マガイモノ・カガクシャ

 「アイルビー・バック……じゃない、帰ってきたぞ……!」

O県O市、O空港に到着した飛行機を降りながら、青年は呟く。トボトボと空港内を歩き、入国管理施設を通ろうとしたところでストップがかかった。

「えっと……サンダーボルト神鬼かみき……さん?」

「笑わないでください」

「失礼しました。荷物はどうされましたか?」

「ないです」

「そ……そうですか」

変な顔をされながらチェックを突破し、落ちた肩を更に落として歩くサンダーボルト神鬼かみきは、ロビーのイスにドシンと座る。

 スマートフォンの電源を入れると、かわいい女の子の声萌えボイスがロビー中に響きわたった。

「こんにちわ、鬼電おにでんサン!」

「あぁー……」

ロビー中の人々が鬼電の方を向いた。鬼電がしばらく死んだふりをすると、人々の記憶から一時的に鬼電のことが消え去った。

「はあ……本当、不幸続きだ……」

「心配しないデ! 鬼電サンは天才なんだから!」

人々は鬼電のことを思いだした。

「あぁー……」

鬼電は再び死んだふりをした。


 鬼電は昔から天才と呼ばれていた。そして、実においても天才であった。

 科学者の両親のもとに生まれた時から、電気、工学の英才教育を長年浴びてきた鬼電が中学校を卒業する頃には小型のガーディアンを作れるほどまでの技術を習得していた。

 彼に可能性を感じた両親は、最先端の技術を学べるようにと、もっと都会の学鋳摂津マナチューセッツ高校に進学させるように尽力した。しかし、それが大失敗だった。

 天才と呼ばれていた鬼電には、両親にずっと黙っていたことがあった。

 ——彼は、数学と英語が致命的なまでに不得意だった。

 当然、彼は高校受験に失敗した。だが、両親は諦めなかった。鬼電の才能を高く評価していた(実際にも高いのだが)両親は裏金を大量に積んだりと様々な手段を使って鬼電を学鋳摂津マナチューセッツ高校へ裏口入学させた。

 一時は危機を乗り越えた鬼電だったが、実習や実験ができず数学の勉強に明け暮れる日々に、1学期の時点で嫌気がさしてすぐさま高校を中退してしまう。鬼電には忍耐力もなかった。


 しばらくの間、O県に戻らずに下宿先で引きこもり生活を続けていた鬼電だったが、遂に中退したことを両親に知られてしまう。下宿先に突撃されて親に滅茶苦茶怒られてヘコんだ鬼電は、引きこもりパワーを余計にエスカレートさせてしまった。

 鬼電の両親は失望と後悔に沈んでいたが、当の鬼電は余った時間を使って様々なものを作っていた。その中の一つは、超大型のガーディアン——プラズミだ。

 鬼電の両親は優秀な科学者としてかなりお金をもらっていて、鬼電一人のために巨大な下宿先が建築されていたので、親にバレることなくプラズミを組み立てることができた。

 もう一つは、0から無理やりプログラム設計した人工知能——プラズミたんだ。プラズミたんは鬼電のパソコンとスマートフォンにインストールされているが、途中から学習させることに飽きたせいで非常に空気の読めないソフトになってしまっていた。お金を払って絵師の人に書いてもらったりで愛着はあるのでアンインストールはしない。


 プラズミとプラズミたんについて知った鬼電の両親は大歓喜して、今度は米国の最先端ガーディアン研究所で学んで来るようにと鬼電を米国へ飛ばした。

 ……だが、鬼電は英語ができない。空港に来た時点から迷子になり、町を右往左往している間にスリやカツアゲに3回も遭ってしまい、持っているのは国外モードになってしまい電波の繋がらないスマートフォン(ちなみに、プラズミたんも英語がニガテである)だけというほぼ無一文の状態になってしまった。3回目にカツアゲしてきたチーマーにまで同情されて小銭を恵んでもらうという始末だ。

 何日間か町中を放浪しているうちにポリスメンたちに保護されて、大使館やらいろんなところに飛ばされて、飛行機に乗ってO県まで戻ってきた。大使館で「米国でやることがあったんじゃないのか」と言われたが、面倒くさくなったので帰国することにした。


 (久しぶりにO県O市に帰ってきたし、父さん母さんに連絡するのは我が故郷をぶらぶら観光してからでいっか)

と、町中を歩いていると、ライブハウスに行列ができていることに気付いて、近付いてみる。すると、テレビかインターネットで見たことのある男が並んでいるのが見えた。あれは……闘技場で一世を風靡した……!

 

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