第157話 Party Time 2
クリスマスパーティーのトリのイベント、プレゼント交換が始まった。
みんなが輪になって、鬼胡桃会長があらかじめみんなから集めたプレゼントを、ランダムに配る。
そこで錦織が「Party Make」のインストを、スピーカーから流した。
プレゼントが、輪になった僕たちの手の上を渡る。
プレゼント交換が初めての弩が、目をキラキラさせていた。
「はい、ストップ!」
インスト一曲分、プレゼントが回ったところで、鬼胡桃会長が号令をかけた。
「今、手元にあるプレゼントで決定よ。さあ、開けなさい」
みんな、ガサガサと包装紙を開ける。
「なんか、私の、すごく重いんですけど」
萌花ちゃんが言って、茶色の包装紙で雑にラッピングしてある包みから、鉄の塊を取り出した。
「ふふふ、3㎏の鉄アレイだ。萌花は、望遠レンズがついた重いカメラを構える為にも、それでトレーニングすればいいだろう」
縦走先輩が力こぶを見せながら言う。
「はい、ありがとうございます!」
1000円の予算内で、実に縦走先輩らしいプレゼントだ。
「僕は、これ、本みたいだけど……」
包装紙を開いた御厨が、困惑の表情を浮かべている。
タイトルが、
「君がトイレに行っている間に、私は2000万円稼ぐ」
という、自己啓発本だった。
表紙に、腕組みした中年男性が誇らしげに写っている。
「御厨君、あなたはそれを読んで自己を高めるといいわ」
それは鬼胡桃会長が用意したプレゼントだったらしい。
「は、はあ」
御厨が苦笑して言った。
さすがは鬼胡桃会長、意識が高い。
「これ、なんだろう?」
ほしみかが、リボンが掛かった包みを開けて、オレンジ色の布を広げた。
「まだ発売前のクリーニングクロスの試作品です。これを使えば、スマホの汚れも軽く撫でるだけで落ちますよ」
母木先輩が言う。
清掃用具メーカー開発者と知り合いの母木先輩だから、その筋で仕入れたんだろう。
「ありがとう、使わせてもらいますね」
ほしみかが、母木先輩に微笑みかけた。
そんな母木先輩には、萌花ちゃんが用意した携帯三脚が当たる。
スマートフォンや、コンパクトカメラで使えるやつだ。
「それで二人のお写真、たくさん撮ってくださいね」
萌花ちゃんが母木先輩と鬼胡桃会長に向けて言った。
「ああ、ありがとう」
「まあ、いいんじゃない」
母木先輩と鬼胡桃会長が答える。
ほら、そこ、見つめ合わない!
「何これ、かわいいー!」
花園には、な~なが選んだバスバブルが当たった。
パステルカラーの球体のバスバブルが、ガラス瓶に詰めてある。
その花園が持ってきた黒ウサギの縫いぐるみが、鬼胡桃会長に当たった。
「鬼胡桃のお姉ちゃん。この子、可愛がってくださいね」
黒ウサギの頭を撫でながら、花園が言った。
「会長は、縫いぐるみ大好きだから、可愛がってくれますよね」
僕が言うと、ニコニコした会長がつかつかと近づいてきて、僕の耳元で、
「篠岡君、あとで、お話があります」
と、低い声で囁いた。
こ、恐い……
このあと、絶対に、一人になるのはやめよう。
枝折がプレゼントにしたのは、枝折らしく、図書カード1000円分だった。
それが、古品さんに渡った。
その枝折が当てたのは、錦織の「洋服お仕立て券」だ。
好きな布を持ってくれば、錦織が体にぴったりと合った服を作ってくれるというチケットらしい。
「枝折ちゃん、どんなデザインの洋服でも、縫ってあげるから、言ってね」
錦織が枝折に言うと、枝折はコクリと恥ずかしそうに頷いた。
これが決まりの1000円以内かというと、1000円以上の価値があると思うんだけど。
「痛!」
プレゼントの包みを開けたヨハンナ先生がそう言って、指を舐めた。
先生に当たったのは、ほしみかが選んだサボテンの鉢植えだ。
「サボテンなら、先生も枯らさないからいいですね」
ほしみかが言う。
「私のずぼらさを舐めないでほしいわね。私は、サボテンだって枯らすわよ」
先生が言った。
先生、そこ、威張るところじゃないです。
「ああー!」
その隣で、今度は錦織が大きな声をあげた。
「これ、『ぱあてぃめいく』時代の、手焼きCDじゃないですか!」
プレゼントの包みを開けた錦織が、興奮を隠せない。
それは古品さんからのプレゼントで、「Party Make」が「ぱあてぃめいく」だった頃に、自分達でCDを焼いてジャケットにサインして作った自主制作版だった。
幸運なことに、熱烈なファンである錦織が、それを当てたらしい。
「これ、今、オークションとかに出ると二万円くらいで落札されますよ!」
錦織が唾を飛ばした。
「古品さん、1000円の予算なのに、ずるいじゃない」
鬼胡桃会長が言う。
「でも、これ、売り出したときは300円だったんだよ。それでも売れなくて、実家に在庫がたくさんあったんだから」
古品さんが釈明した。
古品さんの家には、まだ、たくさんお宝が眠っているってことか。
「これ、大切にします」
錦織は、CDケースに頬ずりしそうな勢いだ。
僕がプレゼントに出した柔軟剤は、な~なに当たった。
「ありがとう、これを期に、自分で洗濯とかしてみようかな」
な~なが言う。
「なんなら、その柔軟剤を使って、僕がな~なさんの服を洗濯します」
僕は買って出た。
「そんな、悪いよ。柔軟剤をもらって、洗濯までしてもらうなんて」
な~なが言う。
でも、アイドルの服を洗濯できるなんて、ご褒美じゃないですか。
御厨が出した岩塩の塊は、縦走先輩に当たった。
ピンポン球くらいの大きさで、岩塩専用のおろし金も付いている。
「丁度いい、夏場なんかトレーニングしながら塩分不足になると困るから、これを持って舐めながら走ろう」
縦走先輩が言った。
先輩、岩塩は、そんな使い方をする物じゃないと思うんですけど。
新巻さんが用意したまだ未発売のサイン入り新刊小説を当てたのは弩だ。
鍋兎シリーズのスピンオフらしい。
「枝折ちゃん、枝折ちゃんに先に読ませてあげるね」
枝折が弩の前に立って、怨めしそうにずっと見ているから、弩が冷や汗をかきながら言った。
「わたしは、これ、ホワイトロリータだ」
新巻さんに当たったのは、お菓子の袋、十袋だった。
誰がそれを用意したのかは、訊かなくても分かる。
「弩、ホワイトロリータ禁止って、言っただろ」
僕が注意した。
プレゼント買いに行く前に、ちゃんと言っておいたのに。
「先輩、よく見てください。それは、ホワイトロリータではありません。ホワイトロリータプレミアムです!」
「はっ?」
「これは、バターや卵を贅沢に使った、一袋に五本しか入ってない、特別なホワイトロリータです!」
弩が力説した。
「お、おう」
そんなに力説されても……
結局、ホワイトロリータですっ、て言っちゃってるし。
「あ、本当だ。美味しい」
新巻さんが袋を開けて一本囓った。
ホワイトロリータプレミアムを囓る新巻さんを、今度は弩が、涎を垂らしそうな顔で見詰める。
「お、弩さん、食べる?」
新巻さんが訊いた。
「えっ、いいんですか!」
弩にそんな顔で見られたら、新巻さんはそう言うしかないだろう。
ホワイトロリータプレミアムを美味しそうにポリポリと囓る弩は、子リスみたいだ。
あと、残ったのは僕の手元にあるこの大きな包みだけだ。
ヨハンナ先生のプレゼントがまだだから、僕の手元にあるこれは、先生が選んだものだろう。
大きさに比べて、随分軽い包みだった。
早速開けてみると、包みの中に入っていたのは、縫いぐるみだ。
この縫いぐるみに見覚えがあった。
円盤の形のベースに、十二個の小さな縫いぐるみが付いている、ゆるキャラの縫いぐるみ。
「あっ、先輩これ、『どうどうめぐり君』じゃないですか!」
弩が言った。
僕と弩が行った、あの遊園地のキャラクターの縫いぐるみだ。
「きゃーカワイイ!」
女子達が大騒ぎしている。
このゆるゆるの「どうどうめぐり君」がカワイイとか、本当に、女子のセンスは分からない。
縫いぐるみは、すぐに花園に奪い取られた。
花園が、「どうどうめぐり君」を抱きしめる。
でも、あれ、待てよ。
この縫いぐるみは、あの遊園地の入り口で、入場者に配っていた。
これを持ってるってことは、ヨハンナ先生もあの遊園地に行ったってことか。
そうだとすると、もしかして、あの、突き刺すような視線……
遊園地で感じた、誰かに見られているような視線、あれは、先生だったんだろうか?
もしかして、観覧車のゴンドラを揺らして、僕と弩が勢いでキスしようになったのを止めたのも……
いや、そんなことはない。
先生は教育者だし、ゴンドラを揺らすとか、そんなDQNみたいなことはしない。
きっと、先生は偶然、プレゼント期間中にあの遊園地に行っただけだろう。
そうだ、そうに違いない。
僕は、そう思っておくことにする。
だけど、これ、入り口で配ってたし、1000円の予算どころか、タダじゃないか!
プレゼント交換が終わって、午前零時を回ったところで、クリスマスパーティーはお開きになる。
「片づけは明日にしよう」
母木先輩が言って、食器を台所に運んだだけで、今日は寝ることになった。
もう、冬休みだし、朝まで徹夜でパーティーしてもいいんだけど、今日はクリスマスイブで、寝ておかないと、サンタクロースが来られないのだ。
そう、徹夜したら、僕がサンタクロースとして弩の部屋に行けないのだ。
「それではみなさん、お休みなさい」
弩をはじめ、寄宿生のみんなが自分の部屋に戻って行った。
男子は食堂でみんなで雑魚寝する。
「花園は、ゆみゆみと一緒に寝たい」
花園が駄々をこねると、枝折が何かを察したのか、すかさず、
「花園ちゃんは、お姉ちゃんと一緒に寝ようね」
と言って、花園を誘って109号室に入った。
枝折、GJ。
僕は、弩が一人で自分の部屋に戻って、ドアを閉めたのを確認する。
「さあ、篠岡、がんばれよ」
母木先輩が僕の背中を叩いた。
パーティーは終わったけど、僕のクリスマスイブは、これからだ。
僕はこれから、弩のサンタクロースになる。
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