不屈の自由作戦 Ⅳ

 ようやくのご登場かと後ろを振り向と、そこには武装した部下数人と大桐の姿があった。

「大桐…………よくもまあノコノコと顔を出せたものだね」

「出すも何も、元より貴方の暴走を止めるために私達コンフィーネは立ち上がったのよ、結果としてツヴァイヴェルターとも戦わなければならなくなったけれどね」

「そうかい、それで大桐はどうするつもりなんだ? 私を捕らえて牢獄にでもぶち込むか? そんなことをすれば日本国中が大混乱に陥ってしまうぞ?」

「そんなことをしても意味のないことぐらいは分かっているわ、何より貴方は未だ国民の支持は高いもの、どちらが悪党として扱われるかなんて明白でしょう?」

 大桐は呼気を強め更に話し続ける。

「ただ――ただ私は貴方には自分の想いの正直であって欲しい、それだけなの」

「自分に正直……だって? よくその口で言えたものだね! 裏切りを働いたのはそちらの方からだろう!」

「裏切ってなんかいないわ! 方向性として他にも色んな選択肢があったというだけのこと、そこを模索していくことに罪はない筈よ! それを大きな括りで縛り上げては多くの人間が苦しむだけだわ! 多様性を受け入れないあり方は破滅しか生み出さない! 弥刀、貴方は多角的な見方が出来る人だったじゃない、だからここまでやってこれた、それなのに――」

「黙れ! そうやって色々な形を受け入れてばかりいるから衝突し、争いが生まれるのではないか! 時にはマジョリティを優先しなければ先に進めないこともある、平等には限界があるんだ! 妥協点を見つけなければ人はいつまでも争いを続ける!」

「それがこの結果だというの!? 何一つ妥協されずより多くの被害が広がっただけじゃない! 貴方はただ意固地になっているだけなのよ、そんな独り善がりなやり方ではいつか限界が来るわ、あのツヴァイヴェルターのボスと何も変わりやしない!」

 ……かつては同じ国の未来を夢見て歩いた者同士、だからこそ何処かで綻びが生まれたことが大きな引き金となり、補修されることなく別の道へと歩む結果となってしまった。

 だからこそ、これだけ強い意思がぶつかり合ってしまうものなのか――確かに想いというものは同じ方向を向いているように思えても全てが一つとして同じ方角であるということは決してあり得るものではない、それ故に僕と出来島も闘うしかなかった。

 どうしてこうも難しいものなのか、本当はいっそかつての長峡のようにそんなモノは無い方が楽でいいのかもしれない、想いというのは人が抱えるにはあまりに重すぎる。

 それだというのに、人はそれを抱えずにはいられないのだ、そうしないと不安で、自分は生きている意味すら無いような気がしてしまうから、だから長峡も欲した。

 どれだけ傷つこうとも、歪になっても、誰かの為に、自分の為にそれを離しはしない。

 どれだけの人間が巻き込まれたとしても――

「…………生野せんせー……」


「――――ならどうして! あの時『白子(しろこ)の総攻めはアリ』なんて言った!!」


「……………………………………………………………………………………は?」


 ん? ちょっと待ってこの内閣総理大臣今なんて言ったのかな?

「そ、それは……彼が他のどのキャラよりも全員と切っても切れない位置関係にいるからそういうのもアリだと思ったのよ!」

「それなら総受けが一番に決っているだろう! それ以上の完璧な形はあり得ないと、あの時私達は全会一致したじゃないか! それだというのに……!」

 腑に落ちない、その全会一致の使い方はまるで腑に落ちんぞ。

「私は総受けを否定している訳じゃないの……! いえ、そもそも誰もが認めるしかない王道的な形を否定するだなんて烏滸がましいにも程があるもの!」

「ならどうして総攻めなんてジャンルを肯定したんだ! お前が……大桐がそんなことを言ってしまったせいで私の中のカップリング概念がゲシュタルト崩壊してしまった! 夜眠りについてもリバや下克上のシュチュが頭の中でグルグルと回り続けて、寝不足の日々が祟って議会で支障をきたしそうになったことさえあったのだぞ!」

「カップリングの要素は無限大なのよ! 作品から生まれる種々様々な要素を吟味し、抽出することでまだ見ぬ新たな可能性が出てくるの! それを受け入れずに不変的なものばかりを愛すだなんて、そんなの――ただ意固地になっているだけよ……」

