エンダー
鬼電が奈落獣と戦っている間、トリムと桃子は市民の避難を手伝っていた。
観客や住民たちの退避が終わり、自分たちも避難所へ逃げてひと段落した頃、自分たちの遥か上空を飛び跳ねている鬼電を、怪訝な顔をして見ていた。
「やばい。浮くのめっちゃ楽しい」
「空気を呼んでくだサイ」
プラズミが地面に着地するたびに地面が揺れる。半笑いになっている鬼電の声やプラズミたんの棒読み音声が外の山やらビルやらに、やまびこのように反響した。
「なにやってんだアイツ」
「絶対マイク切り忘れてるよ」
一通り攻撃を終えた奈落獣たちは、再びプラズミに吠えた。耳をつんざくジャリジャリした声に、トリムたちは思わず耳を塞ぐ。
避難所へ逃げていた人々が怯えた声を出す。子供たちは泣きわめき、やがて軽いパニック状態に陥っていく。外ではプラズミが次元獣たちに囲まれピンチに陥っていて、トリムはだんだんイライラしてくる。桃子は当惑していた。
「桃子! ここは頼んだぞ!」
「待ってトリム! 私には無理だってぇーー!」
トリムは避難所の外へと飛び出した。
(俺はやっぱり、戦うことでしか生きてることを感じられないみたいだな……!)
トリムは空で指をパチンと鳴らす。その振動はトリムの指先から家と家の間、奈落獣たちの間、山と山の間を通り抜け、トリムのトラックを収容している警察の倉庫まで届いた。
「エンダアアアアアアアアアア!」
どこかで爆発音がして、数秒後には爆風を引きつれた
トリムはエンダーの足から梯子を伝って上に昇っていき、コックピットへ座る。
「鬼電、生きてるか?」
「トリムも
「そっちこそ」
奈落獣たちはプラズミを狙うグループとエンダーを狙うグループに分かれた。
「解析、出ましタ! あの巨大奈落獣が、周囲の奈落獣に命令を出しているようでス!」
「あいつを倒せば、他の小さいのは逃げてくかもしれないのか!」
「俺はあいつを狙う! 鬼電はバックアップを頼む!」
トリムが乗るエンダーは、岩のような巨大奈落獣に向かって加速していった。しかし、トリムは一つミスを犯した。
「バックアップ……?」
「バックアップについて、検索してみまス」
鬼電には英語がわからぬ。
「食らえ!」
加速度のついたエンダーの拳が、巨大奈落獣の岩に衝撃を与える。うっすらとだが、その装甲に亀裂が入る。
「ちぃ。なかなか堅いな」
一撃を当てたあと、エンダーの踵部分からブーストをかけ、一気に後退して巨大奈落獣との距離を取る。
「あれ? 武器は?」
「武器なんぞ重りだ」
「……まさか、装甲も?」
「重りだ」
「ネットで見てた通りのヤバい人だ」
「失礼だぞ!」
「結果が出ました。バックアップ、後方支援みたいでス」
「バックの……アップ?」
首を傾げる鬼電。鬼電の乗るプラズミに突進をかます奈落獣たち。両足に攻撃を咥えられたプラズミはバランスを崩し転倒する。
「どわー!」
「損傷率55%くらいでス! そこそこ危険でス!」
「後方支援なんて、どう考えても……。まあいいや! 撃て撃てー!」
プラズミは倒れたまま、エンダーを攻撃しようとする2体の奈落獣に向かって雷撃を放つ。片方へは外れたが、もう片方は消し炭となった。
「あ、トリムごめん! 一個外した!」
急ブレーキをかけたエンダーは身動きがとれず、奈落獣の攻撃に当たってしまう。エンダーのペラペラの装甲が粉々に砕け散った。
「エンダーの損傷率、35%でス……?」
「すげえ! マジでペラッペラだ!」
「感心してる場合か!」
「トリムさん、巨大奈落獣に狙われていまス」
トリムはエンダーのブーストを効かせて超スピードでビルに激突する。巨大奈落獣から発せられた光線は、エンダーが元いた場所を通過して、他の奈落獣の体の一部を溶かした。奈落獣は鳴き声を上げる。
ビルに突撃したエンダーの装甲はボロボロと剥がれ落ち、中の基盤がうっすらと外から確認できる。
「トリム、大丈夫?」
「大丈夫だ、今のは完全にツイてなかった」
そのころ、プラズミのコックピット内では、アラートが鳴っていた。鬼電は、やかましいと思いつつキーボードを殴るようにタイピングして、アラートを無音にする。
「プラズミのエネルギー、エンダーの耐久力ともに、かなり消耗してきていまス!」
「巨大奈落獣は?」
「倒すにはもうちょっと手数が必要そうでス」
巨大奈落獣を倒すには、周りの小さい奈落獣たちを無視して二人がかりで攻撃するしかなかった。しかし、それは、エンダーとプラズミ両方の防御を捨てて攻撃することを意味する。そうなれば、死亡のリスクが格段に高まってしまう。
「これ、地味にピンチ来てない?」
「ははあ。困ったなあ」
二機を囲む奈落獣たちはそれぞれ突進の態勢になる。巨大奈落獣も、次の攻撃の為に動きを止めて、エネルギーを溜めだした。
(逃げてえ……)
二人はほぼ同時に、そう思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます