きっとここを出ていったはず。それがあの時だったってだけの話さ。だから早い内に一等神官にして責任で縛りあげようと思ってたんだけどね」
「……神官長も大概ですよね、本人のいないところでは」
部屋の外を見上げる。フィルウィーズの空は遠く、優しく、世界を包みこんでいた。
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