「いや……あの……冗談抜きでこの人達が道を別れた理由って、BLカップリングのあり方が納得いかなかったからなのか……?」

「うーん、でもその気持ち、なんか分かる気がするな、カップリングは自由であるべきだと思うけど、やっぱり全部を好きになんて、なれるもんじゃないからねー」

 え、何言ってるんすか箕面さん、怖い、怖いんですけど。

「でも柴島君だって分かっている筈よ、主人公とくっついて欲しいと思っていたヒロインが、親友の男に恋心を抱いていたら、何だか複雑な心境になるでしょう?」

「そう言われると確かに…………って長峡いつの間に!?」

「柴島君生きていたのね、本当に、本当に良かったわ――」

 あまりにぶっ飛んだ展開の中ですっかり忘れてしまっていたが、彼女は他ならぬ僕を想って闘っていてくれていたのだった、結果としてエスカがそのクオーレに耐え切れず壊れてしまい、彼女を危うく傷つけ兼ねない状況になってしまっていた。

「――長峡、すまなかったな、こんな真似させてしまって」

「どうして謝るのかしら? 結果的に貴方を信じたお陰でこうなったのだから、別に私は何も怒っていないわ、寧ろ感謝しているくらいよ――だって、私にもちゃんと、エスカが応えてくれるだけの想いがあるって分かったから」

「その割に僕がヤラれてしまった時、凄い失望感漂う顔だったけどな」

「あれは照れ隠しよ、ショックを受けた姿を見られるなんて、恥ずかしいもの」

「へっ、笑顔で格好つけても全裸じゃ説得力ねえよ」

 その言葉に慌てて箕面が自分についていたマントを長峡に羽織らせてあげ、改めて物凄く心配したと言わんばかりの声を上げて抱き締めていた。

 それを尻目にその視界を大桐と弥刀へと戻すと、まだ言い合い繰り広げていた。


「だからどうしてあなたはそう――」

「そういう大桐だって――」

「ならFEE! の誠鈴(まこりん)は――」


 いつの間にか議論は別の作品にまで派生してしまっており、あのカップリングはアリだナシだの、受けだの攻めだのという政治など微塵も関係のない、ただただいち腐女子としての熱き想いを延々とぶつけ合っているだけなのであった。

 そういや保健室で長峡が読んでいたあの漫画って、全部大桐の奴だったんだな……。

「さて、これはどう収拾を付けたらいいのか……」

 STDTも総理の言っている事が何が何やらという感じで完全に混乱して切っており、レジスタンスのキモオタ共の大半は相変わらず気を失ったまま、僕達はボロボロだから一先ず治療をして欲しいという気持ちが第一なのだが、大桐の部下である人達(全員女)は大桐と弥刀の熱い論争を聞き入ってしまってこちらに気付いてすらいない。


「それなら――柴島×出来島ならやっぱり柴島攻め、それなら分かるでしょう!?」

「それは……私もそうだと思うが……」

「でしょ!? そういう所から他のカップリングも認めていくべきなのよ!」


 いや何言ってんだよ、まさかお前ら僕と出来島の死闘をそんな目で見てたのかよ、いやもう本当に勘弁して下さい、悪い意味でむず痒すぎてやってられないです。

「まあでもきみきみ攻めは王道過ぎる気もするけどねー」

「あえての受け――いえ、ホモ百合も無しではないかもしれないわね」

「えぇ何なの、ホモが嫌いな女子なんかいない奴なの」


 しかし何にしても。


 この馬鹿共二人がきっかけによって始まった、日本全土のオタクを巻き込んだ平成以降最大の社会的大問題は一定の区切りがついたと、考えてもいいのだろう。

 とは言っても、解決すべき課題は山のようにあるのだし、それが全て解決出来るわけもないだろうが、あれだけの想いがあるというのなら、多分問題はないだろう。

 僕はただ愛するヒロイン達が、理不尽に邪魔されることなく歩められるのであればそれでいい、そしてその二次元への想いを閉ざされないのであれば、言うことはない。


「さて――帰るとするか、流石にちょっと疲れた」

「え、このまま放っといちゃっていいの?」

「別にいいだろう、あの様子だと大桐なら多分何とかやってくれる、あれでも腐っても、というか腐ってるけど僕達のボスなんだからな、なんとかして貰わないと困る」

「なら――エスカを使って柴島君達と闘うことももう無いのかしら」

「さあな、ただどんな結果になろうとも、僕はもう戦わん」

「どうして? きみきみぐらいの強さを発揮出来る人間はいなさそうなのに」

「シミュレーション通りに行かないことが多過ぎるんだよ、それに僕は争いのない世界で沢山のヒロインとキャッキャウフフしている方が性に合ってる」

「夢オチならあり得るでしょうね」


「うるせいやい」

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